「登る山を選ぶ時、ついつい標高の高さにばかり目がいってしまう」といった方も多いのではないでしょうか? あなどるなかれ、低山にも自然の魅力はたくさん詰まっています。森の美しい木漏れ日や、湧き出る綺麗な水。足元の植生を楽しみながら、鳥や虫の声に耳をすませてゆっくりと歩く。しかし低山には、それだけではない深みがあるのです。
この記事では、YAMA LIFE CAMPUSの講座のひとつである「低山ハイク編」についてご紹介。低山トラベラーとしてNHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ! 」にも出演し、低山に関する著書も多数、本講座の講師も務める大内征さんにYAMAPスタッフがインタビューを実施。知られざる低山の深みに迫り、感じた魅力をレポートします! めくるめく低山ハイクの世界へ、あなたも一歩踏み出してみませんか?
2021.09.07
YAMAP MAGAZINE 編集部
登山者の憧れ、北アルプス。雄々しい山々はその景色も知名度も圧倒的です。森林限界を超えた先に続く美しい稜線から、遠くそびえる山々を眺める。長い時間をかけて歩き、登頂したときに味わう達成感は、登山の醍醐味であることに間違いありません。しかしいざ行こうと思い立っても、誰しもが簡単に行けるわけではないですよね。アルプス登山には入念な準備や計画、まとまった休みが必要だからです。
一方、低山ハイクと聞くとどんなイメージが湧くでしょうか? 子供からお年寄りまで楽しめる、ハイキングを想像する方もいるかもしれません。低山にも、四季折々に変化する森や流れる沢の美しさ、登り切った達成感や爽快感はもちろんあります。
しかし低山の魅力はそれだけではないんです。
YAMAP発の山の学校である「YAMA LIFE CAMPUS低山ハイク編」は、低山が持つ自然を楽しみつつも、山を普段とは違う角度から見つめ直す講座となっています。
もっと言えば、低山ひとつから人々の暮らしや、そこに根付く歴史や文化を紐解き、山と人とのつながりを感じていくという「学び」の要素が強いまさに「低山の学校」。学び…ちょっと自分には難しいかも…と思ったあなたのために、講師である大内征さんに、低山の魅力や講座の内容について話を伺いました。
話を聞いていくうちに、「学び」とは決して難しいことではなく、自分の登山の価値観を広げてくれる楽しい「発見」のことだなと気づくことができました。
「低山ハイク」と言うと、軽いハイキングを想像する人も多いかと思いますが、大内さんが考える低山の魅力とはどういったものなのでしょうか?
「身近な低山にも、想像を超えた自然の営みや素晴らしい歴史文化が残っている。この講座ではそういう低山の魅力を伝えたいんです」。大内さんは笑顔で話し始めてくれました。
低山を歩いていると、見たこともないような巨木や巨石、谷や尾根のおもしろい地形を発見したことがある人もいるはず。自然の美しさや畏れをそのまま地名にしているところを見つけて不思議に思ったり、地図を見て面白く感じた経験のある人もいるのではないでしょうか。
そういった自然としてのおもしろさはもちろんのこと、大内さん曰く、低山の近くには古来より人の暮らしがあり、歴史、信仰、産業、文化など、山と人との関係が深く根付いているというのです。想像力が広がるヒントがたくさん転がっており、それと出会うことこそが低山の魅力なのだと強く語ります。
低山は私たちの身近にあり、自然へと導いてくれる玄関口ともいえます。そんな低山を観察しながら歩いてみると、時折人々の暮らしが色濃く残った謎めいた場所を見つけることがあります。例えば、登山道の脇にある炭焼き窯や、山頂の神社や、小さなお地蔵様など。
そんな”山での不思議”に出会ったときに、スルーせず、ここには一体どんな歴史があって、どんな人が住んでいたのだろうか。戦国時代なのか、あるいはもっと前なのかなと、自分の頭の中でどんどんと想像を膨らませてみる事がおもしろいのだと大内さんは語ります。
「アンテナをたてて低山を歩いてみると、山の中にはすごく情報量が多いことに気づきます。なぜこんなところにこれがあるんだろう? ここの地名の意味ってなんだろう?」
「そうやって知的好奇心をフル回転させながら歩いているうちに、”人の生活にほど近い低山だからこそいろんな発見があり、いろんな知的探求ができるのでは? ”と感じるようになったんです」。
それこそが、大内さん自身が低山の面白さに気づいた出発点でした。
”標高の高い山からの絶景”や”人の生活から切り離された手付かずの自然”だけを登山の魅力として考えている人も多く、私(YAMAPスタッフ)もそのひとりでした。しかし、そんな固定観念を壊してくれるのが低山の魅力であると、話を聞きながら感じるように…。
固定観念といえば、例えばこんなことがあるかもしれません。”低い山は高い山に比べて楽”と思って行ってみたら、結構大変な山行だった。帰ってみて山のことを調べてみると、その昔は修験の山だと判明した。
低い山って楽だしつまらないでしょ? という先入観や価値観が、山で見つけた発見によって壊れていくことで、より趣き深い”旅”の経験になるのだと、と大内さんは語ります。
低山は自然の営みと人の営みの間に存在しているもの。そうした低い山に色濃く残る土地の物語をたどりながら登っていく。山脈ではなく、文脈をたどる山旅。
大内さんはそれを文脈登山と呼んでいます。旅をするように文脈をたどり、低山を歩く面白さ。そしてそれこそが、低山ハイクの「学び」の真髄なのです。
ピークハントとして頂上を目指すというのが、近代登山の主な目的。仲間とでもソロでも、同じ目標を持って登れるからです。
しかし現代は、価値観も多様化してる時代。登山にも人それぞれ、いろんな楽しみ方があっていいはずです。
地形や地質に興味がある人もいれば、山名の成り立ちや峠の地名が好きな人もいていい。山と深い関わりといえば、神話や昔話、民話も外せないトピックのひとつでしょう。それ以外にも、食べ物やお酒、温泉だって日本各地に変化があっておもしろいはず。
そんな自分だけの好きなポイントをとことん追求して山に登り、自分だけの偏愛的な楽しみを見つけていく。大内さんから話を聞いている内に、少し見方を変えるだけで、魂が喜ぶようなニッチな魅力が、低山ワールドには溢れているんだと気が付くことができました。
「戦国時代好きの人と山城を歩くと、すごく盛り上がって(笑)。この堀切がさあ~とか言ってて、そのマニアックさがたまらないよね」。
「そういう自分だけの楽しさを見つけたら、同じテーマを手繰り寄せて他の山域にも足を伸ばしてみるとか。低山への興味から全国を旅するきっかけになると、きっと人生ってもっとおもしろくなるし、物事の見方もちょっと変わっていくはずですよね」。
そんな山心、旅心を育むこと。自分だけの山旅の楽しみ方を見つけること。それこそが、新しいYAMA LIFEの始まりなんだと大内さんは続けます。
自分にとっての山の好きはどんなところにあるんだろう? と、思わず考えてしまいました。「山の標高や頂上踏破だけでははない、自分なりの山旅の楽しみ方や視点を見つけて欲しい」と大内さんは最後に語っていました。
YAMA LIFE CAMPUS低山ハイク編は、まさにそんな「自分だけの山旅の楽しみ方を見つける」講座。参加するあなただけの「山×◯◯」を探す講座になっています。山への新しい視点や様々な考え方に触れるのは、熟練者でも楽しいはず。
実際に山を歩くフィールドワークでは、知られざる低山の魅力に触れられる最適な山を選んでいます。知っている山だとしても、大内さんと歩くと新しい発見があるはず。上級者でもまだ山を始めたばかりという初心者の方でも楽しく参加できます。いろんな楽しみ方があるということを実践の中から知ることができるので、あらゆる人におすすめできる講座です。
百名山を終えて、これからの登山をどうしていこうかという人がいるかもしれません。YAMA LIFE CAMPUS低山ハイク編を通して初めて低山に登る、という人がいたって良いはずです。次の目標をどうしようか悩んでいる人。トレランなのか、ロングトレイルなのか、クライミング、沢登り、神話巡りでもいい…。
この低山ハイク編にはいろんな価値観、バックグラウンドを持った参加者が集まります。そうした人たちが相互に刺激を与え合いながら、新しい山の楽しみ方を見つけていく、とても良い機会だといえるでしょう。
登山の基礎知識や技術を身につけたいという方は、YAMA LIFE CAMPUS登山基礎編など、別の講座の受講をおすすめします。登山に対する意外性や楽しみ方、自分自身の山旅への可能性を見出したい、探求していきたい人にこそ、低山ハイク編で濃密な3ヶ月を過ごしてもらいたいと思っています。
登山の目的は様々あっていい。低い山の植生を楽しむのも良し、高い山の岩場を楽しんでも良し。ただひとつ言えるのは、「自分なりの山の楽しみを発見することで登山はもっと楽しくなる」ということ。感性のアンテナを張り巡らせて山と向き合うことで、あなたのYAMA LIFEはもっと魅力的なものになるはずです。「低山トラベラー」の見ている深淵なる世界が垣間見えたインタビューとなりました。
大内さんの話を聞いてみたい! いろんな人の価値観と刺激を受けながら、自分なりの山旅を探していきたい! という方は、ぜひYAMA LIFE CAMPUS低山ハイク編への参加をご検討ください。
YAMAPは2021年より、山についてより深く知識をつけたいあなたのためのステップアップスクール「YAMA LIFE CAMPUS」を開講しました。「6回のオンライン講習」と「3回の登山(フィールドワーク)」を組み合わせた画期的なカリキュラムが特徴です。
ここからはYAMA LIFE CAMPUSの概要と「低山ハイク編」のプログラムについて紹介します。
YAMA LIFE CAMPUSとは、ひとことでいうなら山の学校です。山のエキスパートが講師を務め、実際に山で学ぶフィールド講習とその前後にあるオンライン講習を組み合わせ、登山を安全に楽しむスキルを身につけることを目的としています。
期間は3ヶ月。低山ハイク編では、1ヶ月ごとにテーマを決め、「オンラインフォトツアー」「オンラインワークショップ」「フィールドワーク」を1セットとして実施します。3ヶ月間、合計3セットで完結です。
・フォトツアー:フィールドワークで登頂予定の山について、写真を交えながらテーマに沿った解説を行い、山域への理解を深めます。
・ワークショップ:オンラインフォトツアー開催時にワークショップのテーマをお伝えします。ワークショップ当日までに各自で山域ついて調べ、学びます。そしてこのワークショップでの時間で学びを共有し合うことで、より充実したフィールドワークに備えます。
・フィールドワーク:オンラインフォトツアー・オンラインワークショップを踏まえ、大内講師の案内のもと、現地でさらに学びを深化させながら、フィールドワークを行います。
最終目標は「あなたなりの山×◯◯を見つけること」。大内さんのファシリテーションの元、様々な角度や考え方から山を見つめ、今後のYAMA LIFEにつながる発見をしていきましょう。
またこのYAMA LIFE CAMPUSの特徴のひとつがコミュニティー。Facebookグループを作り、講師や他の参加者に質問・相談を気軽に行うことができます。あなたの好きをシェアしても良いでしょう。コミュニティーで話し合い、助け合えるので、挫折せず続けられるだけでなく、一生の山仲間ができるチャンスです。受講が終わった後もずっとつながり続けられる大切な山仲間が作れることも、この取り組みの大きな価値なのです。
YAMA LIFE CAMPUSという繋がりを大切にして、これからの山ライフを楽しんでほしいと思っています。
※ スケジュール詳細とカリキュラムはこちらから
※ 状況によっては変更する可能性があります
講師紹介:
大内 征 低山トラベラー/山旅文筆家
メッセージ:
登山にどんなテーマを掛け合わせるか?
そんな問いから、この講座は始まります。たとえば神話、戦国史、古代遺跡、神社仏閣、磐座、巨木、滝、修験や密教といった山岳信仰の山も面白い。水がいい山域は温泉もいいし、酒や米や地の野菜も味わえる。古民家を活かしたローカルカルチャーや伝統工芸も楽しそうだ。岩の尾根道が好きだけど谷筋も捨てがたいし、海が見える低山で夕陽を眺めるなんていうのも最高。と、そんな具合に旅の視点や文化的な興味の数だけ、あなたの低山ワールドは無限に広がっていきます。
この講座は、各地の低山を舞台に山歩きの素地と旅心とを養い、自分流の“掛け合わせのテーマ”を見い出していく絶好の機会。低山に好意を持ち、旅を愛するみなさんとお会いできることを、心から楽しみにしています。
写真提供:大内征