ポップ・グループ「TWEEDEES」のボーカル・清浦夏実さん。およそ6年前に山の魅力にのめり込み、音楽活動の傍ら山に通い続けています。「山は自分で決めて、自分で行動できるところが好き」と語る清浦さんですが、もともと芸能活動は自分の意思で始めたことではなかったそうです。そんな中、受け身で仕事をこなすことに葛藤を覚えた末、自分の意思で始めたのが「TWEEDEES」。自らの選択で新しい道を切り拓いた清浦さんに、「自分で決めるからこそ楽しい山のこと」や「山が音楽や生き方に与えた変化」などについてお聞きしました。
2023.01.18
吉玉サキ
ライター・エッセイスト
―昔から自然が好きだったのでしょうか?
生まれは千葉県船橋市なんですけど、父の仕事の都合で、小学3年生のときに福島県南相馬市に引っ越したんです。学校ではバレー部と合唱部に入っていて、バレー部のみんなで国見山という地元の山に登りました。それが初めての山登り。下山したら河原でお母さんたちが芋煮を作って待っていてくれて。
そんな感じで、南相馬にいた2年間はたくさんの自然に触れました。特別アクティビティをしようと思わなくても、日常の中に自然があるんです。毎日、外で遊んでいましたね。
―それが原体験となったんですね。
だけど、本格的な登山を始めたのは26歳のとき。それには理由があって、福島から千葉に戻ってきて、6年生から子役として芸能活動を始めたんです。だから怪我をしそうな行動は控えていました。
―26歳で登山を始めた理由は?
音楽活動が軌道に乗って、それまで所属していた事務所を辞めたんです。そしたら自分でもなぜかわからないんですけど、急に登山をやってみたくなって。たぶん、南相馬での思い出が印象に残っていて、本当はずっと山に登ってみたかったんだと思います。
事務所を辞めてすぐに登山靴を買いに行き、一人で高尾山から陣馬山まで縦走しました。
―初めての登山の感想は?
思ったよりも距離があってキツかったです。でも、なんとかたどり着くことができて、その達成感が忘れられませんでした。
それ以来、山にのめり込みました。高尾のあとは、トレーニングのために丹沢のバカ尾根(大倉尾根)によく登るようになって。今思えばかなりストイックなんですけど、初心者だから「どの山もこのくらいキツいに違いない」と思っていたんです(笑)。
―山の魅力について教えてください。
山は裏切らないから好き。山って、歩けば必ず着くじゃないですか。
私は音楽をやっていますが、音楽は「目に見える達成感」を得づらいんですよ。アルバムが完成したとかライブのツアーが終わったとか、そういう達成感はあるけど、それは自分一人でできたことじゃないし。
一方で登山は、自分で計画して自分で歩いてピークを踏む、シンプルな達成感がある。「自分の責任はすべて自分で背負う」というのが、性格的に好きなんでしょうね。
―芸能活動を始めたきっかけについて教えてください。
よくあるパターンで、親がオーディションに応募したんです。最初は部活感覚で始めて、そのうちドラマ出演が決まるようになりました。
音楽活動を始めたのは高校生のとき。事務所の提案でデモテープを録ってみたところ、レコード会社の方に声をかけていただき、17歳でCDデビューしたんです。アニメの主題歌を歌うレーベルだったんですけど、だんだんお芝居よりも音楽活動の方が面白くなっていきました。
―清浦さんは現在TWEEDEESのボーカルとして活動していますが、TWEEDEESを結成したきっかけは?
相方の沖井さん(TWEEDEESのベーシスト・沖井礼二。2003年に解散したバンドCymbalsのメンバーとしても有名)の音楽が好きで、沖井さんが当時やっていたバンドのライブに足を運び、「こういう者です」と自分のCDを渡しました。それがきっかけで意気投合して、TWEEDEESを組むことになったんです。それが大学4年生のとき。
自分の意思で何かを始めたのは、それが初めてでした。
―それまでの芸能活動は、自分の意思で始めたことではなかった?
はい。お仕事は楽しいし好きだけど、幼い頃から「いただいた仕事をやる」という受け身の感覚がありました。だから二十歳くらいのとき、「自分が心から好きなものって何だろう?」「ずっと受け身のままでいいんだろうか?」と悩むようになって……。その結果、TWEEDEESにたどり着いた感じです。
―受動的に活動することに、違和感があったんですね。
やっぱり、自分で決められないところに違和感がありました。与えられたことをこなしていく状況が、私にはしっくりこなかった。お仕事は大好きなんですけど、「自分で選んだことじゃない」という点で、充実感や満足感が見えにくかったんです。
その点、TWEEDEESに関しては「自分で決めたことだ」という思いがあるから、充実感や満足感を得られるようになりました。
―山についても、「自分の責任をすべて自分で背負うのが性格的に好き」とお話されていました。
そうなんです。受け身でいることは決して悪いことじゃなくて、受け身だからこそ出会えるチャンスもたくさんあると思うんですよ。だけど私は、自分で選ばないと気が済まないみたい。だから、自分で決めて行動できる山が好きなんだと思います。
—登山を始めてから、山の景色が作品づくりに影響することはありますか?
新しいアルバム『World Record』の中で『meta meta love』という曲を作ったんですが、この曲の歌詞は、山での体験がなければ書けなかったと思います。景色をそのまま描写しているわけじゃなく、山で感じたことを、私のフィルターを通して歌詞に落とし込んだ感じ。
TWEEDEESは、「聴く人の景色の一部になりたい」という思いがあって。曲によって、私が主人公として佇むこともあれば、語り部として語ることもあるし、背景になることもある。私はあくまでストーリーテラーなので、「清浦夏実」という個は曲の中になくてもいいと思っています。
—最近は山関係のお仕事もされていますよね。
ここ1、2年で山やキャンプのお仕事をいただく機会が増えました。
「音楽と山が混ざるとこんなにも楽しくなるのか!」と発見がありますね。ミュージシャンの友達が、私が山に行った投稿を見て「連れて行って」と言ってくれたり。逆に、山好きの方が山つながりで私を知って、TWEEDEESの楽曲を聴いてくれるようになったり。
―「ミュージシャンとしての自分」と「山の自分」にギャップはありますか?
まったくないですね。音楽も山も、自分の人生に組み込まれているもので、一生好きだと思います。おばあちゃんになっても登山を続けたいから、そのために元気でいようと思う。そのくらい好きなことって、今まで音楽以外になかったんです。
最近は私服も山ウェアだし、山が街の生活に侵食してきている感覚があります。もう、山は私の生活の一部ですね。
―どんな時に山を歩きたくなるのでしょう?
山に限らず歩くこと自体が大好きです。作詞に煮詰まったら外に出て、歩きながら考えます。歩くと頭がスッキリして、アイデアが浮かんでくるので。外の刺激を五感で感じるだけで、ひらめきが変わってきますね。
一方で、山にいる間は仕事のことは考えていません。登山中は頭がからっぽというか、普段は聴かない曲が頭に流れていたり、ただ歩くことに集中していたり。
悩み事があって「山で考えをまとめたい」って思うときも、実際に山に行ったら何も考えない(笑)。それなのに、山から帰ってくると悩みがスッキリと解決していて、不思議だなぁと思います。
―登山を始めて気づいたことはありますか?
私はやっぱり、都会に住んでいたいんですよ。情報や文化にいち早く触れられるし、仕事的にも都会にいるのが便利だから。
都会での生活が私にとっての日常で、山は非日常。日常は楽しいけど、たまには離れる時間がないと辛い。だから山に行くんです。山があってよかったなと、しみじみ思います。
昨年、一人で立山を縦走したときの星空が最高だったんです。そして、山で一人になる時間が思っていた以上に好きだと気づきました。仲間とワイワイ行く登山も好きだけど、美しい景色をたった一人で眺める時間も、とても貴重。
都会でたくさんの人と仕事して、ときたま山で一人になる……というライフスタイルが、私には合っているみたいです。
―今後、やりたいことを教えてください。
YouTubeでもっと発信をしていきたいと思っています。YouTubeに山の動画をアップしているんですよ。私が撮影と編集をして、山の風景に沖井さんが曲をつけて。コロナ禍でファンの方に会えなかったとき、元気な姿を見せるために始めたチャンネルなんですけど、もっとクオリティを上げて多くの方に見ていただきたいですね。
そして、山好きの方にもっとTWEEDEESの音楽が届けばいいなぁ、と。TWEEDEESの世界観と山がマッチするかは皆さんのご判断次第ではありますが、こんな人間もいることを知っていただけたら嬉しいです。
2022年12月3日発売『World Record』
https://columbia.jp/artist-info/tweedees/discography/COCP-41930.html
TWEEDEES公式HP
http://www.tweedees.tokyo/
TWEEDEES YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@tweedees_official
写真:﨑村昂立(YAMAP)