希少植物・高山植物を守る、登山者一人ひとりの行動とは【山登り初心者の基礎知識】

日常の生活圏では見ることのない珍しい植物との出合いは、登山の大きな魅力のひとつです。しかし私たち登山者の行動によっては、これら希少植物や高山植物の生態に大きな影響を及ぼしてしまうこともあります。そこで、登山ガイドの石川高明さんに、生態系に配慮するためのルールや、気をつけたい行動について聞きました。

2023.02.13

YAMAP MAGAZINE 編集部

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高山植物や希少植物はそこに生きているから美しい

山に彩りを添え、登山の楽しみを倍増してくれる高山植物たち。森林限界を超えるような高い標高で生息する力強さや可憐さに、つい目を奪われるという人も多いことでしょう。その高山植物や希少植物を守るうえで、大前提として理解しておきたいことがあると、登山ガイドの石川高明さんはいいます。

「高山植物を家でも愛でたいからといって、根から掘り起こして家に持って帰ったとしても根付きません。希少植物や高山植物は、その環境でしか生きられない弱い植物なんです。

タンポポのように、どこでも繁殖できるような強い植物たちとは違い、弱いがゆえに条件が悪い高山という限られた場所に追いやられ、その環境下でしか生息できないという進化を遂げたんですね。

ですから、それらを見つけたときに写真を撮るのはいいですが、かわいいからといって、持ち帰って鉢植えにしようなどと考えてはいけません」

そこで生きているものは、そこで見るからこそ美しいのかもしれません。

また、石川さんは、国立公園や国定公園では、自然風景や生物多様性の保護を目的とした「自然公園法」で規制されている行為があるといいます。

「自然公園法では、植物や木、石、岩などの持ち出しは一切禁止されています。山でよく、ちょうどいい枝を見つけて杖にして歩いている人がいますよね。山小屋の厳しい親父さんは、あれもダメだと言っていましたね。

木の枝や石など、地面に落ちているものも動かしてはいけません。粘菌がついていて、すでに分解が始まっているかもしれませんよね。見えるものだけではなくて、目には見えないものにも配慮が必要なんです。

要は、高山植物なども含め、元々あった場所から動かしてはいけないんです。あったところにそのままにしておくというのが、基本のルールです」

自然公園法で規制される行為とは?

自然公園法は、自然風景や生物多様性の保護を目的とし、その場所の環境を保護する必要性の度合いにより、特別保護区、特別地域、普通地域など細かく区域分けされています。厳密にいえば、それぞれの区域ごとに規制される内容も変わります。

しかし、とても細かい区分けになっているため、登山道においてどこまでが特別保護区で、どこからが特別地域かを判断して歩くのは、現実的には不可能です。同様に「国立公園だから禁止されている」、「国定公園だから気をつけよう」、「自然公園に指定されていないから何をしても大丈夫」となれば、規制により保護されるはずの自然が、それ以外の場所では壊されかねません。

以下は、自然公園法で規制されている行為の中で、特に登山者の行動に関わるものの一例です。「“そのルールの裏にある意味”を考えて守りましょう」と石川さんはいいます。どの山を歩く時も心がけてみてください。

自然公園法で規制される行為の一例
・木竹の伐採又は植栽、損傷
・植物の採取又は損傷
・植物の植栽又は種子をまく
・落葉、落枝の採取
・鉱物、土石の採取
・湿原へ立ち入る
・焚き火
・動物の捕獲又は殺傷
・動物の卵の採取又は損傷

外来種が及ぼす影響

知らなければ、「わぁ、きれい」、「わぁ、珍しい」で終わってしまう外来種。しかしそれらの侵入は、私たちの生活に多くの影響を及ぼす危険をはらんでいます。

もともとそこに生息していなかった動植物である「外来種」は、園芸や飼育、流通など、人の活動によりその地域にもたらされます。すると、その地域にもとから生息していた「在来種」が影響を受け、生態系のバランスが崩れることに。外来種の影響は大きく分けて、生態系と人、農作物への3つが挙げられます。

1. 生態系への影響
外来種が在来種の生息地を奪ったり捕食したりすることにより、在来種の個体数が減少したり、絶滅の危機にさらされたりします。たとえば、そこに元々あった生物環境を破壊してしまうアメリカザリガニやミドリガメ(アカミミガメ)は特定外来生物に指定されています。また、外来種との交雑により、在来種の独自性も失われます。

2. 人への影響
毒や菌を持った外来種の動植物がもたらされることにより、人に危害を加えたり、新たな感染症が発生したりする危険性があります。花粉症のアレルゲンであるオオブタクサや、刺されると激しい痛みに襲われるセアカゴケグモなどが挙げられます。

3. 農作物への影響
外来種が作物を食い荒らしたり、病原菌や害虫を運んだり、生育区域を侵害したりする被害が挙げられます。稲の大敵であるウンカのほか、ここ数年ではアライグマの被害が拡大しています。

登山者の衣服や登山靴を経由して、山から山へ外来種が運ばれる可能性もあります。

土が運ぶ外来種

石川さんの住んでいる八ヶ岳では、オオハンゴンソウという特定外来生物にも指定されている外来種が問題になっているそうです。

「オオハンゴンソウは、うちの庭にもたくさん生えています。もともとは園芸種だったんです。繁殖力が強くて、タネで増えるだけでなく、根っこが残るとまたそこからも生えてきます。非常に強いんです。

ちなみに“オオ”が付かないハンゴンソウはもともと日本にもありました。漢字では「反魂草」と書き、気付け薬に使われていたそうです。もしかしたらオオハンゴンソウも薬や何かに使えるんじゃないかということで栽培を始められて繁殖したのかもしれません。

上高地でも見かけるようになり、関係者の努力で除去活動が続いています。湿ったところを好むようで、水の周りでよく見ますし、タネが沢を経由してどんどん広がって増えてしまうんです。彼らも生きようとして頑張っているんですけどね」

オオハンゴンソウの大群生(PIXTA)

開発などで出た土が山に運ばれ捨てられることで、川の上流から一気にタネが流れてきて繁殖するというケースも。

また、土の移動により外来種がもたらされるということは、登山靴に付着した土をそのままにしていれば、外来種が登山者によって別の山に運ばれる可能性があるということです。石川さんは、車や飛行機で一足飛びに移動する場合、特に注意が必要といいます。

「東京から登山に来る人だったら、もし登山靴に土が付いたまま移動してしまっても、その間に公共の交通機関を使ったり、アスファルトを歩いたりしている途中で、ある程度土は落ちると思うんです。特に気をつけたいのは車や飛行機での移動です。

私が南米から北米へ飛行機で渡ったとき、なるべく荷物を減らしたかったので、登山靴を履いたまま飛行機に乗ったんですね。すると空港で、薬剤が塗布されているマットのようなものを踏めと言われました。外来のものが北米に入らないように消毒をしているんですね」

山から下りて靴をメンテナンスすることは、靴を長持ちさせるだけでなく、次に登る山の生態系を守ることにもつながるのです。

ちょっと待った、その情報

YAMAPユーザーに特に気をつけてほしいのは、自ら発信する情報の内容です。活動日記やSNS、ブログなどで希少植物の情報をアップする際は、場所が特定できるような内容は避けましょう。

見つけたときは嬉しいですし、みんなに教えてあげたい気持ちもよく分かります。しかし、中には心無い人もいて、その情報が盗掘につながる場合もあります。個人で楽しむためだけではなく、営利目的で盗掘されネットオークションなどに出品される事例も増えています。

YAMAPの活動日記では、投稿写真を非公開にしたり、撮影場所を隠したりする設定ができます。山野草の写真をアップするときは活用してみてください。

YAMAPで投稿写真の位置情報をオフにする方法

とはいえ、どれが希少植物なのか判断がつかないこともあるかもしれません。植物を撮影した場合は、下山後にその種類を調べる癖をつけておけば、名前も覚えられるし、その植物を守ることにもつながります。ぜひ心がけてみてください。

登山の一番の魅力とも言える自然の美しさ。しかし、一人の登山者の行動が、その自然を守ることにもなれば、壊すことにもなります。これからも美しい山に登り続けるために、私たち登山者ができることはたくさんあります。みんなで知って、守って、行動していきましょう。

監修者:石川 高明(信州登山案内人・登山ガイド)

長野県在住。1967年東京生まれ。学生時代から登山に親しむ。最初に登った山が八ヶ岳。大手電機メーカーを2000年に退職し、世界一周登山の旅に出発。途上のスイス ツェルマットで2年間トレッキングガイドを勤める。帰国後、八ヶ岳の麓で子育てをすべく、2008年長野県原村に移住。各国の山岳地域を旅した体験や、スイスで観光業に携わった経験を活かし、 地元地域や観光活性化のお手伝いをしながら、各種イベントを実施してい る。
原村観光連盟 副会長/八ヶ岳観光圏 観光地域作りマネージャー
公認スポーツ指導者 山岳指導員/長野県信州登山案内人
(株)八ヶ岳登山企画 代表取締役/登山歴30年/スノーシュー歴20年

執筆協力:米村 奈穂(フリーライター)
トップ画像:PIXTA

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登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。

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