登山者の「二次交通問題」を解決|北杜市で始まった「マウンテンタクシー」とは?

2021年7月、山梨県北杜市で新たな取り組みが始まりました。「マウンテンタクシー」と名付けられたこのプロジェクトは、登山者の悩み、「駅から登山口までの移動手段(二次交通)問題」を解決してくれる画期的なもの。その仕掛け人が登山家・花谷泰広さん、プロジェクトをサポートするのがTHE NORTH FACEというから驚きです。2022年も始まったこの「マウンテンタクシー」、どんな仕組みなのかを取材しました。

2022.06.24

斉藤克己

YAMAP STAFF(地方創生担当)

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二次交通問題の切り札となる「マウンテンタクシー」

主に公共交通機関を移動手段として山を楽しむ登山者によくある悩みが「二次交通問題」です。「あの山に登りたいけどバスの本数が少ない…」、「タクシーを使うと1万円以上…」と、せっかく登山計画を立てたものの、駅から登山口までの交通手段が無いという理由でその登山を諦めた登山者も多いのではないでしょうか。

そんな登山者の二次交通問題を解消するため、登山家の花谷泰広さんがアウトドアブランドのTHE NORTH FACE、そして北杜市とタッグを組んで始めたプロジェクトが「MOUNTAIN TAXI(マウンテン・タクシー)」(通称「山タク」)です。

この取り組みでは、北杜市で営業するタクシー2台を、JR小淵沢駅から南アルプスの甲斐駒ヶ岳や八ヶ岳の登山口に向かう定時運行の「マウンテンタクシー」として改装。これまで交通の便が悪かったこれら登山口への登山者の足として活用できるようにしました。

しかも、気になる利用料金は、片道でひとり平日1,000円、土日祝日1,500円と破格。タクシーの車体もTHE NORTH FACEによるデザインが施され、今年導入された車両のシートカバーはなんと登山者にお馴染みの「GORE-TEX」が使われており、「このタクシーに乗るために北杜市の山に行ってみようか?」と思わせるほどスタイリッシュに仕上がっています。

GORE-TEX仕様のオリジナルシートカバー

大きな荷物もらくらく収納できるワンボックスタイプの車体

このマウンテンタクシーについて、仕掛け人の花谷泰広さんと、このプロジェクトを支援しているTHE NORTH FACEの本(もと)武史さんにお話を伺いました。

「登山者に新しいチャレンジを」花谷泰広さんの思い

ーーマウンテンタクシーをなぜ始めようと思ったのですか?

花谷さん:私は2017年、縁があって南アルプスの甲斐駒ヶ岳にある七丈小屋の運営を任されました。実は、その時から「登山者の足がない」という二次交通の問題が気になっていたんです。

七丈小屋の宿泊者は、JR小淵沢駅から登山口がある尾白川渓谷駐車場か竹宇駒ヶ岳神社までタクシーで移動し、そこから黒戸尾根を登ってくる方がほとんどです。でも片道4,000円と安くはないタクシー代を気にされて、このルートを諦めてしまう登山者もいたのです。

そこで、私の小屋でタクシーと山小屋の宿泊代をセットにしたプランを用意したところ、とても好評だったんです。なんとか七丈小屋の宿泊者以外の登山者にも対象を広げられないか、と考え、この「マウンテンタクシー」を思いつきました。

今年のマウンテンタクシーの出発式典で挨拶する花谷さん

ーーマウンテンタクシーの仕組みとは?

花谷さん:THE NORTH FACEさんがこのプロジェクトに興味を持って、スポンサーになってくれています。彼らもちょうど地域貢献や登山文化の発展に寄与したいと考えていたようで、サポートを決めてくれました。これは本当に嬉しいことだし感謝しています。2022年は北杜市の協力を得ながら、2次交通の課題に向けて取り組んでいます。また、市や商工会などの協力により、地元の事業者さんとの連携などを進め、より官民一体となった取り組みとなっています。

ーーマウンテンタクシーを通じて実現したいことは?

花谷さん:THE NORTH FACEさんがデザインを担当してくれた車体は、ここでしか乗ることのできないオリジナルのタクシーです。このタクシーに乗ること自体がワクワクするし、他では体験できない「価値」となっているんじゃないかと自負しています。

そして、このタクシーを利用してぜひ「縦走登山」にチャレンジしてほしいと思います。例えば八ヶ岳だったら、八ヶ岳最南端の編笠山の裾野にある観音平登山口までこのタクシーを使って移動し、そこから八ヶ岳の全山縦走にもチャレンジできます。

また、いつもはマイカーを使ってピストンか周回でルートを設定している登山者にも、このマウンテンタクシーは縦走という新しい登山のきっかけになるんじゃないかと思っています。ぜひ積極的に利用して登山ルートの選択肢を広げてほしいですね。

さらに今年から、マウンテンタクシーの利用者特典を用意しました。マウンテンタクシーを利用してくださったお客様は、地元商工会等の協力で温泉が割引で利用できたり、連携事業者さんを利用してもらうサービスがあったりと、登山の前後で北杜市を楽しんでもらえたらと思っています。

「登山文化や地域の発展の一助に」THE NORTH FACEの思い

ーーなぜTHE NORTH FACEはこのプロジェクトをサポートしているのですか?

本さん:THE NORTH FACEはもともとアウトドアブランドとして、日本の地域に貢献し、登山文化を発展させたい、という思いがありました。

今回、たまたま縁があって花谷さんからお話をいただいたとき、そうした思いをかなえるフィールドとして、南アルプスや八ヶ岳といった日本有数の山々に囲まれた北杜市はうってつけの場所だと感じました。

そのためにまずは北杜市と包括連携協定を結び、「マウンテンタクシー」をはじめ、大雪山山守隊にご協力いただき近自然工法を取り入れた登山道整備、ファミリー向けのキャンプイベント、障がいをお持ちの方へのクライミング体験など、さまざまなプロジェクトを進めようとしています。

ーー北杜市を訪れる登山者に伝えたいことは?

本さん:北杜市は南アルプス、八ヶ岳、そして奥秩父にアクセス可能な登山者にとって憧れの場所。何度訪れてもまた行きたくなる場所です。また、新鮮な地元野菜などが買える「ひまわり市場」や道の駅、美味しいごはん屋さんもたくさんあります。アートに力を入れているのも魅力。下山後は観光的な楽しみも体験してほしいですね。

ただ気をつけてほしいのは、やはり安全登山。THE NORTH FACEは「MOUNTAIN SAFTY」というプロジェクトも続けていますが、しっかりした装備と知識を身につけて安全に登山を楽しんでもらえればと思います。

マウンテンタクシーを利用するには?

ここまで読んで、「すぐにでもマウンテンタクシーを利用したい」と思った方も多いかもしれません。「マウンテンタクシー」には甲斐駒ヶ岳や日向山などに向かう「尾白(おじろ)線」と八ヶ岳方面に便利な「観音平(かんのんだいら)線」の2ルートがあります。2022年は6月17日から11月14日まで毎日運行しています。定員は最大6名。1名でも利用可能です。料金はいずれも一人片道で平日1,000円、土日祝日1,500円です。事前予約が必要なのでお忘れなく。

詳しい情報や事前予約は「マウンテンタクシー」の専用サイトでチェックしてください。

取材・文章:斉藤克己(YAMAP)
写真提供:北杜市
協力:花谷泰広、THE NORTH FACE

斉藤克己

YAMAP STAFF(地方創生担当)

斉藤克己

YAMAP STAFF(地方創生担当)

大学では探検部に所属し、国内外の沢登り遠征などを行う。その後、登山専門出版社を経て2019年YAMAPにジョイン。現在は、地方創生担当として登山と観光を結びつける「トレッキング・ツーリズム」事業やアウトドアブランドのプロモーションなどを担当し、取材やプライベートで年間50日以上は山で過ごす日々を送っている。