令和2年に国内57カ所目の国定公園に指定された「中央アルプス国定公園」の麓に広がるまち、駒ヶ根市。山々が美しく色づく秋の木曽駒ヶ岳山麓で、その豊かな自然を活かしたまちおこしのため駒ヶ根観光協会×クラブツーリズム×学研×YAMAPの共同企画となる「火育」をテーマにした親子向けのアウトドア体験ツアーが開催されました。聴き慣れない言葉「火育」とは? 自然観察、野外炊飯、火起こし体験と盛り沢山親子自然ツアーの様子をお届けします!
2021.02.20
矢作 ちはる
ワタリドリ製作所 代表
中央アルプス山麓の美しい自然に囲まれた駒ヶ根キャンプセンターに到着したのは朝9時30分。今回は「火育」をテーマにしたファミリーキャンプに、小学校1年生の息子と参加している。
「火育」とは、火を使った調理や焚火を通して、火の正しい扱い方や危険性、そして何よりその楽しさを学ぶこと。我が家はキャンプ以外では火に触れさせたことがないので、折角のよい機会、プロの力を借りて存分に学んできてもらおうと思う。
今回のキャンプはコテージ泊なので、着替え程度の最小限の荷物で手軽に楽しめるのが魅力だ。
子どもたちの安全を守るために、アウトドアのプロが大勢付き添ってくれるのが心強い。
同行してくださるスタッフの方々の自己紹介が終わると、子どもたちには自然観察が楽しめるグッズが配られた。
サコッシュの中には、鉛筆や定規、ジップロックや虫眼鏡が入っていた。これで木の実を採集したり、花や虫を観察したりできるみたい。さすがプロが監修に入っているだけあって、楽しく学べる仕掛けがいっぱい。受け取って早々に、子どもたちは虫眼鏡で色々なものを観察していた。
本格的な火育の催しは後に取っておき、まずは木曽駒ヶ岳の自然を堪能することからツアーは始まる。一同は木曽駒ヶ岳の入り口である千畳敷カールに向けてバスで出発した。車窓からアルプスの美しい紅葉風景を眺めているうちに、しらび平駅に到着する。そこからは、ロープウェイで山頂付近の千畳敷駅まで一気に登る。
標高2,612mの千畳敷駅は、日本最高地の駅らしい。ロープウェイからは美しい山の紅葉が見える。遠くには富士山の山頂も。あっという間に出発地点が小さくなった。出発駅との高低差は約950m。頂上付近は積雪が残る。
千畳敷駅に到着。目の前に広がる広大な岩山に、遠近感が完全に狂い軽く目眩がする。雄大な自然に、ただただ圧倒された。今回は積雪により、千畳敷登山はなしにして、途中の見晴らしのいい場所までのプチ登山。
高地なので空気が少し薄く、大人たちはぜえぜえと最後尾を這うように登る中、子どもたちは我先にと競うように登っていく。ま、待ってくれ…。我が息子も先頭集団に混じり、もう姿が見えない。
見晴らしのいい場所に到着し、ランチタイム。360度の大パノラマの景色の中いただくお味噌汁とキノコがどっさり入ったおにぎりは最高のご馳走だ。
途中、誰からともなくキラキラ光る花崗岩の観察会が始まる。
下山後はいよいよ今回の目玉である「火育」に関するアクティビティーが本格化していく。まずは薪割りだ。斧などもちろん触らせたことはないので、見ているこちらはヒヤヒヤしていたが、親の心配をよそに子どもたちは次々と薪を割り始めた。
最初は薪の中央に斧を当てるのが難しかったのが、回を重ねるごとに上達して、スパッと上手に割れるようになる。真っ二つに割れたときの爽快感ですっかりハマってしまった子どもたちは、エンドレスループで薪割りを楽しんでいた。
次は食育プログラムのイワナとり。川に放流されたイワナを手掴みするワイルドなスタイルだ。
手掴み体験に続いては、採った魚を自ら捌いていただく体験。スーパーなどで買うお魚だって、元々は生きていたもの。同じ命あるものを普段から食べているはずなのに、たぶん子どもたちにはその認識がない。売っている切り身は食べ物であり、生きていたものとは直接結びつかないからだ。
自分が採った魚を締めていただく、という行為がどういうことなのか。魚の頭を叩いて締め、包丁でお腹を切って腹わたを取り出す一連の作業を、最初は恐々と遠巻きに見ていた息子。
どの子も恐る恐る魚に触っていたが、最後は上手に串刺しにすることができた。
暗くなってきたので、キャンプファイヤーの下準備だ。火がよく燃えるように、まずは小枝集めからスタート。
キャンプファイヤーの準備をしている間にあたりの闇は一段と深くなってきて、イワナが焼けるいい香りが漂い始める。
いつもは魚を好んで食べない息子が、残さず綺麗に完食したのを見て感動! 彼なりに、生き物の命をいただくということがどういうことなのか、体感できたのだと思う。食材はスタッフの方がすべて焼いてくれたので、親も子どもと一緒にゆっくり食事を楽しめたのもとてもよかった。
お腹がいっぱいになったところで、ついにお待ちかねのキャンプファイヤー。着火するとオイルが塗ってあるトーチは一瞬で炎に包まれて、息子はちょっとビビっていた。
チリチリと火の粉を撒き散らしながら、天高くまで勢いよく火柱が噴き上がる様子を、息子は色々な角度から眺めていた。勢いづいた炎は簡単には鎮火しないことを身をもって理解したようだ。
大人たちは火を囲みながら、昼間に見学した蒸留所のウイスキーをちびりちびりといただく。キャンプファイヤーを囲みながらお酒を飲むなんて、何年ぶりだろう。これぞ、最高の贅沢ではあるまいか。
蛍みたいに舞いながら燃え散る火の粉が、真っ暗な夜空に吸い込まれていく様子を、大人も子どもも飽きもせずにずっと眺めていた。火の美しさと恐ろしさを同時に体感できる、とても素晴らしいプログラムだったと思う。
翌朝は7時半頃にキャンプファイヤーをした場所に集まって、スタッフの方が焼いてくれたホットサンドと温かいクラムチャウダーの朝ごはん。
薪割りは気の済むまで延々と割らせてくれたこともあって、どの子も昨日より格段に上達していた。2日目もエンドレスループで薪割り。
たくさん褒めてもらえて嬉しくて仕方がない息子は、軽く40〜50本は割らせてもらったのではないかと。とことん付き合ってくれたスタッフの方に感謝!
今回のキャンプのメインともいえる火起こし体験は、キャンプセンターの徒歩圏内にある、ファイヤーサイド社の敷地内の庭で実施。火起こし体験というと一般的なイメージでは、木の棒と板、弓のような道具を使って発火させる原始的な火起こしを想像される方も多いだろう。しかし、今回の火起こしはもっと実践的だ。マッチやファイヤースターターを使って火種をつくり、その小さな火を調理などに使える大きさまで育てる方法を学ぶ。
いよいよ、子どもたち一人ひとりにマッチ箱が渡され、火起こしがスタート。
マッチを手にした子どもたちは、みんな興味津々。最初は自力で火をつけてみるようにとの指令を受け、思い思いの方法で火を起こそうと奮闘する。
さらにここから、マッチ棒がないときに役立つファイヤースターターという火起こしの道具を使った着火法と、火種として役立つ麻玉作りを教わる。
お手本で見せてくれたスタッフの方が、一発で着火させるという華麗なる火起こしを披露し、子どもたちの闘争心に火がついたようだ。しかし、ファイヤースターターでの着火は少しコツがいる。子どもたちは30分以上に渡り奮闘するもなかなかうまくできず、途中でスタッフの方に助け舟を出してもらいながら、なんとか全員、着火させることができた。
子どもたちが火起こしに奮闘している間に、大人たちは焚き火をするときの薪の組み方を教わる。
子どもたちが火起こしや薪割りを楽しんでいる間に、大人たちも斧で薪割り体験。初めて持った斧は予想以上に重く、後方によろけてしまい振り上げるのがやっと。まだまだ修行が必要だ。
いよいよプログラムも終盤。薪割りと火起こしに悪戦苦闘した子どもたちにとっては何より嬉しいお昼ごはんの時間だ。ただし、ここでも「火育」は続く。カブトムシ型のピザ窯を使ってピザを焼くのだが、火起こしと火の管理は自分たちの手でやらねばならない。
やっと火の準備ができたところで、ピザづくりスタート。ピザ生地の上に、スイートコーン、しめじ、ピーマン、トマト、ソーセージを使って思い思いにトッピングする。サクサクした生地にトロトロチーズが乗ったピザは、自分で作ったからこそ美味しさ10倍増し。自然の中で、みんなで食べるご飯は最高のご馳走だった。
最後はスタッフの方から、マスクと日本手ぬぐいとキーホルダーの素敵なプレゼント。
無事に帰るという意味のあるカエルのキーホルダーは、紐を解くと靴紐の代わりになるそう。笛もついているので、遭難したときにも役立つ便利グッズ。山登りのときにバッグにつけておくと、いざというときに安心だ。
帰りは家族へのお土産を購入するために、駒ヶ根ファームスへ。袋いっぱいにクラフトビールやお菓子を買って、大満足で帰路についたのだった。
早朝から夜まで自然の中で思い切り体を動かしたからか、心地のいい疲れに全身が包まれていた。帰りの高速バスではさすがに疲れたのか、息子も熟睡。
2日間とは思えないほど充実したプログラムだった。特に自然災害の多い日本において、自分で火を起こせるというサバイバル能力は必要不可欠。
我が子もだいぶ苦戦はしていたものの、マッチと火起こしの道具を使って自力で火をつけられるようになったのは大きな成長だ。
また、火種にして燃やすのに最適な植物など、プロによるレクチャーは秀逸だと思った。今回の火育の体験を通して、災害時や遭難などの緊急事態において、生存確率を少しでも上げられるようになったのではないかと思う。
火を起こす、魚をさばくといった少しハードルが高いと思われることに果敢にチャレンジする子どもたちの姿に、心打たれる瞬間がたくさんあった。家庭ではなかなかできない、火を扱うという経験を自然の中でめいっぱいさせてあげられる貴重な機会。ぜひ、子どもと一緒にその奥深い世界を堪能してみてはいかがだろうか?