アンダーウェアは登山の服装の中で重要度の高いアイテム。登山の快適度を左右するといっても過言ではありません。間違えた選び方をしてしまうと、気候や気温の変化に対応しきれず、体を冷やして命に関わることも。著名登山ガイドの上田洋平さんに監修いただき、登山用アンダーウェアの役割とその機能をご紹介します。
2024.04.24
YAMAP MAGAZINE 編集部
登山で汗をかいたり、雨に濡れたりして、体の周りが濡れたままになっていると、体はどんどん冷えてしまいます。
山では標高が上がるにつれて気温が下がり、風の影響も受けてしまうので、真夏の登山であっても油断はできません。山での遭難事故では低体温症を伴っていることも多く、体を冷やすということは、夏でも命に関わることがあります。
特に登山に向かない下着の素材として、「綿100%」が挙げられます。天然素材で着心地がよく吸湿性は良いのですが、保水力があって乾きにくいため、汗を吸って濡れたままの状態が長時間続いてしまいます。
汗冷えや、環境によっては低体温症を引き起こすきっかけになるため、アンダーウェアに限らず、登山の服装では綿100%の服装は避けた方がよいでしょう。
登山の服装はレイヤリング(重ね着)が基本。主に以下の4つのカテゴリーを組み合わせて装備します。
①ベースレイヤー(肌着)
②ミドル(中間)レイヤー
③サーマル(保温)レイヤー
④アウターレイヤー
一番下に着用し、直接肌に触れるウェアが、ベースレイヤー。「ベース(基礎)」という言葉の通り、登山における服装の基礎となるものです。
この記事でいう登山用アンダーウェアとは、「ベースレイヤー」と、その下に着用する「ドライレイヤー」などの高機能なメッシュアイテムとします。
いわば「第二の皮膚」ともいえるベースレイヤーには、行動中にかいた汗を肌からを吸いとって水分を発散させ、肌をサラサラの状態に保つとともに、体温をコントロールする役割が求められます。
日常で使っている下着は汗を吸うと乾きにくいですが、登山専用のアンダーウェアであれば、着用することでウェアの着心地もよくなり、山行の快適さに直結します。
登山用のアンダーウェアに求められる機能として、「吸汗・速乾性」「保温性」「抗菌防臭効果」「伸縮性」などが挙げられます。
汗をかいたときに水分を吸い取り、素早く乾くというのは、アンダーウェアにおいて大前提となるポイント。
インナーが汗を吸い取っても、乾きにくければ蒸れの原因になります。気温の低い環境で濡れたインナーを着ていれば、体温を奪われてしまいます。
重要なのは 「肌から水分を離すこと」なので、撥水性や疎水性をもち、肌が乾いた状態を保ってくれる機能素材を選びましょう。
登山で行動しているときは暑くても、立ち止まれば寒さを感じることが多いのが山の中。山は標高が100m上がるごとに、気温が0.6℃下がります。
夏の低山ならあまり重視する必要はありませんが、冬場や標高が高い山行でのインナーは保温性があるとよりいいでしょう。
登山中に汗をかくのは夏だけではありません。冬でも、行動中はたくさん汗をかきます。
蒸れた状態でインナーを長時間着用していると、特に化学繊維は雑菌が繁殖して臭いを発しやすくなります。長期縦走など何日も同じものを着る必要があるときは、抗菌防臭効果のあるインナーが理想です。
登山中は体を動かし続けます。肌に密着するインナーだからこそ、体の動きを妨げず楽に動かせる伸縮性をもつ素材がベスト。
登山用アンダーウェアであれば、弾力性のある繊維をさらに伸縮性を持たせるように織り上げ、体にフィットするデザインに仕立てていることが多いです。
登山のアンダーウェアに使われる素材は、「化学繊維」と「天然素材」、そしてそのかけ合わせとなる「ハイブリット素材」の3つに大別されます。
ポリエステルやポリプロピレンなどの、吸湿速乾性に優れた素材。肌表面の水分を、繊維の表面で素早く発散させてくれます。これにより汗冷えや蒸れが抑えられ、運動量の多い山行でも衣服をドライに保つことができるので、快適に過ごせます。
たとえば同じポリエステル100%でも、糸やその織り方の違いで肌触りのよさにこだわっていたり、肌から離れた位置で乾かせるようになっていたり。
そのほか保温性や消臭性を持たせたり、清涼感を感じられるようにしていたりなど、さまざまな種類があります。
化学繊維のアンダーウェアは軽量で耐久性があり、比較的安価なものが多いのもメリットです。各アイテムの特徴や機能をよく見て、季節や条件に合わせて選びましょう。
吸湿性に優れて冷えも感じにくいのが天然素材(ウール素材)。
なかでも代表的なのは、肌触りのよい「メリノ種」の羊の毛を用いた「メリノウール」。優れた吸汗性があり、濡れても保温性を保つので寒さを感じにくい素材です。薄手のものであれば、温暖なときには涼しさを感じさせる効果も。
また、メリノウールには羊毛が本来もつ天然の抗菌作用が備わっているため、防臭効果も期待できます。
化繊に比べると高価ですが、化繊独特の肌にまとわりつく感じが好きではない方、天然素材の着心地が好きな方におすすめです。
化学繊維と天然繊維を組み合わせたハイブリッドな素材。化学繊維の速乾性、天然繊維の保温性を併せ持つ、バランスのとれた存在です。
化繊とウールを混紡して織ったものや、表面と裏面で素材を使い分けたものなど、さまざまなタイプが開発されています。
速乾性はもちろん、防臭効果やUVカット機能が備わっているものがおすすめ。
また、特に暑い季節や大量に汗をかくスポーツのためのアンダーウェアの場合、速乾性による気化熱で体を冷やすものや、通気性をよくして涼しさを感じさせるものなど、汗処理と「涼しさ」にポイントを置いて作られた夏仕様のアンダーウェアもあります。
ただしこういったクールダウン機能を持たせたアンダーウェアは、涼しい季節や標高の高い山行の場合は体を冷やしすぎる場合があるので、注意が必要です。
気温の低い時期や気温の低い場所での山行は、中厚手・厚手タイプの素材や、裏起毛タイプ、首の保温性が高いハイネックタイプなど、暖かく過ごせるように作られたものを選びましょう。
ただし、冬でも、凍りついた滝などの氷の壁を登るときや、踏み跡のない積雪をかき分けながら進むときなど、動きの多い場面では汗を大量にかくので、化繊や混紡タイプがおすすめです。
より保温性を重視したいときはウール素材を選びましょう。夏でも上手く使えば低山や運動量の多い場所以外では重宝しますし、山小屋宿泊時にも活躍します。
ベースレイヤーのさらに下にもう1枚着るアンダーウェアもあります。それが、finetrack(ファイントラック)の「ドライレイヤー」に代表される高機能なメッシュ素材のアンダーウェア。
これ1枚をベースレイヤーとするのでは機能せず、吸水性・速乾性のあるベースレイヤーとしっかり重ねて着用することで効果を発揮します。
メッシュアンダーウェアは撥水性が高く、発汗時に繊維には保水せず、メッシュの孔から移行した汗をその上のベースレイヤーに素早く吸水させる仕組みです。
これにより、汗をかいてもすぐに肌は乾いた状態に保たれ、湿ったベースレイヤーが肌に直接触れないので、汗冷えが起こりにくくなります。
メッシュアンダーウェアにもさまざまなラインナップがありますが、迷ったらまずは通年使えるスタンダードなものから選んでみましょう。
登山で最も大事なことのひとつは、体を冷やさないこと。体が濡れてしまうと体が冷えてしまったり、低体温症のきっかけにもなったりして、命の危険に関わることすらあります。
肌に直接触れるアンダーウェア選びは、意外にもおろそかにできない、登山装備の基礎となるもの。その機能を知り、納得する1枚を選びましょう。
1979年2月10日生まれ。愛知県名古屋市出身、神奈川県藤沢市在住。2児の息子の父。
日本の山々だけでなく、海外の山々(アフリカ最高峰キリマンジャロ、南米最高峰アコンカグア)への登山経験を経て、2017年から富士山の登山ガイド。
2019年4月に日本山岳ガイド協会登山ガイドステージI資格、2022年4月に登山ガイドステージII資格を取得し、専業ガイドに。
山岳写真を撮るため、フルサイズ一眼レフ、ジッツォの三脚、雲台、標準ズームレンズ、望遠ズームレンズを担いだ登山も敢行。キャンプ、空手、筋トレ、旅行、読書、トレイルランニング、ギター、ゲームなど趣味多数。