外輪山の西の端にある俵山。「西の端から東を見れば、阿蘇五岳の背後から登る絶景の夜明けが見えるのでは!?」という発想から、早朝に俵山を登り始めた今回の山行。そこには想像を超える絶景と、そして同じ夜明けの風景を目指してやってきた色々な人々との出会いがありました。
2020.02.03
米村 奈穂
フリーライター
今回紹介するコースは早朝に俵山峠展望所を登り始め、俵山山頂(1,095m)から朝の絶景を眺める約2時間45分、往復約5.5kmのピストンルート(休憩のぞく)。阿蘇の穏やかな田園風景や五岳を眺めながら登り、天気が良ければ遠く雲仙まで見える絶景の山頂を味わうことができる地元の阿蘇ツウにも愛されるとっておきのルートです。
山頂手前から南郷谷にそびえる阿蘇五岳を望む
ずっと気になっていた山がある。阿蘇の巨大なカルデラをぐるっと囲む北と南の壁、外輪山。その南外輪山の西端にある俵山だ。以前、外輪山の南側約30.4kmを縦走しようと、東の端の清栄山からゴールの俵山を目指して出発した。しかし、猛暑と藪漕ぎの連続に志半ばでリタイアした苦い思い出がある。それ以来、俵山単体で登る気分になれず、せっかくなら縦走のゴール地点として山頂に立ちたいと思いつつ実行に移せずにいた。でも気になる。山頂は大展望らしい。ならばゴール地点の下見ということにして登ってみた。
俵山展望所までの道すがら、日の出直前の南郷谷を見下ろすと田園が輝いていた
登山口は俵山峠展望所。西の端ということは、阿蘇五岳の背後から昇る朝日を拝めるかもしれない。まだ暗いうちに自宅を出発した。しかし展望所に着く前から、日の出前の柔らかい光に照らされた南郷谷の美しい田園風景に見とれてしまいなかなか進めない。
登山口へ到着した6時半頃には、日の出目当ての観光客4人、身支度をする登山者3人、すでに下山してきた登山者1人と完全に出遅れてしまった。ロードバイクに乗ったライダーまでやってきた。どこから来たのか聞いてみると、5時半に熊本市内を出発したのだとか。阿蘇に数日滞在していると、登山者、自転車ライダー、オートバイのライダー、海外からのバックパッカー、それぞれが自分なりの楽しみ方で自然を満喫する人種が入り乱れ、話を聞くとまた違った視点で阿蘇を知ることができて面白い。
熊本市内から日の出を目指し、1時間ペダルを漕いでやってきたライダー達
登山道へは展望所にある東屋の横から取りつく。先ほどまで広大な景色を捉えようとしていた視線は、ワレモコウにサイヨウシャジン、ゲンノショウコ、キンミズヒキと、足元の野の花へ。ススキ野原を抜けた辺りで、熊本市内から毎週通っているという常連さんに遭遇した。山頂で日の出を見てからの下山中だった。今日は南向きの風で阿蘇五岳が噴煙に隠れているけれど、先週は東に流れて綺麗だったと携帯で撮った写真を見せてくれた。時刻はまだ8時前だが、これで2人目の下山者だ。俵山展望所からのルートは登りやすく、日の出登山向きなのだとか。もうひとつの登山口である俵山交流館萌の里からは高低差が800mほどあり、やや健脚向き。「また山でお会いしましょう」と言い残し颯爽と去って行った。
登り始めに迎えてくれたツリフネソウ
胃腸薬などとして使われていた薬草。「現に効く証拠」からゲンノショウコ
日の出も阿蘇五岳の姿も、風に吹かれる噴煙次第
暗い杉林を通り、長い木の階段が続く一般路と迂回路に分かれる。ここは一般路を取り階段を登る。しばらく進むと、視界がひらけ目の前に俵山の山容が現れた。山頂に延びる登山道が見える。上からサクサクと女性が下りて来た。これまた熊本市内からの常連さん。昼間は暑いので、歩きやすいこのルートを日が昇る前によく利用するそうだ。平日にも関わらず早朝から多くの登山者と遭遇し、地元に愛される山なのだと分かる。
上りは長い階段が続く一般路を、下りは迂回路がおすすめ
朝早く下山してくる登山者は、常連さんばかり
山頂直下はやや急登となり、振り返ると北外輪山の上部と阿蘇五岳が見える。前に登った烏帽子岳や杵島岳を逆から望む。一気に登り南外輪山の稜線に出た。山頂は右へ。頂上からは熊本市内を一望できる。市民に愛されるのも頷ける大展望だ。熊本県が全て見えるのではと思えてくる。霞の中にうっすらと雲仙も見える。
穏やかな南郷谷と勇ましい阿蘇山群のコントラスト
東に向かって続く南外輪山の縦走路を目で追っていると、登山者に声をかけられた。萌の里から登って来たが、下山路をどうしようか迷っているとのこと。隣の冠ケ岳までピストンするか、周回ルートで下るか。先ほど山頂にいたグループは、少しだけ南外輪山の稜線を歩きたいので冠ケ岳手前の護王峠まで行ってみると言っていた。どうやらこの山は、ルートのアレンジが悩ましいようだ。自分は俵山峠展望所からのピストンだと告げると、「自転車を使うといいですよ」と教えてくれた。俵山峠の登山口に自転車を置いて萌の里登山口まで車で行き、俵山峠に下山すれば、徒歩だと2時間はかかる2つの登山口の間を自転車で一気に下って戻れるのだという。
下山路でも、雲海を写真に撮り続けている人やマウンテンバイクで登ってきた人など、次々に登山者とすれ違う。静かな登山もいいけれど、賑やかな登山もたまにはいい。次に来るときは思い切り早起きをして、朝一番の下山者になろう。
南外輪山縦走路の稜線へ向かう常連さん
阿蘇五岳の一つで、九州百名山でもある。南阿蘇村と西原村の境にあり、南外輪山の西端に位置する。山名の由来は、俵を積んだような山容からきている。主な登山口は2つ。西原村の俵山交流会館萌の里と南阿蘇村の俵山峠展望所。俵山峠展望所登山口からの山行タイムは往復約2時間45分。登山口は日の出スポットでもある。山頂直下がやや急登。雨後の下山路は滑りやすいので要注意。
南阿蘇久木野キャンプ場敷地内のキッチンカーで営業している「Minaaso マルデン」。おすすめのメニューは丁寧に仕込まれた「あか牛ローストビーフカレー」。静かな森に囲まれた中で食べる味は絶品。実はこのお店、阿蘇大橋の側で営業していた人気のレストラン「ごはん処まるでん」が熊本地震で被災後に場所を移して再スタートされた。この味を待っていたファンも多く訪れる。オーナーは山のガイドでもある。
住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陰5-107(南阿蘇久木野キャンプ場)
Facebook:https://www.facebook.com/minaasomaruden/
※出張営業のために不在の場合もあるため、フェイスブックにて営業確認がオススメ。
こちらのコースは俵山峠展望所からのコースよりも距離、高低差共に大きく、健脚自慢向き。阿蘇の名産品を販売し、コスモス畑が美しいことでも知られる「俵山交流館萌の里」から山頂を目指す。山頂手前までは一面に広がる草原の中、山頂付近は樹林帯を歩く。阿蘇ならではの牛との遭遇情報も多く寄せられるルートだ。