山の怪獣を本気でつくりたいので、怪獣のプロに相談してみた

山の怪獣をつくりたい...。ふとそう思ったYAMAP MAGAZINE編集部のメンバーが、怪獣のプロであるガイガン山崎さんにオファー。快諾をもらい、山の怪獣プロジェクト始動することになりました!怪獣が好き(だった)すべての人に届けたい本気の企画です。今回はそのプロローグとして、ガイガン山崎さんの自己紹介、企画の経緯、プロから見る山の怪獣になどついて書いてもらいます。

山の怪獣を本気でつくりたい #01連載一覧はこちら

2020.10.15

ガイガン山崎

怪獣博士

INDEX

謎の新企画、始動!

「『山の怪獣を本気でつくる』という企画のご相談でご連絡いたしました。ご興味があれば、ぜひ一度お話をさせていただけますと幸いです」
YAMAPのコンテンツディレクター、﨑村昂立さんからのメールにはこう書かれていた。小学生の頃、高尾山に小浅間山、それにド定番の富士山には登ったことがあるけれど、本当にそれっきり。登山どころか、アウトドア全般に縁がないボクにとって、あまりにも意外な方面からのアプローチだった。しかし、「怪獣」絡みの仕事とあらば断る理由はない。ボクは怪獣のプロだからだ。

そろそろ軽い自己紹介が必要かもしれない。名前はガイガン山崎、平たくいえば文筆業……正確には“暴力系エンタメ”専門ライターなる物騒な肩書きで、主に映画雑誌やアニメ雑誌、特撮雑誌などに寄稿して糊口をしのいでいる人間である。

暴力系エンタメとは、劇中で発生したトラブルの一切をカンフー、銃撃、ビームといった暴力的な手段によって解決する作品群を指しており、要するになかなか怪獣だけで食っていくのは難しいので、アクション映画とかロボットアニメとかバトル主体の少年マンガなんかについても書いたり語ったりして暮らしてきたわけだ。変に造語なんか使わずに説明すると、おたく系よろずライターといったところだろうか。

まあ、この手の物書きは星の数とまではいわないが、それなりに存在する。さっき糊口をしのいでいると書いたように、マジでライター業は薄利多売の典型なので、いろいろと手広くやっていかないと生きていけないものなのだ。会社員をやりながら、その空いた時間に原稿を書いている兼業ライターも少なくない。

しかし、オリジナル怪獣の着ぐるみやソフトビニール人形を制作する造形工房を主宰するライターというのはボクくらいのものだと思う。怪獣の着ぐるみなんか作ってどうするのかといえば、ただ自分たちで着たり飾ったりして悦に入るのがメインなんだが、たまにお店やイベントの宣伝のためにサンドイッチマンめいたことをしたり、アーティストのミュージックビデオに出演したりすることもある。一応、これでお賃金をいただいているので、まさに我々は怪獣のプロ、あるいはプロの怪獣といえよう。山の怪獣? どんどんつくってやろうじゃないの!

▲筆者が主宰する「我が家工房」のオリジナル怪獣たち(写真/安田和弘)

かいじゅうたちのいるところ

いよいよ本題に入る。まず「山の怪獣」とは、つまりどういったモノなのか。ボクみたいな怪獣ファンだと、ブラッド・ピッドが生まれて初めて観たフェイバリットムービーとして知られる『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』に登場する自衛官の「以後、山の怪獣をサンダ。海の怪獣をガイラと呼称する」というセリフが思い浮かぶ。誰からの愛情も受けることなく深海で生きてきた凶暴なガイラと、人間に育てられて温和な性格を手に入れるに至ったサンダという兄弟怪獣の物語だ。善玉のサンダは、日本アルプス山中を棲家としていた。

▲北アルプスの風景

怪獣の出身地というと、南海の孤島であったり、はるかな地底や海の底、あるいは宇宙であったり、はたまた異次元であったり、いわゆる人跡未踏の世界をイメージする方が多いかもしれない。しかし実際には、意外と身近な山に潜んでいるサンダのようなケースもままあるのだ。昭和のウルトラマンシリーズに限っていえば、何故か箱根山中に出現した怪獣がけっこういたりする。活火山のマグマだまりとか芦ノ湖とか、大きな身体を隠すのにちょうどいい場所が多いからだろうか。

ウルトラマンシリーズといえば、特に1971年に放映された『帰ってきたウルトラマン』には、山絡みの怪獣やエピソードが数多く存在する。なんせ主人公の郷秀樹隊員は、登山中の遭難事故で実の父親を亡くしているくらいだ。10日間に及ぶ捜索活動が打ち切られたとき、郷の父はすぐ近くで身動きがとれないまま救助隊を待っていた。あと100メートル先まで探していてくれたら、きっと父は助かったに違いない。そんな苦い思い出を持つ郷は、“魔の山”と呼ばれる霧吹山で消息を絶った隊長を助けるために奔走する。第3話「恐怖の怪獣魔境」は、そんな物語だった。

おそらく架空の山であろう霧吹山は、原因不明の転落事故で死者が続出しているにも関わらず、冒険を求める若者たちの挑戦が後を絶たないという設定だ。また、昔から人食い龍が棲んでいるという伝説もあった。そう、霧吹山はサドラとデットンなる凶暴な怪獣たちの縄張りだったのである。

▲霧吹山に巣食う岩石怪獣サドラと地底怪獣デットン(※写真はテレスドン/左)

ほかにも『帰ってきたウルトラマン』には、箱根山中から原子力発電所を目指して暴れまわった古代怪獣キングザウルス三世、白神山のバイパス開通に伴い凶暴化した音波怪獣シュガロン、竜神岳の地底に眠っていた変幻怪獣キングマイマイ、富士山の笠雲の中に潜んで事故を頻発させた蜃気楼怪獣パラゴンなどがいる。

えー、今回の原稿を書くまで調べたことすらなかったんだけど、白神山や竜神岳って実在するんですね。これ、登山好きの目線では「えっ、あんなところに怪獣が!?」なのか、「あそこだったらいてもおかしくないな」なのかが気になるところ。たまたま名前が被っただけという可能性が高いけれど……。

山そのものが怪獣!?

さて、山に棲む怪獣だけでなく、山のような怪獣もまた「山の怪獣」といえるはず。船乗りが島だと思って上陸したら、なんとそれは巨大な怪物の背中だった!『千夜一夜物語』や『フィシオロゴス』といった古典文学にも多く見受けられる展開だが、その山バージョンである。で、この手の怪獣が数多く登場するのが、1985年に放映されていた特撮ヒーロー番組『巨獣特捜ジャスピオン』だ。

たとえば、巨獣イワゴリーラ。剣岳のささやき岩は、人が近づくとささやき声が聞こえるという観光名所だったが、その付近で行方不明者が続出する。どこかに巨獣(この番組における巨大モンスターの総称)が潜んでいるに違いない。そう睨んだジャスピオンは、剣岳の地底探査を始めるのだが、ささやき岩それ自体がイワゴリーラであったことはいうまでもない。ほかにも全銀河の支配を目論むサタンゴースを倒す手がかりを求めて、剣岳(また!?)にやってきたジャスピオンが降り立った森は、巨獣ポートサンキの頭だったという話もあった。さらに岩山に擬態するアクアロッキーという巨獣も複数回登場している。

▲地獄谷のハイキングコースを根城にしていた透明怪獣ゴルバゴス

自然環境に擬態する怪獣というアイデアは、クリエイターにとって非常に魅力的なものに違いない。もちろん、先の『帰ってきたウルトラマン』にもこの手合いが登場する。カメレオンのような保護色によって、周囲の景色と同化できるゴルバゴスだ。昼間は岸壁などに化けてじっとしているが、夜になると大暴れする夜行性の怪獣で、その特性ゆえに存在を察知されることなく生きてきた。しかし、子供の撮った記念写真に偶然写ってしまい、さらに登山客の描いたスケッチと実際の景色の差異からも怪しまれて、最後はカラー塗料を吹き付けられて正体を現してしまう。

新怪獣ヤマップゴン(仮)

ざっとこんなものだろうか。「山の怪獣」と一口に言っても、いろんなパターンがあることが分かってもらえたかと思う。如何にも山に棲んでいそうな怪獣、地元の伝説として語り継がれている怪獣、山の一部あるいは山そのものという怪獣……この連載では、ボクが主催する工房の造形主任である入山くんとともに、様々な「山の怪獣」を提案していきたい。何卒お付き合いのほど、よろしくお願いします。

▲YAMAP MAGAZINE編集部との打ち合わせ前に。叩き台として描いたヤマップゴン(仮)

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ガイガン山崎

怪獣博士

ガイガン山崎

怪獣博士

1984年東京都生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター、怪獣造形集団「我が家工房」主宰。 最も得意とする特撮ジャンルを中心に、マニア向け雑誌や映像ソフトのブックレットなどのライティングを手掛ける。また、フリーランスの造形マンとして活動する入山和史氏らとともに、オリジナル怪獣の着ぐるみ製作も行っている。