ヤマップ×クラブツーリズムのタッグにより2022年2月〜4月の3ヶ月に渡って開催された「YAMA LIFE CAMPUS 雪山編」。雪山に興味はあるけれどちょっと不安...。そんな方に向けて基本的な心構えから登山技術、装備、服装に至るまで丁寧にレクチャーし、雪山デビューをサポートしてくれる本スクール。各山域で降雪量の多かった今年、どんなカリキュラムで実施されたのでしょうか? YAMAP MAGAZINEでもおなじみのライター、武石綾子さんによる参加レポートをお届けします。
2022.06.04
武石 綾子
ライター
四季折々、それぞれの季節で全くと言っていいほど異なる表情を見せる山。
「どの季節に登るのが好き?」と問われたら私は必ず「冬!」と答えます。一面に広がる白銀の世界はまさに絶景そのもの、そこにしかない美しさは多くの登山者を魅了します。とは言え、他の季節とはまったく気候条件も異なり、最初の一歩を踏み出しにくいのもまた事実。「登ってみたいけど不安…」そんな雪山ビギナーに寄り添い、そっと背中を押してくれるのがこの企画「YAMA LIFE CAMPUS 雪山編」。オンライン講習と山でのフィールド講習をかけあわせ、3ヶ月間にわたり雪山のイロハを学ぶ登山スクールです。
YAMA LIFE CAMPUSの期間は3ヶ月。オンライン講習とフィールド講習を通じて徐々にステップアップしていきます。
【第1講座・2月】雪山の基礎から徹底講習
2月10日:オンライン講習(全体概要について)
2月16日:オンライン講習(フィールド講習の予習)
2月19日:フィールド講習1回目(車山・日帰り)
【第2講座・3月】雪山の知識・技術を自分のものに
3月16日:オンライン講習(予習)
3月19日:フィールド講習2回目(北横岳・日帰り)
3月30日:オンライン講習(振り返り)
【第3講座・4月】3ヶ月間の総仕上げ。尾瀬・至仏山に挑戦!
4月20日:オンライン講習(予習)
4月29日〜4月30日:フィールド講習3回目(至仏山・2日間)
オンライン講習の予定が合わない場合はFacebookグループ内でアーカイブを視聴することが可能です。質問や相談にも適宜対応してくれるので安心。
※必須ではありませんが、Facebookグループに参加するとよりスムーズに講習受講や他メンバーとの交流を楽しめます。
メインガイドは登山歴30年、海外登山の経験も豊富な石川高明さん。YAMAP MAGAZINEにも特集記事を寄稿されている雪山のエキスパートです。
どんな方なんだろう…とドキドキしながらオンライン講習のZoomに参加するとにっこり笑顔で「こんばんは~」と手を振ってくれます。優しそうなガイドさんで一安心。
初回のオンライン講習では、1座目に登る予定の車山に関する特徴、雪山登山に必要な装備、服装、注意点などを事細かにアドバイスしてくれます。
「車山は、日本アルプスを一望できる展望台のような山なんです。天気がよければ南側には中央アルプスや南アルプス、西側には御嶽山、北西には北アルプス、北には浅間山、近いところだと八ヶ岳、富士山も見えますね。」
「ここ数年は雪が少なくてツアーをするにも一苦労でしたが、今年は本当に雪が豊富なので、講習にはうってつけですよ! 」
「車山の雪は今の時期だと、さらっさらのパウダーで…」
共有される写真を見ながら説明を聞いているうちに段々とイメージが膨らみます。わくわく…! 後半、話は装備や服装についての具体的なアドバイスに移ります。
アイゼンや雪山用登山靴、スパッツやバラクラバなど、他シーズンに比べてどうしても必要な装備が増えてしまう雪山。どこまで揃えるべきか悩みどころですが、各道具の重要性、どんな場面でどのような使い方をするのか。実演を交えながら丁寧に説明してくれます。
例えば雪山用のスパッツは雪や泥汚れから足元を守ること以外に、アイゼンでパンツに傷をつけたり切ってしまったりすることを防ぐ目的もあるとのこと。他シーズン用のものでも絶対にNGというわけではありませんが、他の装備と合わせてアップデートしておくとより安全で快適に、雪山が楽しめるというわけですね。
さてオンライン講習を経て準備は万端。いよいよ初回のフィールド講習がはじまります。
集合は10時10分、JR茅野駅。(私のような)朝が弱い方にはきっと嬉しいスケジュールでしょう。車山肩駐車場までは茅野駅からバスで1時間程。出発時点では青空が広がっています。事前にチェックした天気予報を見て心配していたものの「これなら大丈夫か」とひとまず安心。意気揚々とバスに乗り込みます。
駐車場に到着すると残念ながらどんより曇り空。しかし想像していたよりはあたたかく、温度計はマイナス1度を指しています。先に現地入りしていた石川ガイド、武井ガイドの両人と合流! ※フィールド講習は、各回2名のガイドがリードしてくれます。
ランチやお手洗いなどを済ませた後、アイゼンを装着。ガイドのお2人がひとりひとり様子をチェックしながら装着方法を丁寧にレクチャーしてくれます。装備の確認が終わり談笑をしていると
「…….ヒュウゥゥゥゥゥ…………….」
何やら穏やかでない風の音が耳をかすめていきます。一抹の不安が頭をよぎったのは私だけではないでしょう。
半数ずつ2グループに分かれて歩行開始。ガイドのお2人が適宜振り返りながら声をかけてくれます。雪山での基本的な歩行の仕方、トラバースする際のストックの使い方、強風時の姿勢など適宜アドバイスを受けながら慎重に歩を進めていくと…。
「ビュォォォオォォォォォ…………..」
数分歩いたところでいよいよ風がうねり始めました。初回からまさかの吹雪。これぞ雪山です。ところどころ吹き付ける強風に腰を低くしながら進んでいきます。油断するとサングラスとその隙間にビッシビシあたってくる雪。こんな日に限ってうっかりゴーグルを忘れた私。実践を通して道具の大切さをまたひとつ学びました。
前を歩いていたメンバーに声をかけると、「なんだか私…テンション上がってます!! 」との返答。他のメンバーも吹雪を物ともせずアグレッシブに進んでいきます。さすが雪山を志す皆さん、強いです。心配は無用でした。
その後1時間程ストイックに吹雪の中を歩いていきましたが、頂上手前の段階でいよいよ暴風雪といっていいレベルに。ここで「撤退」の判断となりました。
比較的穏やか・登りやすいと言われている山でも天気次第で危険な状況になり得ること、雪山の厳しい一面を体感できたという意味で、貴重な一日となりました。
次は登頂できますように…!
当初の予定では2座目に「黒斑山」の予定でしたが、悪天候により急遽「北横岳」へと変更。集合時間は 9時15分、場所は前回と同じくJR茅野駅です。再びバスに乗り込み、北八ヶ岳ロープウェイへ。出発時は薄曇りの中太陽が見え隠れ。スキー客で賑わう「坪庭」と呼ばれる平原にて準備体操の後、アイゼンを装着します。
1座目同様、2グループに分かれて歩行スタート。吹雪の登山というハードな体験を共有したからか、参加者の皆さんからは一体感が感じられます。「今回は穏やかですね~」「今日のウェア、かっこいいですね!」などと情報交換する姿はすっかり「山仲間」。ソロや少人数ももちろん良いですが、様々なバックグラウンドを持つメンバーで関係を深めていくグループ登山も想い出に残るものですよね。
車山と異なり、北横岳では登山道のほとんどが樹林帯。前回に引き続きアイゼン装着時の歩行の仕方、狭い道ですれ違う際のマナーや、前後メンバーとの距離の取り方などレクチャーを受けつつ進んでいきます。ガイドのおふたりは適宜後ろを振り返り様子を確認しながらゆっくりめのスピードで歩いてくれるので、体力に自信のない方も安心。
八ヶ岳の北エリア、具体的には今回登っている北横岳や縞枯山(しまがれやま)で見られる縞枯現象などについて触れながら石川ガイドは話します。
「木は枯れて死んでいくけれど、死んだ木には虫が入り、キツツキはそれをつついて食べるんです。ひとつの無駄もなく木々も世代交代が行われて、山の営みは続いていくんですよね」。
そんな話を聞いていると、樹林の景色がまた一味違って見えてきます。ひたすら山頂を目指す登山も楽しいけれど、登山技術に加えて新しい知見を与えてくれるのは山のエキスパートに率いてもらうガイドツアー、YAMA LIFE CAMPUSならではの楽しさと言えるでしょう。
ややスローペースで坪庭から北横岳ヒュッテを経由し、山頂まで2時間程。樹林帯に入ったところから曇り空が広がっていましたが、山頂手前に到達したところで後ろを振り返るとスーッとガスが抜けていき…なんと展望がひらけたではありませんか!
「やったーー!! 」「絶景ですね!! 」などと話しながら山頂へ! 前回はやむを得ず撤退となっただけに、喜びもひとしお。
双耳峰である北横岳。南峰から北峰に移動すると目の前には悠々と構える蓼科山。ガトーショコラに例えられる浅間山にはこんもりと砂糖(雪)が積もる様がとらえられます。
10分ほどでしょうか、景色を眺めたり休憩したりしていると再び周囲がガスに覆われ、絶景は束の間のうちに消えていきました。運よくクリアに見られれば「また来よう」と思うし、見られなくても「次こそは」と思うし、一期一会である山の景色こそ、何度も足を運んでしまう所以のひとつなのです。
オンライン講習での予習・復習をはさみ、3ヶ月の総仕上げは1泊2日の尾瀬・至仏山。個人的にも数年ぶりの尾瀬、雪の至仏山!ということでそれはそれは楽しみにしており、「晴れろ~晴れろ~」と空に念を送りながら当日を迎えました。結果、雨でした(無念)。しかし好転予報が出ている翌日に期待!
集合は11時30分、JR上毛高原駅。初日は登山口である鳩待峠から宿泊先の至仏山荘までのアクセスのみなので、比較的のんびりスタート。いずれの日程もゆとりあるスケジュールで、私のような朝が弱いタイプにはありがたいですね(2回め)。
鳩待峠では予報通りあいにくのしとしと雨。登山道には水分を多く含んだ残雪が積もっていますが、5月も目前のタイミングだけあってさほど寒さは厳しくありません。ところどころに春の息吹を感じながら雨に打たれるのも時にはオツなものでしょう…。そう言い聞かせて山荘まで1時間程の道のりを歩きます。
「大変だったでしょう。お風呂であたたまってくださいね」。
至仏山荘に到着するとスタッフさんたちが優しい笑顔で迎えてくれます。豪華なイメージのある尾瀬の小屋ですが、湯舟にのんびりつかった後に夕食で満腹になり、快適な部屋でくつろいでいると一瞬山にいることを忘れてしまいそうになります。
夕食後しばしの談笑の後は翌日に備えて早めの就寝。布団に入る前に窓の外を覗くと雨が雪に変わっている様子。朝には晴れますように…。
翌朝。朝食でエネルギーを十分に蓄え、外に踏み出すとちょうど太陽が昇ってくるタイミング。天気は大幅に回復したようです。まだ若干ガスは残っていますが尾瀬ヶ原と燧ケ岳(ひうちがたけ)も眺めることができます。なんとも気持ちの良い朝! 入念にストレッチをして7:00過ぎに山荘を出発。いざ至仏山へ!
樹林に入ると早速の急登に息があがります。地図上で見ると非常にわかりやすいのですが、至仏山はとにかくひたすらに「登りっぱなし」の山なのです。ややしんどいですが、標高を稼いだ分見える景色が広がっていくのも、登りの楽しみですね。
樹林帯を抜けると一面に真っ白な景色が広がります。ジグザグに登っていくことで体力を温存。徐々に標高を上げていきます。途中まで見えていた尾瀬ヶ原と燧ケ岳はガスの中に見え隠れ。一喜一憂しながら2時間半ほど経過したところで高天原に到着します。ここまで来れば山頂は目前です。振り返るとガスは抜け、再び燧ケ岳がくっきり。
頂上に到着する頃にはすっかり快晴~! 遥か先まで見渡せそうな360度の大展望が広がります。「絶景」と言っては月並みな表現になりますが、まさに「想像を絶する」この景色に多くの登山者が誘われるのだということを、改めて実感します。
名残惜しさを感じつつも小至仏山を経由して下山。特段危険な箇所はありませんが、雪庇を避けて足元を確認しながら慎重に降りていきます。
途中の広場では滑落を想定したピッケル講習も実施。山荘での天気図講習に続き、受講者の要望に応じたレクチャーを適宜入れてくれるのが嬉しいところ。
あれだけ必死に登ったのに下山はあっという間。登りの半分程の時間で鳩待峠に到着。快晴の至仏山は最高の集大成となりました。もちろん帰りは疲れを癒しに地元の温泉へ。お土産も忘れずに。
吹雪の車山に始まり、晴れたり曇ったり穏やかな北横岳、最後に快晴の至仏山。あらゆる気象条件、多様な山を体験できた今回の山旅。登った山は3座ですが、なんだか経験値が急激に上がったような気がします。
ここまでレポートしてきましたが、山の素晴らしさは実際に足を運んでみないとわからないもの。興味はあるけれど一歩踏み出すか迷っている皆さん、ぜひ最初の一歩はYAMA LIFE CAMPUSで。きっとそこには、新しい世界が待っていますよ。