登山用レインウェアの正しい選び方、使い方。今さら聞けない山行中の雨対策

レインウェア(雨具)は登山における必須アイテムの一つ。でも、皆さん正しく選んで使えているでしょうか? 登山ガイドの岩田京子先生が、登山用レインウェアの基本性能と選び方のポイント、正しい着用方法をわかりやすく解説します。

山道具の教科書|登山初心者必見の「服装&持ち物」完全マニュアル #04連載一覧はこちら

2020.01.28

岩田 京子

登山ガイド

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登山用レインウェア(雨具)はなぜ必要? 基本の機能と選び方

山の天気は変わりやすく、晴れ予報でも途中で急な風雨に見舞われることもあります。レインウェアは雨風だけでなく寒さからも身を守ってくれるので、登山靴やバックパックと同様、必須装備として揃えておくことをおすすめします。ここでは初めて山へ行く人にもわかりやすいよう、レインウェアの必要性や特徴を交えながら、基本的な選び方や使い方についてお伝えしていきます。

濡れや寒さから守ってくれるのが登山用レインウェア

登山用レインウェアの最大の特徴は「防水透湿性素材」を使っているということです。多くの人にとっては聞き慣れない言葉ですよね。簡単に言うと、防水透湿性というのは、濡れや寒さから身を守るための機能のこと。以下、詳しく説明します。

① 雨と汗による濡れを防ぐ

登山において濡れは大敵です。肌の表面が濡れていると次第に体温を奪われていき、たとえ夏でも低体温症で命を落としてしまうリスクがあるからです。

そこで必要になるのが、まず、雨による濡れを防いでくれる防水機能。そして、汗によるウェア内部の濡れを防いでくれる透湿機能です。

防水は比較的わかりやすいと思いますが、透湿性もとても重要です。なぜなら山行中の濡れは雨だけが原因ではありません。動いている分、私たちは知らないうちに汗をかきます。その汗が原因でウェアを濡らしてしまうこともあるのです。透湿性があるからこそ、内部の汗が外に逃がされ、ウェア内がドライに保たれるのです。

② 風による冷えを防ぐ

次に、防風性。体感温度は風速1mにつき1℃下がると言われています。樹林から稜線に出て強い風を受けたとき、ふいにあたりが雲に覆われて寒さを感じたときなど、雨天時以外にもレインウェアは役立ちます。

初めの一着は上下セパレートタイプを選ぶ

登山用レインウェアの主流は、ジャケットとパンツが上下セットになった「セパレートタイプ」。防水透湿性素材が使われているほか、フードや手首部分から雨が入らないよう工夫されていたり、ものによってはウェア内部の換気性を上げるファスナー「ベンチレーション」がついていたり…と、メーカーによって細部のデザインは異なりますが、全体として使い勝手や動きやすさが追求されています。

フロントファスナーを胸元までにとどめ、すっぽりと被る「プルオーバータイプ」や、レインジャケットの裾を長くした「コートタイプ」、バックパックの上からでも着用できる「ポンチョタイプ」などもありますが、初めて買う一着であればやはりセパレートタイプをおすすめします。

レインウェアの失敗談

せっかくレインウェアを持っていても、肝心の着用方法が間違っていたら意味はありません。レインウェア本来の機能が十分に発揮されず、悪天候の場合には濡れにつながります。実際、道具をそろえたばかりの方からの質問で多いのが「購入したばかりなのに濡れてしまう。不良品なのかも…」というものです。

登山用のレインウェアを購入していれば、基本的に濡れることはありません。まして新品です。それでも濡れてしまうのは、着用の仕方が間違っているから。そう、レインウェアの着用にはちょっとしたコツがあるのです。

それは、隙間をなくすこと。雨天時は雨水と同時に風の影響を受けるため、フードや手首の調節をおろそかにしていると、間から雨風が入って濡れてしまったり、風でフードがなびいて目線が隠れてしまったりします。フード を手でおさえながら歩いている人も見かけますが、これは危険なのでおすすめしません。雨天時は地面が濡れて滑りやすくなります。バランスを崩し転倒するリスクも通常より増すので、いつでも両手が使えるようにしておくようにしましょう。

かく言う私も、雨天時の痛い失敗談があります。その日は強い風雨に見舞われ、寒さのため首をすぼめるかたちで、レインウェアの内側にあごをいれたまま歩いてしまいました。しばらくすると、フードの縁を伝って雨水がほっぺたからあご、そして流れ込むように胸元まで入り込んできて、最終的にはなんとレインパンツの中にまで侵入。足の付け根まで濡れてしまったのです。原因はあごの位置だったのだと、あとになって気がつきました。落ちてくる雨水の流れをよく考えていれば、間違いは起こらなかったはず。フードの調整はもとより、歩くときの姿勢も大事なのだとあらためて痛感しました。

レインウェア正しい着用方法

何度も山へ行っているという人でも、正しく着用できていない場合が少なくありません。登山初心者の方もそうでない方も、ぜひ手順を確認しましょう。

① ジッパーをしっかりと締める

気温がそれほど高くなくても、動いていると暑さや蒸れが気になることがあると思います。しかしながら、強い風雨のなか歩かなければいけない場合には、首元などを少し開けていたりすると、そこから雨水が入り込んでしまいます。ジッパーはしっかり締めて着用しましょう。

② 袖口や足首からの浸水をブロック

着用している登山ウェアに襟やフードがある場合は、念のため内側に折り込んでおくと良いでしょう。ウエストや袖口もレインウェアからはみ出ないようにします。足首のズボンも、足を上げ下げする際に露出しやすいので、靴下の中に入れるといいでしょう。

③ フードをフィットさせる

ウェアの各部を隙間がなくなるようにフィットさせ、動きの妨げにならないように調整します。顔周辺の隙間を調整するフードのゴムや後頭部にある調整機能などをチェックし、隙間から雨水が入り込まないように注意しましょう。上下、左右と顔を動かしても目線が妨げられないようにすること!

④ ボトムスを履く

靴を履いたままの状態でレインパンツを着用するのが基本です。立ったままだとバランスを崩し転倒する恐れもあるため、足場の悪い場所などでは無理せず座って履くようにしましょう。

レインパンツにも種類がありますが、私は、着脱しやすいようズボンのサイドファスナーがウエストから裾まで開くタイプを使っています。靴を脱ぎはきする手間もなく、素早く着用できるので便利です。

サイドジッパーが膝下までの短いタイプをお使いの場合は、登山靴を履いたまま着用するのはなかなか難しいと思いますので、ここで一つ、スーパー袋(ビニール袋)を使ったテクニックをお伝えします。

やり方はいたって簡単。靴を履いた状態で袋に足を突っ込み、そのまま滑らせるようにレインパンツを履くだけです。このとき、レインパンツのジッパーは全開の状態にしておきましょう。この方法なら、靴底のラバー部分がビニールに覆われているので、滑りもよくスムーズにレインパンツを履くことができ、靴についた泥でレインパンツを汚すこともありません。

1分動画でレインウェアの正しいフィッティング方法をチェック!

雨の日の登山、その他の必需品

・バックパックカバー

バックパックを雨から守ってくれるカバー。きちんと上下があり、たいていはロゴマークなどの文字がプリントされているため、一目瞭然。文字がない場合は「小さな穴」を探してみましょう。

この穴は溜まった雨水を出すためのもので、カバーの下に設けられています。多少は雨水が残ることもありますが(雨量が多い日などは歩いている最中にタプタプになっていたりします)、バックパックにカバーを装着する際は、穴部分が【下】になるよう向きを合わせて取り付けます。また、バックパックを下ろす際にはザックカバーの下部をめくって残った水を排除してから置くようにしましょう。

バックパックに被せ、背面で紐止めするタイプのものが多い

また、バックパックカバーは完全防水ではありません。大まかにカバーされただけの状態で、身体に密着している背面部分は空いているからです。大雨のときなど隙間から浸水してくることもあるので、バックパックの中の防水対策も大切です。私は濡れたら困るものは防水バッグに入れています。そうすることにより、たとえバックパックが濡れて中まで浸水したとしても、防水バッグに入った荷物自体は濡れることがありません。

・スパッツ(ゲイター)

向かって左側が雨天時の装着方法(レインパンツの【内側】に装着)。右側は砂利や汚れを防ぐ場合の着用方法(レインパンツの【外側】に装着)

雨天時に靴の中への雨水の侵入を防ぐ。靴下やボトムスが汚れるのを防ぐ。小砂利が靴に入るのを防ぐ…というように、スパッツ(ゲイター)にはたくさんの使い道があります。

前後、左右を間違えている方を見かけることもありますが、足を包むようにして、フック(靴ひもにひっかけるためのパーツ)が前にくるように装着するのが正解です。基本的に登山道具は着用する際に引っ掛かりそうなもの(ファスナーやゴム紐、ベルクロなど)は身体の外側に配置されています。そのことを踏まえて考えてみるとスムーズに装着できるはずです。

また、天候や目的によって装着方法が変わることもポイント。雨天時なら、レインパンツの【内側】に装着するのが基本です。内側に装着しておけば、スパッツの上端からたれた雨水が靴の中に入り込むのを防げますし、歩行中レインパンツの裾が上がったとしても、足首が露出されて靴の中に雨水が侵入する心配がありません。これを間違えてレインパンツの【外側】に装着してしまうと、スパッツの隙間から雨水が入り込み、ゲイターの内側をつたって靴の中まで雨水が侵入してしまい逆効果になるので注意してください。

一方、小砂利が靴の中に入らないようにしたい場合は外側に装着します。他にもズボンの裾を泥などの汚れや朝露などから防ぎたい時にも着用することがありますが、汚したくないものをカバーするように外側に装着しましょう。

ちなみにこれは雪山用スパッツの話ですが、積雪のある時期はレインパンツの【外側】に装着します。雨天時と逆です。これは積雪に足を踏み入れる際に靴の中やボトムスの裾の中に雪が入り込むのを防ぐため。踏み入れた際にスパッツがずり上がらないように、土踏まずのあたりのソール側にゴムひもなどでストッパーがつけられています。

・防水グローブ

雨天時は晴天時に比べるとぐんと気温が下がるため、できるだけ肌を露出をしたまま歩くのは避けたいところ。レインジャケットやパンツは正しく着用していても、意外と忘れられがちなのが「手」なんです。

指先の濡れ、冷えは馬鹿にできません。末端は風による体温の低下を受けやすい部分なので、雨天時には防水の手袋があるといいでしょう。たとえ防寒用の手袋をしていても、濡れてしまえば効果がありませんので、防水機能のない手袋はこの場合あまり意味がありません。濡れるとかえって冷えにつながります。着用の際は、スパッツ同様、水の流れをよく考えて、手首から雨水が侵入しないよう、しっかりとレインジャケットの内側にインするようにしましょう。

レインウェアは「素早く出して正しく着る」が大事!

初心者ツアーの最中、私はたまに抜き打ちでテストをすることがあります。晴れた日にあえて、レインウェアの装着テストをするのです。タイムを計って、どれだけスムーズに隙間なく、きちんと着用できるかをチェックするのですが、決して意地悪でやっているのではありません。

山の天候は急に変わるものです。さっきまで日差しが痛いほど晴れて暑かったのに、30分も歩かないうちに日が陰り、冷たい風雨にさらされる…なんてこともめずらしくありません。いざというときに素早く着用できなければ、雨に濡れて低体温症などのリスクにつながってしまいます。

レインウェアは素早く出して正しく着る。当たり前のことですが、これが大事です。

山行中、雨が降り出してから「あれ、これどうやって調節するんだっけ?」などとバタバタするのでは遅いのです。普段から何度も着脱して慣れておくことで、注意すべき事が分かり、行動中の着脱の迷いをなくすことができるようになります。

ちなみに私の場合は、レインウェアの収納袋を使わずにレインウエアのフードの中にズボンと一緒にくるくるとまるめて仕舞い込んでいます。収納時、ジャケットやズボンの裾などのファスナーは開けたままにしておくことで、小さな袋から出す時間が省略できます。雨に濡れる時間を少なくすることが出来るのでおススメですよ!

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photo by 小林昂祐

岩田 京子

登山ガイド

岩田 京子

登山ガイド

1976年、横浜市生まれ。日本山岳ガイド協会認定 登山ガイド。 MTB、スノーボード、キャンプ、フィッシング、マラソン、野外フェスなど、さまざまなアウトドアイベントの制作に携わり、外あそびの楽しさを広めてきた実績を持つ。現在はフリーランスで、国内では山のガイド、海外ではツアー登山やトレッキングの添乗をしている。海外添乗の仕事では高所登山にも携わり、キリマンジャロ、エルブルース、チンボラソなど。プラ ...(続きを読む

1976年、横浜市生まれ。日本山岳ガイド協会認定 登山ガイド。 MTB、スノーボード、キャンプ、フィッシング、マラソン、野外フェスなど、さまざまなアウトドアイベントの制作に携わり、外あそびの楽しさを広めてきた実績を持つ。現在はフリーランスで、国内では山のガイド、海外ではツアー登山やトレッキングの添乗をしている。海外添乗の仕事では高所登山にも携わり、キリマンジャロ、エルブルース、チンボラソなど。プライベートでは8000m峰のチョーオユー、マナスル、エベレスト、ローツェと4座の登頂。

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