登山アプリYAMAPの有料会員「YAMAPプレミアム」に新しい機能、【歩行ペース表示】が加わりました。歩行ペース表示機能とは、その名の通り、歩行中のペースをお知らせすることでオーバーペースを防ぎ、適切なペース配分での山歩きをサポートするというもの。この記事では、山はのんびり歩く派のYAMAPスタッフが、ペース配分の大切さ、歩行ペース表示機能の使い方を紹介します。
2020.12.17
斎藤 大助
YAMAPスタッフ/データ分析エンジニア
スタートからゴールまで自分の体力に合ったペースで歩き続けることは、安全な登山の第一歩です。けれど、一定のペースで歩くことって、意外と難しいですよね。
例えばこんな経験はありませんか?
・はじめての登山、新しい登山靴。ワクワクする気持ちを抑えきれずに思わず駆け登りたくなる
・ガツガツ登って、次々追い抜いて、息が切れて一休み。またガツガツ登って一休み、もう一休み。あれ、さっき追い抜いた人に今度は追い越されてしまった…
・ソロ登山、気ままに自分のペースでのんびり歩くはずが、気がつくといつのまにか早足になっていて、山頂につくころにはちょっとバテ気味
・みんなに追いつかないと迷惑をかけてしまう、ちょっと苦しいけどがんばって歩かないと。けど、息が上がってしまって足がフラフラ
歩くペースが大事とはいっても、ペース配分がうまくいかないと具体的にどのようなリスクが生じるのでしょうか?
転倒・転落・滑落
登山事故の第一の原因は下山時の転倒・転落・滑落による怪我です。上りで必要以上に体力を消耗すると、いざ下山の時に足がガクガクしたり、膝が笑ったりしませんか。最悪の場合は足が痙攣して歩けなくなることもあります。下山時に余力が残っていないと、足を滑らせる・浮石を踏む・木の根っこにひっかかるなどのちょっとした危険にうまく対処できず、転倒・怪我のリスクが高まります。
道迷い
また、下山時の道迷いも登山事故・遭難の主要な原因です。下山時に体力の余裕がないと、足元ばかり見て歩く、地図を確認したり周囲を見わたす余裕がない、などの要因から道を外れてもすぐに気付きにくくなります。もし道間違いに気付いたら来た道を戻るのが鉄則ですが、体力を消耗していると登り返す気力もなくなり、強引に降りればなんとかなるだろうという甘い判断をしてしまいがちです。無理に下ろうとした結果、沢に入り込んで遭難という事例も多数あります。
登山中の遭難を未然に防ぐ!【ルート外れ警告】で道迷いをいち早く検知
心臓疾患
近年、心臓疾患による事故が増大しているという報告があります。特徴的なのは、男性に多い、登山開始から3時間以内の上りで多発するなどの点です。睡眠不足や朝食・水分の不足など登山特有のストレス要因に加えて、登山開始からハイペースで登ることで心臓に大きな負担がかかると、心筋梗塞による突然死のリスクが高まります。
熱中症
夏場にハイペースで飛ばし過ぎると、熱中症のリスクが増大することも要注意です。早く登るほど体熱の発生量は増大します。最も重度の熱射病になると、脳の体温調節機能が働かなり生命にかかわる危険があります。熱中症の発生を防ぐにはゆっくり歩くこと、定期的に休むこと、こまめな水分補給が重要です。
登山はカメ型のスポーツ
登山の歩行ペースは平地の半分くらいがちょうどよいとされています。平地と同じようなペースで山道を登るのは速すぎるのです。実際、登山はジョギングに匹敵する運動と考えられます。垂直方向の移動は思った以上に大きなエネルギーを消費するからです。
ゆっくりのすすめ
山歩きに慣れていない人は、上りの区間を平地と同じペースで歩こうとします。しかし、最初は元気でも上りが続くとやがてキツくなってきて足を止めてしまいます。歩いて止まってを繰り返すうちに、だんだんと足が動かなくなりついにバテて動けなることもあります。このような歩き方をして体力を使い果たしてしまうと、下山時における登山事故のリスクが高まります。まずはあせらずゆっくり歩いてみませんか?
最初が肝心
まず意識したいのが最初の上りです。アプローチの車道など平坦な部分は速くてもいいのですが、上りが始まったらあえてブレーキをかけてみましょう。とにかく最初はゆっくりのんびり、周りの景色を眺めながら、仲間と一緒なら軽くおしゃべりしながら、身体が慣れてくるまで一定ペースで歩くよう心がけます。
最初は30分、ゆっくり止まらずに歩いてみましょう。5分休憩したら次は50分くらいゆっくり止まらずに歩いてみます。止まらず歩き続けること、そして休憩を長く取りすぎないことも重要です。もし少し上っただけで足が動かなくなったり、何度も休憩をとりたくなるようなら、それはペースが速すぎる証拠です。
ゆっくり歩くのが大事といっても、自分が最適なペースで歩いているのか、感覚だけではなかなかわからないですよね。YAMAPプレミアムの新機能、「歩行ペース表示」は登山中にあなたのペースが最適かどうか、1kmごとに判定してくれます。
最適なペースは人それぞれですが、主観的にはきつさを感じるちょっと手前、楽に登れるぎりぎりがよいとされています。といっても登山を始めたばかりだと自分の最適ペースを掴むのは簡単ではありません。歩行ペース表示機能を上手に使って、自分の最適ペースを把握しましょう。上りの続く道で、きつさを感じることなく楽に登れた時の歩行ペースがあなたの最適ペースです。
最初の1kmでペースを掴む
歩行ペースは1kmごとに計算されます。登山を開始して最初の1kmを歩いたら、グラフを見てみましょう。
標準ペースに対して、実際にあなたが歩いたペースが速いか遅いかがパーセントで表示されます。80%〜120%の範囲に収まっていれば、あなたの歩行ペースは標準の範囲内です。もし120%を超えていたら、あなたの歩行ペースは標準よりちょっと飛ばし過ぎかもしれません。
息があがっていませんか? ちょっと苦しくなっていませんか? 心拍数は大丈夫でしょうか?
もし少しでも苦しいようなら、それは飛ばし過ぎの証拠です。息を整えて、今度は意識してゆっくり登ってみましょう。おしゃべりしたり、周りの景色を見渡したり、地図で現在地を確認したりできるくらいの余裕をもって登りましょう。
長距離縦走はペース配分が鍵
ピークハントや長距離縦走や連泊での縦走では、ペースをうまく配分することが成功の鍵です。歩行ペース表示機能を活用して体力の無駄な消耗を防ぎ、下山まで安全に山行を楽しみましょう。
ペースが上がらないときは?
普段に比べてペースが遅めになる、ペースがなかなか上がらないようなら、それは体調不良のサインです。天候・日没時間・水や行動食などを考慮して早めに引き返す判断をしましょう。もちろん下りもゆっくり歩いてくださいね。
みなさんはコースタイム通りに歩きますか? それともコースタイムより速めに歩きますか? YAMAPの活動日記のデータを見ると、コースタイム通りに歩くよりも、コースタイムよりやや速めに歩くユーザーさんのほうが多いようです。
歩行ペース表示機能の標準値は歩いた区間の地形から計算され、YAMAPのコースタイムと同程度になるように調整されています。ただし、登山道の状態によってはコースタイムよりも長め・短めになることもあります。
普段からコースタイムより速く歩く方の場合、ペース表示は標準を超える値となるでしょう。逆に、普段からゆっくり歩く場合は、ペース表示は標準よりやや遅めとなるでしょう。自分の最適ペースが標準の何パーセントくらいなのかを把握することで、ペース配分を意識して歩く習慣を身に付けましょう。
ペース配分は安全登山の基本です。序盤での飛ばし過ぎは下山時の事故や道迷いなど様々なリスクの原因となります。最初はゆっくり、のんびり登りましょう。YAMAPプレミアムの新機能「歩行ペース表示」を活用して、自分の最適ペースを把握し、安全で快適な登山をお楽しみ下さい。
参考文献:
登山の運動生理学とトレーニング学(2016)山本正嘉著 東京新聞出版局
「歩行ペース表示」はYAMAPプレミアムユーザー限定の機能です。無料ユーザーの方はYAMAPプレミアムへアップグレードすることでご利用が可能です。
「YAMAPプレミアム」を初めて利用する方は1ヶ月間無料でお使いいただくことができますので、ぜひ今回ご紹介した歩行ペース表示機能をはじめ、登る前、登山中、登った後のすべてがより充実する数々の機能を一度お試しください。1ヶ月間フルに使ってみて、不要だと感じた場合は解約できます(1ヶ月以内の解約の場合、費用はいただきません)。
※1ヶ月無料お試しは、「YAMAPプレミアム」を初めてご利用する方が対象です。過去にお試し経験のある方は無料期間は適用されず、料金が発生します。
万が一に備えて加入しておくと安心なのが、遭難救助費用を補償してくれる登山保険。YAMAPグループの「外あそびレジャー保険」は、高額になりがちなレスキュー費用やケガの補償など、登山の万が一に備えられる「登山者のための保険」です。
面倒な手続きも必要なく、スマホだけで簡単に申し込みOK。お支払い確認後すぐに補償がスタートする手軽さも魅力。低山・高山問わず、頻繁に山に行く方にぜひおすすめしたい「登山・アウトドアを楽しむ人のための保険」です。