この春、コロンビアから2つの異なる個性を持った防水透湿シェルジャケットが発売されました。シンプルなフォルムに、コロンビアが長年培ってきた技術を詰め込んだ「マウンテンズアーコーリング2ジャケット」と、快適性もファッション性も諦めない、欲張りなハイカーにおすすめしたい「セカンドヒルジャケット」の2着です。
それぞれのディテールや用途の違い、そしてシェルの選び方の基本について、エベレスト登山を始め世界中の山に挑戦してきた国際山岳ガイドの近藤謙司さんにお話を伺いました。
2021.04.23
池田 圭
編集・ライター
今年も大型連休を前に、山登りを始めるのに最適な時期がやってきました。山は日増しに雪溶けが進み、斜面が色づき始めるのに合わせて、山道具の衣替えをする季節でもあります。
春から秋にかけての登山で、忘れちゃいけないギアといえばシェル(レインウエア)。登山靴、バックパックと並ぶ、ビギナーが最初に揃えるべき登山の必需品です。しかし、ショップにはあまりにたくさんのシェルがあり、何が違うのか、何を基準に選べばいいのか悩んでしまう方も多いでしょう。
シェルの選び方にはいろいろな考え方がありますが、わかりやすいのは用途の違いでセレクトする方法です。日帰りの低山ハイキングに行くのか、それとも残雪のアルプスにテントを背負って行くのか、はたまた、クライミングに挑戦したいのか。山での用途によって、選ぶべきシェルを決めるのです。
シェルの特徴は、シルエットと生地の違いに大きく左右されます。スリムでタイトなものは木々や藪に引っかかりにくく、ゆったりしたシルエットのものは中に保温着を重ねるのに適しています。袖や裾の長さも、それぞれの用途に合ったタイプが存在します。生地も軽さを重視したものから耐久性を重視したものまで幅広く、どのようなタイプが使われているかでシェルの性格は異なります。
コロンビアのシェルには、高い防水透湿性を誇る独自素材「オムニテック」が使われています。その種類は大きく分けて3種類。丈夫さを重視した3レイヤー(3層構造の生地)、軽さを重視した2.5レイヤー。そして、その中間的性格を持つ2.75レイヤーです。
「オムニテックを使ったシェルは、どれもとてもしなやかな着心地が特徴ですね」
と話すのは、エベレスト登山をはじめ世界中の山々を舞台に活躍する国際山岳ガイドの近藤謙司さん。これまで数多くのシェルを着比べてきた近藤さんに、コロンビアの2つの新製品の特徴と用途について伺ってみましょう。
最初に紹介する「マウンテンズアーコーリング2ジャケット(Mountains Are Calling II Jacket)」は、3レイヤーのオムニテックを採用した高機能なマウンテンシェル。細かなアップデートを繰り返しながら毎年リリースされている、コロンビアの定番モデルです。
シンプルな作りにしなやかな着心地と軽さを備えた従来の特徴に加え、今シーズンから大幅に改善されたポイントがあります。
それが、3レイヤーの生地の特徴を最大限に活かす耐久性能の向上です。最新の防水透湿機能「Torain」を採用することで、経年劣化による機能低下を大幅に抑え、長期間快適な着心地を維持できるようになりました。
「ジャングルテスト」と呼ばれる衣料品の耐久テスト(まるでジャングルのような環境で10週間に渡って繰り返される過酷な商品テスト)で使用された後でも、加水分解による機能劣化は見られず、十分な防水性を確保。シェルは3~5年ほどで買い替える場合が多いですが、このモデルは10年間の使用に相当する耐久性を備えた優れものなのです。
数字以上に気になる山での実用性については、国際山岳ガイドの近藤さんに伺ってみましょう。
近藤さん:「僕が日本の山で厳冬期以外に使うシェルに求める役割は、十分な耐風耐水性があることと、小さくコンパクトに収納できて持ち運びが苦にならないこと。「マウンテンズアーコーリング2ジャケット」は、この2大要素をしっかりと満たしています。さらに、軽くて着心地がしなやかなことが、このシェルの特徴でしょう。生地のしなやかさは、動きやすさだけではなく、コンパクトに収納できることにも繋がっています。
ずっとシェルを着っぱなしで行動する冬山と違って、春から秋にかけての登山では、天気が良ければ山行中にシェルを一度も出さないことも珍しくありません。そのため、機能性はもとより、軽さとコンパクトさも非常に重要な要素なのです」
近藤さん:「生地自体の透湿性の高さは必要な要素かもしれません。でも、実際の山では使い勝手の良いベンチレーションが付いているかが重要だったりします。ウエア内が蒸れてきたときはジッパーを開けて換気できるので、この内側がメッシュになっていてベンチレーションを兼ねる大きめのポケットは非常に快適です。もちろん、ポケットとしても大きくて使いやすいですね」
このポケットは通常よりも少し高め、かつ内側の位置に設計されているため、バックパック着用時にもハーネスが干渉しません。細かいディテールですが、山で使ってみるとこの違いの大きさが実感できるでしょう。
基本は厳冬期を除く、春の残雪期から夏のアルプス縦走、秋山まで3シーズン用に設計されたモデルです。しかし、近藤さん曰く、レイヤリングを工夫すれば、北八ヶ岳の森をハイキングしたり、スノーシュートレッキング程度ならば、冬場も十分に使えるそうです。
近藤さん:「センターのジッパーもしなやかで良いものを使っています。これだけの作りにも関わらず手頃な価格帯に収まっているのも、コロンビアらしさですね。使い方次第では通年使えますし、シンプルな構造なので汎用性も高い。これから山登りを始める方にも、最初のシェルとしておすすめしたい一着です」
対して、「セカンドヒルジャケット(Second Hill Jacket)」は2.75レイヤーという新しい発想の生地を採用した軽やかなモデル。3レイヤーの快適な着用感と2.5レイヤーの軽量性、双方のいいところを併せ持つ欲張りな生地を採用した新感覚のシェルです。
通常の2.5レイヤー生地は、裏地を廃することで軽さと透湿性の高さをキープできることがメリットですが、汗や湿度で肌に貼りつく不快感がデメリットでした。その問題に対する解決策として、この生地は裏地にマイクロビーズと呼ばれる小さな立体ドットをプリント。裏地と肌との接触面積を減らすことで、さらりとした肌触りの良さを実現しました。
近藤さん:「僕はクライミング、滑り、3シーズンの登山、ハイキングと使用シチュエーションを4つに分けて、シェルを使い分けています。先ほどの3シーズン用に対し、このシェルは4つめの用途向きでしょう」
日帰りの登山や山小屋泊、手頃なルートのテント泊くらいまででの使用が、セカンドヒルジャケットの得意とする守備範囲。着丈と袖は前出の「マウンテンズアーコーリング2ジャケット」よりも短めで、今っぽいシルエット。山でファッションを諦めたくない人にも、貴重な選択肢となるでしょう。
ビギナーの方が初めての1着を買う時、出番があるかもわからないレインウエア選びに悩み過ぎる必要はないと近藤さんは言います。
近藤さん:「これを着ていないとこの山に登ってはいけない、なんてルールはないですから。まずは気持ちよく、自分が着たいと思えるものを選んでください。
もし皆さんが今後レベルアップしていく中で、例えば頻繁に岩に擦れるようなルートに挑戦したり、厳冬期の登山やハーネスを付けるようなクライミングをする段階になったら、その時々の使い方に合わせて、持っているシェルにはない特徴を備えたタイプを買い足せばいい。それまでは、この2着のいずれかがあれば十分だと思います」
原稿:池田圭
撮影:小山幸彦(STUH)
協力:コロンビアスポーツウェアジャパン、近藤謙司(アドベンチャーガイズ)