登山初心者が、3ヶ月で白馬縦走へ|YAMA LIFE CAMPUS登山基礎編参加レポート

YAMAPが国内有数の旅行代理店「クラブツーリズム」とコラボして、この春スタートさせた新たな取り組み「YAMA LIFE CAMPUS」。様々な分野で活躍する山のエキスパートを講師として迎え、オンライン講習と山でのフィールドワークを掛け合わせたカリキュラムを実施。受講生に登山スキルや山に関する知識を磨いてもらおうという取り組みです。

今回ご紹介するのは、歩き方から地図の読み方、尾根や谷などの形からルートの状況や山全体を推測する方法まで、山登りをより安全に、そしてもっと楽しくする知識を学べる「YAMA LIFE CAMPUS登山基礎編」の開催レポート。プロカメラマンの横田裕市さんによる美しい写真と丁寧な内容です。

2021.10.01

横田 裕市

風景写真家

INDEX

私は2010年からプロ写真家として活動し、山の風景写真を撮るため2019年夏から本格的な登山を始めた。近年はメディアや旅行会社、地方自治体等をクライアントとして主に風景を撮影している。
私は写真を通して「登山をしてみたい」と感じてもらえるような”登山中の行程で出会った風景”を主に撮影している。

九州・二丈岳登山にて撮影した1枚(2019年9月)

プロから登山のことを勉強したいと考えていた矢先に

これまで写真は独学でプロとして活動してきたが、登山に関しては万が一が命に関わる大自然が相手。いつもどこかで一抹の不安が胸の中にあった。いつかちゃんとプロに教えを請う必要性を感じていた。そんな中、YAMAPのTwitterで見かけ気になっていた、「YAMA LIFE CAMPUS登山基礎編」のライターとしてジョインしないかとYAMAPのS氏からお声掛けいただき、有り難いことに「登山基礎編」に参加することになった。

このYAMA LIFE CAMPUS登山基礎編に参加することで、私が以前から知りたかった登山中の歩行技術や山ならではの注意点、登山装備などの基礎的な情報などを網羅することができた。本記事では、そんなYAMA LIFE CAMPUS登山基礎編での受講の様子を紹介していく。もちろん、山で撮影した写真の数々もお楽しみに。

とても充実した3ヶ月の講習

東京校担当講師の山岳ガイドである佐藤 優(さとう ゆう)講師は、国内外の山々をフィールドにガイドやツアーリーダーをされてきたガイド歴20年以上のベテラン。とても気さくな方で、3ヶ月間楽しく学ぶことができたのは何より素晴らしい講師に恵まれたことが大きい。

東京校・九州校ガイド担当の佐藤優講師

3ヶ月間のカリキュラムは、オンライン講習6回とフィールド講習が3回。
「スタートアップのオンライン講習」→「登山」→「フォローアップのオンライン講習」を1サイクルとして1ヶ月で実施し、これを3回繰り返していく。オンライン講習は予習・復習であり、フィールド講習での学びを深めることが狙いだ。

参加者は事前にFacebookグループに招待され、全体の情報共有や質疑応答はそこで行う。オンライン講習で使うツールはZoomだ。各自のデバイスからログインし参加する。

【第1講座 テーマ:登山装備と歩き方を見直そう 】

実地講習:那須三山(1泊2日)

初回のオンライン講習は登山の基本から。「解けにくい靴紐の結び方」「山の歩き方」「必要な装備」大きくこの3つを学習できる大事な内容だ。まずは受講生15名の自己紹介。参加者の登山キャリアは、始めて半年くらいの方から10年くらいの方まで、幅広く登山を楽しんでいる老若男女が集まった。

講師の佐藤先生指導のもと、基本的な登山装備の説明や登山靴の選び方などを教わる。その後実地講習(登山)の事前説明を受け、必要な水分量の計算方法や熱中症、足がつった際の対策など細かい部分も学んだ。

靴の選び方をレッスンする様子

実地講習の舞台は栃木県北部にそびえる那須三山。

午前10時に那須塩原駅に集合し、貸切バスで茶臼岳にある那須ロープウェイ山麓駅へ向かう。山頂駅へ到着後、食事を済ませ全体の行程や登山靴の結び方や歩き方の注意点についての講習があった。参加者はA,B,Cの3チームに分かれ、配置をローテーションしながら歩く。

解けにくい靴紐の結び方を教わっている様子

登山中適時アドバイスをもらいつつ茶臼岳・朝日岳を登頂。

「まずは歩幅を小さくすることを意識しましょう。歩幅は普段の半分くらいのイメージで。そうすると地面を蹴らなくなる、滑り防止になるし、脚への負担が減るんです」

教わったことを頭で反芻しつつ実際に歩いて覚えていく。悪天候が懸念された1日だったが、幸いにも雨が降る前に宿に到着できた。

朝日岳を登頂し終えて下るところ。ザックは分岐点に置いて身軽に登頂

宿泊した煙草屋旅館。風情のある佇まい

私はあまり山小屋に泊まり慣れていなかったのだが、宿の設備が行き届いているおかげで快適に過ごすことができた。宿泊施設が快適な山小屋というのも、今回の講座の楽しみのひとつだ。

2日目の出発前には、準備運動に加え必要な装備にどんなものがあるか先生のザックの中身を参考に見せてもらった。実際に先生がどのような装備や持ち物で登山しているかというのは、大変参考になった。

煙草屋旅館の野天風呂は雄大な那須の山々と広がる空を堪能できる

ザックの中身を説明する佐藤先生

2日目は三本槍岳(1,917 m)を登頂し、山頂で食事を済ませ山麓駅側の登山口へ。道が長くなかなか根気の要る下り道だったが無事に下山。最後は温泉でリフレッシュし帰路についた。

今回の登山では、私をはじめ多くの受講生が、初めてパーティー登山を経験した。初めて故の不安もあったが、登山中の隊列の組み方や休憩の取り方、ペース配分など、パーティー登山ならではの知識を得ることができたのは、大いに参考になった。

パーティ登山ならではの登山道を活かしたグループカット

茶臼岳、朝日岳、三本槍岳、全ての登頂を終えて下山する様子

フォローアップ講習では、歩き方や登山装備の振り返りを中心に進行。受講生からは「行動食を多めに持ちすぎてしまった」「携帯トイレを持参すれば良かった」といった実際に登山しなければわからない気付きが多く出た回となった。

歩き方の復習

【第2講座 テーマ:疲れにくい歩き方を身につけよう 】

実地講習:仙丈ヶ岳(1泊2日)

第1講座の内容を振り返りつつ、より難易度の高い山への挑戦となる第2講座。「登りの歩き方」「下りの歩き方」をより意識して標高3,033mの仙丈ヶ岳を登る。

スタートアップ講習では班に分かれグループディスカッション。「14時に宿に到着するためには何時に出発するべきか?」を議題に、事前にYAMAPの登山計画機能を用いて各自考えてきた内容を発表した。

YAMAPの登山地図を元に事前案内をする様子

最後にはクラブツーリズム女性スタッフが講師となり、「女性のための登山講座」が開かれ、女性特有の登山における懸念点を相談する場が設けられた。男性だけでは見えにくいデリケートなケアがあるのも、YAMA LIFE CAMPUSの素晴らしさのひとつだ。

変わって、実地講習初日。この日は、明日からの本格的な登山を前に、北沢峠のこもれび山荘に宿をとった。雄大な南アルプスの山々が、森の奥から顔を出す。明日の仙丈ヶ岳へ期待が高まっていった。

北沢峠へ向かう道中、横目に広がる南アルプスの壮観な姿

午前4時ヘッドライトを装備し、登山開始

夜明けと共に遠くにそびえる北アルプスの姿が浮かび上がる

2日目は最高の晴天。山頂へ向けてぐんぐんと山を登っていく。稜線に上がった瞬間、歓声が上がった。槍ヶ岳や穂高岳を一望できる贅沢な山岳風景に皆が感動していた。

山頂に近づくにつれ道も険しくなり、段々と足取りが重くなっていったが、チーム全員で、無事に仙丈ヶ岳に登頂を果たすことができた。

目の前に見えるカール状の稜線を歩き、奥にそびえる仙丈ヶ岳山頂へのラストアタック

仙丈ヶ岳山頂への道と眼下に広がる絶景

仙丈ヶ岳山頂にて集合写真

下山開始直後、ライチョウの親子に遭遇。さすがの保護色。画面中央には巣と卵も

クリンソウの花畑に見送られ、ここからバス乗り場の歌宿まで最後のもう一踏ん張り

フォローアップ講座では、「晴天に恵まれ、30座近く百名山が見えた」と写真から山々の名前を教えてもらった。

受講生が撮影した写真に分かりやすく山の名前を記入してくれた

その後、フォローアップ講習では受講生全員がそれぞれ感じた反省・課題点の共有。標高が高い山での呼吸法や登山後の筋肉痛予防策など、今回も学びどころが盛り沢山。最後には登山にはつきものである「虫刺され」についてもしっかり対策をするよう詳しくレクチャーしてもらった。 

【第3講座 テーマ:岩場の歩き方を学び、北アルプスを縦走しよう!】

実地講習:白馬岳(2泊3日)

いよいよ第3講座。
 
今回は2泊3日に渡る夏山山行のため、熱中症や脱水対策についてもアナウンスがあった。なかなか改めて学ぶ機会もなかったため、非常に参考になった。

熱中症と脱水予防に関するレクチャー。水を豪快にかける私の写真が起用された(笑)

最後の実地講習では、これまで全て雨天を回避していた我々もついに悪天候に遭遇。荒天に濃霧と、天候の変化も含めてバリエーションに富んだ学びの多い内容。講座を締めくくるには相応しい山行となった。

1年を通して溶けない雪渓を越えていく

乗鞍岳を過ぎたあたりから雨が降り始め、ザックカバーと雨具を装備して山荘へ

初日で歩いた栂池自然園〜乗鞍岳間のコースではなんとか雨を免れたものの、明けて2日目、白馬大池山荘から白馬岳に向かうコース上では、残念ながら徐々に悪天候が進みガスに包まれてしまった。しかし、時折雲の隙間から日が差し込み、美しい風景に出会うことができた。

雲の切れ間から差し込む光に照らされる山腹

幻想的な光に包まれる白馬大池と山荘

徐々に雲に飲み込まれていく稜線

濃霧に包まれる中で、なんとか白馬山荘に到着。白馬山荘は800人が宿泊可能な日本最大の山小屋である。昼食・夕食を各自済ませて3日目に備えた。夜には談話室にて最終日の案内や荷物の軽量化についてレクチャーがあった。

3日目は予定通り蓮華温泉へと下山。今回は行程にもゆとりがあったためか、比較的余裕がある状態で下山できたように思う。秘湯と呼べる蓮華温泉は素晴らしく、まさに下山後のご褒美。メンバー全員で喜んで温泉を堪能した。

最後の講座だけあり、悪天候の登山から終わりの秘湯堪能まで盛り沢山。これまで学んだことを活かし充実度の高い山行となった。

3日目。濃霧と強風の中、最後の出発

横から強風が吹き荒れる稜線上を注意しながら進む

霧が晴れて姿を現した美しい稜線

蓮華温泉の野天風呂の1つ。黄金湯

最後のフォローアップ講座は全員で画面越しに乾杯をして、各自飲みながらの受講となった。私は YAMAPから受講者に向けて事前に送付されていた「おつかれ山ビール」で乾杯をした。

内容は、白馬岳の振り返りと3ヶ月間の講座全体で学んだこと・良かったこと・今後学んでみたいことがテーマ。メンバー同士で次に行きたい山を、参加者全員で発表した。

私はこの時の皆の話が好きで、アーカイブ映像を何度も繰り返し視聴している。

「雪山やテント泊に挑戦したい」
「実際に様々な山を登ることで最適な装備を学べた」
「山の歩き方が本当に勉強になった」
「パーティー登山を経験できて良かった」
「初めて3,000m級の山を登山できて良かった」

挙げたらきりがないのだが、全員が充実した経験・学びを得ることできたと自信を持っていえる3ヶ月間だったように思う。

フィールドワークを通して山の仲間も

3ヶ月の講座を経て、白馬岳からの最後の下山も余裕のあるメンバーの笑顔

私自身よかったこととして、一緒に登山が楽しめる老若男女の幅広い価値観・世代の登山仲間ができたことは、とても嬉しい。講座で得た知識とはまた別の、特別な財産だ。

最後の受講生達の言葉がとても印象的だった。

「山好きの友人がたくさんできて嬉しい」
「みんな良い人ばかりで、山に一緒に行ける仲間ができて良かった」
「スタッフから受講生までみんな人柄が良い人ばかりで安心して楽しめた」
「山のことをたくさんお話できたり、自分が元気になれた」

講座修了後も東京校Facebookグループ内では今後の登山のお話が続々と出ている。ありがたいことに私にもお誘いのメッセージをもらったりと、これからの登山がますます楽しくなる予感がしている。

仙丈ヶ岳山頂にてチームでの集合写真

基礎的な登山スキルをつけることで広がる楽しみ方

3ヶ月間の講座で実に多くのことを学んだ。

その中でもやはり私にとっては「解けにくい靴紐の結び方」「登りと下りの歩き方」は、今後一生活用できる登山スキルになることだろう。

余談だが、講座修了後の9月上旬に、北海道の利尻山を訪れた。そこでも学んだことを十二分に活かし山行を楽しむことができた。これまで写真撮影をしながら登ると、どうしても標準のコースタイムをオーバーしていたのだが、今回初めてコースタイムを下回る早いペースで登頂を果たせた。下山の際にも、以前よりも脚の疲労が軽減されていることを実感した。

脚の疲労を抑え、下山後の筋肉痛予防もばっちり。ソロで歩くことで改めて成長を実感できた。ここまで自己採点が満点に近い山行ができたことは、まさしく「YAMA LIFE CAMPUS」 のおかげだ。知識・実践力共に登山に関する基礎力が向上した実感がある。

これから本格的に登山を始めたい。今よりももっと登山を楽しみたい。独学で登山を楽しんでいるけれど不安がある。老若男女関係なく、登山という趣味から話の合う友人・仲間が欲しい。そんな風にお考えの方はぜひ「YAMA LIFE CAMPUS」の門戸を叩いてみてはいかがだろうか。

カリキュラムも充実しておりスタッフが素晴らしい方ばかりなのもまた魅力。

本当に充実した3ヶ月だった。これが山をもっと好きになる自己投資のきっかけになれば幸いである。

横田 裕市

風景写真家

横田 裕市

風景写真家

福島県出身 85 年生、東京都在住の写真家。雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ 繊細な絵を得意とする。プロとして10年のキャリアを持ち、主に商業向けに国内外の風景を撮影。Appleでの広告採用や国際フォトコンテスト ipa2016 での部門優勝、海外メディア 掲載等、国内外問わず活動の幅を広げている。今秋、TAMRONの新作レンズ広告撮影を担当。全国でSONYのセミナー講師を務める。20 ...(続きを読む

福島県出身 85 年生、東京都在住の写真家。雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ 繊細な絵を得意とする。プロとして10年のキャリアを持ち、主に商業向けに国内外の風景を撮影。Appleでの広告採用や国際フォトコンテスト ipa2016 での部門優勝、海外メディア 掲載等、国内外問わず活動の幅を広げている。今秋、TAMRONの新作レンズ広告撮影を担当。全国でSONYのセミナー講師を務める。2019 年ソニーイメージングギャラリー にて初写真展「フィンランド 冬の光」が大成功を収め、全国で巡回展を開催。

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