怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。六体目の怪獣は関西で身近な山として多くの人々に愛される六甲山。昔から都市伝説や噂話が絶えないエリアだけあって、オカルトチックな怪獣のようです。一体どんな怪獣が登場するのでしょうか。
山の怪獣を本気でつくりたい #07/連載一覧はこちら
2021.01.20
ガイガン山崎
怪獣博士
隔週ペースで新怪獣をつくっていると、特にネタ切れこそないものの、いまいち怪獣らしい仕上がりにならず、微妙なリテイクを重ねてしまうことはある。カッコいい、カッコ悪いとは関係ない。我々の考える怪獣像から少しズレていて、なんだかしっくりこないというパターンだ。たぶん、世の中の人が考える怪獣って、それこそ“デカい化け物”ぐらいのイメージなんじゃなかろうか。ファンタジー系のゲームなんかの敵モンスターやハリウッド映画に出てくるクリーチャーは、なんとなく怪獣とは違うんじゃないかなくらいの感覚をお持ちの方もいらっしゃるかもしれない。だが、怪獣を怪獣たらしめているものはズバリ何なのか? これ、意外と怪獣好きも理解できてないような気がするのだ。もちろん、そこは人によって意見が分かれるポイントでもあるので、あくまでも私見に過ぎないのだが、ちょこっと解説してみたい。
で、デザイン担当の入山くんに描いてもらったのが、こちら。向かって左が怪獣らしい怪獣、右側が怪獣らしくない怪獣である。以前、怪獣らしい怪獣を描くときは、着ぐるみ=中の人を意識するのが手っ取り早いと書いたが、まさにそんな感じで描かれているのが左側のバクゼントザウルスαだ。ご丁寧に、のぞき穴まで描いてある。一方、右側のバクゼントザウルスβも大げさに大げさに、かなり極端に描いてはいるけれど、こういうタイプの怪獣はマンガやアニメでよく見かける。ボディビルダーのような肉体に、それらしい装飾を付けた感じで、怪獣というよりも進化して強くなったデジモンみたいだ。実際、こういう怪獣を描いてしまうのは、ボクと同じ三十代=デジモン直撃世代と、それよりも若い怪獣ファンなんじゃないかしら。確かにカッコいい。ただ、怪獣っぽくはないと思う。いわゆる動物デッサンの基本に反する考え方だが、ヘンに骨格や筋肉の流れなどを意識し過ぎないことが、怪獣らしい怪獣デザインへの近道なのだ。変な話、怪獣は動物ではなく、モノとして捉えて描いたほうが間違いが少ない。ちなみに90年代のゴジラは、モロにボディビルダー体型だったんだが、ゴジラをゴジラとして成立させるためのデザイン的記号はすべて備えているため、きちんと違和感なく怪獣に見える。まあ、これは誰もが知ってる“怪獣王”だからこそできる離れ業であって、ぽっと出の新人怪獣が真似できることではない。
前回のテナルンガは、ナメクジみたいな幼体に関しては、わりとオーソドックスな「着ぐるみ怪獣」として描いているが、羽根の生えた成体のほうは「操演怪獣」を想定していた時期もあった。操演怪獣とは、ワイヤーでミニチュアを吊り上げるモスラのようなタイプで、着ぐるみのように人間の形に縛られずにデザインすることができる。そのぶん、怪獣らしく仕上げるにはテクニックが要るけれど、挑戦しがいのあるテーマではあった。でも結局、映画よりもテレビの怪獣が好きな我々は、成体も着ぐるみっぽくしてしまった。操演は着ぐるみより現場の負担が大きく、ヒーローと格闘戦を演じさせるのが難しいこともあって、テレビではあまり見かけないのだ。しかし、幼体・成体ともにとんでもないボリュームである。本当に着ぐるみをつくることになったら、かなり骨が折れそうだ。だからというわけではないけれど、今月の新怪獣は、わりと簡単につくれそうなデザインにしてみた。その名も……。
六甲山付近で目撃される都市伝説の怪人。ターボババア、あるいはターボばあさんなどと呼称されるが、これは頭を突き出したような特徴的なフォルムが、まるで腰の曲がった老婆に見えるからだと考えられる。しかし、その正体は暗黒結社バルチャーの外科手術によって、怪獣にも比肩する力を与えられた改造人間なのだ。
バルチャーの擁する改造人間は、ナチスドイツ伝来の遺伝子操作と細胞融合の技術を以て、有志の被験者に動植物の特性を移植したもので、さらに異星のテクノロジーを結集したメカニズムで強化された個体も存在するという。ターボバイソンの場合、一種の加速装置を搭載しており、アメリカンバイソンの能力を倍増させている。
内閣情報調査室が公開している情報によると、宇宙船や侵略兵器の残骸を回収して得た先端技術を秘匿する秘密組織は数知れない。特に改造人間やロボットを用いたテロリズムは、1970年代初頭をピークに日本全土で猛威を振るった。現在、そうした組織の大半は弱体化しており、既にバルチャーも壊滅したと見られている。
実際、六甲山の地下で発見された大規模な廃墟は、バルチャーのアジトのひとつだったらしい。しかし六甲山では、依然としてUFOとスカイフィッシュ目撃の報が絶えず、ターボババア以外にも首なしライダーなる都市伝説が存在する。ひょっとするとバルチャーは滅びておらず、未だ山中で邪悪な計画を進めているのかもしれない。
「ヤマップさんには、各地方の代表的な山々の基本的データとともに、古くからの伝説であったり、怪獣のネタ元になりそうな情報を提供していただいてるんですが、六甲山に関しては“ターボばーちゃんとか牛女とか都市伝説が多い”としか書かれておらず、最初はどうしようかと頭を悩ませました。確かに六甲山は、オカルト的な逸話には事欠かない土地です。ただ、都市伝説と怪獣ではスケール感が釣り合わない。だったら、いっそのこと怪人(=等身大の怪獣。仮面ライダーやスーパー戦隊の敵としてお馴染み)にしてしまうのはどうだろう? この思いつきで、一気に視界が開けていきました。現代の怪談として有名な“山の牧場”も兵庫県の話だったため、牧場に偽装した秘密結社のアジトなんてのも面白いんじゃないかなと。なお、ターボバイソンという名前は、ターボばあさんのもじりです。まあ、バイソンというよりも闘牛っぽい面構えですが……」(山崎)
「主催の山崎から『コメント部分のイラスト、バルチャーのアジトの内部図解にする? それともターボバイソンと同じフォーマットで怪人を何体か描くってのは?』と訊かれ、迷わず後者を選びました。自分は図解のようなカッチリした絵が苦手だし、怪人はモチーフをそのまま人型に落とし込めばいいだけだから楽だと思ったんです。まったくの勘違いでしたね。『サイボーグ009』のゼロゼロナンバーサイボーグになぞらえて、9体の新怪人を提案したんですが、いくら描いても終わらなくて死ぬかと思いました。なお、動植物+機械というフォーマットは、『仮面ライダーV3』に登場するデストロン怪人を踏襲したもので、動植物のチョイスはゼロゼロナンバーサイボーグの各能力に合わせてあります。また、同じく昭和の仮面ライダーシリーズよりゲルショッカー怪人、神話怪人、獣人、奇っ械人、改造魔人、ドグマ怪人、ジンドグマ怪人、UFOサイボーグの要素も、それぞれ裏モチーフとして振り分けてみました。ベルトとブーツの色などをオマージュ元と合わせてあるので、特撮マニアの方はどれがどれなのか当ててみて下さい。純然たるデストロン怪人オマージュは、2体だけです」(入山)
いかがだったろうか。ちょっと楽しいテーマだったからといって、さすがに10体はやり過ぎた……。なんだか回を追うごとに、どんどん絵のカロリーが高くなってきている気がしてならないので、次回の安達太良山ではシンプルな落としどころを見つけたい。2週間後、またお会いしましょう。
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※表紙の画像背景はゆうすこさんの活動日記より