山が引き立つ「山岳自撮り」|初心者の一眼やスマホ撮影術を、次世代の写真家が解説

自分の登る姿をさりげなく入れ、雄大な自然を表現する「山岳自撮り写真」。今、山岳写真家の間で注目を集めているのが、長野県在住のsh1n(しん)さんです。一眼レフの扱いに不慣れだったり、スマホできれいに撮れなかったりする登山好きのため、自撮りの方法だけでなく、山で人物を入れるときの構図や、景色の切り取り方などをアドバイスしてもらいました。

2023.10.01

米村 奈穂

フリーライター

INDEX

山岳自撮り写真家・sh1nさん

厳冬期の唐松岳(設定:ISO400、70mm、f8、SS1/100)

登山歴5年。写真歴8年。2021年度東京カメラ部10選メンバー。第39回「日本の自然」写真コンテストでソニーネクストフォトグラファー賞。

山好きが高じて、2021年に長野県に移住。雄大な山岳風景に、自身が溶け込むような自撮り写真をInstagram(sh1ntan1)で発信している。機材はNikonのZ7とNIKKOR Z 24〜200mm・14〜24mmがメイン。たまにドローンも使う。

山が主役の自撮り写真にたどりつくまで

―山岳写真といえば、人の入っていない、雄大な景色というイメージがあります。

もともとは自然のみを被写体にした、いわゆる風景写真を撮っていました。でも、山岳写真の世界では、趣味の域を超えた、プロ並みの作品を撮る人たちが、多くいるんですよね。

そこで、自分らしい、差別化できる写真を模索していたときに、「人」を入れると面白いと思いました。人が登っている姿を入れた方が、山の大きさも伝わりやすいですしね。

当時はSNSに投稿されている作品でも、コンテストに応募するような高いレベルの山岳写真で、人の入った作品はほとんど見られませんでした。

最初は自撮りでなく、他の登山者の後ろ姿を借りて撮っていました。当たり前ですが、知らない人ですし、いてほしい場所に立っていてくれることは少なく……。じゃあ、自分を入れれば妥協しないで撮影できると思って、自撮りを始めました。

秋の唐松岳(設定:ISO250、14mm、f16、SS1/125)

―sh1nさんの撮る写真は、自身が風景に溶け込み、自己顕示欲を感じさせない自撮りですよね。

僕が撮りたいのは人や自分ではなく、あくまでも山。山が主役なので、自分は風景を際立たせる引き立て役です。

なので、風景の中にポツンと自分がいる写真が多いですね。特に、稜線の後ろが空だと、そこに人が立つと目立つんですね。小さくても、自分がいることが分かるような写真を撮るように心がけてしています。

9月の蝶ヶ岳(設定:ISO100、200mm、 f8、SS1/300)

―自撮り写真はどのようにして撮影しているのでしょうか。 

三脚を立て、自分が撮りたい構図をまずはカメラ側のモニターで確認します。自分をどう入れたら山が際立つかを考えてアングルを固定したら、タイマーをセット。連射モードでいつも10枚ぐらい撮影しています。

撮影中はポーズで固まらずに、いつも通りに登ったり、景色を見渡したり、自然な動きを入れます。山登りを楽しむために、基本は時間をかけず、ワンテイクです。

ただ、山の強風で三脚が倒れることもあるので、注意してほしいと思います。僕はそれで高価なレンズを割ってしまったことがあります……。人が通る場所での三脚の設置を避けるのはもちろん、カメラに気を取られて、足元の注意がおろそかにならないように、いつも気をつけています。

初秋のジャンダルム(設定:ISO100、200mm、f10、SS1/200)

―自撮りでは、良い作品が撮影できる以外のこだわりがあるようですね。

自撮りを始めた当初は、平日が休みで、人気の山のピークでも、ほとんど人がいませんでした。「今ここに立って、その景色を見ているのは自分だけ」という感覚がすごく気持ちよかったんです。

だから今も、他の人がいるときに自撮りはあまりしません。「映るのも自分だけ、そこにいるのも自分だけ」という世界を写真で切り抜けるからこそ、楽しめるわけです。

【ポイント①】撮影前にテーマを絞る

早月尾根から剱岳を目指す(設定:ISO320、70mm、 f9.0、SS1/160)

―それでは、sh1nさんの作品を見ながら、撮影ポイントを伺っていきます。最初の写真は、西日があたる山の前を歩く姿が印象的です。

2022年5月の剱岳(2,999m)で、早月尾根(標高差2,200m強の上級者ルート)から登ったときのものです。早月小屋(2,200m)にテントを張ってから、夕方に翌日の下見で途中まで登っている写真です。

後ろの景色がすごくカッコよかったので、人を入れた方が岩のゴツゴツした感じや、山の壮大さが伝わると思って、やや望遠で撮りました。

―このときの構図のコツを教えてください。

背景の山と自分がかぶってしまう色だったので、雪の上を自分が歩いている方が分かりやすいと思い、この配置にしました。

写真で景色をあれもこれも入れたい気持ちはわかりますが、どこに注目していいのか分からない写真にならないよう、主題をはっきりさせることが大事です。このときの主題は「向こうに見える岩稜帯と雲の切れ間」。

望遠だからこそ、撮りたい部分を切り取って強調できます。全部を捉えようとしないで、一部を切り取る。これはスマホでも使える技です。撮影前に「この写真のテーマは……」という意識を持つだけで、写真の印象がかなり違ってきますよ。

【ポイント②】手前から奥に続く稜線の「視線誘導」を意識

雄山から雷鳥荘の先に奥大日岳を望む(設定:ISO100、185mm、 f13、SS1/320)

―続いては、立山での写真です。背景の稜線が印象的です。

奥大日岳(2,605m)をバックに雄山(3,003m)の稜線上を歩いているところです。左下に見えているのが雷鳥荘ですね。

撮影時期は2021年11月の第2週。前日に雪を被ったばかりの奥大日岳が真っ白でした。友達も一緒だったのですが、奥大日岳はかなりのラッセルが必要で無理かもしれないと思い、立山アルペンルート拠点の室堂から取り付きやすい、雄山に登ることにしました。

雄山に行く途中で、奥大日岳がバーンと現れました。これも望遠で撮って、手前の自分と向こうに写っている山が近いような「圧縮効果」を出しました。

―写真のなかの景色がぎゅっと詰まり、背景の奥大日岳も迫力がありますね。

圧縮効果で奥行きが迫ってくるようになるので、遠くに山がある場合には、間近にあるような臨場感を出せます。

ただ、圧縮効果を出すためには、カメラと、自分が立つポイントとの間の距離をとる必要があり、望遠での自撮りは移動も大変。結構しんどいです。カメラから100mぐらい離れることもあります。

―構図も人物から奥大日岳に流れていき、心地よさを感じます。

人間の視線は手前から奥に無意識に向かうので、この特性を生かした「視線誘導」を意識しているからですね。

具体的には、一番手前に自分がいて、ガスの奥で稜線が始まり、奥大日岳の山頂まで続く視線誘導があります。視線誘導上のどこかに自分を入れるのは、自撮り以外でも使えるテクニックです。

【ポイント③】「シルエット写真」はスマホでも簡単

北岳稜線から富士山を望む(設定:ISO250、85mm、f6.3、SS1/30)

―次は富士山と人物のシルエットが美しいですね。

これは11月頭ごろ、夜明け前の北岳(3,193m)から間ノ岳(3,190m)の稜線で撮影しました。人物をシルエットにする写真はスマホでも撮りやすいですよ。特に、朝焼けが完全になる前。まだ空と人物、山の明暗差が少なく、明るくなってきた背景が白飛びせずに綺麗に撮れます。

―露出の設定は、一番明るいオレンジのところに合わせるイメージでしょうか。

そうです。一番明るいところに合わせ、人の姿は黒つぶれ覚悟で撮ります。このときは自分のシルエットを浮かび上がらせるために背景を空にしたいので、三脚を地面ギリギリに設定して、下から見上げるようなアングルで撮っています。

【ポイント④】安全な場所なら、とにかく粘る

大天井岳山頂からの夕焼け(設定:ISO160、100mm、f6.3、SS1/400)

―次は、奥に槍ヶ岳が見える写真ですね。

大天井岳(2,921m)の山頂での夕焼けです。実は直前まではガスがかかっていて何も見えない状態だったんです。山頂で待っていた人も全員帰ってしまって、自分一人だけが残りました。

―晴れると分かって待っていたのでしょうか。この瞬間に一人は最高ですね。

天気予報ではガスが抜けそうだったのと、標高の高い山はその可能性も高いので、日没まで待つ価値があると思っていました。大天井岳の山頂はテント場からも近くてすぐに戻れるので、山頂で2時間くらい粘りました。すると、表銀座の上だけガスが抜けたんです。5分ほどの出来事だったと思います。

危なくない範囲でシャッターチャンスまで粘るというのは、自然相手の風景写真を撮る上で避けては通れないポイントです。テント場や山小屋が近いなど、安全な場所であれば粘るのはありだと思います。

―この写真の構図はどのような工夫をしたのでしょうか。

このときは、空と自分を重ねて人物の姿を目立たせるという、いつも心がけている構図にすることができませんでした。でも、雲海が後ろにあるから自分が見えるんですよね。ただ、もう少し高さを変えてしまうと、山と自分が重なって見えなくなってしまうんです。

自分を真ん中に入れると主張が激しくなるので、なるべく構図の中央にいないようにしています。同じ場面の写真で自分が真ん中にいる写真もあったのですが、しっくりきませんでした。自分が目立ちすぎて、山が引き立たないんです。

【ポイント⑤】空を広く入れる縦構図。ときにはトリミング

涸沢を後に北穂高岳へ向かう(設定:ISO3000、14mm、f3.2、SS25)

―北アルプスの涸沢カール上空に輝く天の川がきれいな写真ですね。

これは4月の山開き直後に北穂高岳(3,106m)へ向かっている途中です。夕方までは土砂降りでした。夜は晴れる予報だったので、シーズン開始直後のまだ誰も登ってないノートレース状態の北穂に登りました。

この時期は春霞で、花粉や黄砂が飛んで、あまり綺麗に撮れないことが多いんです。この日に限っては、それらが雨で落とされた後で、空も澄んで、星の見え方も冬の晴天のようにすごかったです。

―今回の構図で工夫されたところを教えてください。

実はちょっとトリミングしています。本当は横写真だったのですが、それだといらない部分が写ってしまっていて、潔くトリミングしました。

―スマホ撮影では縦写真が多くなると思いますが、山岳写真の縦構図の利点はありますか?

空を入れたいときは、縦で撮ることが多いです。形のいい雲や虹と一緒に自分や登山者を入れようとすると、横構図では入れにくいですよね。スマートフォンでSNSを見たときにも、縦構図の写真は画面いっぱいに表示されるので、迫力があります。

視線誘導をするときも、画面の手前から奥に向かって視線を追いやすい構図を作ろうとするので、縦構図の方が作りやすいと思います。

―この写真もですが、人がいるといないとでは大きく印象が違うはずですね。 

人がいることで、「山に登れば、同じ景色を見れるんだぞ」というメッセージになります。山そのものの魅力だけでなく、登山の魅力を伝えるためにも、人が入っていることが大事なのです。

山岳自撮り写真のポイントおさらい

8月の早月尾根。三脚なしのカメラ直置きで撮影(設定:ISO100、24mm、f8、SS1/500)

・主役は山、人物は脇役にして山の壮大さを伝える
・撮影前にテーマを絞る
・自分を構図の中央に置かない
・撮影中はポーズはとらず、自然な動作を続ける
・完全に朝焼けになる前がシルエット写真のチャンス
・望遠レンズの「圧縮効果」で切り取ると、背景の山に迫力がでる
・タイマーで連写モードにして撮る
・手前から奥に流れる「視線誘導」上に自分を入れる
・晴れる瞬間まで粘る
・人物の背景を空か雲にして、目立つようにする

山での自撮りの注意点

・早朝、夕方の撮影はテント場や山小屋が近い場所で
・撮影場所の安全確認を怠らない
・撮影に時間を取りすぎず、行動時間に影響がでないようにする
・三脚はある程度重量のあるものがおすすめ

夢はエベレストのある景色

―全国的な写真展でも受賞経験のあるsh1nさんですが、今後の目標や行ってみたい山、撮りたい景色はありますか?

海外の山に行きたいですね。ネパールのアイランドピーク(6,189m)から、世界最高峰エベレストの景色を撮りたくて、いろいろ調べているところです。ここで自撮りできたら最高です。

でも、日本の山も登り尽くした訳ではないので、まだまだ見ていない景色はたくさんあります。季節ごとに景色は変わり、同じ山でも登るたびに違うので、日本の色々な場所のさまざまな時季の景色を発信して、日本の山に登る魅力を伝えていきたいと思っています。

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米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。