登山の快適性を大きく向上させる「軽量サブシューズ」について考える

皆さんは登山に行く際、家を出てから帰ってくるまでずっと同じ登山靴を履いていませんか? 重い登山靴を履き続けると足が疲れ、やがてそれは全身の疲労感にもつながってしまいます。今回の「旅する道具偏愛論」のテーマは、そんな足の疲労問題を解決する「サブシューズ」について。百戦錬磨の低山トラベラー大内征氏が、軽量でリラックスできるサブシューズをご紹介します。

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2021.12.24

大内 征

低山トラベラー/山旅文筆家

INDEX

“もう1足”で向上する、あなたのクオリティ・オブ・ハイク

山小屋に泊まる時、あるいはテント泊の時、みんな“足下”はどうしているだろうか。ぼくは泊まりの山行には必ず厚手の靴下を予備に持っていく。だって、長い時間を歩くと靴下は汗で蒸れてしまうし、そんな状態で登山靴を脱げば、今度は冷気にやられて足先が冷たくなるのだから。ゆえに、山小屋やテントにいる間だけでも洗いたての新しい靴下で過ごすと、サラサラしていて超快適。翌朝はその靴下でスタートしてもいいし、いったん脱いで帰りの温泉後の着替えにとっておいてもいい。

ところが、いつしかぼくは靴下に加えて靴を“もう1足”持つようになった。というのも、とある避難小屋でダウンシューズに履き替えてぬくぬくしている人に影響されたり、ザックのサイドポケットにベアフットを無造作に突っ込んでるハイカーがかっこよかったり、北アルプスや奥秩父などのテント場をサンダルで快適に過ごす人を真似てみたりするうちに、それらの“もう1足”がさらなるクオリティ・オブ・ハイクの向上に寄与してくれると思ったから。

そんなわけで、今回は「サブシューズ」について考察したい。なくても困らないけれど、あると格段に便利な“もう1足”の靴のことである。とはいえ、どうせ持つなら軽い方がいいし、ザックにうまく収まる相棒を探したいところだ。

山小屋、避難小屋、コテージ、ゲストハウスに「ダウンシューズ」

登山道具の中でも、ダウンシューズは物欲を刺激するアイテムのひとつだろう。毎年どこかしらのアウトドアブランドが新作を出していて、軽量化が進み、着用感やデザイン性に優れ、どんどん進化している感がある。

これが本領を発揮する場面は意外と多い。建築構造や周辺環境などにより断熱が行き届かないタイプの山小屋や避難小屋はそのひとつだろう。特に新型コロナウイルスの影響で、共用する道具をできるだけ減らしている施設は多いから、スリッパ代わりにもなる。また、利用者側としても直接的に自分の身体に触れるものは持参するという習慣もできつつある。今後、山小屋に泊まるときはマイシーツとマイシューズ(スリッパ)が当たり前のエチケットになるかもしれない。

このRabのDown Hut Slipperの重量は両足でわずか195gほど(実測値)。なのに650フィルパワーのダウンがぎっしり封入されていて、とてもあたたかい。そのうえ耐久性と撥水性を備えたナイロン生地がタフな作りを実現している。

先月とあるゲストハウスで使ってみたところ、たまたま隣り合わせた旅人につまかって、このダウンシューズについてずいぶん質問を受けた。どうやら各地を転々と車旅しているらしく、車中泊やテント泊ばかりで身心が休まらないという理由で、宿泊費の安い宿やキャンプ場のコテージにときおり泊まるのだそう。しかしそういう宿の多くは床が冷たいのだと、深くため息をついていた。身心を休めたくて屋根のある施設を求めたものの、足元が冷たくて困る、そんな時にこそこのダウンシューズはよさそうだと褒めちぎっていたのが印象的だった。彼、あの後きっと買っただろうな。

夏山テント泊、川遊び、ときには山歩きを「ワラーチ」で

ワラーチを愛用しているハイカーは意外と多い。ぼくの周囲の山仲間にも愛用者はとても多く、中でもトレイルランナーの支持が熱い。

ワラーチとは、メキシコの先住民タラウマラが履いているワラチェという簡素な履物をもとに発案されたサンダルのことだ。彼らはこれを履いて日常的に長距離を走るそうで、そんなことからワラーチを履いてトレイルを走ることや歩くことが注目された、といういきさつがある。

つまり、これは単なるプロダクトではなく、カルチャーそのものだということ。既製品を購入する人だけではなく、自作を楽しむ人がいることも、そうした背景があるからだろう。山や街で見かけると、履いている人がお互いに意識し合うのも、なんだかくすぐったい。

ぼくはBEDROCK SANDALSの「Cairn 3D PRO II」を愛用している。以前、甲府の名店SUNDAYに遊びに行った際、足の指で大地をつかみながら歩くことや高低差のないソールで歩くことの哲学をオーナーの石川さんに熱く説かれ、気がついたら手に持ってお店を出てきていた(もちろん購入です)。

ところで、写真を見て気がついた人はなかなか鋭い。このサンダル、つま先とかかとのソールの厚さがほぼ同じなのがわかるだろうか。このように高低差がないソールの形状をゼロドロップという。日ごろ履いているかかと側が高い靴とは異なり、裸足に近い感覚で地に足をつけるから、歩行のトレーニングにも良いのだという。いささか高い買い物だったけれど、ぼくはこの歩き心地にすっかりハマってしまった。いい買い物でした、いつも情熱とユーモアを交えた説明をありがとうございます、石川さん! 毎度財布の紐が緩みっぱなしです。

ちなみに、重量は両足で618g(実測)。ぼくは自作したバンジーコードと留め具で、写真のように束ねて持ち歩いている。来年の夏山縦走でも大活躍すること間違いなしだ。

つま先の保護がうれしいリラックスサンダル

自宅でも、キャンプ場でも、つま先をぶつけることが多い。年だからか、単なる不注意なのか。だから、つま先が保護されるタイプのサンダルは好みなのだ。というか履いてて安心できる。

その点、もうずっと愛用しているKEENのNEWPORTシリーズは、これまで2足を履きつぶしたほどに溺愛している。同じようなタイプでもう少し軽いものはないだろうかと探していたところ、このサンダルを発見した。見た目以上に軽量なイノヴェイトの「ROCLITE 190」は、今年かなり出番の多かったサンダルだったかもしれない。

もともとは、トレイルランニングのレース前後に履くリラックス・サンダルとして開発されたもの。履いててストレスを感じないのが嬉しいし、なによりこれもつま先の安心感が◎なのだ。軽すぎてちょっと靴の中で足の位置がブレるので、ぼくはYAMAPのインソールをいれて使っている。それでも両足で470gとかなり軽量。持ち運びは、ミステリーランチのクイックアタッチゾイドバッグ。見ての通り、ぴったり収納できる。シンデレラフィットとはこのことだ。

電車移動、車の運転、街歩き、冬も重宝する「ベアフット」

自宅から登山口までの移動中、足元をリラックスさせておきたいという意見はよく耳にする。たしかに自宅との往復すべての行程で登山靴を履きっぱなしなのは足がつらい。車の運転をするならなおさらのことだし、山のあとに街歩きをしたり、それが冬場だったりすると、サンダルではいささか不安になるだろう。

そんなとき、ぼくはメレルのベアフットシューズ「MOVE GLOVE」を持ち歩く。楽に履ける気軽さがありつつも、足全体を包み込む見事なフィット感。しかもソールがゼロドロップ。そんな特長が“裸足”を意味するベアフットという呼び名に表れているのだ。収納するときはペッタンコに潰せばいい。重ね合わせてザックのサイドポケットに突っ込んでおけば、ぼくも晴れてあのとき目撃したかっこいいハイカーの仲間入り、、のはず。

重量は519g(両足、実測)。このビブラムソールは滑りにくさ満点で、めちゃめちゃ優秀だということも付け加えておきたい。

さて、山旅の相棒として持参したいもう1足の靴、登山靴を脱ぐときに履くサブシューズを考察してきた。使い方は人それぞれだし、そもそも持たなくても困ることはない。ぼく自身、そのむかしはどんな山行になろうともサブシューズを持つことは皆無だった。しかし、ここ数年の登山道具の進化は目覚ましく、軽量でコンパクト、収納方法なども工夫されたデザインになっていることが、サブシューズを持つ前向きな材料になったことは間違いない。

ちなみに、ぼくはふだん28cm~28.5cmの靴を履いている。本文中の重量は、そうしたサイズ感を念頭にして読んでほしい。

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文・写真
大内征(おおうち・せい) 低山トラベラー/山旅文筆家

大内 征

低山トラベラー/山旅文筆家

大内 征

低山トラベラー/山旅文筆家

歴史や文化を辿って日本各地の低山をたずね、自然の営み・人の営みに触れる歩き旅の魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の楽しみ方について、文筆・写真・講演などで伝えている。 NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」コーナー担当、LuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」番組パーソナリティ。NHKBSP「にっぽん百名山 ...(続きを読む

歴史や文化を辿って日本各地の低山をたずね、自然の営み・人の営みに触れる歩き旅の魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の楽しみ方について、文筆・写真・講演などで伝えている。

NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」コーナー担当、LuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」番組パーソナリティ。NHKBSP「にっぽん百名山」では雲取山、王岳・鬼ヶ岳、筑波山の案内人として出演した。著書に『低山トラベル』(二見書房)シリーズ、『低山手帖』(日東書院本社)などがある。宮城県出身。