怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。九体目の怪獣は北アルプスの穂高連峰。多くの登山者の憧れであるこの山々に、一体どんな怪獣が登場するのでしょうか。
山の怪獣を本気でつくりたい #10/連載一覧はこちら
2021.05.12
ガイガン山崎
怪獣博士
“テレビまんが”という言葉を耳にしなくなって久しい。今の十代、下手したら二十代も知らないんじゃないか。三十代半ばのボクにとっても、あまり馴染み深いものではない。あくまでも親世代・祖父母世代だけが使っていた印象だ。まあ、アニメの古い呼び方なんだけど、ここには特撮も含まれていて、つまり大人から見ればどちらも似たようなモンだったということだろう。
でも当の子供からすると、特撮と違い、アニメのほうは難しくてよく分からない作品も多かった。純然たる子供番組として生み出されていた特撮に対して、アニメは幼児向けだけでなく、小学生向けやティーン向けもあり、タイトルごとに細かく対象年齢が設定されていたからだ。近年の特撮は、少なからず大人の目も意識してつくられてはいるものの、当時と比べて劇的に状況が変わった感じはない。
つまり今も昔もアニメファンは、自分の成長に合わせて作品をチョイスしていけばいいが、特撮ファンの場合はそうもいかないのだ。テレビでいえば、ウルトラマンシリーズ、仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズ+αしかないため、小学校の高学年ぐらいになると、怪獣怪人とヒーローの飽くなきルーティンバトルに恥ずかしさを覚えたりするようになる。そんなとき、フツーに特撮から卒業したり、別の趣味に転向できればいい。自分の幼稚さを受け入れ、それでも好きなんだと開き直れればいい。しかし、意外とこじらせちゃうんだな。怪獣が出てこなかったり、ヒーローや人間が過ちを犯したり、最後まで登場人物が救われないまま終わったりするような異色作を持ち上げ、特撮は子供騙しじゃない! こんな深いテーマを扱うこともあるんだと理論武装を始めてしまう。これが意外と多数派なのである。
いわゆる中二病の一種で、誰もが経験する麻疹みたいなものにも思えるけど、この頃の感覚を引きずり続ける特撮ファンは決して少なくない。三つ子の魂百までというか、多感な時期に植えつけられた価値観は、なかなか拭い去れないものなんだろう。まあ、最近は屈託のないファンが増えてきているので、世代がもう一巡したら、また傾向も変わってくる気はするけれど、対外的に名作として挙げられるエピソードが、妙に陰気臭くて深刻なものに偏りがちな現状には少し違和感がある。
やっぱり異色作は異色作であって、ど真ん中に据えるべきは、ただただ怪獣が出てきて暴れまわるだけのシンプルなエピソードなんじゃないかしら。そこには骨太なドラマも風刺の効いたオチもないかもしれないが、ボクやデザイン担当の入山くんみたいな怪獣バカからすると、怪獣がどう出てくるのか? どう暴れるのか? そもそもどんな姿なのか? そういったディテールの部分に注力してくれたほうが嬉しい。ある種、フェティシズムの世界だ。で、さらに嬉しいのが、怪獣がいっぱい出てくるパターン。2体出てきただけでも嬉しいが、3体、4体、5体と増えてくると、これはもう盆と正月が一緒に来たような騒ぎになる。だから前回は、ラゴラモスに加えて、ガルラ星人を5人も出してしまった。映画ばりのスケールである。今回もいっぱい描いてもらったぞ。もちろん、メインとなる怪獣は1匹だけど。その名も……。
1973年、何の前触れもなく穂高連峰に現出した怪獣。頭部のクロノドームで生成したタキオン粒子を身にまとい、時空を跳躍することができる。在日米軍との交戦後、いずこかへと姿を消していたが、21世紀初頭から再び目撃されるようになり、やがて時間移動能力を有することが判明した。一体どの時代に生まれた怪獣であるのかは不明だが、少なくとも過去ではないだろうと考えられている。
かつて日本アルプスには、襟巻怪獣バラチニーク、地殻怪獣ガンバン、凍結怪獣アイスホーンβという3匹の怪獣が住み着いており、それぞれ中央アルプス、南アルプス、北アルプスを根城としていた。血の気の多い怪獣はバラチニークのみで、警戒心の強いガンバンは地上に姿を見せることが滅多になく、アイスホーンβも大雪山に住む亜種と同様に穏やかな性質だったこともあり、みだりに互いのテリトリーを侵すことなく共存を続けていたと記録に残っている。
しかし、その均衡はアンテロスの急襲によって脆くも崩れ去ってしまう。最初の獲物となったアイスホーンβの断末魔は、バラチニークとガンバンの闘争本能に火をつけ、涸沢カールは暴れ狂う三大怪獣の決戦場と化した。もっとも第三の目を持つアンテロスは、バラチニークらの動きをすべて見破っており、この縄張り争いは極めて一方的で凄惨なものに終わったという。あれから半世紀、今や穂高連峰で怪獣を見かけることはなくなったが、そこかしこに文字通り戦いの爪痕が遺されている。
▲穂高連峰の風景(ノム山さんの活動日記より)
「かつて入山くん主導で考えてもらった、第1回のアイキャッチイラスト用の三大怪獣をリファインしてみました。ボクのディレクションがほとんど入っていないこともあって、他の怪獣よりも彼の好みが強く出ている気がします。特にアンテロスは、いつもの昭和テイストとは異なる平成ウルトラマンシリーズ的なデザインだったので、実際に未来からやってきた怪獣という設定にしました。ちなみに平成らしさは頭部に集中していて、皿のような発光パーツ、第三の目、瞳の入っていない凶暴な目つきなどがそうですね。ここまで小顔な怪獣は、ちょっと昭和の特撮には出てこないんじゃないでしょうか。如何にも1970年代の怪獣っぽいバラチニークらとの差別化で、もう少し足を長くしてもよかったかもしれません。平成の怪獣って、スラッとしたモデル体型が多いんですよ」(山崎)
「今回のリファイン作業は、基本的に一任させてもらっていたので、自分の好きな方向性でディテールアップを図りました。主催の山崎からの指示は、アンテロスの尻尾を短くすること、ガンバンを四ツ足怪獣にすることくらいでしょうか。元の絵には映ってない部分の詳細ですね。それぞれのシルエットに差をつける必要がありましたし、ガンバンを二足歩行にすると、ウルトラ怪獣のテレスドンやデットンそっくりになってしまうんです。唯一の新怪獣となるアイスホーンβは、第2回で描いたアイスホーンのバリエーション。テレビの撮影で使い終わった着ぐるみは、デパート屋上の怪獣ショーなんかで余生を送るわけですが、たまにテレビのほうから再びお呼びが掛かったりすることがあるんですよ。アイスホーンβも、そんなドサ回りで薄汚れ、毛も抜け落ちてしまった初代アイスホーンの着ぐるみを手直しした再登場バージョンというイメージで描いてみました」(入山)
いかがだったろうか。第10回を超えたあたりで、アイキャッチ用に描いた三大怪獣をまとめて出すというアイデアは、連載開始当初から温めていたもの。少年マンガ的なインフレではあるけれど、いきなり3体も出てきたら編集部も読者もビックリしてくれるんじゃないかと考えていたのだ。ところが想定よりもずっと早くインフレが起こきてしまい、もはや10体のあとには3体出そうが4体出そうがインパクトに欠けるというか、特にスペシャル感はないよなぁ。これはちょっと誤算だった。でもまあ、仕方がない。怪獣をいっぱい出すのが好きなんだもん。たぶん、次回もいっぱい出てきます。2週間後、またお会いしましょう。
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※表紙の画像背景はくまくまさんの活動日記より