舗装されていないトレイル(自然道)を歩く登山では、露のついた草やぬかるんだ道によって靴やパンツの裾が汚れてしまったり、靴の中に砂や小石が入り込んできたりと、舗装路を歩く際には起こりにくい問題がたくさん発生します。
そんなときに活躍するのが「ゲイター(スパッツ)」。膝下から靴の上を覆い被せるように使うアイテムで、前述のような問題を解決するのにとても役立つアイテムです。
ここでは、登山ガイドの上田洋平さんに監修いただき、豊富な種類がある「ゲイター(スパッツ)」の正しい使い方や選び方について紹介します。
2024.02.02
YAMAP MAGAZINE 編集部
「ゲイター(スパッツ)」は、快適な登山のサポートをするためのアイテムであり、絶対に必要なアイテムではありません。季節や登るコースの状態、当日の天候を参考にして、登山用スパッツを着用するかどうか決めましょう。
「ゲイター(スパッツ)」には、主に以下のような役割があります。
1. 雨/雪の侵入を防ぐ
不快なだけでなく、体温低下の原因にもなるため、登山では「靴の中を濡らすこと」は避けなければなりません。ゲイター(スパッツ)は雨水がレインパンツを伝って登山靴に侵入することを防ぎます。
2. 砂や小石の侵入を防ぐ
ガレ場やザレ場などの石が多い登山道で、登山靴の中に砂や小石が入ることを防ぎます。
3. パンツを汚れや擦れから守る
公共交通機関を使って山に行く際など、帰りに靴やパンツの裾が泥だらけ…ということは避けたいはず。ほかに登山では木や岩に擦れることでパンツに穴が空いたり擦れが生じるリスクも。ゲイター(スパッツ)を履くことで、パンツの泥汚れやダメージを防ぐことができます。
4. 防寒アイテムとして
天候の変化が激しい登山において、体温の低下防止に役立ちます。
上記のようなさまざまな用途で活躍するゲイター(スパッツ)ですが、そのなかでも主とする用途に特化した製品も多数存在します。デザイン重視で選んでしまうと、必要な目的が達成できないことも。自分が必要とする用途や目的に合わせた、機能面のチェックも怠らないようにしましょう。
日本の登山道は丈の短い草原ではなく、草木が生い茂る森の中を歩くことが多いです。草木についた露も、足元を濡らす大きな原因のひとつ。また、雪道を歩く際には膝まで雪に埋まる可能性もあります。
濡れ・汚れ防止を目的とする場合には、膝下までの長さのゲイター(スパッツ)がおすすめです。もちろん、砂や小石の侵入を防ぐ目的にも対応してくれます。
素材は、防水性の生地と撥水性の生地があります。多少の雨であれば撥水性のもので対応できますが、長時間の雨には耐えられません。お値段は高くなりますが、汎用性を求めるならばGORE-TEX(ゴアテックス)などの防水性のものを選ぶとよいでしょう。膝下丈のゲイター(スパッツ)は防風効果もあるため、寒さ対策としても役立ちます。
およそ140gという、膝下丈の「ロングゲイター」の中では非常に軽量でタフな製品です。耐水圧10,000mm、透湿性7,000g/㎡の防水透湿性を持つ「Pertex® Shield(パーテックス シールド)」がメイン素材に採用されているため、軽量ながら防水性も備えており、雪山登山まで幅広く対応できるゲイターとなっています。
「Pertex® Shield(パーテックス シールド)」の特徴は防水性だけではなく、特出するのは中にこもった蒸気を適切に排出する透湿性。通年での使用はもちろんのこと、雨天時など長時間の着用を強いられるシーンでも不快感を感じにくい製品です。
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ロング丈のゲイターは、着用時のごわつきや持ち運びの際にかさばるという難点があります。そんなデメリットを克服し、フィット感や軽量性を重視したものがショートゲイター(スパッツ)です。
フィット感を重視するため、ストレッチ素材を採用したものが多く、防水性はないものがほとんど。主にトレイルランニングやライトハイキングなどの、短時間での使用を目的として作られています。少しの雨を防いだり、砂や砂利の侵入をふせぐことが目的とされるため、長時間の雨や雪山での使用などは適していません。
メリットは、ストレスのないつけ心地と軽さ。とてもコンパクトになるため、持ち運びの際もかさばりません。使う予定がない山行でも、お守りとしてバックパックに携行しておきやすいサイズです。
軽量でしなやかな、薄手のソフトシェル素材を使用した、ローカットシューズ用のショートゲイター。一般のゲイターのように、足裏にワイヤーやベルトを通さずに使え、ワンタッチですばやく着けられるのが特徴です。
防水性能は備わっていませんが、繊維の1本1本にナノレベルの撥水加工を施すことで、水をくみ上げられるほどの高い撥水性を発揮。通気性にも優れ、ムレやべたつきの心配もありません。しかも、100回洗濯を繰り返しても撥水性を確保する耐久性も備えています。
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ゲイター(スパッツ)は、大きく分けると「3シーズン(春〜秋)向け」と「冬向け」に分けられます。二つの大きな違いは、使われている生地の素材です。
冬向けのゲイター(スパッツ)は、雪山を登る際に滑り止めのために靴底につける装備「アイゼン」の歯に引っかけても生地が切れにくい特殊な素材を採用しており、3シーズン向けのものと比較して生地が分厚く丈夫なことが特徴です。基本的に防水性の生地が採用されています。
なお、冬向けのゲイター(スパッツ)を他の季節に使用することは、蒸れなどの原因となるためおすすめできませんが、3シーズン向けを冬の低山で着用することはできます。冬の登山でも雪山に登らない場合は3シーズン向けを使用するなど、登山時の気温・天候などに合わせて使い分けるとよいでしょう。
メイン素材に、ゴアテックス素材の中でも最も透湿性に優れた「GORE-TEX PRO」を採用した製品。ふくらはぎにあたる後面にはストレッチ生地が使われているため、脚にぴったりとフィット。しゃがんだり、足を上げたりする登山中の激しい動きの最中でもストレスを感じることはありません。
岩や木、シューズのかかとなどとスレて傷みやすい下部と、物に当たりやすい面テープ前面には、ポリウレタンコーティングを施した300デニールのナイロン生地を配置。傷みや裂け、破れに強いゲイターとなっています。
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一般的な日常生活では使うことのないアイテムだからこそ、気になるのは使い方。正しい装着方法でなければ、ゲイター(スパッツ)の効果は最大限発揮できません。ここでは一般的なゲイター(スパッツ)の装着方法をご紹介しますが、製品によって仕様はさまざま。購入した際は必ず一度、自宅で装着方法を実践しておきましょう。
①ゲイターの左右を確認する
案外間違いやすい、ゲイターの向き。ゲイターの中にタグなどで表記されているため、装着前に左右を必ず確認しましょう。後から間違いに気付くと、付け直しの手間が増えタイムロスにもつながります。登山者の中には、現地ですぐに判断できるようマジックペンなどで内側に大きく「右」「左」と記載している人も多いようです。
②開閉部(ベルクロやジッパー)の向きを整え、足に装着する
ゲイターをふくらはぎ(または足首)の部分に巻きつけます。このとき、ゲイター下部についているストラップはシューズの底部にくぐらせておきます。開閉部(ベルクロやジッパー)は雨や雪が入り込む隙間ができないように丁寧に重ねて閉めましょう。
③上部のコードを締める
ゲイター上部にあるボタンを止め(またはコードを締め)、ゲイターがずり落ちないようにおさえます。
④シューズとゲイターを連結、固定する
ゲイター下部正面にあるフックを、シューズの靴紐にひっかけるようにしてシューズとゲイターを連結します。このとき、できるだけ先端に近い靴紐にひっかけるようにすることで、活動中にゲイターが外れにくくなります。
⑥バランスを整える
最後に、下部のストラップ、コード(ボタン)、フック位置の3点を調整してバランスを整えます。それぞれがちょうどよく引き合うことで、外れにくさも高まります。ストラップの長さに関しては、合わせるシューズによって装着時のフィット感が大きく異なるため、事前に自宅で自身のシューズに合った長さに調整をしておくと、現地で簡単に装着することができます。
ゲイター(スパッツ)を装着するタイミングは、天候や山の路面状態によって判断する必要がありますが、基本的には「活動開始前」につけることがおすすめです。登山口までの移動中に、屋内や車内にいるときから装着している必要はありませんが、外に出たとき、雨が本降りになってから装着するようでは、靴の中が濡れてしまいます。
雨が降っている場合には、屋外に出る前に。すでに野外にいる場合には、天候が悪化する前に装着しておきましょう。
また、当日は雨が降っていなかったとしても、前日に雨が降った山へ登るときには、事前にゲイター(スパッツ)を装着しておきましょう。道がぬかるんでいたり、草や枝が雨で濡れたりしている可能性が高く、シューズやパンツが濡れたり、汚れやすかったりする状況であるためです。
ゲイター(スパッツ)は、シューズやパンツをダメージから守るための道具でもある以上、長く使用することで、ゲイター(スパッツ)そのものが消耗し、破れたり穴が空いてしまうケースがあります。
登山中にゲイター(スパッツ)が破けてしまったら、ゲイターは役割を果たせなくなってしまいます。そんな時の応急処置に便利なのが「ダクトテープ」です。
ダクトテープは粘着テープの一種で、日本における一般的な粘着テープ(いわゆるガムテープ)よりも粘着力および強度が高いのが特徴。ゲイター(スパッツ)の補修以外にも、ザック、登山ブーツ、ダウンジャケット、レインウェアなど、ほかの登山道具が破れたり壊れたりしてしまった場合でもこれで応急処置ができます。手元に一つ準備しておくと重宝する小道具です。
ダクトテープ以外にも、「リペアシート」としてアウトドアブランドから販売されている補修用テープも存在します。携帯性に優れ、強力な粘着性や防水機能が備わっているものが多いため、こちらを携帯しておくこともおすすめです。
ただし、リペアシートの場合、貼った後にメーカー修理に出すと修理不能となる可能性があるので注意しましょう。
穴が空いたときに素早く簡単に補修することが出来る、GEAR AID(ギアエイド)のリペアシート。あらゆるタイプのGORE-TEXウェアを補修でき、米GORE-TEX社も承認した製品です。
パッチを貼るときは、補修箇所を清潔かつ乾いた状態にしてから貼り、さらに押し当てます。アイロン(弱)をかけたり、乾燥機の弱モードで乾かすことで粘着力が高まり、洗濯してもはがれなくなります。
公式サイト:GEAR AID(ギアエイド)/GORE-TEXリペアパッチを見る
このほか、GEAR AIDからはシルナイロン製のテント、フライシート、ポンチョ、スタッフバッグ、またはナイロン、ビニール、ゴム製などにも貼り付けられる「シルナイロンパッチ」もあります。
マストアイテムとはいえませんが、登山中の快適性を高めてくれるゲイター(スパッツ)。種類の豊富さから、何を選べばよいかわからないという悩みも多いものですが、自分が使用したい山の路面状況・季節・当日の天候を基準にして探してみることで、用途に適した製品を見つけることができます。
ここまでの内容を参考に、ゲイター(スパッツ)を賢く取り入れて、登山の質をワンランクアップさせてみましょう。
1979年生まれ。名古屋市出身、神奈川県藤沢市在住。2児の息子の父。日本の山々だけでなく、海外の山々(アフリカ最高峰キリマンジャロ、南米最高峰アコンカグア)への登山経験を経て、2017年から富士山の登山ガイド。2019年4月に日本山岳ガイド協会登山ガイドステージI資格、2022年4月に登山ガイドステージII資格を取得し、専業ガイドに。
山岳写真を撮るため、フルサイズ一眼レフ、ジッツォの三脚、雲台、標準ズームレンズ、望遠ズームレンズを担いだドM登山も敢行。キャンプ、空手、筋トレ、旅行、読書、トレイルランニング、ギター、ゲームなど趣味多数。