国土の4分の3が山地の日本。山といえば、富士山や地元で見える山をまずイメージするかもしれませんが、全国各地には多様な景観の山が多くあります。そこで、地域や季節によって異なる山の景色を通して、世界に誇る日本の山の魅力を解説。日本の自然の豊かさをご紹介していきましょう。
2022.09.29
YAMAP MAGAZINE 編集部
日本列島は、北米・ユーラシア・太平洋・フィリピン海という4つのプレートが衝突したところのちょうど上に位置しています。列島自体がプレート同士の衝突による「隆起」と「火山活動」によって形成されました。
ヒマラヤ山脈はユーラシア大陸に、今のインドとなる小さな大陸が衝突して形成されました。同様に、伊豆半島が日本列島に衝突してできたのが南アルプス。現在でも1年に約4mmほど「隆起」を続けているとされます。かつては標高3,189mで日本第4番目だった間ノ岳が、2014年の国土地理院による訂正で標高3,190mとなり、北アルプス・奥穂高岳と同じ3番目になったのは記憶に新しいところです。
こうしたプレートの活動によって、火山が多い日本列島が形成されています。気象庁によると、日本にある活火山は111カ所(2022年時点)。噴火などの災害と同時に、温泉などの恩恵をもたらす存在です。
八ヶ岳のように複数の火山がつながって連峰となる場合もありますが、羊蹄山(北海道、1,898m)、鳥海山(秋田/山形、2,236m)、浅間山(長野、2,568m)、富士山(山梨/静岡、3,776m)、開聞岳(鹿児島、924m)などのような独立峰となるケースも多数。周囲からひときわ高くそびえ立つ姿は、各地のシンボル的存在です。
こうして生まれた山が、氷河や風雨による浸食で削られたり風化することでさらに変化。現在の姿になっているのです。
国土の約4分の3を山地・森林が占める日本は文字通りの山国。先に紹介した山自体の成り立ちの違いに加え、北海道・本州・四国・九州と縦に細長く列島が連なることによる南北の差や、対馬海流と黒潮のふたつの暖流の影響などによる日本海側と太平洋側の差など気象条件の違いが、それぞれの山の個性に。そのため日本各地の山では、変化に富んだ景観を楽しむことができるのです。
隆起による地殻変動によってできた山脈の頂上付近は、岩肌がむき出しになった岩稜(がんりょう)となっている場所が多数。北アルプス・中央アルプス・南アルプスなど日本を代表する高山のほとんどは、稜線が岩場となっています。
他にも、日本誕生の神話に関係する戸隠山(長野、1,904m)や、日本酒の名前で知られる八海山(新潟、1,778m)、今なお女人禁制の山上ヶ岳(奈良、1,719m)など、修験道の修行の場にもなった険しい岩稜が続きます。
こうした岩稜に生育するのがハイマツ。雪の重みにも耐えられるよう文字通り地を這うように枝を延ばした松で、山域によってはライチョウやオコジョの棲家にもなっています。
火山活動によってできた山の頂上付近は、噴石やそれが風化した巨石や砂礫が連なるガレ場・ザレ場になっています。旭岳(北海道、2,291m)や那須岳(栃木、1,915m)・久住山(大分、1,786m)などは、その代表例といえるでしょう。
111もの活火山がある日本列島で、生活圏に近かったり登山の対象となる50の山は「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」とされています。
日本百名山でも十勝岳(北海道、2,077m)・安達太良山(福島、1,699m)・焼岳(長野/岐阜、2,444m)・阿蘇山(熊本、1,592m)などは今でも活発に噴煙を上げており、ダイナミックな地球の息吹を感じとれます。
岩稜やガレ場・ザレ場の稜線となる山でも、中腹には高山植物などの低草木や、ナナカマド・ダケカンバなどの灌木がたくましく生育しています。高山植物は夏には一面のお花畑となり、灌木は秋には赤や黄色に紅葉。いつでも登山者の目を楽しませてくれます。
車山(長野、1,924m)・伊吹山(滋賀、1,377m)などは山頂まで草原に覆われ、夏には様々な高山植物が咲き乱れて山肌がカラフルに染まります。
多くは火山活動によってできた湖沼やその周囲に広がる湿原。尾瀬ヶ原はその代表例ですが、夏には高山植物が咲き、秋には草紅葉に染まる牧歌的な風景も、登山の醍醐味のひとつです。
鳥海山(秋田/山形、2,236m)の中腹にある鳥海湖、一切経山(福島、1,949m)の山頂直下にある五色沼、白山(石川/岐阜、2,702m)の山頂付近に点在する翠ヶ池などは、代表的な火口湖です。
また八幡平(岩手/秋田、1,613m)・苗場山(新潟/長野、2,145m)・会津駒ヶ岳(福島、2,133m)などは、なだらかな山頂周辺が湿原になっており、のどかな木道歩きを楽しめます。
山に降った雨や雪解け水は、滝となって山肌を流れ落ち、渓流となって山間を下っていきます。夏は温暖で多雨、冬は特に日本海側が世界有数の豪雪地帯となる日本の山では、これらも魅力的な景観といえるでしょう。
大雪山を源とする銀河・流星の滝(北海道)、立山を源とする称名滝(富山)、那智山を源とする那智の滝(和歌山)などはいずれも日本を代表する景勝地。
奥入瀬渓流(青森)・養老渓谷(千葉)・菊池渓谷(熊本)などの渓流も、春の新緑や秋の紅葉が美しくハイキングコースが整備されています。
日本の山の大きな魅力のひとつが森林の美しさ。木の実などの植物性タンパク質やイノシシなどの動物性タンパク質を得る場として、建物の材木や薪などを得る場として、日本人は森の恵みで暮らしてきたといっても過言ではありません。
吉野山(奈良)や北山(京都)は古くから寺社などの建築に使用される杉の山地として名を馳せ、今でも整然と枝打ちされた美しい杉林を見ることができます。
逆に北八ヶ岳(長野)・屋久島(鹿児島)などには手つかずの原生林が残り、太古の自然に浸ることが可能。巨木と苔むした林床が、しっとりとした風情で登山者を迎えてくれます。白神岳(青森、1,235m)・比婆山(広島、1,261m)などは広葉樹であるブナの原生林が広がり、春の新緑や秋の紅葉がひときわ鮮やかです。
四方を海に囲まれた島国である日本。山と海・それをつなぐ河川も密接な関わりを持っています。
信濃川・荒川・富士川・多摩川・木曽三川などの一部の大河を除いては、日本の河川は源流となる山から短距離で海へと注ぎます。例えば立山(富山、3,015m)から富山湾までの距離は約35km。これを結ぶ黒部川や片貝川の急流が北アルプスの酸素や栄養分を運ぶことで、寒ブリ・ホタルイカ・白エビなどが水揚げされる豊かな漁場が育まれたのです。
また利尻山(北海道・1,721m)・宮之浦岳(鹿児島・1,936m)などは、利尻島・屋久島自体が海に浮かぶ山といえる存在。特に屋久島は永田岳(1,886m)・黒味岳(1,827m)なども連なり「洋上アルプス」と呼ばれています。
四季の変化がはっきりしていることも日本の魅力。桜前線の北上や紅葉前線の南下など緯度による条件に加えて、山では標高によっても季節の巡る時期が変わってきます。ここでは一般的な春夏秋冬ごとに、全く異なる表情を見せる全国の山を紹介します。
山の春はスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれる春先に開花する山野草の花々から始まります。早い場所では標高1,000m未満の四阿屋山(あずまやさん、埼玉・771m)の麓で2月下旬〜3月中旬にに咲く福寿草や、三毳山(みかもやま、栃木・229m)で3月中〜下旬に咲くカタクリが代表的な存在。4月に入ると標高が高い藤原岳(三重/滋賀・1,140m)の福寿草や緯度が高い角田山(新潟・481m)のカタクリも開花。吉野山をはじめとする山桜も山麓から山頂へ、徐々に見頃を迎えていきます。
5月に入ると標高1,000m台の山々にも花の季節が到来。九重連山・霧島連山・雲仙岳(1,359m)など九州にしか咲かないミヤマキリシマや、石鎚山(1,972m)など四国や紀伊半島の一部にしか咲かないアケボノツツジなどが、山肌をピンクに染め上げます。丹沢山塊や西上州など関東周辺の山々も、アカヤシオ・シロヤシオなどのツツジ類が咲き乱れ、多くの登山者でにぎわいます。
ただし、標高2,000m以上の山々や緯度の高い北日本の山々はまだまだ雪の中。ゴールデンウィークの日本アルプスは、いわゆる残雪期を目的に訪れる雪山登山者の世界です。
標高2,000m級や北日本の山々もようやく雪解けが進み、八幡平(岩手/秋田、1,613m)・一切経山(福島、1,949m)・白山(石川/岐阜、2,702m)などの火口湖で「ドラゴンアイ」と呼ばれる融雪模様が現れる6月。季節は梅雨ですが、赤城山・地蔵岳(群馬、1,673m)・甘利山(山梨、1,742m)・湯ノ丸山(長野、2,101m)など関東甲信の2,000m前後の山々では、真紅のレンゲツツジが美しい季節です。
7月になると夏本番。日本最高峰・富士山(山梨/静岡、3,776m)が開山されるのを皮切りに、日本アルプスや八ヶ岳連峰など3,000m級の山々もほぼ雪解けを迎え、梅雨明けを狙って多くの登山者が高みを目指します。白山(石川/岐阜、2,702m)・白馬岳(長野/富山・2,932m)・秋田駒ヶ岳(秋田/岩手、1,637m)など花の名山や、岩手山(岩手、2,038m)・燕岳(長野、2,762m)のコマクサ群落など、高山植物も楽しみな季節です。
8月までこのにぎわいは続きますが、旧盆を過ぎる頃にはこれらの高山でもミヤマリンドウやタカネマツムシソウなど初秋の花々が咲き始めます。
山々が紅葉で彩られる秋。9月上旬から紅葉が始まる北海道・大雪山系を皮切りに、八甲田山(青森、1,584m)・栗駒山(宮城/秋田/岩手・1,627m)など東北の山や、涸沢カールをはじめとする日本アルプスがが9月下旬〜10月上旬に見頃を迎えます。続いて関東甲信越や西日本の1,000m級の山々が10月中旬〜11月上旬に紅葉し、高尾山(東京・599m)など大都市近郊の低山では11月下旬〜12月上旬まで紅葉を楽しむことができます。
ただし10月中旬以降の日本アルプスや八ヶ岳連峰など3,000m級の山は降雪に見舞われることも珍しくありません。夏とは一変して、雪山登山の技術や知識を持ち合わせていない登山者を寄せつけない厳しさが要求されます。
北海道や東北・日本アルプスや八ヶ岳連峰などの高山は深い雪に覆われる冬。一般登山者が容易に近づくことは不可能です。
赤城山(群馬、1,827m)、高見山(三重、1,248m)など1,000m級の山々でも霧氷・樹氷が生育し、蔵王山(山形/宮城、1,841m)のように巨大な樹氷が観光名所となる山も。
雪山登山にチャレンジできる山もありますが、特に初心者は装備を万全にし、経験者と一緒に登るようにしましょう。
雪が降らない低山であれば、広葉樹が落葉した「冬枯れ」の登山道を木々の間の眺望や落ち葉を踏みしめる感覚と共に歩くことができるのもこの季節。この季節に嬉しい“陽だまり”を求めて、歩いてみませんか。
世界自然遺産に登録されている白神山地・屋久島・知床・小笠原諸島や、奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島……これらは全て“山”もしくは“山と海の関わり”によるもの。
2022年現在、34カ所が制定されている国立公園も、ほぼすべてが山や渓谷・森林・湿原・山から連続する海岸が名所となっています。
そんな日本の魅力を、山に触れることで発見してみませんか!?
執筆・素材協力=鷲尾 太輔
トップ画像:鷲尾太輔撮影