使い手に思い通りの登山体験を。YAMAP『フリーハンド登山計画』開発者の想い

YAMAPから、登山計画をアップグレードする新機能『フリーハンド登山計画』がまもなく登場します。最大の特長は、紙の地図にペンで描くような直感的な操作性。

地図上に登山道のない場所でも思い通りに計画が立てられるこの機能はいかにして生まれ、何を目指すのか──。

開発のキーパーソン、プロダクトマネージャー・大塩雄馬さんに、誕生の背景とその先に描く未来について聞きました。

2025.04.22

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

登山計画機能、進化の道のり

―YAMAPの登山計画ですが、サービス開始当初は存在しなかったそうですね。

大塩:はい。2013年のサービス開始当初、登山計画といえばまだ紙の地図が主流で、YAMAPには計画機能がありませんでした。実は、私が入社する前に「この機能について考えてみてほしい」と課題を与えられ、入社後に開発を担当することになりました。

大塩雄馬 / YAMAPのプロダクトマネージャーとして、自らの登山経験と山を愛する想いを原動力に、さまざまなアイデア創出から実装までをリード。2025年にはYAMAPのプロダクトビジョンの策定を主導し、すべての登山者にとって “最良の相棒” となるサービスづくりに日々邁進している。

大塩:もちろん、紙の地図をじっくり読み込んでルートを考え抜くプロセス自体も、登山の醍醐味の一つです。しかしその一方で、「アプリで手軽に計画を立てたい」というご要望も、サービス開始当初から寄せられていました。

また、安全に関わる情報へのアクセスが、登山者個々のスキルや経験に大きく左右されてしまう点にも課題を感じていました。

登山計画について検討を進めるうちに、登山における様々な「不」―不便、不安、不満―をテクノロジーで解消することが、誰もが安全に山を楽しめる環境づくりに不可欠だと考えるようになりました。そして2017年、YAMAPで初めて『活動計画機能』の提供を開始したんです。

―それが最初の登山計画だったんですね。

大塩:当時の機能はかなりシンプルでした。例えば、「登山口から山頂まで40分」かかる場合、到着時刻はユーザー自身で計算して入力する必要があったんです。

それでも「ないよりは助かる」「紙よりずっと便利だ」と多くの方に喜んでいただけたのは本当に幸いでしたが機能がシンプルだったためご要望も多く頂戴しました。

「PC(大画面)で計画を立てたい」とか、「コースタイムを自動計算してほしい」といった声ですね。早期に解消したいという思いはすぐに募っていきました。

―その後、自動計算ができるようになったんですね。

大塩:はい。2020年にコースタイム自動計算機能を実装し、より簡単でスムーズな計画作成を実現することができました。

これにより計画作成のハードルは大きく下がり、登山経験の浅い方や体力に自信のない方でも、より安全に、自分に合った山の計画を立てやすくなりました。登山計画に関する課題は一定レベルで解決できた手応えはありました。

フリーハンド登山計画

―『フリーハンド』は、そこから生まれたのでしょうか?

大塩:決め手はユーザーさんからの切実な声でした。

「YAMAPにまだ登録されていないマイナーな登山道やバリエーションルートを使いたい、でも計画が作れない…」

そういった声を数多く頂戴していました。

そこで私たちは、従来の「地図上のポイントを選んでルートを作る」という方法から一度離れて、「登山計画とは、ユーザーにとって本来どうあるべきか?」という本質に立ち返って考え直してみたんです。

そして見えてきたのは、どんな道であれ、“その人”が行きたいルートに、もっと柔軟に寄り添うこと。あらゆる使い手が思い描く“ここに行きたい”に応えることでした。

経験やスキルレベルに関係なく、誰もが、まるで慣れ親しんだ紙の地図に、ペンでスッと線を引くように直感的に計画を描くことができる。それこそが私たちの目指したい姿だと確信したんです。

― 開発チームとして、実現する上で特にこだわった部分はどんなところでしたか?

大塩:一番大きいのは線を書く時の操作性です。直感的にイメージしたものを再現できるかを徹底して追求し、使いにくくなる要素もできるだけ排除しました。

―登山計画が格段に進化したことが見た目でもよくわかります。この新機能によって、ユーザーの登山体験は具体的にどのように変わるのでしょうか?

大塩:最も大きな変化は、これまで計画を立てられなかった区間でもルートを描けるようになり「計画なしで行かざるを得ない」といった状況を解消できる点です。

登山中に、計画通りに進んでいるかを確認しやすくなることは、安全にもつながる直接的なメリットと考えています。YAMAPが持つ様々な地図情報(一般的な登山道、他のユーザーさんが実際に歩いた軌跡データなど)を参照し、行きたいルートを描くだけで計画が完成します。

さらに、山のルートだけでなく、最寄りの駅から登山口までのアプローチ、下山後の温泉までの道、あるいは旅先での街歩きといった、舗装路を含む山以外の計画にも幅広くご活用いただけます。

ユーザーの皆さんが歩いた軌跡データを、コース情報などの品質向上に活かせるという副次的なメリットもあります。

自然を愉しむ、歩く、体感するといった人間の本質的な部分により意識を向けられるようになり、山で過ごす時間そのものを、より深く豊かに味わえるようになることも期待している部分ではあります。

すべての登山者の信頼できる相棒へ

― 「フリーハンド登山計画」に込められた想いが、ひしひしと伝わってきました。最後に、この機能の先、そしてYAMAPが目指している未来について、あらためてお聞かせください。

大塩:この機能もいくつかのアップデートを計画していますが、YAMAPがサービスを通じて解決したい課題は、登山の安全確保はもちろん、山の楽しみ方の提案、コミュニティの活性化まで、実に多岐にわたります。

そのため、開発の優先順位も常に状況に合わせて見直してきました。AIをはじめ技術は日進月歩で進んでいますから、私たちも柔軟に変化し続けていく必要があると考えています。

ですが、どんな状況でも開発の根幹として絶対にぶれずに大切にし続けたい、普遍的な価値観があります。それは、ユーザーの皆さんに安心して使っていただける「信頼性」であり、登山の「安全と楽しさ」に貢献する存在でありたいという真摯な想いです。

いわば、YAMAPというサービスの”佇まい”のようなものですね。その普遍的な想いを、開発チーム全体で改めて共有し、未来への道しるべとするために、私たちは「プロダクトビジョン」を策定しました。

― なるほど。具体的に目指す状態をチームで共有されているのですね。

大塩:はい。これまでの登山では、ご自身で行きたい場所を決め、過去の経験や知識、そして頑張って集めた情報を頼りに計画を立てるのが一般的でした。もちろん、そのプロセス自体にも大きな達成感や楽しさがあります。

一方で「もっと良いルートや山の楽しみ方があったかもしれないのに、それに出会う機会を私たちが十分に提供できていないのではないか?」という課題意識も、常に持っていました。

大塩:私たちがプロダクトビジョンで目指しているのは、まさにそこです。これまでの登山計画も、見方を変えれば、機能の仕様によってアクティビティが制限されていた、と捉えることもできるかもしれません。

ベテランの方から登山を始めたばかりの方まで、様々な経験レベルや多様なニーズを持つユーザーさん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、登山のモチベーションを高めるような存在でありたい。

そして、一歩一歩、着実にプロダクトを進化させていきたいと考えています。その姿勢こそが、YAMAPの根幹です。

私たちの究極の目標は「山を楽しむすべての人の、どんなシーンでも、心から信頼できる相棒(バディ)」。そう皆さんに呼んでいただけること。その実現に向けて、これからも全力で挑戦し続けていきたいと思っています。

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。