行きたい山が見つかる「さがす」タブ|使いこなし方と開発の裏側

「山へ行きたい」と思った時、まず何をしますか? ガイドブックをパラパラ眺める? それともYAMAPを手に地図を眺める? 登る前の「行きたい山をさがす」というところからしっかり登山者をサポートしたいというYAMAPの開発チームの思いが生み出した機能。それが「さがす」タブです。この記事では、そんな「さがす」タブの使い方や開発の裏側、そして2022年5月に予定されている新たなアップデートについて開発チームメンバーに聞きました。

(文=米村 奈穂)

2022.05.02

米村 奈穂

フリーライター

INDEX

「さがす」タブでできること

まずは、「さがす」タブとはなんぞや? という人のために説明しよう。YAMAPアプリを立ち上げると、画面の一番下には、「ホーム」「さがす」「のぼる」「お知らせ」「マイページ」という5つのタブがある。その中のひとつ、2021年9月に追加された「さがす」タブでは、登る山を探したり、山の情報を収集したりすることが可能。「どの山に登るのか」を決めるための機能だ。

2021年9月にリリースされた第1フェーズに続き、今年2022年3月には第2フェーズのアップデートが行われ、登りたい山がより探しやすくなった。最初のリリースを含め、具体的には以下のような改善が行われている。

・「さがす」タブの画面上に全国の山頂名がマッピングされた
・山頂名から山や地図を検索できるようになった
・山頂のピンをタップすると、山や地図の詳細な情報が得られるようになった

それぞれの利点をもう少し説明しよう。

「さがす」タブの画面上に全国の山頂名がマッピングされた

登山道に接する山頂は緑色のアイコンで、登山道に接しない山頂はグレーで表示

これまで、それぞれの山はYAMAPが独自に区切った山域ごとに地図上にまとめられていた。よって、地図名に山の名前が含まれるような有名な山でなければ、逐一地図をプレビューするかダウンロードしてみないと、探している山が含まれているのかが分からなかった。

「さがす」タブが追加され、このタブ上にすべての山頂名が表示されることにより、どこにどのような山があるのかが調べやすくなった。つまり、「地図」からだけではなく、「山」からも探せるようになったのが大きな改善点と言える。

山頂名から山や地図を検索できるようになった

「高岳」「中岳」といった全国に多数点在する名称の山であっても、所在地や標高から識別できるため、目的の山や地図に素早くたどり着ける

この「さがす」タブは、山の名前での検索も可能。行きたい山の名前を検索すると、候補となる山がリストアップされ、山頂名に加えて検索結果の一覧上に所在県、標高、そして現在地からの距離も表示される。同じ名前の山が並んでいたとしても、自分の登りたい山をそれらの情報からすぐに見つけ出すことができる。

山頂のピンをタップすると、山や地図の詳細な情報が得られるようになった

地図上の山頂のアイコン​​をタップすると、山頂の詳細な情報を確認することができる。上記の通り山の所在都道府県、標高、現在地からの距離などの基本情報はもとより、直近1か月間の累計登頂数も表示されるため、人気の山が分かる。初心者にとっては、人の多い山を選べる安心感もある。

さらに、その山を含む地図の詳細情報や地図のプレビューへとスムーズに動線が引かれ、情報をより深く確認することも可能だ。

登りたい山を探したり、情報収集したりと、登る前に使うのが「さがす」タブ。続いて、登山計画を立て、実際に登る際に使うのが「のぼる」タブだ。これらを一気通貫で使いこなすことで、登山体験はより充実したものになりそうだ。

「さがす」タブ 開発への道のり

プロダクトマネージャーの中島仁史さん。ウェブサイトやアプリの改善に取り組む方針や順番を固め、エンジニアの交通整理を担う

「さがす」タブが生まれた背景には、自身もYAMAPの地図を探す機能に使いづらさを感じていたという開発チームメンバーの原体験があった。開発に携わった、プロダクトマネージャーの中島仁史さんと、デザイナーの樋爪大輔さんにその道のりを聞いた。

中島さんはこの機能をつくることになったきっかけを次のように語る。

中島:「入社する前にYAMAPを使っていたんですけど、登ってみたいと思う山をなかなか見つけられなかったんです。以前のYAMAPは、地図が山域の単位で出てくるだけで、どの地図にどんな山があるのかが分かりづらく、結局、別のサイトやブログを読んで行きたい山を決めていました。

昔からのユーザーさんは、自分が行きたい山の情報をすでにご存じの方も多く、YAMAPを“のぼる山を探すツール”としてではなく、主に“活動中のナビをしてくれるツール”として使っていたと思います。しかし、今はYAMAPのダウンロードがきっかけで登山を始める人も増えています。そんな人たちに、『まずは本やネットで行きたい山を探してください』とは言えないですよね。

アプリを開いてすぐに、自宅の近くにいい山がありそうだなとか、標高もそんなに高くないしパッと登れそうだなとか。そういう価値を提供できないとダウンロードしたきりで、アプリを使って実際に登山を楽しむところまで行き着けない。YAMAPが初心者には難しいのではという仮説をずっと持っていて、その課題を解決したいという思いが前々からありました。

1年ほど前にユーザーさんに『次に登る山を決める時にYAMAPは役立っていますか?』、『行く山が見つかった後、その山の情報を調べるのにYAMAPは役立っていますか?』というふたつの質問を投げかけてみました。すると、登りたい山が決まった後にYAMAPで情報収集することには概ね満足されているのですが、『YAMAPを使って行きたい山をなかなか探せていない』という課題が見えてきたんです。

アプリ自体に、山を探したい人の課題を解決できる仕組みが備わっていなかったんですね。本やネットの情報を見ずとも、YAMAPのアプリひとつあれば、登りたい山を探せるようにしようと取り組んだのが、『さがす』タブの設置です」

「のぼる」と「さがす」を分ける

デザイナーの樋爪大輔さん(右)。デザインシステムだけでなく、プロダクトのデザインも担う。常に、「いかに初心者に優しいサービスにできるのか?」を考えデザインする

デザイナーの樋爪さんも、YAMAPでの山の探しにくさを感じていたひとりだ。

樋爪:「以前は、YAMAPで地図が見られると思ってインストールしたとしても、アプリにはホーム、のぼる、お知らせ、マイページという4つのタブがあるだけで、どこにも地図とは書いてない状態でした。何も案内がない中で『のぼる』タブまでいって、地図をダウンロードしなくちゃいけない。この状態のままでは、特に初心者のユーザーさんは使い方が分からないはずだと」

そこで、「探しやすいとはどういうことか」から仮説を立て、ユーザーが山に出合えることを最終到達点としてフェーズを3つに分け、段階的に取り組むことにしたのだ。

フェーズ1(2021年9月):ユーザーの行動を「探す」と「登る」に明確に分けるために、「のぼる」タブから山を探すための機能を分離し、「さがす」タブをつくる
   ▼
フェーズ2(2022年3月):「さがす」タブの画面上に山頂を表示し、山の検索と情報収集ができるようにする
   ▼
フェーズ3(2022年5月・予定):目当ての山が決まっていなくても、行きたい山が見つかるような仕組みにする

デザイナーの樋爪さんが画面デザインのプロトタイプを次々とつくり、それをチームで検証、修正、変更するということを繰り返す。最終目標はその人にマッチした山に出合えるアプリだ。

フェーズ2までは完成し、現在は目下フェーズ3の開発に取り組んでいるところだそう。

樋爪:「登るときは『のぼる』タブ、探すときは『さがす』タブと、ユーザーさんの行動パターンに合うようアプリ設計の土台を変えました。

まずは『さがす』タブをつくることで、探すことに集中できるようになります。そして、『さがす』タブには全山頂を表示し、すぐに山と出合えるようにしました。また、山頂のピンをタップして『地図の情報』を押しスクロールしていくと、その山の情報や活動日記が見られます。その背景には、ユーザーさんからいただいた情報をみなさんに還元して楽しんでもらおうという、まさにYAMAPの共助の文化が生きています」

中島:「結果、『さがす』タブへの移行はユーザーさんにすんなり受け入れてもらえました。ユーザーさんの中には大きな変更を好まれない方もいらっしゃって、機能を変更する際は苦言をいただくことも多々あります。今回は、違和感なくユーザー体験を一新できた好事例でしょう」

樋爪:「表層上のデザインを変えるだけならさほど難しくはありません。そうではなく、ユーザーさんの行動に寄り添って、目的を達成するための補助をしてあげられるデザインになるよう、日頃から心がけてはいますね。

YAMAPのようなツールは、ユーザーの方が違和感を覚えて立ち止まってしまうことが課題になります。アンケート結果などから様々な課題を分析し、そこを滑らかにしていくことが我々の仕事です。今回、ユーザーさんからの反応がないのは、ある意味成功かなと思います」

確かに、どこが変わったんだろう?と思うくらい、「さがす」タブはまるで前からあったかのように戸惑うことなく使える。

中島:「変更後に地図をプレビューする人の割合は増えています。今までより地図を探すという行為をしてくれている結果でしょう」

オススメの山を探せるように

フェーズ2が完了した段階では、山の名前がすでに頭にあって能動的に動ける人が探しやすいという状態。5月以降のアップデートでは、山の名前がわからないような初心者でも、おすすめの山を探せるようになる予定だそう。さらに、絶景が見られる山、短時間で登れる山、電車・バスで行ける山など、多くのユーザーが好む山の特徴で探せるようになることを目指すという。

中島:「まずは、初心者にオススメの山を表示できるようにしたいと考えています。YAMAPには山ごとにモデルコースがあるんですが、客観的な指標に基づく5段階の体力度がコースごとに設定されています。そのデータをもとにして、初心者向けの山をリストアップできるような機能を検討しています。

現在地近くの人気の山を検索できるようにもしたいと思っています。人気って言っても、どうせすぐにみなさんが思い浮かべるようないつもの山になるんでしょと言われたりするんですが、蓋を開けてみると実際は違ったりすることもあるんです。YAMAPのデータにより、本当の人気の山が白日のもとにさらされるんじゃないかなって思ってます(笑)」

樋爪:「山頂をタップすると山の情報を詳しく見られるという土台はできたので、これからはユーザーさんが求めている内容をチューニングしてどんどん拡張していきたいです。いろいろな可能性があると思います。ユーザーさんにいただいたデータをもとに、ユーザーさんに還元するということをYAMAPで表現していきたいですね」

山が好きな人に育てられた機能

ふたりに話を聞いていると、早くYAMAPを使って山に入ってみたくなる。最後にユーザーさんに伝えたいことを聞いてみた。

中島:「当初YAMAPは、山好きなユーザーさんが熱心に使ってくださることによって成長してきた部分があると思うんです。それを1段階越えないといけないと思っています。これから山を好きになっていく方にも使ってもらうことを目指していかないといけない。『さがす』タブで、直感的に、自然な流れで山が見つけられるような、本当に登りたい山と出合えるサービスにしていきたいと思います」

樋爪:「YAMAPはあくまでもサポートという存在。人と山とのつながりや、登山者同士のつながりをサポートする存在でありたいと思っているので、そこを意識して開発を進めていけたらと思っています」

山が好きな人に育ててもらい成熟してきた機能を、次に続く登山者のために生かしていく。これまでも先人から得た知識を次に伝えてきた登山文化の、YAMAPなりの新しいスタイルかもしれない。YAMAPの機能を使いこなすことができれば、その先には、まだ見ぬ山との出合いが待っている。


今後のアップデート内容は?

「さがす」タブは2022年5月にさらにアップデートし、以下の5つの特徴から登ってみたい山が探せるようになる予定です。

・人気の山
・絶景が見られる山
・初心者向けの山
・短時間で登れる山
・電車・バスで行ける山

より一層、みなさんと山の出合いが広がるきっかけにしていただければと思います。
アップデート情報を、ぜひお楽しみに。

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。