北海道釧路市|木と風と家族と。白湯山を登り、釧路川源流を下る旅

旅の舞台は北海道の東側、道東とも呼ばれる地域のほぼ中央に位置するまち、釧路。天然記念物のまりもが象徴的な阿寒湖や、釧路川の源流としても知られる屈斜路湖。アイヌの伝統文化などを感じることができる、北海道を代表する観光地のひとつです。今回YAMAPが開催するツアーに訪れたのは、YAMAP専属ガイドでもある前田さんファミリー。家族で旅をするなんていつぶりだろうと、たくわえたひげの奥に素敵な笑顔が見えています。どうやら釧路に来るのは2度目の様子。アクティビティや文化体験、グルメなど盛りだくさんの北海道で、前田さんが感じた家族への思いとは?

2021.02.21

前田 央輝

YAMAP専属ガイド

INDEX

東京で働くYAMAPの同僚から突然、北海道釧路への旅のお誘いがあった。旅のお誘い…とはいえ、もちろん仕事込みでがあるが。

釧路といえば、25年前にひとりで旅をして以来、2度目になる。当時は風のように留まることもなく、日本全国を旅していた。屈斜路湖から流れ出る釧路川。そこから太平洋までの154kmに及ぶ旅路をカヌーで下った4泊5日の青春は、今思い出すだけでもうまい酒が飲める。

カヌーを川にふんわり浮かべ、パドルを漕ぐ。優しい水のしぶきと自然の音だけが聞こえる。流れにまかせてただ浮かんでいると、世界にたったひとりだけになったような感覚になる。こうした静けさこそが人生で最も贅沢なことだと思うようになったのは、その頃だろうか。優雅に泳ぐトラウトを見つけると嬉しくなり、跳ねるように飛ぶカワセミを愛しく感じるようになったのも、多分その頃からだ。

いつも思い出す23歳の旅。いつかまたあの川を下りたいと思っていたが、不思議な縁がつながって今回釧路空港に降り立った。あのときはどこの空港に降りただろう。ヒッチハイクで札幌から来たかもな。そんな昔の自分に思いを馳せることができるから、2度目の旅は面白い。

あのときと違うところは、目の前には妻がいる。そして隣には、最近20歳を迎えた娘がいることだ。妻ははるばる鹿児島から、娘は大学のある東京から、それぞれ現地に集合した。家族で旅ができるなんて、いつぶりだろうか。最近はガイドとして全国行脚を繰り返し、落ち着く暇もなかった。この2泊3日だけは家族でゆっくり旅を楽しみたいと思う。

アイヌの文化に触れて

「パパやん! 」

娘がアイヌの人たちのパネル写真を指差しながら目を見開いて笑っている。確かに民族衣装を着た彼らの顔の彫りは深く、髭も立派だし何もかも濃ゆい。

「おれも負けてないな…」

と自分の髭を触り、写真を見ながら家族で優しく笑い合う。自慢じゃないが、おれの髭だって25年ものだ。

娘の名前は楓子(ふうこ)。みんなからふーちゃんと呼ばれており、大切な一人娘だ。大切にしすぎたくらいだろうか。少し気まぐれなところもあるのだが、今日はどうやら機嫌が良さそうだ。

今回滞在するのは釧路市の阿寒湖。まりもとアイヌの伝統文化が息づく小さな観光地だ。

今はアイヌ料理を食べることのできる「ポロンノ」でサッポロビールクラシックを飲んでいる。ニュー阿寒ホテルにチェックインしたのが夕方前だったのもあって、あっという間に日が暮れてしまった。北海道の東側に位置しているからか、陽が落ちるのもはやく感じる。

人気ナンバーワンというアイヌ伝統のユクセットは印象的だった。鹿の汁であるオハウと、なにやら豆を炊き込んだご飯。そしてめふんという鮭の塩辛が乗っているシンプルな定食。豆ご飯はアマムといい、ほのかな甘みが美味しい。オハウは、出汁がきいてる優しい味。

なにより食材が豊かな北海道でサッポロビールクラシックを流し込むのが最高だった。ビールはやっぱりサッポロやな!と喉が鳴る。妻と乾杯できる幸せを噛み締めながら、瓶を3本開けてしまった。

食後はほろ酔い気分で、夜の阿寒温泉街を湖の方へと歩く。期間限定で開催しているイベントを体験するためだ。「カムイへの祈り」と称して新型コロナウイルスの収束と、医療従事者への感謝をカムイ(神)に祈るという内容で、アイヌの伝統文化を体験できるそう。観光汽船に乗船し、夜の静寂に包まれた阿寒湖へと出港した。

乗船時に、アイヌ文様入のマスク、ハンドジェル、青く光る球、祈りの神が渡される

乗船時に渡された祈り紙に願い事を書くらしいのだが、どうもこういうのはこっ恥ずかしい。いろいろ考えたが、また当たり前にアウトドアが楽しめる世の中になるように、と願いを込めて球に入れ込んだ。2人は何を願ったのだろうか。船内アナウンスとともに、みんなで窓から湖に青く光る球を投げる。たくさんの青い球が静寂の湖を漂っている。

「パパのが私の球にぶつかったよ」

娘はしばらく願いの球を見つめていた。

祈り紙に願い事を書き、祈りを込めて青く光る球を湖に投げる

下船してからは、アイヌの”火のカムイ”と”大地のカムイ”に感謝をする儀式が行われた。参加者全員にタイマツが配られ、不思議な音楽とともに温泉街を練り歩く。あまりに厳粛な雰囲気に少々ぎょっとしたが、妻たちと目を合わせながら静かに行進をした。

300mほど歩き、ゴールのアイヌコタンに到着。長老による祈りの儀式が執り行われた。全員で新型コロナウイルスの収束に祈りを捧げる時間も設けられ、イベントは終了。

「あんたが1番アイヌの人っぽかったよ」

と妻から言われてしまった。自分でもそう思う。

その後はロストカムイというショーを観覧した

カムイへの祈りを終え、そのまま阿寒湖アイヌシアター「イコㇿ 」へ向かった。ここでは、アイヌの伝統舞踊と現代舞踊、そしてデジタルアートが融合したショー、「ロストカムイ」を見ることになっていた。

ロストカムイは、アイヌの人たちからも憧れの存在とされていたエゾオオカミが、本州からの開拓者によって絶滅してしまったという内容を描いている。

見ていると、なぜだか自然に涙が出そうになった。

大地に生きるすべてをカムイ(神)として崇め、ともに生きる家族として尊重してきたアイヌの人たちにとって、一体それはどんな出来事だったのだろう。

考えていると、ふと思い出したことがあった。
25年前にこのあたりを旅していたとき、アイヌの方が経営している民宿に泊まったことがあった。「手伝いをするなら、タダで泊まらせてやるぞ」。そんな素敵な提案に甘えさせてもらって、数日間滞在をした。その時に「お前はおれたちよりもアイヌに似ているな。もしかしてルーツがあるんじゃないか?」と言われたのだ。

本当にアイヌにルーツがあるかはわからないが、自然を愛するひとりの男として、心が動かされるショーだったのはまちがいない。

初日は到着してからというもの、怒涛のアイヌ文化体験ラッシュだった。明日からはアクティビティ満載ではやく寝なければと思いつつも、部屋に戻ってまた家族で乾杯。娘との乾杯は感無量だ。川の字に並んだ布団がなんだか嬉しく、懐かしい話をしながら夜は更けていった。

久しぶりの親子登山、白湯山へ

温泉大国日本では、全国各地に温泉が湧き、硫黄の香りが漂う山がいくつもある。これから向かう白湯山もそのひとつ。昔から温泉が好きで、長くいた屋久島でも、よくひとりで海の見える温泉に入りにいったものだ。

今日は片道2キロの簡単なハイキングコース。スキー場のゲレンデから登山道に入り、展望台で折り返すというコースだ。危険な箇所もほとんどなく、初心者のふたりでも安全に歩けるだろう。親子で川下りはよくしたものだが、山登りはさほど多くない。さて娘は、しっかり楽しんでくれるだろうか…。

自然探勝路なので、木道や階段も整備されており歩きやすい。11月の北海道はもちろん寒いが、歩いていると程よく身体があたたまるのが心地よい。途中妻が、この看板に書いてあるボッケって何?と聞いてきた。

ボッケはアイヌ語で「煮え立つ」という意味で、いわゆる「泥の火山」のことを指す。地熱帯から硫黄の煙がもくもくと吹き上がっている箇所だ。大地が生きているってことだぞと教えると、普段は見せないガイドの顔に「ふーん」と、感心していた(ように見えた)。

娘はタピオカを飲みながらボッケを見ていた。女の子やなあ

流れ出る沢もあたたかく、娘と触ってみる。こうした自然と触れ合う経験を昔からさせてきたからか、汚いだとか言わない子に育ったことが嬉しい。うわ!あったかい!とはしゃぐ姿を見て、なんだかホッとしてしまう自分がいた。

道が開けてくれば、もうすぐ白湯山展望台だ

2キロというハイキングだが、振り返ると結構歩いたなと思うもの。眼下には阿寒湖の大きさがはっきりと見え、雄大な雄阿寒岳が聳えている。ゴールは目の前だ。

山頂ランチは北海道ならではのコンビニ、セイコーマートのお弁当

せっかくだからと写真撮影をする。「パパ、犯罪者みたい」と、赤いネックウォーマー姿を笑うもんだから、いい笑顔の写真が撮れた。登り始めのゲレンデ歩きは傾斜もきつく、ぶーぶー言っており心配だったが、しっかり登りきった。こうして家族全員で北海道の山を歩けるって、嬉しいもんだな。

YAMAPのスタッフも「仲が良いですね」と言ってくれたが、手前味噌ながら本当にそう思う。何よりそんな良い家族でいられるのも、最高の妻がいてくれるからだ。“木”のように強くどしっと根付いている妻と出会えたおかげで、”風”のようにふわふわとしていた自分が、今も自分らしくいれている。そして、娘の“楓子”が生まれてきてくれた。妻に感謝やなあと、まっすぐに凛と立つ木を見ながら、そんなことを思った。

無事に下山をして今日のコンテンツは終了。ホテルでゆっくりするのも旅の醍醐味のひとつ。夕方から温泉に浸かり、夕食の時間まで寝てしまった。明日は大好きな釧路川に再会できる。高ぶる興奮を抑えながら、2日目の夜が過ぎていった。

絶景のE-BIKEライドと変わらない自分

釧路川源流がある弟子屈町の屈斜路湖までは、E−BIKEというアシスト付き電動自転車に乗って向かう。片道60キロ以上あるなかなかタフなコースだ。

経由する国道241号は阿寒横断道路と呼ばれており、途中には雄阿寒岳などの火山群や湖沼が見え、ルートを走りながら観光ができる。前日の簡単な乗車練習では娘も楽しかったと言っていたが、油断は禁物。安全に気をつけながら向かおう。

E−BIKEのアシスト力は、傾斜のある山道でもなんなく進むことができる

今までいろいろな場所でE-BIKEを漕いできたが、北海道の道はこの上なく楽しい。火山が作り出した雄大な湖や遠くそびえる雄阿寒岳。どこまでもまっすぐ続く道と広大な土地が美しい。こんな道を走るためにE-BIKEはあるのではないかと本気で思う。

高い山と畑の間を抜けると小高い丘に出たので、自転車を停めてみる。子どもの頃に、日が暮れるまで遊んだ実家の鹿児島を思い出した。

遊びのすべてが旅だったあの頃。自転車でいろんなところを兄と回っては、自分の世界を広げていった。今もまだ当時の純粋な気持ちのままで、なにも変わっていないところが恥ずかしいというよりは、なんだか嬉しい。やっぱり旅が好きで、自然が好きだ。

娘のE-BIKEさばきもなかなかなもの。さすがおれの血を引いている。妻も危なげなく乗れているから安心だ。休憩を入れながら3時間ほど。ランチを食べて、屈斜路湖を目指す。

ランチは「ぽっぽ亭」の豚丼。疲れた身体にガツンとくる味わいで、ボリュームもあったがぺろりとなくなった

食後には「摩周湖のあいす」でジェラートを。摩周ブルーが絶品

出発してから何度か寄り道を繰り返し、5時間ほど。ようやく目的地の屈斜路湖に到着した。娘もたのしかった!と言っている。おそるべし体力だ。よくがんばった。ここからはいよいよ釧路川源流への旅だ。

釧路川源流下りと新たな旅路

25年前と同じ場所から、白鳥が舞う屈斜路湖に漕ぎ出す。当時は大きなカナディアンカヌーだったが、今回はパックラフト。持ち運びができるほど軽く、乗るときには空気を入れる、いわゆるゴムボートだ。

湖面にゆっくりと浮かばせると、あのときとまったく同じ高揚感。心の軸が震えているのがわかった。

釧路川源流の水は美しく冷たい。きれいな湧き水が滔々と流れ出ており、年間を通して水温が安定している。良質な水でしか育たないクレソンが水中に生育していたり、やまわさびが群生していたりと、奇跡の川でもあるのだ。よかった、あのときとなにも変わらず、すごくきれいだ。

サングラスと帽子で決めてる、ハイカラな娘

娘との旅はいつも楽しい。小さいころからいろんなところに連れて行ってはアウトドアをして一緒に自然で遊んだ。というか、それくらいしか教えられることはなくて、この地球にも親の代わりをしてもらったと思っている。

旅の計画が娘優先だった頃も、今も、最高な旅のパートナーだ。一緒に旅をするたびに、日常では気づかない成長を発見したり、ボートからひっくり返った失敗が笑い話になったりと、親子の旅はいつになってもずっと楽しい。将来自分の家族を持つのだろうか。それまでに、あと何回一緒に旅ができるのだろう。

すっかり上手になったパドルさばきを見ながら、ふと感傷的になってしまった。

漕いでいると1本の流木が横に流れていた。拾い上げると、小さくもしっかりと目の詰まった立派な木。どこから流れてきたのだろう。

ずっと好きな本に星野道夫さんの『旅をする木』という一冊がある。旅をする木とは、流木のことだと思っている。ゆらゆらと流れに逆らわず、旅をするように大きな海を目指して流れていく。

木を眺めながら、自分の生き方を思い返す。アウトドアショップのオーナーやネイチャーガイド、そして今の仕事など、文字通り山あり谷ありの人生だったし、予定調和なことなんてひとつもない。ただ風のように、流木のように気ままに生きてきたが、この釧路川でなんだかひとつ、つながったような感覚がある。またここで旅ができて、本当によかった。

ゴールの船着き場が見えてきた。少し手前の大きな瀬に白波が立っている。きゃーと高い声を上げる妻と一緒に笑い合いながら、最後の瀬へと漕ぎ出した。後ろからは娘の悲鳴のような笑い声が聞こえてきた。25年前は独りでずっと旅をしていたが、今は家族がいる。次は一緒に、どこへ旅にいこうか。今から楽しみだ。

前田 央輝

YAMAP専属ガイド

前田 央輝

YAMAP専属ガイド

1972年鹿児島生まれ。登山アプリを手がける「YAMAP」専属ガイド。お酒と自然と子供をこよなく愛するフーテンのアウトドアガイド。23歳の時にユーコンの原野を1ヶ月かけて旅し、「この自然の素晴らしさを子供達にも伝えたい」と自然学校のひげ校長を志すことに。今も夢に向かって全国を駆け回り、自然の楽しみ方を絶賛普及中!ちなみに、アウトドアショップを経営していたこともありウェアやギアなどについても詳しい。

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