登山者の軌跡データから新規ルートを抽出!現代版・伊能忠敬プロジェクトが始動

登山者の軌跡データから新規ルートを抽出し、地図に反映していくー。自らの歩みを記録し日本地図を作り上げた伊能忠敬を彷彿とさせる、一歩先行く新しい取り組みが始まりました。登山アプリYAMAP(ヤマップ)のデータ分析エンジニアとして、本プロジェクトを担当する松本&斎藤が、経緯や目的、今後の展望を熱く語ります!

2020.08.20

分析チーム 松本&斎藤

YAMAPスタッフ/データ分析エンジニア

INDEX

1ヶ月前まで地図になかった”新規ルート”を歩いてます。

こんにちは。YAMAP分析チームの松本と斎藤です。僕たちは今、北九州の平尾台を歩いています。

目的は新機能「登山道抽出システム」の実証実験。歩いているのは、1ヶ月前までYAMAPの地図になかった”新規ルート”です。登山道抽出システムによって、先日、データから自動的に抽出されました。

分析で抽出したルートの実地検証をする松本(左)と斎藤(右)

どういうことか、詳しくお伝えしていきます。

繰り返しになりますが、僕たちが歩いているこのルートは、登山道抽出システムによって「データから自動的に抽出」されたものです。

1ヶ月前までは YAMAPの地図にこのルートは載っていなかったのですが、ユーザーさんの活動日記の軌跡を分析することで、ここに登山道があることが分かり、実態に即したコースタイムとともに、地図に加えることができました。

(もちろん危険ルートを追加してしまうことが無いよう、抽出の条件を厳しくしたり、抽出元の活動日記に危険を表すワードが含まれていないか等、チェックをしています)

平尾台の地図(2020年8月20日時点)。緑色で囲った部分がデータから自動抽出された新ルート

YAMAPの進化をデータで支える分析チーム

僕たち分析チームは、このようにYAMAPに投稿される膨大な量のデータを新たな価値に変え、ユーザーさんに還元する取り組みを進めています。登山道抽出システムもその一端を担う機能。今回皆さんに紹介できることをとても嬉しく思っています。

なぜ「登山道の自動抽出をシステム化」を進めたのか?

登山において最も大切な地図情報は、最新かつ正確である必要がある。登山道抽出システムの開発を進める理由は、これに尽きます。
これまでもYAMAPの地図は、活動日記をベースに日々改善していました。一方で、提供する地図やユーザー規模の拡大につれて、いかに効率的に情報をアップデートするかが課題となっていました。

地図情報の間違いについては、お問い合わせ掲示板でユーザーさんにお叱りを受けることもあり、登山の安全に大きく関わる地図を最新かつ正確な情報にアップデートしていく仕組みが、早急に求められていました。

そこで登山道を抽出するアルゴリズムと、それを YAMAP の地図情報に反映するシステムを開発しました。

登山道抽出システムで可能になることは? 事例紹介と開発者の想い

今回、登山道の自動抽出システムの第一弾リリースとして、全国の地図にルートを新規追加していきます。ルートを新規追加すると、何が起こるのか? 登山者にとってはどんなメリットがあるのか? どんな使い方ができるのか?…といった疑問を踏まえ、事例とともに僕たち開発者の想いを紹介します。

マイナーな山のルート情報を充実させ、多様な山の楽しみを支えたい(松本)

僕の地元・山口県下関市に、華山(げざん)という山があります。展望が良く、春にはツツジが綺麗な低山として知られています。

華山山頂からの景色。日本海、玄海灘、瀬戸内海を一望できる

当初、このエリアのYAMAP地図に載っていたのは、神上寺登山口からスタートする最もメジャーなコースが1つだけ。僕の家は華山の南西側なので、このコースだと家から登山口までぐるっと移動する必要があり、やや行きにくい印象でした。

ところが、ある時、歌野川ダム上流を歩いてみると、良く整備された登山道があることが分かりました。YAMAPで活動日記を調べてみると、そのルートで登っている日記も見つかりました。

このように、一般的な登山道があるのにYAMAPの地図に反映できていない箇所があると、ユーザーさんが「この山に登りたいけど、うちから行きやすいルートがないなぁ」と判断してしまう可能性があり、登山機会を奪い兼ねません。これは何とか解決したいということで、西の獄登山口からのコースを追加することにしたのです。

実は華山については、西側の山々をつなげて周回するルートも抽出されました。しかし通過人数が規定数に満たなかったため、リリースは見送りました。

リリースを見送った華山周回ルート(南の登山口と華山を、左側の山々を経由して結ぶ)

実際現地を歩いて確認しましたが、通過人数が少ないだけあって道も不明瞭でしたので、不用意に危険ルートを追加することを避けるためにも、通過人数が規定数を満たすかのチェックは必要だと実感しました。

ルートを増やすことでエスケープの選択肢が広がり、安全登山に繋がる(斎藤)

僕は人が少なくなる午後から夕方の山歩きが好きなので、スタートはいつも遅め、ゴールは夕暮れ時みたいなパターンになりがちです。のんびり植物とか鳥とか観察しながら歩いていると、いつのまにか予定より遅れていて、慌ててエスケープルートを探したりすることがあります。ある時、現地には歩けそうな登山道があるけどYAMAPの地図にはルートが載っていないということがありました。

初夏の井原山にて。道中、鳥のさえずりに耳を傾ける斎藤

そんな経験から、YAMAPの地図に掲載されているルートがもっと充実して、安全に通行できる登山道を網羅したら、予定に遅れをとっても慌てずエスケープルートを探すことができる、と考えました。天候が急変して早く下山した方が良さそうな時とか、仲間の体調が悪くなってしまった時とか、たとえ入念に準備をしていても、山で不測の自体は避けられないもので。そんな時にも状況に応じて最適なエスケープルートを選択できれば、慌てず安全に下山できるはずです。

登山の楽しみの多様化や、コロナ禍でのご近所登山ニーズにも対応(松本・斎藤)

また、近年の登山の楽しみの多様化や、コロナ禍でご近所登山のニーズが増えている中で、マイナーな山の地図情報を充実させる必要性も高まっています。

実際、皆さんの活動日記を分析すると、YAMAPの地図にルートが無い山でも多くの方が登っています。そしてルートが無いために、途中で迷ったり、道を間違えたりしたという日記も見かけます。

地図のルートを充実させることで、登山の楽しみが広がることはもちろん、安全登山にも繋げられると考えています。

ルート追加前の地図(青梅市)

要害山・赤ぼっこに到る縦走路を追加

ルート追加前の地図(高水三山・岩茸石山)

青梅駅に到る縦走路を追加

このような想いを持って開発に臨み、2020年の夏山シーズンに第一弾の「地図にルートを新規追加」をリリースできることに、僕たちはいささか興奮しています。

これから全国の地図に、ルートの新規追加を行っていきます。

そして今後は、本命である既存の登山道情報の修正もシステム化し、最新かつ正確な登山道情報を提供していく予定です。

(補足)
・一昨年からの国土地理院との ビッグデータによる登山道修正は、変わらず継続しています。
・今回は YAMAP のデータをフル活用して効率的に登山道を抽出し、地図への反映までを素早く行うため、独自にアルゴリズムを開発しました。

We are all 伊能忠敬! あなたの一歩が「地図の進化」と「登山者の安全」に繋がっている

登山道抽出システムの始動は、未来への第一歩。「現代版・伊能忠敬」将来像イメージ(作画・YAMAP分析チーム 松本)

YAMAP ではこれまでも、ユーザーの皆さんの活動日記のデータを元にして、地図をアップデートしてきましたが、今回の登山道抽出システム化によって格段に効率的に、地図を最新かつ正確にアップデートしていくことが可能になりました。

今後、YAMAPの地図はユーザーさんに、下記のようなメリットを提供していきます。

・崖崩れなどによる登山道の変更を早期に反映
・コースタイムが実態に即し、より正確になる
・登山道そのものの拡充

これらは全て、ユーザーさんがYAMAPアプリで登山活動を記録してくれるからできることです。

言い換えると、あなたがYAMAPアプリで活動を記録してくれれば、地図情報がアップデートされ、登山者全体の安全に繋がると言えます。

あなたの登山の一歩一歩は、登山者全体の安全に繋がっています。

それはまるで、現代デジタル時代の伊能忠敬。登山者全員が伊能忠敬であるようだなと。そういう世界を実現していきたいと、YAMAP は、僕たち分析チームは思っています。

トップ画像:華山からの眺望を楽しむ、YAMAP 分析チーム 松本

分析チーム 松本&斎藤

YAMAPスタッフ/データ分析エンジニア

分析チーム 松本&斎藤

YAMAPスタッフ/データ分析エンジニア

「YAMAPの進化をデータで支える」をミッションとし、YAMAPのCGM(活動日記)を中心に膨大なデータの分析業務を担っている。松本はMMORPGやソーシャルゲーム、ゴルフ場予約アプリなど幅広く開発に携わった後、心から信じられるものを作るためヤマップに参画。モットーは「登山も開発も最後は気合」。斎藤は元・生物学の研究者で、動物の行動からゲノムの構造まで幅広く研究してきた過去を持つ。「多様性に富んだ ...(続きを読む

「YAMAPの進化をデータで支える」をミッションとし、YAMAPのCGM(活動日記)を中心に膨大なデータの分析業務を担っている。松本はMMORPGやソーシャルゲーム、ゴルフ場予約アプリなど幅広く開発に携わった後、心から信じられるものを作るためヤマップに参画。モットーは「登山も開発も最後は気合」。斎藤は元・生物学の研究者で、動物の行動からゲノムの構造まで幅広く研究してきた過去を持つ。「多様性に富んだ日本の自然環境の素晴らしさを、山歩きを通して感じ、共有できるようなサービス」を提供したいと願っている。