日本一、道迷いしやすい登山道はどこ? データから導く「全国道迷いポイント」

登山に潜むリスクの一つ、「道迷い遭難」。「知らないうちに登山道から外れていた」「道を迷った後、タイムロスを取り返そうと焦って足をひねってしまった」など、一歩間違えば遭難につながる経験をした方も少なくないのでは? 今回、ヤマップ分析チームでは、登山地図GPSアプリ「YAMAP」のユーザーデータ(登山経路)を詳細分析し、「日本一、道迷いしやすい場所」を探してみました。ぜひ、登山の安心安全にお役立てください。

2021.08.04

大平 香織

YAMAPスタッフ/データ分析エンジニア

INDEX

遭難・道迷いは誰にでも起こり得ます

みなさん、遭難・道迷いは他人事と思っていませんか?

警視庁の調べによると、日本の山岳遭難は毎年3,000人程度で推移しており、「コロナ禍の自粛で登山者が減った」と言われる2020年でさえ、およそ2,700人の方が遭難されています(警察庁調べ)。さらに山岳遭難について詳しく見てみると、遭難者全体の44%と圧倒的に多いのが「道迷い」です。ちなみに遭難といって思い浮かべやすい「滑落」は15.7%にとどまっています。

つい、「自分だけは大丈夫」と思ってしまいがちですが、以前ヤマップで取材した遭難体験の記事を読み返すと、「行き慣れた道やピンクリボンがある道でも、なぜか道をロストしてしまう」「天候、時間帯、自分の体調など、予想していなかった不幸が重なることで誰にでも遭難・道迷いが起こり得る」ことがわかります。

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「迷いやすい登山道」を抽出してみた

そこでヤマップでは、年間340万件以上も投稿・蓄積される活動日記のデータを分析(2020年1月〜12月間の活動日記作成数=341万2,872件)。ビッグデータ分析と独自ノウハウ(詳細は企業秘密です)を組み合わせることによって、全国の登山道で特に道迷いしやすいと思われるポイントを5箇所抽出しました。

フィールドメモを頼りに「全国道迷いポイント」を探索開始!

YAMAPでは、登山中の危険な箇所やお勧めスポットなどを投稿できる「フィールドメモ」機能で常に鮮度の高い現地の情報を確認することができます。​​また、メモの中には、「迷いやすい」タグをつけることができるようになっており、現地を歩いた方が次に歩く方のためにスマホ上で安全に役立つメモを残してくれているのです。

そこでヤマップの分析チームでは、2020年10月〜現在までに投稿された2万件以上のフィールドメモの中で、「迷いやすい」タグに注目。全国の分布を見渡す中で、特にメモが集中している箇所≒迷う人が多い場所を特定し、さらにその場所に投稿されている活動日記の内容と実際に登山者が歩いた軌跡を一つずつ確認していきました。一つひとつ分析するのは根気のいる作業でしたが、このように丁寧に分析することで日本一道迷いしやすい場所が少しずつあぶり出されてきました。

メモの内容を確認し、他の活動日記でも道迷いしている例を探す

まず、投稿されたフィールドメモから、内容・写真で道が分かりにくく迷いそうな箇所かどうかを主観・経験的に判断し、次に投稿日および投稿の評価で情報の鮮度と信頼性を客観的に確認していきます。さらに、同じルートを通っている他の登山者の活動日記も確認。同じように迷っている日記を探すことでメモの信憑性を高めていきました。

具体的に見ていきましょう。例えば、図で示したかっちんさんの投稿では、倒木により道が分かりにくくなっている上、左斜め前に道のようなものが見えます。この左斜めが尾根筋であるが故に「確かにこれは左斜め前に行ってしまいそうだな」と自分も登山している気持ちで想像することができます。さらに、これは比較的最近の投稿で、かつ評価も高く、直近だけでも複数の人がこの投稿に助けられたことがわかり、メモの有効性も非常に高いと言えます。

最後に、実際に他にも迷っている人がいるのかどうか、現在でも危険ポイントなのかを確認していきましょう。かっちんさんの投稿ルートを通っている活動日記一覧を最近のものからチェックしていき、ルート外れの日記が複数見つかったので、このポイントを『道迷いポイント』と認定し次のステップに進みました。

疑わしい軌跡が残る活動日記を「道迷い日記」として抽出

道迷いと疑われるエリアに軌跡が残る複数の「道迷い日記」から、ルートを外れてしまった軌跡の行動パターンを見つけ、道迷いしている人が通るであろう道迷いエリアを指定します(赤いエリア)。この手法を用いて、過去1年分の日記から道迷いエリアに軌跡がある日記を抽出。このような定量的な計測・分析を積み重ねることで、「その場所を通った人の数に対して、その場所で道迷いした人の数の割合が多い地点」や、「一年を通して『道迷い日記』が多い地点」が明らかになるなど、日本全国の「道迷いしやすいポイント」浮き彫りになってきたのです。

日本の登山道、道迷いポイント5選

道迷いポイント① 関東|西丹沢の大界木山〜浦安峠(神奈川・山梨の県境)

ひとつ目の道迷いポイントは、前述したたかっちんさんのフィールドメモ(2021.04.03(土) 投稿)の『神奈川・山梨の県境 標高約1,150m地点の大界木山〜浦安峠のルート』です。メモの通り、右に行くべきところをまっすぐ進んでしまう人が圧倒的に多いポイントとなっています。過去1年間で確認すると、なんと活動日記の約46%が「道迷い日記」として抽出され、2人に1人はヒヤッとする山行だったことが推測できます。 このように、「尾根筋」が複数分かれている場所は、つい歩いてきた道の延長線上をそのまま歩いてしまいがちで、誰もが道を間違えてしまう可能性があるのです。

道迷いポイント② 関西|雨乞岳の沢谷ノ頭〜登山口(滋賀・三重の県境)

二つ目のポイントは、カテリーニャしらきさんのフィールドメモ(2021.05.04(火)投稿)の『滋賀・三重の県境 標高約800m地点の沢谷ノ頭〜登山口のルート』です。ここは下山の時に、左に降りるべきところを直進してしまう人が多いポイント。過去1年間で確認すると、この場所を通った活動日記の約14%、つまり7人に1人の活動日記が「道迷い日記」として抽出されました。比較的登山口に近く、また登山終盤ではありますが、最後まで油断は禁物な場所ということができます。こちらもよく見ると「尾根筋」を直進してしまうことによる間違いとなっています。

道迷いポイント③ 中部|猿投山の東昌寺から南北方向(愛知)

三つ目のポイントは、たろうさんのフィールドメモ(2021.01.16(土)投稿)の『愛知 標高約230m地点の猿投山の東昌寺から南北方向に行ったルート』です。こちらは左側に登っていく登山道が非常にわかりにくく、東昌寺から歩いてきた方向をそのまま道なりに歩いてしまう人が多いポイントとなっています。過去1年間では約60%が「道迷い日記」として抽出されました。しかも、多くの方が登山開始10〜15分の間で迷われているという事実も。登山開始早々タイムロスをしてしまうと、リカバーしようと思ってスピードを出し過ぎ、バテてしまうリスクも。道迷いには最新の注意を払いましょう。

道迷いポイント④ 東北)太白山の山頂付近(宮城)

四つ目のポイントは、みちのくあゆむさんのフィールドメモ(2021.02.20(土)投稿)の『宮城 標高約180m地点の太白山山頂までのルート』です。こちらは、左側にピンクテープと道の様なものが見えますが、山頂を目指すには右側の尾根を進む必要があります。過去1年間で確認すると、通行日記の約66%(※)が道迷い日記として抽出されました(※ただし、YAMAPの登山地図には示されていない左側にも道があるかもしれません。実際に道に迷った日記の割合はもっと少ない可能性もあります)。これまで見てきた他の事例と同様、「尾根筋」が正常な判断を狂わせるパターン。低山でも油断せずに気をつけたい事例です。

道迷いポイント⑤ 関東)丹沢山の櫟山〜栗ノ木洞(神奈川)

YAMAPのビッグデータ分析と独自ロジックにより、おそらく日本一迷いやすい登山道のひとつであろうと推測されるのが、丸金さんのフィールドメモ(2020.12.26(土)投稿)の『神奈川 標高約850m地点の櫟山〜栗ノ木洞のルート』です。こちらはメモの通り、左側の道に行くべきところを右側の道に進んでしまう人が多いポイントとなっています。過去1年間の活動日記で確認すると、4人に1人は道迷いしていることがわかりました。「道迷い率」だけで比較すると、他の場所の方が高いのですが、人気のエリアゆえ、他の登山道と比べても、登山者数も多いのがこの登山道の特徴。実際に、道迷いした人数で見てみると、1年間になんと270件もの道迷い日記が投稿されるなど、最も多くの人が迷っている地点と推測されるデータを発見しました。

さらに、活動日記の中には「道外れ警告で初めて気がついた」という投稿もあり、道に外れていることがわかりにくい場所なのかもしれませんので、この場所を通る際には要注意です。このポイントは、関東の人気のコースの中に存在することもあり、あまりにも多くの人が間違えてしまうので、そこにしっかり踏み跡がついてしまい、また次の人もその踏み跡を見て間違えてしまうという「負の連鎖」が起こっています。

もちろん、登山道は気象条件や季節によっても刻一刻と姿を変えるので、今後、この場所を上回る道迷いしやすい登山道を発見することがあるかもしれません。このように、YAMAPでは、ユーザーさんどうしの助け合いである「フィールドメモ」機能やユーザーさんの歩いた軌跡の分析を通じて、より安全な登山に貢献したいと考えています。

その他要注意ポイント2選

道迷いの例は多くなかったものの、その他の地域でも道迷いしやすいポイントを2つ選んで紹介します。

九州)俵山周辺(熊本)

九州地方の要注意ポイントは、keiさんのフィールドメモ(2021.02.07(日)投稿)の『熊本 標高約880m地点の俵山周辺ルート』です。俵山山頂から下ってくるときに左ではなくまっすぐ進んでしまう、沢筋を直進しやすい錯覚ポイント。メモの周辺は樹林帯のためピンクテープがわかりにくそう。周りをよく見ながら、YAMAPを大いに活用して歩いて欲しいです。。

中四国)東赤石山(愛媛)

中四国地方の要注意ポイントは、にゃいさんのフィールドメモ(2021.02.22(月)投稿)の『愛媛 標高約1,060m地点の東赤石山のルート』です。左の尾根に踏み跡があるとの報告が。ルートとしては北にまっすぐ!と一見迷わなさそうな気がするのですが、踏み跡のせいで迷ってしまう危険性は地図からは分からないフィールドメモのありがたみがわかる場所ですね。これも分類としては、尾根筋を通過しようとして失敗するパターンで、尾根を回避した巻道を最初から意識して置けるかどうかで命運が分かれます。

まとめ

いかがでしたか。このように、ヤマップでは日本一の登山地図アプリYAMAPだからこそできるビッグデータ分析で、日本一道迷いしやすいと思われるポイントを独自の視点から探してみました。単に抽出するだけでなく、このような場所があることについてそのポイントが所属する自治体に伝え、例えば案内板を立てるなど、危険ポイントを安全ポイントに変える努力を続けています。

山の中でどちらに行けばいいのか分からなくなってしまった場合はもちろん、途中で「こちらで正しいんだっけ?」と不安に思ったら、まずは焦らずに一度立ち止まり、登山地図で現在地を確認しましょう。さらに、ヤマップの地図上にフィールドメモがないかも確認を。

もしも迷いやすいポイントなのに、フィールドメモがなかったら、「迷いやすい」と投稿して、次にその場所を訪れる他の登山者を助けてあげてください。あなたのフィールドメモは必ず誰かの役に立つはずです。

ヤマップ分析チームでも、みなさんの活動日記の分析を続け、さらに信頼性の高いロジックで危険な箇所を見つけることができないか、今後も挑戦を続けていきたいと思っています。

トップ画像:かっちんさんのモーメント投稿より

大平 香織

YAMAPスタッフ/データ分析エンジニア

大平 香織

YAMAPスタッフ/データ分析エンジニア

大学時代、森林学科研修の一環で北海道の雌阿寒岳に登ったことをきっかけに登山の魅力に気付く。新卒で製紙会社の研究職に従事したのち、ITの世界に憧れデータ分析エンジニアに転身。YAMAPのミッションである「自然をもっと楽しいものに、今よりずっと身近なものに」をデータの力で実現できるよう日々奮闘中!