霊峰白山の水辺に棲まう龍神|山の怪獣プロジェクト

怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。第三弾は日本三霊山である白山を源流とする九頭竜川が絡むとのこと。シルエットはかなり「正統派」のような気もしますが、果たしてどんな怪獣が出現するのでしょうか...!?

山の怪獣を本気でつくりたい #04連載一覧はこちら

2020.12.01

ガイガン山崎

怪獣博士

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怪獣≒着ぐるみ?

近年、にわかに盛り上がりを見せている怪獣界隈。きっかけは言うまでもなく、怪獣軍団の侵攻と巨大ロボットの活躍を描いたハリウッド映画『パシフィック・リム』の公開、そして『シン・ゴジラ』の記録的大ヒットにある。その影響力は絶大で、漫画やゲーム、アニメの世界にも頻繁に怪獣が出現するようになった。本企画の成立もまた、こういった流れと無縁ではないだろう。ともあれ様々な媒体を通して、多くの新怪獣が拝める状況は非常に喜ばしい。しかし、本家本元である怪獣映画と変身ヒーロー番組を除くと、いまいち怪獣らしくない怪獣ばかり作られている印象だ。まあ、怪獣らしいことと魅力的なキャラクターであることは、必ずしもイコールでは結べないものの、敢えて怪獣を謳うのであれば、怪獣らしいに越したことはない。

▲双面怪獣バズラコング準備稿1

では、どうすれば怪獣らしい怪獣になるのか? てっとり早い方法は、着ぐるみを意識することだ。前述の『パシフィック・リム』に登場する巨大モンスターは、劇中でも「KAIJU」と呼ばれており、そのデザインの際には男性が中に入って動かせる形状であることが意識された。海外の特撮映画では、古くはストップモーション・アニメ(金属骨格を仕込んだゴム製の人形を、1コマ毎に少しずつポーズを変えながら撮影していき、あたかも動いてるかのように連続再生するテクニックのこと。いわゆるコマ撮りアニメ)、現在ではCGIを用いてモンスターを表現することが多い。着ぐるみ怪獣とは異なり、これらは人間のシルエットに縛られることがないため、いくらでも奇想天外なデザインにすることができるし、逆に極めてリアルな肉体構造を追求することもできる手法である。裏を返せば、“中の人”を前提としたデザイン上の縛りを設けることで、如何にも日本の怪獣らしくできるというわけだ。

▲双面怪獣バズラコング準備稿2

もちろん、先人は人間が透けて見えないデザインと造形の開発に余念がなかった。着ぐるみ怪獣ではなく、ワイヤーでミニチュアを吊り上げる操演怪獣というものも存在する。だから着ぐるみを意識するというやり方は、あくまでも方法論のひとつに過ぎない。ただ、漠然とイメージを叩きつけるよりは、ずっと怪獣らしい怪獣を生み出せるようになるはずだ。前回のバズラコングも、デザインが進むにつれ、どんなふうに人間が入るのか、どこから覗いているのかといった要素が入ってきてフィックスと相成った。なかなかアイデアがまとまらず、デザイン担当の入山くんも苦労していたように思う。一方、今回の怪獣は安産だった。あっけなく感じるくらいスッと決まった。その名も……。

白山の龍神、原始魚竜フィンドラス!

白山一帯の河川や湖で暮らす白銀の夫婦怪獣。メスの個体は、フィンドーラと呼ばれる。こちらは産卵の際に陸地に上がるため、フィンドラスと比べるとエラやヒレ、尻尾などが発達していない。なお、上陸は湿度の高い日に限られていて、地元の人間や一部登山家からは“雨の化身”として恐れられている。

かつてはアジア全域で繁栄しており、険しい滝を登りきった鯉は龍になるという中国の故事の原型になったと考える専門家も少なくない。また、白山の水源と日本海を繋ぐ九頭竜川には、一身九頭の龍の伝説があるが、やはりフィンドラスやフィンドーラの背びれを顔と誤認したことに端を発するものではないかとの説がある。

全身から強力な毒を分泌するほか、吸い込んだ水を加圧して吐き出すウォータージェット攻撃を得意とする。ただし、後者は体内の水分も大幅に消耗してしまうため、滅多なことでは使用しない。この最後の大技を発射するとき、浸透圧の作用で折りたたまれていた背びれが、尾から頭部に向けて立ち上がっていくという。

基本的には穏やかな怪獣として知られ、攻撃の意思がなければ毒を出すこともなく、たとえ手で触れても問題はない。しかし、十数年おきに訪れる繁殖期には気性が荒くなり、自分たちに近づくありとあらゆるものに襲いかかる。金色に輝くフィンドラスとフィンドーラを見かけたときは、何をおいても下山を優先すべきだ。

クリエイターズ・コメント

▲白山の風景

「ヤマップさんより白山には九頭竜川の水源があるとの話をうかがったので、ストレートに龍っぽい魚の怪獣にしようかなと。また、九頭竜川の流れる福井県といえば、恐竜王国として有名ですから、恐竜魚の異名を持つポリプテルスをモチーフのひとつに選びました。最初は緑色にしようと思っていたんですが、『ウルトラマンA』に登場する怪魚超獣ガランと被ってしまうため、まったくイメージしていなかったイエロー系に。フィンドーラのアイデアは、入山から出てきたものということもあり、ほとんど彼にお任せしています。こちらで考えたのはメインカラーくらいですね」(山崎)

▲外洋にて、フィンドーラと回遊するフィンドラス

「福井は鮎が美味しいので、鮎の怪獣にしようと思いました。鮎の上歯は、苔を抉りとるためにクシ状に発達しているんですが、それが伸びたことにすれば、登竜門の故事に合わせるために生やしたヒゲにも理屈がつくんじゃないかなと。とても縄張り意識が強い魚だから、そのテリトリーに入ってきた心あるキャンパーを襲うさまも容易に想像することができます。ただ、追加要素だったポリプテルスみが強くなりすぎて、最終的に鮎っぽさはお腹ぐらいにしか残ってませんね。フィンドーラのシルエットは、バイカルアザラシをヒントにしました」(入山)

次回予告

いかがだったろうか。特撮の神様として有名な円谷英二の故郷に住む怪獣だから、素直に二足歩行のゴジラタイプにしようというところから始まったフィンドラス。メインカラーが金色になったことで、キングギドラっぽさも加味されて、いい感じのオマージュになったかなと思ったところで気が付いた。円谷英二の故郷は福「島」県、九頭竜川が流れているのは福「井」県! 山に登らないどころか、地理の成績も怪しかったので、稀にこういうことが起きるのです……。ただまあ、こんな理由でもない限り、王道のゴジラタイプを考えることはなかった気がするので結果オーライ。
さて、次回は関東の高尾山を取り上げたいと思う。こんなインドアな自分でも何度か登ったことのあるポピュラーな山だ。果たしてどんな怪獣が潜んでいるのか?

▲ゴジラタイプの次は、ヒューマノイドタイプの宇宙人!

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※表紙の画像背景はちゅきさんの活動日記より

ガイガン山崎

怪獣博士

ガイガン山崎

怪獣博士

1984年東京都生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター、怪獣造形集団「我が家工房」主宰。 最も得意とする特撮ジャンルを中心に、マニア向け雑誌や映像ソフトのブックレットなどのライティングを手掛ける。また、フリーランスの造形マンとして活動する入山和史氏らとともに、オリジナル怪獣の着ぐるみ製作も行っている。