親子登山をしてみたい。けれど、服装は? 持ち物は? ごはんは? おすすめの山は? そもそも何歳から連れて行けるんだっけ? などなど、初めての親子登山は本当にわからないことだらけ。そんなママさんパパさんのために「親子登山の疑問をすべて解決してしまおう!」というのが本企画です。我が子が生後8ヶ月のときから親子登山をスタートし、現在も「山ヤ流子育て」を実践されているまつだしなこさんをお迎えし、これまでの実体験を踏まえた親子登山のノウハウを余すことなく教えていただきました。
子どもと山へ! 0〜5歳の親子登山ガイド/ 連載一覧
2023.07.28
まつだ しなこ
子連れハイカー
わが家の場合、「アウトドアは子どもの成長にいいらしい」ということは後々わかったことで、親子登山を始めた理由は「自分たちが山に登りたいから」という自分本位のものでした。
私たち夫婦は、街中で一緒にデートしたことなどほとんどなく、休みといえば山にばかり登っていた生粋の山好きカップル。幸か不幸か、そんな両親のもとにやってきた娘と息子は、生まれた瞬間から山に登ることを運命付けられていたのです。
娘が生まれたときに夫婦で掲げた目標は「20年後に、家族そろって山頂で酒を酌み交わす」。
ところがいざ育児が始まってみると、私の腰はすっかり重くなり、なかなか最初の一歩が踏み出せない日々が続きました。もともと石橋を叩いても渡れないほどの心配性の私は、ふにゃふにゃした赤ちゃんを抱っこしているうちに「山で何かあったらどうしよう」「そんなに小さいうちから連れて行く意味ってあるの?」とすっかり怖気づいてしまったのです。
忙しさを理由に登山デビューを先延ばしにしようとしていた私が、夫に叱咤激励されながら親子登山の最初の一歩を踏み出したのは、娘が生後8ヶ月の頃。それ以来、最初の心配はどこへやら、私は親子登山の虜になり夏も冬も家族で山に登り続けています。
心配性の母を変えた親子登山の魅力とは!? 私と娘のチャレンジの軌跡と一緒に紹介したいと思います。
「親子登山は何歳から始められますか?」と聞かれることが多いのですが、はたして親子登山を始めるのに適齢期というものはあるのでしょうか。アルバムをめくってわが家の歴史を振り返ってみるのですが、それぞれの年齢ならではの楽しさもあり、難しさもあり、一概には言い難いと感じています。
娘の場合、生後8ヶ月のときに背負われて登った高尾山稲荷山コースが親子登山第1座でした。早く娘と山に行きたいとうずうずしていた夫ですが、山道の危険性を熟知している山ヤとしての自負もあったのでしょう。登山用ベビーキャリア(※)の使用可能年齢である生後8-9ヶ月を迎えるまでじっと我慢していました。
(※)登山用ベビーキャリア:腰が座ったころ(生後8-9ヶ月目安)から使用できる、子どもが座れるシートと荷室が一体になった自立式のバックパックのこと。子どもが転落しないようにハーネスが搭載されるなど、アウトドアシーンでの使用においても安全を確保するための工夫がされている。
そして、おっかなびっくり最初の一歩を踏み出してから、あっという間に5年。娘の山ヤとしての成長ぶりには目を見張るものがあります。
わが家が乗り越えてきた親子登山のハードルを、年齢ごとにご紹介していきたいと思います。
0歳から1歳は、子どもの歩行がまだ安定しない時期です。親子登山といっても子どもはずっとベビーキャリアに座りっぱなし。それでも、空を見上げたり、木の枝に手を伸ばしたり、聞き慣れない鳥の声にびっくりしたり、赤ちゃんなりに何やらとても忙しそうです。1歳半くらいになると山頂付近でベビーキャリアからおろして少しだけ歩かせたりもできます。
この時期に登り始めるメリットは、親のペースで歩けること。登山に慣れていない保護者でも始めやすい時期でしょう。私も妊娠中から2年近く山に登っていなかったので体力に自信がありませんでした。自分のリハビリもかねて近場の短時間コースからゆっくり親子登山を始め、子どもの成長とともに自分自身の体力も回復していくことができたのは良かったと思います。
気をつけた点は、おむつ替えのスペースをあらかじめ確認しておく必要があること。そして、ベビーキャリアに慣れておくことです。ベビーキャリア自体が2.5kgほどあるので、1歳の子どもと荷物を合わせると15kg近くなることも。保護者の体力強化も必要です。
自分である程度の範囲を歩けるようになるので、葉っぱに触ったり、みみずに驚いたり、自然環境を思う存分楽しめる時期です。「なんで?」「どうして?」と自然の中で不思議を発見してはとにかく質問の嵐なので、答える親は少し大変ですが、その好奇心がまた嬉しい。わが家の子どもたちが、汚れることを恐れずに自然の中に突入できるのは、この時期に「自然は面白い」という体験をたくさんしてきたからだと思っています。
一方で、いろいろと悩みが多かったのもこの年齢。だんだん体重も重くなり、ベビーキャリアで運搬するのはかなりの負担です。かといって自分で歩ける距離もまだまだ短く、コース選びの難易度が上がる時期でした。
さらに3歳になるとトイレトレーニング問題が発生。山行中のお漏らしは避けたいので山に登るときだけおむつをしたために、トイレトレーニングが振り出しに戻ってしまったこともありました。
4歳になるとかなりの距離を歩けるようになるので、挑戦できる山の選択肢がぐんと広がります。それまでは自然の中で遊ぶことが目的でしたが、この頃からは最後まで自分で歩いて頂上を目指すことが目的になってきました。子ども自身も、登頂することに達成感を見出すようになり、親子ともに“登山”の醍醐味を味わうことができます。娘の山道具もこの時期から本格的なものを少しずつ買い揃えていきました。
しかし、距離が長くなる分、「もう歩けない、抱っこ!」と座り込まれるリスクもあります。もうベビーキャリアには乗れないので、なんとかして歩かせるしかありません。この年齢になると抱っこで山道を歩くことは危険です。親のストレスがたまりやすい時期でもありました。
もう立派な山のパートナーです。「もっと長い距離を歩きたい」「大きな岩を登りたい」とどんな山に行きたいかのイメージができているので驚きます。自然のなかで新しい発見する面白さから始まり、登頂することが楽しくなってきて、そしてついにどんなコースを制覇するかに喜びを見出してきました。鎖場やハシゴにはまだ挑戦できませんが、ゴツゴツした岩場はひょいひょいと乗り越えていきます。
一方で、5歳にもなるとテレビや周囲からの情報に敏感になり「山=疲れる」という先入観ができてしまうケースもあるようです。娘が同年代の従兄弟を山に誘ったところ「疲れるから嫌だ」「汚れるから嫌だ」と断られて、がっかりしてきたことがありました。
一度思い込んでしまうと気持ちを覆すのは大変なので、あれこれ情報を仕入れる前にとにかく山の楽しさを体に染み込ませることができて良かったと思っています。
結局のところ“適齢期”というものはなく、いつ始めてもすごく楽しくて、それなりに難しいこともある親子登山ですが、私は、子どもが小さいうちが始めておいて良かったと思っています。
もっとも大きい理由は「慣れ」です。保護者にとっては「子どもを連れて山に行く」ということに慣れておくことができるから。子どもにとっては余計な先入観が育つ前に山という環境に親しむ機会がもてるから。
ただし、歩行が安定しない子どもを連れていくときはベビーキャリアを使うことを強くお勧めします。抱っこ紐では足元が見えなくなりますし、おんぶだと転んだときに親が子どもを守れないので、緊急時以外は避けたほうが良いでしょう。ベビーキャリアは安価ではありませんが、中古品でもかなり状態の良いものが購入できますし、レンタルサービスもあります。初めての方はまずは子どもを乗せて近くの公園を散歩するなど、重さやバランスに慣れてから山に行くと安心です。
心配性だった私が親子登山にすっかり魅了された理由。それは山登りが子どもの成長にとっても、親子関係にとっても、想像以上に良い効果をもたらしてくれたからです。読み書きや、道具の使い方は教えられるけれど、子どもの感性や気持ちは経験を通してではないと成長しないと痛感しています。
共働きなので子どもと日常的にじっくり向き合う時間がない私たち夫婦にとって、親子登山は子どもたちに一度にいろんな経験をさせることができる貴重なレジャーでした。
今や朝5時半起きで9時に撃沈するまでフルスロットルで駆け回る娘ですが、0歳の頃は病気がちで家族の心配の種でした。0歳で肺炎をこじらせ入院生活。その後も気管支炎を繰り返し、夜間に咳き込んで吐き戻したりと呼吸器系のトラブルに悩んでいました。しかし今や、インフルエンザも半日で解熱するほどの健康体に。基礎体力がついたのは、山登りという有酸素運動を定期的に行っていたからではないかと思っています。
私は典型的な運動音痴なのですが、そんな母には似ても似つかず、娘はスキーやボルダリングなど何をやっても体の使い方が上手なので驚きを隠せません。
これは、よちよち歩きの頃から山で不整地を歩いていたからではないかと思っています。最近の公園は、石ころすらない綺麗な整地。凸凹道や岩がゴロゴロした道を足裏で感じ、体幹でバランスをとりながら歩く機会がどれくらい日常生活にあるでしょうか。その点、山登りは子どもにとっては全身運動。しっかり体幹が鍛えられていると感じています。
娘が好んで山に行くようになったのは、誰かとの競争ではなかったからだと思っています。3月生まれで、同学年の子どもより一回り体が小さい彼女は、保育園で3歳から5歳まで異年齢クラスで一番幼い存在として、「人よりできない」と感じる機会が多かったのでしょう。「負けたくないから、やりたくない」と言い出すようになったときはショックでした。
一方、登山は上手いも下手もありません。自分のペースで歩き続けさえすれば、必ず頂上に辿り着ける。登山を続けることで「私はできる、人と比べなくていい」と感じられるようになり、徐々にネガティブな思考回路から解放されていったようにみえます。最近では「最後までやらないと、わからないことがあるんだ!」というような前向きな発言が増えてきました。
5歳くらいになると、娘との関わりが難しいと感じることがでてきます。言葉が達者になっていく娘の反抗に、こちらも怒り心頭で、つい声を荒げることも。
わが家では親子関係がギスギスすると「そんなときは、山に行こう!」が合言葉。山には、落ち込んだことも喧嘩したことも、全部リセットされる不思議な効果があるのです。
登山は、わざわざ苦しいことを選びそれを家族一丸となって乗り越えるという、稀有なレジャーです。しかも非日常の環境下で子どもは少なからず緊張しているもの。そこで親子で協力して同じゴールを目指すという体験は、どんな言葉で愛情を説明するより、家族の信頼と連帯感を強化してくれると私は感じています。
どんな登山であっても、計画と準備が成功の9割を握っていると考えています。準備を入念にするという観点でも登山は子どもにとっていい経験になるでしょう。4歳からは、「地図を一緒に見る」「自分で荷造りをする」「お菓子は自分で持ち、いつ食べるかも自分で考える」の3箇条がわが家のルール。
ときに、ぬいぐるみやシャボン玉など、山には不要な荷物を詰め込んでいることもあり、つい口出ししたくなりますが、それも経験。自分で考え失敗し、だんだんと計画性が身についていったらいいなと期待しています。
親子登山の魅力にすっかり虜になってしまった私ですが、乳幼児を山に連れ出すことは親のエゴなのではないかと、二の足を踏んだ時期もありました。けれども、子どもの成長にとっても家族関係の構築にも、こんなにも素敵な効果がある親子登山なのだから、とりあえずやってみなくてはもったいない。
なぜなら、時間は思いのほか限られているから。
山登りは移動時間も含めると丸一日かかるレジャーです。部活や友達づきあい、受験が始まるとなかなか行く時間が確保できなくなります。子どもと一緒に山登りできる期間なんて、人生であと何年残されているでしょうか。親子登山に適齢期があるとしたら、それは「行ってみたいな」と思ったそのときなのです。
山に登ったこと自体は、いずれ子どもは忘れてしまうかもしれない。でも、家族一丸となって山の頂に辿り着いた体験は、確かに心の底に折り重なりこれからの家族を支えてくれると信じています。
とはいえ、幼い子どもを山に連れていくということは、保護者の責任が重いということも忘れてはいけません。私自身も、振り返ればヒヤリとするような数々の失敗を繰り返してきました。そんなわが家が試行錯誤の末に見出した工夫や注意点を、各記事でご紹介していきたいと思います。
皆さんが最初の一歩を踏み出すきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。
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