一切経山(福島県)|瑠璃色の「魔女の瞳」と花咲く湿原を歩く日帰り登山

福島県と山形県の県境にそびえる吾妻連峰。「一切経山(いっさいきょうざん 1,949m)」は、そんな吾妻連峰の中でも特に美しい千変万化の風景が広がる魅惑のエリア。紅葉に染まる山肌や「魔女の瞳」とも称される美しい火山湖「五色沼」、高山植物が心を癒してくれる美しい湿原を歩くワンデイハイクをご紹介します。

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2021.09.06

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

山と山麓の特徴

一切経山は福島県と山形県の県境に連なる吾妻連峰の一座で、山頂のさらに奥に佇む火口湖・五色沼は、太陽光によって色が変化して見えることから「魔女の瞳」あるいは「吾妻の瞳」と称され、絶景ポイントとして人気です。コース途中の酸ヶ平(すがだいら)や鎌沼では夏、チングルマ、コバイケイソウ、ワタスゲなど多くの高山植物が花を咲かせ、桶沼周辺などに見られるネモトシャクナゲは福島県花でもある希少種。自生地は国の天然記念物にも指定され、名実ともに花の宝庫といえるのが吾妻連峰なのです。

この山は、山歩きのあとも楽しみがいっぱいです。東麓から南麓にかけては、1,400年以上の歴史があるといわれる土湯温泉をはじめ、微温湯(ぬるゆ)温泉、高湯温泉、幕川温泉などのいで湯が点在し、山歩きの前後にぜひ宿泊したいところ。土湯温泉に近い女沼では近年、人気の高まっているSUP(立ち乗りの水上ボード)やカヤックが楽しめ、福島市内に立ち寄る際は福島名物「円盤餃子」も外せません。いろいろあって時間が足りなくなりそうな一切経山の山旅を紹介しましょう。

北岸からの鎌沼。左の奥方向が姥ヶ原

湿原から岩礫、そして五色沼を望む頂へと変化に富んだ道を行く

一切経山への登山道から振り返った東吾妻山と鎌沼、酸ヶ平

今回ご紹介するのは、ビジターセンターのある浄土平を拠点に、青い水をたたえる池沼・湿原を経て大展望の一切経山山頂を往復するコース。初夏の新緑、夏の花、秋は紅葉と楽しみが多く、天気が安定していれば初級者でも問題なく歩き通せるでしょう。ただし、山頂から五色沼の往復や鎌沼から東吾妻山の往復・周遊をしたい場合、思いのほか時間がかかることもあるので、天気が悪化しそうな時や疲労が激しい時は、紹介したコースだけに留めておくほうが無難です。また、一切経山はいまも噴煙の上がる活火山。万一の噴火に備えての準備は怠らないようにしたいものです(火山に登る際の留意点はこちらから)。

噴煙を上げる一切経山の大穴火口

登山DATA

グレード:初級
日程:日帰り
歩行時間:3時間50分
歩行距離:8.1km
累積標高差:登り449m・下り449m
登山適期:6月上旬~10月下旬
アクセス:行き=JR東北新幹線福島駅→タクシー(約1時間)→浄土平。帰り=往路を戻る。マイカーは、東北自動車道福島西ICから国道115号、県道5・70号、磐梯吾妻スカイラインを経由して浄土平の駐車場(9:00〜16:00 一般500円)まで約30㎞。

YAMAPの該当地図はこちらから

浄土平~桶沼~姥ヶ原

ビジターセンターをはじめ、一般公開されている天文台としては日本一高い場所(約1,600m)にある浄土平天文台、売店などのある浄土平からいったん南下して桶沼を目指します。湿原を歩いて磐梯吾妻スカイラインを渡り、吾妻小舎方面には行かずにすぐ右折。ほどなく左へと桶沼に続く登り道が現れるのでここを左折。斎藤茂吉の歌碑が立つ桶沼展望台まではあっという間で、新緑や紅葉の頃は得も言われぬ美しさを見せてくれます。6月下旬前後なら、希少種のネモトシャクナゲに出会えるかも。

展望台から見た紅葉の桶沼

ちいたんさんの活動日記より/希少種のネモトシャクナゲはハクサンシャクナゲの変異種で雄しべが花弁化している

桶沼展望台からは西側の道を下ります。磐梯吾妻スカイラインを渡って浄土平に出たら酸ヶ平方面へと北上し、ビジターセンターから続く木道を左折。すぐに酸ヶ平・姥ヶ原分岐に出るので、ここは左に行きます。姥ヶ原へは樹林の道を登っていきますが、前半は急な木段なども現れるので、急がずじっくり歩きましょう。傾斜が緩んでくれば、十字路になっている姥ヶ原は間もなくです。

姥ヶ原~酸ヶ平~一切経山

姥ヶ原からは平坦な木道を歩いて鎌沼を目指しましょう。木道沿いにはチングルマやコバイケイソウが咲き、目を上げればこれから登る一切経山が間近に望めます。鎌沼から酸ヶ平へと続く木道沿いにはワタスゲやイワオトギリ、コケモモなどが咲き誇り、7~8月の花期(最盛期は7月中旬~下旬)に当たれば花好きは動けそうにありません。花々の競演にしばし時を忘れてみませんか。

鎌沼周辺に咲くハクサンシャクナゲ、イワカガミ、チングルマ、イワオトギリ(左上から時計回りに)

鎌沼から見た一切経山(右)

酸ヶ平に延びる木道を歩くとやがて酸ヶ平避難小屋分岐で、ここは左に。登り始めてすぐ、右手に酸ヶ平避難小屋が現れ、ここにはトイレ(チップ制)も設置されています。ひと休みして灌木帯の斜面を登っていけば、周囲に点々と草だけが生える岩礫の道となり、振り返れば鎌沼や東吾妻山、酸ヶ平などの大きな景色に歓声が上がることでしょう。ほどなく広い尾根道を行くようになり、山頂も視界に入ってきます。

山頂に向けて岩礫の尾根を登る

岩礫の道を登り続ければ、積み上げた岩山に山名板や木碑などが差し込まれた一切経山の山頂で、パノラマの頂から北へと少し歩を進めれば、お目当ての五色沼が眼下に瑠璃色の水をたたえています。ここから家形山(1,876m)に向けて北西へと下ると五色沼をより間近に望む鞍部に至りますが、往復には小一時間かかるうえ、急な斜面があって登り返しもたいへんなので、ここは体力・天気と相談してください。

(左)魔女の瞳とも呼ばれる五色沼の絶景。(右)そらさんの活動日記より/一切経山山頂

一切経山~酸ヶ平~浄土平

山頂からは来た道を酸ヶ平避難小屋分岐まで下ります。取り立てて急傾斜ではありませんが、岩礫の道なので小石に乗ってのスリップには十分な注意が必要です。分岐からは左へと木道を歩きましょう。往路で通った酸ヶ平・姥ヶ原分岐を経て、浄土平まで30分強で下ることができます。

ビジターセンターの立つ浄土平から見た大穴火口

その他のコース

①東吾妻山周回


鎌沼の南になだらかな姿で佇むのが東吾妻山(1,975m)。吾妻連峰最高峰の西吾妻山(2,035m)、一切経山とともに連峰を代表する山のひとつです。通過困難な箇所はなく、山頂からの展望もすばらしい山ですが、予想以上に時間がかかると思ってください。姥ヶ原からの山頂往復で1時間20分ほど。姥ヶ原から山頂、景場平、鳥子平、吾妻小舎を経て浄土平までは約3時間半ほど。紹介したコースに加えて東吾妻山も登りたい場合、酸ヶ平・姥ヶ原分岐から右へと酸ヶ平に行ってまずは一切経山に登り、その後、鎌沼、姥ヶ原を経て山頂に立つのがおすすめです。

浄土平から見た、なだらかな姿の東吾妻山

②西吾妻山への大縦走


炊事用具、食料、シュラフ等必携の上級者向け。高層湿原のお花畑、オオシラビソやブナの原生林、湿原に点在する池塘、磐梯山や飯豊連峰の大展望など、吾妻連峰の美点がすべてそろったコース。浄土平から西吾妻山まで8時間前後はかかるので、途中の明月荘か西吾妻小屋(いずれも避難小屋)に泊まることになります。下山は複数のコースがありますが、交通の便を考慮すると西大巓(にしだいてん)から福島側のグランデコスノーリゾート、または西吾妻山から山形側の天元台・白布温泉に下るのがオススメです。

stromboliさんの活動日記より/広々とした弥兵衛平の湿原

③吾妻小富士火山縁周回


吾妻小富士(1,707m)は浄土平の東にある吾妻連峰のシンボル。8月末に木段工事が終了し、以前のように火口縁を1周できるようになりました。浄土平からの往復(+火口縁1周)で約1時間。展望地からは噴火口や福島市街が望めます。登山は雲海が出る可能性のある日がオススメ。雲海は年間を通して発生しますが、雨上がりで弱風の夜明け前~早朝、あるいは湿った空気が流れ込む朝に見られることが多いようです。

大きな噴火口が口を開ける吾妻小富士

下山後のお楽しみスポット

磐梯朝日国立公園内「女沼」で楽しめるSUP/カヤック体験(写真提供:土湯温泉観光協会)

吾妻山中に点在する湿原で花を愛で、神秘的な火山湖を巡ったあとは、開湯1,400年の歴史を持つ福島市の名湯・土湯温泉へ。お湯にゆったり浸かって山歩きの疲れを癒した翌日は、温泉街をそぞろ歩いてカフェや酒蔵で小休止、さらに足を延ばして観光果樹園でリンゴ狩り、女沼でSUP/カヤック体験と盛りだくさんに楽しんでみてはいかがでしょう。ランチタイムには、福島市名物「円盤餃子」でパワーチャージも忘れずに。

土湯温泉街

吾妻連峰の東・標高約450m地点にある土湯温泉は、遠刈田、鳴子とともに日本三大こけし発祥の地としても知られています。その昔、荒川のほとりを鉾(ほこ)で突くと湯が湧いたことから「突き湯」(転じて土湯)と名づけられたとの伝説も。温泉街には日帰り入浴のできる旅館と公衆浴場があり、単純温泉、単純硫黄泉、炭酸水素塩泉などさまざまな泉質を楽しめます。温泉街を見渡す展望台や巨大こけし、足湯などを巡る約1時間の街歩きもオススメです。詳細はこちら

東北道福島西ICから車で約15分、荒川沿いに大小の旅館・ホテルが並ぶ土湯温泉街(写真提供:福島市観光交流推進室)

おららのコミセ

「自分たち(おらら)の小さなお店(コミセ)でコミュニティを育みたい」との情熱が詰まったカフェ。店内には円形の釣り堀があり、温水で養殖した「つちゆ湯愛(ゆめ)エビ」の釣りが楽しめ、釣り上げたエビは店内のコンロで焼いて食べられます。ガレットなどの発酵フードや自家製甘酒などメニューが充実しています。詳細はこちら

(左)土湯温泉街にあるユニークなカフェ「おららのコミセ」(右)カウンター横の水槽でエビ釣りができる(写真提供:いずれも福島市観光交流推進室)

おららの酒BAR・醸造蔵

土湯温泉街の中心部に建つ醸造所。自社生産の米を使った「どぶろく」(甘口と辛口の2種類)と市内の果樹園で栽培されたリンゴを使った「シードル」を造っています。ここでの販売以外に上記の「おららのコミセ」でも楽しめ、「道の駅つちゆ」でも購入できます。詳細はこちら

(左)おしゃれな建物が目を引く、どぶろくとシードルの醸造所。(右)甘酒やりんごジュースなども飲める(写真提供:いずれも福島市観光交流推進室)

みちのく観光果樹園のリンゴ狩り

一切経山登山口の浄土平に向かう県道70号沿い、福島市庭坂地区にある「みちのく観光果樹園」では、約3万平方メートルの広大な敷地でさまざまな果物を栽培し、季節ごとの果物狩りができます。10月初旬〜11月下旬にはリンゴ狩り、6月上旬〜7月初旬にはサクランボ狩り、7月上旬〜10月初旬にはモモ狩りなどその種類は多種多様。ただし現在(2021年8月時点)は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、果物を直接もぎとるのではなく、果樹園であらかじめもぎ取ったものを園内で食べ放題の形になっています(要予約)。果樹園では果物狩りのほか、産地直送も行っていますので、贈り物にもぴったりです。詳細はこちら

サンフジなどのリンゴを食べ放題(写真提供:福島市観光交流推進室)

女沼でのSUP/カヤック体験

土湯温泉街から車で10分ほどの女沼で、SUP/カヤック体験ができます。座って漕ぐカヤックに対し、SUP(Stand Up Paddleboard)はボードの上に立ちパドルを漕ぐウォータースポーツ。体験時間は約2時間で、時間内であればどちらか一方のみでも両方でもOKです。2人乗りもでき、子どもも参加できるので、親子で挑戦してみてはいかがでしょう。詳細はこちら

ふたり乗りも楽しいカヤック体験(写真提供:土湯温泉観光協会)

SUPもカヤックも小学生以上から体験できる(写真提供:土湯温泉観光協会)

餃子酒家 照井

福島市は、フライパンの形に合わせて丸く並べて焼いた「円盤餃子」が名物で、餃子のお店が多くあります。1953(昭和28)年創業「照井」の「円盤餃子」は、先代店主が第二次世界大戦中に中国で味わった餃子を再現すべく試行錯誤を繰り返し作り上げたものです。餡・皮・タレ・焼き方すべてにこだわり、注文を受けてから餡を自家製の薄皮で包み、多めの油で焼き上げた餃子はパリッとした食感がやみつきに! 福島駅東口店をはじめ、福島市内に4店舗展開し、ランチ営業の店もあります。詳細はこちら

先代から受け継がれた味を守り続ける「円盤餃子」(写真提供:餃子の照井)

果物もいい、温泉もいい、餃子もいい、花もいい、そして山もいい

今夏、東京オリンピックのソフトボールで日本と対戦したオーストラリアの監督が福島産のモモ「あかつき」を大絶賛した話がマスコミを賑わしました。噂によるとひとりで6個も食べたとか。さすが果物王国と言いたいところですが、ここにはモモに匹敵する魅力もいっぱい。山歩きとセットが楽しい土湯温泉や高湯温泉など山のいで湯はもちろん、市北部の飯坂温泉は鳴子温泉、秋保温泉(ともに宮城県)とともに奥州三名湯に数えられる名湯です。福島市のシンボルである信夫山(268m)には羽黒、月山、湯殿の三神社が祀られ、花見にハイキングにと市民や観光客が集う信仰の山。花見といえば「福島の桃源郷」と呼ばれる花見山。また、福島市名誉市民の作曲家・古関裕而氏を記念した「古関裕而記念館」は今年3月にリニューアルしたばかりで最新の立体音響も体験できます。一度にすべて訪ねるのは無理として、登山後に温泉に入って街で円盤餃子を食べて宿泊、翌日は福島市街なか交流館や信夫山を巡って車中の人になる。こんな旅はいかがでしょう。

文:森田秀巳、後藤厚子


福島の絶景に会いに行こう!


雄大な山々と美しい海が広がる魅惑のエリア、福島県北東部。震災からの復興も目覚ましいこのエリアを舞台に、大好評のYAMAPピンバッジキャンペーンが2021年9月7日(火)〜 11月7日(日)にかけて実施されることとなりました。舞台となるのは、「一切経山(いっさいきょうざん・福島市)」「安達太良山(あだたらやま・二本松市)」「霊山(りょうぜん・伊達市)」「みちのく潮風トレイル相馬市ルート(相馬市)」の4トレイル。東北の秋の絶景を巡り、限定ピンバッジをGETできるこの機会をお見逃しなく!

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。