YAMAPフォトコンテスト2020で特別賞に輝いた、雲海Lover/フォトグラファーことスズキゴウさんが、写真がもっと楽しくもっと上手になる方法を伝授してくれる本連載。第2回目は、山での撮影のために知っておくべき準備や知識についてです。前回の記事では思わぬ形で反響があったそうですが、今回も味を占めてアレが仕込まれている様子...!
山の写真をもっと楽しく上手に撮る方法 #02/連載一覧はこちら
2021.08.17
スズキゴウ
雲海Lover/フォトグラファー
第1回目の記事内のカレーネタが思わぬ大反響を生み、Twitterでは連載を読んだたくさんの人から「カレーを食べました🍛」という投稿が!行きつけのカレー屋さんから #プロスパイスチャージャー の称号を頂いている私も多分にもれず、先週の公開日にスパイスカレーを食べました!今週も連載を読んで、カレーを食べて、 #スパイスチャージ で乗り切りましょう!
ちなみに、地上は暑かったり涼しかったりの繰り返しですが、北アルプスの山荘スタッフたちのSNS投稿などを見ると山頂や稜線ではかなりの冷え込みがあり、8/11時点での北アルプス新越山荘の朝の気温はなんと5.2度。少しづつ秋の気配を感じるようになってきているようです。登山の際には防寒具をしっかり用意しないといけませんね。秋はすぐそこです!
さて、第2回目の今回は撮影の準備編ということで、私自身の経験をもとに、撮影に臨む前に知っておくべき心構えや最低限の知識をお話していきます。
お山での写真撮影といっても、登り方や撮影する場所、時間帯は人それぞれ。私の場合、撮影で狙う時間は基本3つです。
1.日の出前後
2.日の入前後
3.天の川、星が見える新月付近の夜
私のInstagramのギャラリーを見ていただくとわかる通り、基本は上記3つのシチュエーションが多いことがわかると思います。もちろん、満月でも大雲海だったり、月明かりが山を照らしていたり、場合によってはパール(満月が山頂と重なる)だったり、撮影シチュエーションはその時の条件に合わせて変わるので、上であげた3つの限りというわけではありません。ですが、基本的にはドラマチックで感動的な瞬間に出会える可能性が高いこの3つのシーンを狙ってお山を登っています。
勘のいい方はもうお気づきかもしれませんが、上記3つのシーンは基本的に1日の中でも気温が低い時間帯になります。ですので、真夏もダウンジャケット&ダウンパンツは必ず持参です。風が強かったりすると夏でも結構な冷え込みになることもあるので、私は念のためダウンはアウターとインナー用(フードなしの薄手)の2つ持ってくことが多いです。というのも、撮影にベストな時間帯やシチュエーションになるまで山頂で待機し続けたり、場合によっては天の川や星が見れる夜中の時間帯から日の出が登る朝まで5〜6時間山頂に居続けたりもするので、身体が非常に冷えます。そのときの計画にあわせて予想より少し多めの防寒着を持っていくことで、安心安全を担保して撮影に臨んでいます。
山での撮影といえば、三脚を思い浮かべる人もいるかと思いますが、三脚に関しては個人的な考えがあります。標高2500m以上のアルプスの山頂付近で撮影する場合、基本的には森林限界を超えるので、撮影場所に高い樹木が生えていることはほとんどありません。高さの低いハイマツ帯や岩陵帯が多く邪魔するものが無いので、撮影時には背の高い三脚を必要としません。むしろ小さいお花や岩などを前景に撮影することが多いので、地面から20-30cmの高さから撮ることが多く、ローアングル設定を素早く簡単にできる三脚のほうが機動力を発揮できると思います。私も高さがMAX100cmくらいの軽くて丈夫なカーボン製を使用しており、重さも700グラムちょっと(雲台を除く)と三脚としては超軽量の部類に入るので、テントを担いでの山行でも荷重負担が少なく助かっています。
ザックの中の持ち物に関しては、防寒着、着替え、カメラ機材、応急/緊急セット、シェラフ、テント、炊事セット、などカメラ機材と防寒着が多いこと以外は、基本的にみなさんが登山する際に持っていく内容とさほど変わらないはずです。とはいえ、登山時の荷物の重さで体力消耗も大きく変わるので、少しでもザックの中身は軽くしてお山に臨みましょう!
ここからはカメラ自体の基礎知識のお話をしていきます。みなさんはカメラを撮影する時、設定が難しそう、めんどくさいという理由で「オート」モードで撮影していませんか?もしくは絞り優先やシャッタースピード優先の「セミオート」モードの方もいらっしゃるかもしれません。確かに自動で設定してくれる機能は便利ではありますが、撮った写真をチェックすると、なぜかブレている、明るい部分が白飛びしている、などの理由でうまく写真が撮れなかった経験があるのではないかと思います。
せっかくお山に登って写真を撮ったのに、後で見返したらちゃんと撮れてる写真が無かった?!なんてことがないように、写真撮影の基本となる基礎知識を勉強して、その時のシチュエーションにあわせて自分でカメラの設定を行えるようになりましょう。もちろん、オート設定を否定しているわけではなく、千差万別のシチュエーションで撮影している中ではどうしてもオートでは対応できないシーンというのが出てきます。そんな時でも焦らずに冷静に最適な撮影が出来るようにカメラの最低限の知識を覚えて損はないと思います!
写真撮影の設定に必要な要素はたくさんありますが、ここでは設定の基本である「F値」「シャッタースピード」「ISO」の3つの関係性とセッティングについて、私の経験談から覚えておくべきポイントをご紹介します。
「F値」は、ボケに大きく関わります。例えば、自分の眼で近くのモノを見ている時に背景を意識すると、近くのモノがぼやっとボケているように感じませんか?反対に広々とした場所で横に広がる山脈や海岸の景色といった遠くにあるものに焦点を当てると、視界の中の焦点を均一に感じて平たい2Dのように見えます。その効果を設定するのが「F値」です。そしてその「F値」を小さくすると写真は全体的に明るくなり、値を大きくすると暗くなります。理由を詳しく説明すると長くなるのでここでは詳細は省きますが、知りたい方は「F値」でググってみてください!
つまり、値を小さくすると焦点ポイント以外がボケて全体的に明るくなります。ピントがあっているところはくっきりと、あっていないところがボケて見えるので立体感が出ます。カフェでスイーツを撮ったり、胃袋が掴まれるようなスパイスカレーのしずる感を引き出したり、近くのお花に焦点を当てたり、撮影対象物と背景がはっきり別れている時に活用しやすいです。逆に値を大きくすると焦点が均一になるため、広い風景写真などで活用しやすいですが、値が小さい時に比べて暗くなってしまいがちです。
そこでもう1つの値「シャッタースピード」で調整します。シャッタースピードはその名の通り撮影時に光を取り込む時間を指します。当然、光を長く取り込めば明るく、短く取り込むと暗くなります。F値を大きく設定して写りが暗すぎる時に、シャッタースピードを調整して適切な明るさにするというわけです。逆に言うと、F値を小さくして撮る場合は明るすぎてしまう(例えば、白飛びしてしまう)ことがあるので、その時はシャッタースピードを早くして光を取り込む時間を短くすることで調整します。
そして最後の値「ISO」は、デジタルカメラのセンサーで取り込んだ光を工学的に増幅させて明るくしてくれる便利な機能です。夜や明け方など太陽の光がない時間帯に活躍してくれる便利な値なのですが、値を大きくすればするほどノイズが多く出てしまうという弱点があります。
以上の知識を踏まえた上で、お山で景色を撮影する際のお手軽セッティングの手順を公開!
条件 : 日の出後や夕景などを山頂から広く山並みや稜線越しのお山を手持ちで撮影する場合(お山でよくあるシチュエーションを想定しました)
1.ISO100に設定
2.F値11-14くらいに設定
3.シャッタースピードを適正な明るさになるように調整
4.もし、3のセット時にシャッタースピードが1/125秒よりも遅い場合、シャッタースピードが1/125秒くらいで適切な明るさになるようにISOをあげる
もちろんカメラやレンズの性能や種類よって変わる部分はありますが、おおまかに上記の方法で調節しながら天候や風の強さなどのシチュエーション次第で微調整を行ってください。
私は山の写真に興味を持っている人から「どんなカメラ、レンズを買った方がいいのか」「どうやったらうまくなれるのか」といった質問や相談を受けることがよくあります。その時にお勧めしているのがカフェや行きつけのお店での練習です。
カフェで頼んだコーヒーやスイーツ、お料理がテーブルに置かれたあと、みなさんスマホで写真を撮ると思います。撮りますよね?(笑) その時にお持ちのカメラでマニュアルモードの練習をすると、具体的に3つの要素がそれぞれどういう役割でどういう相関関係なのかわかりやすく体感できると思います。
例えば、注文したスイーツやお料理に焦点を当てて、F値を動かしてみてください!そうするとF値が小さいと背景の照明や飾ってある額などがボケていき、F値を大きくするとだんだん暗くなっていき背景のボケがなくなっていくと思います。お好みのF値を決めたら上記で説明した手順通り、3のシャッタースピードを調節。基本的にカフェの照明は暗めに設定されていることが多いので、シャッタースピードが1/125秒だとちょっと暗いかもしれませんね。そんな時はISOを少しあげて適切な明るさにしてみてください。きっと素敵なカフェ写真が撮れると思います!
※明るさは全て同じになるようにLightroom現像で調整し、ノイズも除去済み
撮影協力
KING LION (写真はランチプレート2種盛り)
住所 : 神奈川県川崎市高津区下作延2-5-41
Tel : 044-857-1158
https://www.instagram.com/kinglionsri/
お山でいきなりのマニュアル撮影で失敗してしまうより、まずは生活の中での身近なところから練習していき、マニュアルでのカメラの設定に慣れてからお山でチャレンジしてみてはいかがでしょうか!
さて次回からはいよいよお山での撮影に関する具体的なお話です。どうやったら素晴らしい絶景に巡り会えるのか、どうしたら美しい山々の写真が撮れるのか、そのあたりを解説していく予定です。第3回もお楽しみに!
モバイル版Lightroomは全ての機能を使うには有料ですが、7〜8割くらいの機能は無料で使用できます。RAWを使った現像のスタートとして、とてもお手軽だと思いますので、ぜひ試しに使ってみてください。
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