新3Dリプレイはこう楽しむ! YAMAP開発メンバーが語る、魅力&使い方

思い出の山行や、他の人が登った山の様子を再体験・追体験できる──。そんなインタラクティブで楽しい機能が、このたび「新3Dリプレイ」としてYAMAPに新登場! 従来の3Dリプレイとの違いはもちろん、当機能の魅力や知っておくと楽しい使い方のコツ、そして開発の裏話まで。ライター・エッセイストの吉玉サキさんが、開発メンバーに話を聞きました。

2023.10.13

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

INDEX

YAMAPの「3Dリプレイ」に新機能が搭載!

登山の思い出を3D地図で振り返ることができるYAMAPの「3Dリプレイ」に、新たにスライドショーのように写真が表示される機能が加わりました(以下、「新3Dリプレイ」)。

「新3Dリプレイ」は、再生すると自動的に最大で約1分間のアニメーションが流れます。そのアニメーションとは、3D地図上に歩いた軌跡が線を描き、写真を撮ったポイントに差し掛かると位置情報と紐付いた写真がパッと表示されるというもの。再生することでその場にいるような臨場感を味わうことができる上に、ワンタップでSNSにシェアすることも可能です。

そんな新3Dリプレイを開発した3名に、開発のきっかけや新3Dリプレイの魅力を伺いました。

「新3Dリプレイ」は、言葉がいらない活動日記

話を伺った開発メンバー。左から、中島(プロダクトマネージャー)、森脇(エンジニア)、樋爪(デザイナー)。

──新3Dリプレイは、一言で言うならどんな機能でしょうか?

中島:登山の思い出を、3D地図と写真のセットで振り返ることができる機能です。山で使う機能ではなくて、下山してから思い出を振り返るためのものですね。

森脇:大きな特徴のひとつは「言葉がいらない」ところです。従来の活動日記は写真と文章がセットでしたが、新3Dリプレイは文章を書く必要がありません。登山中に撮った写真をアップするだけで、記録として振り返ることができます。

中島:書く必要もないし、読む必要もないんですよね。

森脇:そう。あと、もうひとつの特徴は「再体験・追体験」ができるところ。新3Dリプレイを再生すると、自分が歩いた道ならその場所に戻った感覚になるし(再体験)、人が歩いた道なら自分もそこにいるような感覚を味わうことができるんです(追体験)。

中島:たしかに「再体験」や「追体験」という言葉はしっくりきます。まさに「リプレイ」なんですよね。再生することで、自分の中でその登山がリプレイされる。

──それだけリアルで臨場感があるんですね。今までも「3Dリプレイ機能」はありましたが、今回新しくなった点は?

中島:写真があるかないかが一番の違いです。既存の3Dリプレイは、歩いた軌跡が地図上に表示されるだけで、写真は表示されませんでした。だけど、登山の思い出を振り返るとき、写真はもっとも重要な要素です。そう思って、新3Dリプレイには写真が表示される機能を加えました。

新3Dリプレイ最大の特徴は、地図と写真の融合による「再体験・追体験」。歩いた道と景色がセットで再生されることで登山の思い出が鮮明に蘇るし(再体験)、リプレイ素材が他の人の登山記録であれば、まるで自分もそこを歩いたかのような気分になれる(追体験)。

──新3Dリプレイならではの魅力は、どんな点にありますか?

森脇:ずばり「手軽さ」ですね。ボタンひとつでアニメーションが再生されて、さらにもうワンタップでシェアできる。下山してからすぐに山行を振り返ることができるし、その勢いのままシェアまでできてしまう。この手軽さが魅力です。

──自分で振り返るだけではなく、山行の思い出を他の人たちと「シェアできる」点も大きいですよね。

樋爪:そうですね。シェアされた新3Dリプレイを見て、「この人、こんな山に行ったんだ」と思いを馳せるのも楽しいです。他の人が行ったルートを眺めたり、「ここからこんな写真が撮れるんだ!」という情報を得たり。

──たとえばYAMAPのフォトコンテストを受賞したような絶景の写真も、どこから撮影したかがわかるのでしょうか?

樋爪:そのユーザーさんがデータを同期していて、活動日記をオープンにしていればわかります。たとえ一眼レフで撮った写真でも、時間のデータがあれば新3Dリプレイと同期できるので。ちなみに非公開の活動日記でも、本人なら3Dリプレイを再生できます。

中島:昔から、地図上で写真を見る機能はあったんですよ。でも従来の機能では、活動日記の文章を読んだり、地図や写真を見たり、頭の中でさまざまな情報をミックスしないと理解できなかった。新3Dリプレイはその作業が必要なくて、ただ再生するだけでいいんです。

森脇:地図が2Dではなく3Dであるところも、大きなポイントだと思います。登山の記憶は高低差込みなので、どうしたって2Dよりも3Dのほうが思い出しやすいんです。

中島:3D地図に写真がプラスされたことで、登山の光景をより視覚的に思い出しやすくなったと思います。

新3Dリプレイが再生される様子(提供:中島さん)。軌跡と写真を同時に見られるようになったことで、ユーザーさんからも「より魅力的な機能になった」「神アップデート」などの好意的なお声をいただいているそう。

約3年の月日を経てようやく実装された

ベータ版考案から約3年に亘り3Dリプレイ実装に携わったエンジニアの森脇さん。里山・低山歩きを中心に山を楽しむスタイルで、これまで作成した活動日記の総数は150件以上。その多くを本機能の実装にあたり検証でリプレイしたそう。写真は佐賀福岡県境にある「奇岩鬼ヶ鼻岩」での一枚(ご本人の活動日記より)。

──なぜ、新3Dリプレイ機能を作ろうと思ったのでしょうか?

中島:実は既存の3Dリプレイ機能に不具合が生じて、修正するか作り直すかの選択を迫られ、作り直すことにしました。既存の機能はWebブラウザベースでメンテナンスがしづらかったんですが、新しい3Dリプレイはアプリで動いているから比較的メンテナンスがしやすく、その点も作り直してよかったですね。

樋爪:新3Dリプレイのアイデアは、社長の春山さん、森脇さんと雑談していたときに生まれました。登山の思い出を振り返るとき、YAMAPには活動日記の機能があるんですけど、「よりみんなにシェアしたくなる活動日記ってどういうものだろう?」という話になって……。

森脇:活動日記って文章を書くことが前提じゃないですか。だから僕自身も、文章を書くのが煩わしいと思うことがあって……。もっとカジュアルに、文章を書かずに山行を振り返れる手段はないかと以前から考えていました。それで、実は3年ほど前に、登山中に撮った写真をスライドショーにする機能の試作品を作ったんですよ。ベータ版として出すところまで話が進んだんですけど、いざ実装しようしたときに、「いまいちパンチが足りないな」と感じて頓挫したんです。あのときのアイデアと、今回の雑談を掛け合わせて生まれたのが、新しい3Dリプレイ。およそ3年の月日を経て実装することができて、僕としては感無量ですね。

──3D地図が組み合わさったことで、より洗練された機能になったんですね。開発するにあたって、実際に山に行って写真を撮ったりしたのでしょうか?

森脇:開発中は、新しく山に行って写真を撮る必要はないんですよ。過去に登ってきた日記の軌跡や写真データを使って確認できるので。

──なるほど。新3Dリプレイリリース前のデータも、この機能に紐付けて再生できるんですね。

樋爪:そこも魅力のひとつだと思います。これまでYAMAPの活動日記を使っていたユーザーさんにとっては、過去を新しい手法で振り返ることができるので。過去の山行を新3Dリプレイで再生することで、楽しかった思い出がよみがえり、「また行きたいな」と思っていただけたら嬉しいですね。

新たに登山記録を録らずとも、これまでの活動日記を使って新3Dリプレイを楽しむことができる。再生方法も簡単で、活動日記のページ内にある3つの場所から再生ボタンを押すだけでいい。

──開発にはどのくらいの時間がかかったのでしょう?

森脇:コンセプトが固まってからは、2ヶ月くらいです。今はまだiOSしか対応できていなくて、Androidは対応中です。おそらく、そちらも2ヶ月くらいかかると思いますね。

──この機能を開発するにあたり、大変だったところは?

森脇:樋爪さんが「こういうのが理想です」とデザインを上げてくるんですけど、それがまったくエンジニアのことを考えていないんですよ(笑)。でも、「できません」とは言わずに頑張って作りました。このデザイン通りに作ったら絶対にユーザーさんが喜んでくれるだろうな、と思ったので。

樋爪:ユーザーさんがワクワクすることを第一にデザインしたので、実際に作る森脇さんには苦労をかけたと思います。だけど、僕はデザインしていてすごく楽しかったし、森脇さんも楽しんでくれているのが伝わってきました。

──開発において、工夫した点はありますか?

森脇:スライダーを動かして写真のあるポイントに到達すると、iPhoneの本体がブルっと振動するんですよ。そういうUXやUIの細かいところを丁寧に仕上げました。

樋爪:それがあるのとないのとで、けっこうクオリティが変わるんじゃないかなと思います。

知っておくと楽しい、使い方のヒント

プライベートではトレイルランニングを楽しむ、プロダクトマネージャーの中島さん。今年7月には第11回 霧島・えびの高原エクストリームトレイルに出場し、見事完走(ご本人の活動日記より)!! 長い距離を歩くのも好きで、過去には脊振山系を全山縦走したことも。記事冒頭のプロフィール写真はそのときの一枚。

──新3Dリプレイを使う上で、知っておくとより楽しみが増すような「使い方のヒント」があれば教えてください。

樋爪:再生ボタンと停止ボタンだけじゃなくて、YouTubeの再生バーみたいなバーがついているので、指で進み具合をコントロールすることができます。

森脇:あと、3D地図の見下ろす角度を変更することができます。初期状態だと斜め上からの角度で固定されていますが、2本指で上下に操作すると角度を調整できるんです。2D地図みたいに、あえて真上から見下ろして再生することもできますよ。

樋爪:あと、指でどんどん縮小していくと最終的に地球になります。YAMAPのパーパスである「地球と繋がる喜び」を感じることができるかもしれません(笑)。

──そこまで縮小することができるんですね!

中島:楽しむためのヒントとは少し違うんですが、画面左下のカメラマークを押すと、写真を非表示にして3D地図だけでルートを確認することもできます。前のバージョンの3Dリプレイが気に入っていた方には、引き続き同じ使い方もできますよ、ということをお知らせしたいですね。

里山、トレラン、沢登り。新3Dリプレイの多様な楽しみ方

デザイナーの樋爪さんは「ゴルい沢」を求めて仲間と山へ。この日は犬ヶ岳・求菩提山で、ジェット水流や巨大ゴルジュを満喫(ご本人の活動日記より)。こうした山での遊びによってもたらされる感動体験が、新たなデザインの発想や、日々の仕事を進めるうえでの原動力にもなっている。

──新3Dリプレイをリリースして、ユーザーからはどのような反響がありましたか?

森脇:SNSや会社の問い合わせフォームを見ていても、好意的な意見が多いですね。

中島:実は従来の3Dリプレイをリリースしたとき、「こんな機能いらない」って声が多かったんです。だから今回の新3Dリプレイもあまりユーザーには響かないかもしれない、と不安に思っていました。だけど今回の新3Dリプレイは非常に評判がよかったので、率直に言ってちょっと意外でした。

──年月が経ってユーザーのニーズが変化したのかもしれませんね。

中島:僕は「ユーザーが求めている機能」や「実用性が高くて登山が便利になる機能」をリリースしなきゃいけない、と考えがちなんですね。だけど、樋爪さんや森脇さんは「もっとこういう機能があったらワクワクするよね!」という発想ができる。新3Dリプレイも、そんな2人の感性から生まれた機能です。

──合理性以外の部分から生まれるものも大きいんですね。3人は、実際に新3Dリプレイをどのように使っているのでしょうか?

森脇:標高の高い北アルプスなどより、意外と近所の里山を振り返るのが楽しいんですよね。たとえば「この登山道、こんなに市街地から近かったんだ!」とか「こんなに海から近かったんだ!」など、3D地図とセットで見ることで新しい発見がある。

中島:僕はトレランをやっているんですけど、トレランだと普通の登山に比べて移動距離が長いので、3D地図で振り返ったときに見応えがあります。

──移動距離が長いぶん、アニメーションの速度も速くなるのでしょうか?

森脇:いえ、移動距離によって縮尺を変えているので、動くスピードはそんなに変わりません。アニメーションは移動距離に関わらず1分程度になるようにしています。

中島:それでも、アニメーションで見ると「こんなに走ったんだ!」と感激しますね。

──トレラン中って写真は撮るんですか?

中島:たくさんは撮りません。だからトレランの記録って、活動日記で見ると少し寂しいんですよ。でも新3Dリプレイなら、走った軌跡に少ない写真がポン、ポンと表示される。それを見ていると、写真がない区間の記憶もよみがえってきます。

樋爪:僕は沢登りで使っています。沢登りが終わったあと、友達と温泉に行って新3Dリプレイで振り返って、「あの場所怖かったよね~」などと感想を言い合うのが楽しいです。沢って岩の間とかを進むので、普通の地図だと等高線で険しさを判断するんですが、3Dなら直感的に険しさがわかる。「ここ、すごく切り立ったところにあるんだな」とか。

──極端な話、山に登ったことがない人にも伝わりやすいかもしれないですね。

樋爪:そう思います。2Dの地図より「こういう山に行ったよ」というのが伝えやすいと思いますね。自分で振り返るときも標高差を思い出しやすいので、より記憶がリアルによみがえってきますね。

沢登り後に作成した活動日記を3Dリプレイで再生中の画(提供:樋爪さん)。本人はもちろん、第三者が見ても「どんな場所を登ったのか」「どんな景色が見られるのか」が直感的にわかる。

下山してからも何度でも浸りたい登山の思い出。新3Dリプレイなら、山で出会った景色やそのときの感動が、何度でも鮮明によみがえります。自分で振り返ったり人とシェアしたり、楽しみ方はさまざま。この秋は、登山の思い出を新3Dリプレイで残してみてはいかがでしょう?

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

北アルプスの山小屋で10年間働いていたライター・エッセイスト。著書に『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』がある。通勤以外の登山経験は少ない。