大雪山・旭岳に君臨する雪の巨獣|山の怪獣プロジェクト

怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。今回からは「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。第一弾は北海道の旭岳にいるという(設定の)怪獣。果たしてどんな怪獣が出現するのでしょうか...!?

山の怪獣を本気でつくりたい #02連載一覧はこちら

2020.10.29

ガイガン山崎

怪獣博士

INDEX

とりあえずつくってはみたけれど……

そんなこんなで、オリジナルの山怪獣を作ることと相成った。ただ、ボクが登山に関してまったくの素人なように、登山のプロフェッショナルであるYAMAP MAGAZINE編集部の皆さんも怪獣についてはあまり明るくないに違いない。もちろん、怪獣大国ニッポンで暮らす男子であれば、誰しも特撮ヒーロー番組や怪獣映画は通ってきているはずだし、ましてやこんな企画を出してくるくらいだ。まったく知らないということはないだろう。しかし、これこれこういう怪獣を描いてください! なんて具体的な指示が、いきなり飛んでくるとも思えない。やっぱり最初の打ち合わせに備えて、何某かの叩き台は用意しておくべきだ。そんな考えもあって、我が家工房にて造形主任を務める入山くんに描いてもらったのがこれ。

▲山好き怪獣ヤマップゴン(仮)

テキトーなネーミングはスルーしていただきたい。あぁ、あれが元ネタねと分かった怪獣ファンも、全然似てないじゃんとかケチをつけてこないように。
さて、前回も書いたように、山の一部に擬態する怪獣は少なくない。ヤマップゴン(仮)は、そのパターンで描いてみたもの。ツノやトゲが樹木に、ゴツゴツした体表が岩山に見えるというわけだ。ちなみに全体的なフォルムは、今回の依頼をくださったヤマップの﨑村さんが、子供の頃に好きだったというスペースゴジラを意識している。

当初は、このヤマップゴン(仮)をブラッシュアップしていき、究極の山怪獣を誕生させる腹づもりだったが、実際に話を聞いてみると山にもいろいろあることが分かってきた。怪獣のモチーフとしては、非常に優秀だ。また、同じようにヤマップの方々にもいろんなタイプの怪獣がいることが伝わり、それなら1匹といわず、2匹、3匹、いやさ10匹くらいつくりましょう! ということになった。さらば、ヤマップゴン(仮)。お前のことは一旦忘れて、また一から考えていったほうが面白そうだ。

そこで早速、ヤマップ編集部に日本各地のポピュラーな山々をピックアップしてもらい、それらにまつわる伝説や地形的特徴などについてレクチャーを受けた。日本の名山、それぞれに相応しい怪獣たちを考えるために。さぁ、ここからは我々の仕事である。山の怪獣第1号、その名は……。

大雪山のヌシ、凍結怪獣アイスホーン!

古くから大雪山を根城としている大怪獣。特に旭岳における目撃例が多く、最古の記録は江戸時代まで遡ることができる。現地の人間からは「マタポロカムイ」と呼ばれ、これは“冬の大きな神”を意味しているという。
恒温動物は、同じ種や近縁種でも寒冷地に棲むものほど大型化するという「ベルクマンの法則」の例に漏れず、本州に出現する怪獣よりも遥かに巨大な体躯を誇る。また、最大の特徴である氷のツノは、体内に蓄えられたエネルギー量に比例してサイズが変わることが報告されており、夏の間はほとんど見えなくなってしまう。

口から吐き出す冷凍光線の中心点は、一説では絶対零度にも達するといわれ、厳密なメカニズムこそ解明されていないものの、着弾点で反重力現象を発生させる。このとき、身軽になった身体で大きく跳び上がり、さらに飛膜を使って長時間滑空することも可能。その気になれば、ほんの数時間で北の大地すべてを凍てつかせ、氷河期の時代へと逆戻りさせることも容易だろう。
しかし滅多なことでもない限り、人間に危害を加えることはおろか、人里に降りてくることもないのでご安心を。運悪く登山中に遭遇した際は、なるべく刺激しないよう、その場を速やかに立ち去ることをお勧めする。

クリエイターズ・コメント

▲冬の旭岳の風景(ほんちゃんさんの活動日記)より

「各地方の代表的な山を挙げてもらった際、一番やりやすそうだと思ったのが、山岳信仰のメッカとされる石鎚山でした。で、こちらが伝奇的な要素を含む怪獣になることは間違いなかったので、その対抗馬として、ストレートに山の特徴を盛り込めそうな北海道の旭岳に目をつけました。雪山に棲む、真っ白な怪獣がやりたかった。雪の怪獣といえば、『ウルトラマン』の伝説怪獣ウーや『帰ってきたウルトラマン』の雪女怪獣スノーゴンあたりが有名なのですが、デザイン担当の入山には『恐竜大戦争アイゼンボーグ』に登場するドドラの戦闘的なスタイルを参考にするよう指示しました。かなりマイナーな怪獣なので、おそらくウェブ検索をかけても、ほとんど写真は出てこないでしょう。しかし、真っ白な剛毛と巨大なツノやキバという組み合わせが、この新たな怪獣をより魅力的な存在にしてくれると思ったのです」(山崎)

▲アイスホーン頭部デザイン

「旭岳を含む大雪山は、アイヌ民族から“神々の遊ぶ庭”の意味を持つ『カムイミンタラ』と呼ばれているとのことだったので、彼らの間で神の化身とされるヒグマをモチーフにすることが最初に決まりました。もっともモチーフをひとつに絞ってしまうと、日本の怪獣らしくなくなってしまうので、そこにエゾジカやエゾモモンガなど、北海道固有の動物たちの特徴も掛け合わせています。季節によってツノの大きさが変わるという設定も、春先に外れ落ちて生え変わるというエゾジカのツノをヒントにしました。『強殖装甲ガイバー』という漫画に出てくるモンスター、エンザイムからの影響も大きいですね」(入山)

次回予告

いかがだったろうか。怪獣というと、ゴジラのような恐竜タイプが主流だが、こういった哺乳類タイプのほうが個性的なものになりやすい。実際に着ぐるみでつくるとなると、透明なツノや植毛が大変そうだけど……。
さて。次回は、最初に注目した四国の石鎚山に棲む怪獣でいきたい。役小角や空海も修行したとされる聖なる山に、果たしてどんな怪獣が眠っているのか? 乞うご期待!

▲石鎚山の怪獣は、まさかの2体……!?

関連記事:山の怪獣を本気でつくりたいので、怪獣のプロに相談してみた
関連記事:石鎚山に封印されていた鬼怪獣|山の怪獣プロジェクト

※表紙の画像背景は岳るさんの活動日記より

ガイガン山崎

怪獣博士

ガイガン山崎

怪獣博士

1984年東京都生まれ。“暴力系エンタメ”専門ライター、怪獣造形集団「我が家工房」主宰。 最も得意とする特撮ジャンルを中心に、マニア向け雑誌や映像ソフトのブックレットなどのライティングを手掛ける。また、フリーランスの造形マンとして活動する入山和史氏らとともに、オリジナル怪獣の着ぐるみ製作も行っている。