山を歩き、自然を感じることで豊かになり満たされる心と体。YAMAPが提案する「山歩(さんぽ)」には、多様な自然環境を育む日本の風土を存分に楽しむためのヒントが詰まっています。自然の楽しみ方は人それぞれ。今回お話を伺ったのは、漫画家・コラムニストとして活躍する、辛酸なめ子さん。スピリチュアル感度の高い辛酸さんがライフワークとして求め歩くのは、自然からのパワーチャージと開運だそう。日本各地のパワースポットをめぐったお話と、おすすめの山歩道(さんぽみち)について聞きました。
2023.08.01
庄司 真美
元山岳部のライター
東京生まれ、埼玉育ちの辛酸なめ子さんですが、幼少の頃に住んでいたのは、埼玉県内でも奥多摩や秩父に程近い、自然に囲まれた飯能市。自然に親しみながら育った原体験がありました。
辛酸:飯能市は首都圏とは思えないほど自然豊かなところで、身近に草花が多く、自生する山の実を食べた思い出があります。自宅裏には崖があって、よく登り降りして遊んでましたね。少し下ると河原があって、そこでもよく遊んでいました。
その後、浦和に引っ越し、10代・20代の頃はサブカルチャーやアートに熱中していった辛酸さん。大人になって再び自然やパワースポットに親しむようになったのは、自然な流れでした。
辛酸:20代の頃、写真家・編集者である都築響一さんの著書『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』の影響もあって、秘宝館など日本各地の珍スポットめぐりをしていたのですが、そういうところばかり行っていたら、正気を吸い取られる感じがしてきちゃって(笑)。30代になると厄年も迎えますし、神社や温泉といったパワースポットで良い気を吸収した方がいいんじゃないかと思い、パワースポットや自然豊かな場所を訪れるようになりました。そこからは自然に癒しや充電を求めるようになっていきましたね。
霊感体質なことで知られる辛酸さんは、自然の中で浄化を求めることも多いといいます。なかでも、意識的に実践しているのが、「アーシング」。これは、公園や森の中で裸足になったり、木や地面に触れたりして大地や自然とつながること。
辛酸:東京の街なかにいるとどうしても体が重くなりやすいのですが、あるとき、「アーシング」を実践しているエハン・デラヴィさんから話を聞く機会があったんです。土の上で裸足になって佇むと、溜まっていたネガティブな要素が排出されて、大地からポジティブなエネルギーを吸収できるーー。アーシングの効果と実践方法を知ってからは、方々に出かけるたびに、あまり人がいないところでこっそり靴を脱いで、裸足で土を感じるようになりました。これをやると不思議と気の流れがよくなる気がします。
辛酸さんの普段の山歩(さんぽ)スタイルは、もうひとつ、開運がテーマにあります。方位学の知識をもとに、吉方を積極的に取り入れるようにしているとのこと。
辛酸:神社や聖域に行くことが多いのですが、運気を高めたいときは、中国の三国志の時代に発展した占術「奇門遁甲(きもんとんこう)」をもとに吉方に行くこともあります。一人ひとりの生まれ年などで占うのではなく、干支や季節などみんなにあてはまるものがベースになっている占いなので、集団で旅行するときにも便利なんです。
自然の中に身を置き、散策することで、心身にも仕事にもいい影響があると話す辛酸さん。
辛酸:自然のなかを歩くと、リフレッシュして思考が活性化される感じはありますね。年齢とともに目が見えづらくなってきたので、自然に触れて緑で目を癒したい思いもあります。吉方に歩くこと自体、私にとって自然のエネルギーを吸収しに行く山歩なのかもしれません。
今日も撮影中に黒アゲハ蝶と出合って、目に見えないテレパシーで交流できた気がしました。黒アゲハ蝶はとくに、波動が高いところに現れる縁起がいい生き物だと聞いたことがあります。ほかにも出かけた先の、たとえば水がきれいなところにサギなどがいると、神秘的な生き物に出合えたことに嬉しくなりますね。
近場でパワーチャージできる都内の公園にもよく足を運ぶとのこと。
辛酸:昨年、浜離宮恩賜庭園に数十年に一度しか咲かないリュウゼツランの花を見に行きました。そうやってわざわざ見に行っていることを思うと、動植物全般が好きなんだと思います。そのときは雨で空いていて、貴重な花を独り占めできた気がしました。
近場という意味では、江ノ島も好きです。適度にアップダウンがあって、自然を身近に感じながら散策できる。都心から近いのに全然空気感が違うので楽しいんですよね。
取材などで出張が多い辛酸さん。出張の際は周囲のパワースポットや神社を検索し、自然スポットに足を伸ばすことも多いといいます。
辛酸:奈良の大神神社に行ったときは、山自体がご神体といわれる三輪山(466m)にあって、必然的に杖を借りて1時間以上かけて登ることになりました。昔は禁足地で入山が厳しく制限されていた荘厳な場所で、山道を歩くための10則には写真撮影や飲食、おしゃべりを禁止する項目も。
怖いくらいの急斜面を歩く山道で、途中でお腹も空いてきて、木の切り株がたくあんに見えてきたほどでした(笑)。無心で登ったら、神様や山や自然に守られているような気持ちになりましたね。
途中、雪が降って来るなど神秘的で、さすが「人助けをしなさい」とお告げを受けたという神秘体験をした人もいるくらいのパワースポットという感じでした。頂上ではとくにご神託は聞けませんでしたが、風が吹き抜けて気持ちよかったです。登山は大変だったけど、不思議と疲労感はありませんでしたね。
また、長野県にある岩戸神社に行くために皆神山(658m)を登ったことも。
辛酸:岩戸神社の奥に皆神山があって、片道1時間かけて山を登ってきました。低山ですが、山のてっぺんが平らで面白いかたちをしているからか、太古につくられたピラミッドだといわれています。ツアーを企画した超能力者が、「この山の中にUFOが埋まっている」という話をしていて、そう聞くと元気が出て、山歩きも辛くなくなりましたね。
山頂の皆神神社に参拝し、頂上の草むらにシートを広げてUFOを呼んだのは貴重な体験でした。参加者全員、誰も飲食せずストイックにただ空を見つめていたら、実際には見えなかったのですが、「大きな母船の存在を感じます」と超能力者の先生がおっしゃっていて、異世界の空気を感じましたね。
さらに、島全体が火山である鹿児島の桜島にも何度か訪れたことがあるという辛酸さん。
辛酸:しょっちゅう噴火するので地元の人は慣れていて、噴火や火山灰などの自然の厳しさと人々の生活が共存しているのが印象的でした。火山はものすごく強いエネルギーがあるのであやかりたい気持ちがありましたが、一方で遠くから来た人は気軽には入れない自然の厳しさや雰囲気を体感しましたね。
出張やお出かけのついでにわざわざ足を伸ばしてでも、自然の中を歩くことにどんな目的を見出しているのでしょうか。
辛酸:充電したいのはもちろんですが、都市生活に身を置く中で、自然への感謝の気持ちを高めたい気持ちもありますね。近年、地球温暖化や異常気象、土砂災害などが起きて気象環境が激しくなっていることもあって、地球が怒っているんじゃないかと感じています。
このままだと、環境破壊ばかりしている人間は地球にとって細菌のように有害な存在になってしまいます。同じ菌でもせめて善玉菌になりたいですよね。日本人は森羅万象の中に八百万の神を感じてきました。都会で生活していると、人間は自然によって生かされてエネルギーをチャージさせてもらっていることを忘れがちなので、たまに意識的に自然とのつながりを強めて、感謝の気持ちも高めたいと思っています。
大地とつながる「アーシング」や、エネルギーのチャージを目的に歩く「パワースポット巡り」など、辛酸さんならではの自然の楽しみ方も山歩の一つの形です。ぜひ、みなさんも自分らしい山歩のスタイルを楽しんでみてはいかがでしょうか。
|事任八幡宮 本宮参拝コース
事任八幡宮(ことのままはちまんぐう)は、静岡県・掛川市にある格式高い神社。思ったことがそのまま叶う神社といわれていて、言葉を取り持って願いを叶える神様が祀られています。境内の楠や御神木の杉、イチョウなどの大木たちに、本宮までの山道歩き……と、四季の移ろいや自然の持つパワーに触れながらの山歩を楽しめます。余力のある人は、本宮山山頂まで足を伸ばしてみても。行ってみたいと思ったそのときが山歩日和、YAMAPの活動日記(登山記録)を参考にしながら、ぜひ計画を!
「境内には巨木があって、それが神様の耳とされています。270段ほど階段を上がったところに奥宮があるのですが、そこまで行くのに登山気分が味わえます。頂上では、下でもらってきた白い紙で石を包み、3つ拾ってひとつは自分用、ひとつは神様へ、もうひとつはみんなのために備える儀式があります。思ったことがそのまま叶ってしまうので、ネガティブなことはいっさい言えません。思ってもいけないということで、緊張しながら登りましたが、森の中で癒され、思考がクリアになって浄化される感じがありましたね」(辛酸さん)
辛酸なめ子(しんさん なめこ)
漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生れ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。興味対象はセレブ、芸能人、精神世界、開運、風変わりなイベントなど。鋭い観察眼と妄想力で女の煩悩を全方位に網羅する画文で人気を博す。著書に『スピリチュアル系のトリセツ』『無心セラピー』『女子校礼讃』『電車のおじさん』『新・人間関係のルール』など多数。Twitter:godblessnameko
撮影:駒田達哉