琵琶湖の西に広がる比良山地。京阪神からのアクセスの良さもあり四季を通じて多くの登山者を集めます。
その比良山地北部にある名峰が蛇谷ヶ峰(じゃたにがみね)。麓の朽木村には、若狭から京都へ海産物などを運んだ「鯖街道」が通り、江戸以前の人々の生活や文化に触れながら山旅を楽しむことができます。登山口には温泉がある初心者向けのコースを関西在住のベテラン山岳ライター加藤芳樹さんが紹介します。
トップ画像みやともさんの活動日記より
2019.12.10
加藤 芳樹
ライター/編集者
比良山地の北部、Y字に伸びる山脈の西側主峰が蛇谷ヶ峰だ。最近は登山に適したバスの便が悪くなり、アクセスしにくくなってしまったが、比良の山となれば、ぜひ紹介しておかなければならない名峰と言えるだろう。
朽木村は、平成の大合併で高島市の一部となっている。蛇谷ヶ峰は旧朽木村時代から地域のシンボル的な山だ。村の中心地である朽木市場は、京都と福井県小浜を結ぶ若狭街道(鯖街道)の宿場の一つ。今も路地に踏み込むと街道の面影を感じ取ることができる。中でも丸八百貨店は昭和8年に建てられたアンティークな木造洋館。国の登録文化財に指定されており、現在はコミュニティカフェとして活用されている。
国道沿いにある道の駅くつき新本陣は、道の駅としてはかなり初期に設置された施設。平日は落ち着いたもので、他の道の駅とあまり変わらないが、日曜には朝市が開かれ、多くの人でにぎわう。地元でとれた野菜や栃餅などもあるが、特に目を引くのは鯖の「へしこ」。発酵保存食品の一つだが、お酒を飲む人にはいいつまみになるらしい(私は下戸なのでよくわからない)。道の駅などで交わす地元の人たちとの会話も楽しいものだ。マイカー利用であれば、なおのことだが、公共交通機関利用の場合も、安曇川駅発の朽木学校行(約28分・終点下車)に乗れば、登山口に行くまでの途中にあるのでぜひ立ち寄りたい。
蛇谷ヶ峰の登山口は、くつき温泉てんくうのあるグリーンパーク想い出の森か、東の谷を挟んだ、いきものふれあいの里の跡地となる。ふれあいの里からは、カツラ谷コースというカツラの巨木などを楽しめるコースがあったが、道が崩れて、現在は通行止め。ふれあいの里からのもう一つのコースは尾根道となり、すぐに想い出の森からのコースと合流するので、その意味では、想い出の森からのコースに絞って登ってもいいだろう。ちなみに、江若バス利用の場合、オトクなくつき温泉入浴券と乗車券がセットになったチケットが売られている。その場合は、道の駅から、温泉行の無料シャトルバスが利用できる。
外部リンク:蛇谷ヶ峰温泉セット乗車券
グリーンパーク想い出の森には駐車場や綺麗なトイレもあるので、ここで身支度を整えて出発だ。
しばらく行くと木の階段が出てくる。雨の日などは滑りやすいので気をつけて通行したい。
尾根に取り付き、一度谷を渡って急登を登り返すと、蛇谷ヶ峰へと通じる尾根上に出る。しばらく尾根通しに登っていくが、カツラ谷コースとの合流点まで来ると、いったん平坦になる。左方面より朽木スキー場からの道が合流すると、蛇谷ヶ峰への最後の登りとなる。登り切ると、頂上である。
広く開け芝生の広がる蛇谷ヶ峰頂上からの展望は素晴らしい。足下には所々で岩が露出するリトル比良と、その末端に安曇川が造る平野が広がり、琵琶湖の向こうには伊吹山が特徴ある山容を横たえている。南に高まりを見せるのは、比良最高峰の武奈ヶ岳だ。
下りは、そのまま南へ進み、ボボフダ峠から畑へ至るコースや、西へ進んで安曇川沿いの桑野橋へ下るコースなどがあるが、帰りのアクセスを考えると、来た道をいったん戻り、552mの分岐を左に折れればやがて、いきものふれあいの里跡地を通りてんくう温泉のあるグリーンパークまであと少しだ。
また、蛇谷ヶ峰は、雪山も楽しい。樹林帯なので、軽アイゼンがあれば、初心者でも登れるのでシーズン中は多くの登山者で賑わっている。コースは無雪期と基本的に同じだが、いきものふれあいの里跡地からの方が、谷の通過がないので安心だ。ふれあいの里跡地へは、想い出の森から吊り橋を渡っていくといいだろう。
旧領主・朽木氏の陣屋にちなんだ道の駅。物産の売店には、特産品の栃餅や鯖寿司、地場の野菜などが並んでいる。毎週日曜・祝日に開かれる朝市は人気で、リピーターや多くの観光客で賑わう。
緑豊かな大自然の中に作られた広大な森林公園。渓流魚・山菜・朽木ビーフなどが堪能できるレストランや宿泊ができる山荘がある。また温水プール、星空を眺めながら入れる露天風呂を備えたくつき温泉「てんくう」は、園内から湧出した天然温泉。