雪山登山|3つの魅力と始め方 〜憧れの白銀の世界に挑戦!〜

「今シーズンこそは雪山登山に挑戦してみたい!」という山好きの方も多いことでしょう。そんな方のために、雪山の魅力や注意点、装備、歩行技術など、雪山ビギナーが知るべき&身につけるべき「雪山登山の基本」を全8回で紹介します。解説してくださるのは、スイスでの日本人向けトレッキングガイド経験を持ち、現在は八ヶ岳を中心に登山ガイドとして活動する石川高明さん。今回は導入として、雪山の魅力を紹介していただきました。基本をしっかり押さえて、憧れの白銀の世界へ挑戦してみましょう!

雪山初心者必見!登山ガイドが教える「雪山登山の基本」 特別編シリーズ一覧はこちら

2023.01.25

石川 高明

信州登山案内人・登山ガイド

INDEX

雪山に登るたびに思うことは「この美しさをたくさんの人に知ってほしい!」ということ。白い峰々の気高い美しさ、冬にしか見られない深い色の青空、雪がきらめく針葉樹の森。雪山でしか出会えない絶景は、言葉に尽くせないものがあります。

そのすばらしさを少しでも伝えるべく、雪山登山のガイドを行ってきましたが、その上で気をつけているのは「正しい知識と技術で、安全に楽しむ方法を考えてもらうこと」です。

例えば、雪山の歩行技術というと、アイゼンとピッケルを想像する人は多いかもしれません。実際、雪山で上等なアイゼンとピッケルを持っている人は多く見かけますが、みなさんがきちんと使えているとは限りません。そもそもツボ足(ブーツだけで歩くこと)でしっかりと歩けなければ、アイゼンを効かせて歩けるはずがないのです。特別な知識と技術を大量に身につけることよりも、使える知識と技術を確実に身につけることが大切です。

全8回でお届けする「雪山の基本」は、その土台として役立つ知識や技術をまとめています。いきなりハイレベルな登山に挑戦するのが危ないのは、夏山も雪山も変わりありません。また知識や情報だけではなく、経験することも大事です。この連載の中で、挑戦しやすい入門となるような雪山も紹介していく予定です。

雪山登山の魅力① 雪山最大の魅力は登山者を魅了する美しい景色!

雪山は空の色も格別。「八ヶ岳ブルー」と呼ばれる、濃いブルーは吸い込まれそうなぐらい神秘的
「たけん」さんの活動日記より

なんと言っても、一番の魅力は「雪山はとにかく美しい」という一言に尽きるでしょう。雪山のピークを踏む達成感は言うまでもなくすばらしいものですが、雪山こそ、美しい景色を楽しんでほしいと思います。夏に見慣れた山々も、雪化粧をまとうとまるで別人。気高く美しい姿に惚れぼれするはずです。

また、空気が澄んでいて、眺望がよいというのも、雪山の魅力のひとつ。樹林のようすや尾根の形など、夏よりも輪郭がはっきり見えて、それぞれの造形美に驚かされます。また、普段はボンヤリとしか見えない遠くの山々までくっきり見え、夕刻のシルエットなどはまるで切り絵のようです。

また、エビの尻尾やシュカブラなどの風雪の造形や、雪の中に残された動物たちの足跡など、雪山でしか遭遇できないものもたくさんあります。ほんの一部ですが、その魅力も続けてご紹介しましょう。

雪山登山の魅力② 雪が織りなす造形美 〜霧氷・樹氷、エビの尻尾、シュカブラ

●木々の幹がきらきらと輝く————霧氷・樹氷

樹木に氷がついて、細かく小さいものは雪の花が咲いたようにきらめくのが霧氷です。蔵王や八甲田山、西吾妻山などでは、すっぽりと樹木を覆うように成長して樹氷となり、「スノーモンスター」と呼ばれています。

●強風がつくる造形美————エビの尻尾

がさがさした雪の塊が樹木に付着した様子が、海老の尻尾に似ていませんか? 実はこれも霧氷のひとつ。不思議なことに、風上側に尻尾が成長していきます。

●雪面が波打ち陰影をつくる————シュカブラ

雪紋や風雪紋とも呼ばれます。硬い雪が強い風に削られてできたもので、日ごとに異なる形になります。雪山の荘厳な美しさを演出しています。

ルーペや虫眼鏡を使って雪の結晶を観察するのもおすすめです。八ヶ岳など、空気がある程度乾燥していて、しっかり冷え込む場所では、地面に落ちても結晶が崩れず、きれいな形で残っています。気温や湿度でいろいろな形になるので、見比べてみるのも楽しいですよ。

風に舞い上がる雪。日が当たるときらきらと光を放って、一層美しく見える

雪山登山の魅力③ 雪を楽しむアクティビティ 〜スノーシュー、アニマルトラッキング

●白銀の世界をのんびりお散歩————スノーシューハイク

たっぷり雪があるところでは、スノーシューでハイキングがおすすめ。浮力があって楽ちんに歩けますので、岩場などが出ていない緩やかな登山道や平坦な雪原、雪の森などの散策にぴったりです。

スノーシュー(写真右)と、「尻セード」グッズ(写真左)。「尻セード」とはお尻で滑って下ること。このグッズをお尻の下に敷くと、滑り台のごとく滑降できる。ただし、登山道は避け、人気のない緩やかな斜面など、安全な場所で使うこと!(写真左提供・石川高明)

●ふかふかの雪にダイビング!————スノーエンジェル作り

雪の上に寝転んで、両手を上下にバタバタさせてみると…
スノーエンジェルのできあがり! 雪がたっぷりあるから楽しめる遊び!

●だれの足跡かな?————アニマルトラッキング探し

写真左は、こちらに向かってジャンプするウサギの足跡。右はタヌキかハクビシンでしょうか。雪上では、肉球がかわいいイタチやテン、チョキ型のシカなど、いろいろな足跡が見られます。

雪山ビギナーのための「知識」と「技術」を8回シリーズでご紹介!


さて、ここまで雪山の魅力についてご紹介してきましたが、次回以降は雪山登山に必要な知識や技術を、8回に分けて解説します。

①雪山の3つのシーズンの特徴と初心者の雪山の選び方

雪山は時期によって特徴がまったく異なります。新雪期・厳冬期・残雪期、雪山3つのシーズンそれぞれの注意点や楽しみ、また、初心者が押さえておきたい雪山の選び方を解説します。

②初心者が心得ておくべき雪山登山の注意点

凍傷などのリスクや、計画の立て方など、雪山登山で注意すべき点をまとめました。雪山登山に挑戦する前に一読したい項目です。

③冬山装備の服装と「レイヤリング」のコツ

アンダーウェアやアウタージャケットなどと共に、レイヤリング例も解説します。

④冬山装備に必須の道具、アイゼン・ピッケル・冬山登山靴

アイゼンやピッケルなど、雪山に必須のギアとその特徴を紹介します。

⑤冬山用登山靴の知っておきたい機能と選び方

冬用登山靴の機能を、夏用のものと比較しながら解説します。選ぶ上での注意点は「⑦アイゼンの選び方と使い方」と併せて参考にしてください。

⑥雪山の基本、ノーアイゼンの歩行技術をマスターしよう!

雪上での歩き方の基本をなぞったあと、雪山の難易度について解説します。

⑦冬山装備・アイゼンの選び方と使い方

基本的な歩行技術の前に、選び方も紹介します。アイゼンは靴との相性が大事なので「⑤冬山用登山靴の知っておきたい機能と選び方」も参考にしてください。

⑧ピッケルの使い方

ピッケルを有効に使うには、持ち方・持つ向きがポイントです。基本を抑えておきましょう。

●番外編/初心者におすすめの雪山5選

歩きやすいのはもちろん、展望がよい、霧氷が美しいなど、雪山の魅力がたくさん詰まったコースを5つ紹介する予定です。

全8回の「雪山登山の基本」を学んで、憧れの白銀の世界へ、いざ挑戦してみましょう!

写真/宇佐美博之(提供写真以外)

石川 高明

信州登山案内人・登山ガイド

石川 高明

信州登山案内人・登山ガイド

長野県在住。1967年東京生まれ。学生時代から登山に親しむ。最初に登った山が八ヶ岳。大手電機メーカーを2000年に退職し、世界一周登山の旅に出発。途上のスイス ツェルマットで2年間トレッキングガイドを勤める。帰国後、八ヶ岳の麓で子育てをすべく、2008年長野県原村に移住。各国の山岳地域を旅した体験や、スイスで観光業に携わった経験を活かし、 地元地域や観光活性化のお手伝いをしながら、各種イベントを実 ...(続きを読む

長野県在住。1967年東京生まれ。学生時代から登山に親しむ。最初に登った山が八ヶ岳。大手電機メーカーを2000年に退職し、世界一周登山の旅に出発。途上のスイス ツェルマットで2年間トレッキングガイドを勤める。帰国後、八ヶ岳の麓で子育てをすべく、2008年長野県原村に移住。各国の山岳地域を旅した体験や、スイスで観光業に携わった経験を活かし、 地元地域や観光活性化のお手伝いをしながら、各種イベントを実施してい る。
原村観光連盟 副会長/八ヶ岳観光圏 観光地域作りマネージャー
公認スポーツ指導者 山岳指導員/長野県信州登山案内人
(株)八ヶ岳登山企画 代表取締役/登山歴30年/スノーシュー歴20年