スマホに出せない「山の雰囲気」|ミラーレス一眼の表現力を写真家が解説【OM SYSTEM OM-5】

「登山の記録や思い出を綺麗な写真で残したい」

登山を楽しむ方なら一度は思ったことがありませんか? スマホのカメラから、一眼カメラにステップアップしたいと興味を持つ方も、少なくないはず。

その日の天候や、季節によって、行くたびに違った景色に出会うことができるのは、登山の魅力のひとつ。そんな山での素敵な瞬間を、雰囲気たっぷりの写真に残すためのカメラ操作のコツを、山好きの写真家・川野恭子さんが教えてくれました。

2024.03.05

川野 恭子

写真家

INDEX

YAMAPではOMデジタルソリューションズと、「登山がもっと楽しくなる写真教室」と題し、カメラ初心者向けの講習会を実施しました。

講師は、YAMAP MAGAZINEでの撮影も担当する写真家の川野恭子さん。なかなか思うような写真を撮れずに悩むYAMAPユーザーさんを相手に、ミラーレス一眼カメラで山の写真を素敵に写すコツを教えてくれました。

​​「スマホじゃ撮れない写真」とは

皆さま、こんにちは。写真家の川野恭子です。

YAMAP MAGAZINEの撮影を担当したり、カメラメーカーさん主催の写真講座で講師を担当したりする、山が好きな写真家です。山に登り始めるまでは体を動かすのが苦手でしたが、今では過去の自分が驚くほど、山に登るのが楽しい日々を過ごしております。

そんな川野の挨拶はそこそこに…。

2024年1月某日、YAMAPとOMデジタルソリューションズの共催で、ミラーレス一眼でスマートフォンには出せない写真表現の差を学ぶ「登山がもっと楽しくなる写真教室」が宝登山で開催され、川野が講師をつとめました。

秩父鉄道野上駅から長瀞アルプスを経由して、宝登山へ!冬の低山で被写体が少ないなか、ミラーレス一眼カメラでの写真撮影にチャレンジ

皆さんはスマートフォン(以下スマホ)全盛の時代に、わざわざミラーレス一眼カメラを選んで撮影する理由って何だと思いますか? 広角で広い景色を撮るだけなら、スマホだけでも十分と思う人がほとんどでしょう。

ですが、スマホで撮影した写真は少し物足りなく感じる方も多いのでは…。この物足りなさの理由、それは「雰囲気」にあります。

「雰囲気」をひとことで述べるのは難しいのですが、あえて…あえて述べるなら「解像感とボケのバランス」だと思うのです。

写真:川野

写真教室に参加してくれた皆さんに同じ質問を聞いたとき、特に印象的だったのが次の言葉でした。

「同じ山を歩いていたのに、友人の一眼で撮影した写真はスマホで撮影した自分の写真より、何倍もその場の雰囲気を感じられる写真だった。私もそんな写真を撮れるようになりたい」

もちろん、スマホでも背景をぼかせるし、ある程度はきれいに撮れます。それでも違うと感じたのは、先に述べた「解像感とボケのバランス」だと思うのです。

この話を掘り下げると難しくなりそうですから、まずはミラーレス一眼カメラで写真を撮る楽しさを体感してもらうことを目標に、写真教室当日を迎えました。

「雰囲気のある写真」を撮るなら、脱Autoで

ミラーレス一眼カメラを手にした時に、まず最初の壁となるのは「設定」ですよね。

最適な設定を自動でしてくれる手軽なAutoモードで撮影してみたはいいけど、「雰囲気のある写真」が撮れないし、設定も分からないから諦めてしまう…。というパターンが多いのではないでしょうか?

ところどころ立ち止まりながら、撮り方や設定のアドバイス。皆さん真剣にカメラを操作しています。

脱Autoモードが鍵なのですが、難しいことを立て続けに伝えても嫌になってしまいます。そこで写真撮影会では皆さんに私も愛用しているOM SYSTEM OM-5をお貸しして、まずはAutoモード以外のP・Aモードの使い分けを伝えることにしました。

P(プログラムAEオート)モード
通常はこのモードでOK。Autoモードに近いが、細かい設定が可能(Aモードも同様)。

撮影モードダイヤルを「P」に合わせる

A(絞り優先AE)モード
「ボケ」を楽しみたいときはこのモード。ボケ具合は絞り値(F値)で決まります。
・絞り値(F値)を小さくする…ボケが強くなる
・絞り値(F値)を大きくする…ボケが弱まる

左/モードダイヤルを「A」に合わせる、右/◯で囲んだ数値が絞り値(F値)。リアダイヤルで絞り値を設定します。

撮影モードを切り替えることで得られる3つのメリット

P・Aモードにすることにすることで得られるメリットは3つあります。

1つ目のメリットは、写真の仕上がりを自分好みにできることです。仕上がりとは、明るさ、色合い、ボケ、鮮やかさ、コントラスト…などのこと。他にもたくさんの設定が可能ですが、今回の教室では必要に応じてお伝えしました。

写真:川野

2つ目のメリットは、「一度覚えてしまえば他の機種にも応用できること」。操作が若干異なる場合がありますが、考え方は同じです。

3つ目のメリットは、「雰囲気のある写真が撮れること」。記事冒頭で「雰囲気とは、解像度とボケのバランス」と述べました。ということは、「Aモード」でボケのある写真を撮れるようになれば、撮りたい写真に近づけるわけです。

ということで、撮影会当日は「基本はPモード。雰囲気=ボケのある写真を撮りたいときはAモードで撮りましょう。」とお伝えしました。

すると、どうでしょう…!

撮影会に参加してくれたM腰さん(左)、Wさん(右)の撮影画像

撮影会に参加してくれたT島さん(左)、K内さん(右)の撮影画像

参加者の皆さん、こんなに素敵な写真を撮られていました!

撮影会当日は、交換レンズの貸出しも行われ、ボケが強く出せるレンズ、遠くの被写体を引き寄せられるレンズなど、レンズを選ぶ楽しさも体験していただきました。レンズを交換するごとに違う雰囲気を楽しめるのも、ミラーレス一眼カメラの醍醐味なのですよね。

「何かが違う…」素敵に撮れない3つの苦手ポイント

撮影会前の講義では、撮影ポイントをいくつかお伝えしましたが、いざ実践となると簡単にはいかない模様…。皆さんの様子を見ていると、3つの苦手ポイントが見えてきました。

その①:目で見た明るさと異なる…露出

スマホであっても一眼カメラであっても、通常は目で見た明るさで撮影出来ますが、明るすぎたり、暗すぎたり、極端な光の状況では目で見た明るさと写真の明るさが異なる結果になります。

そんなときは、写真の明るさが自分好みの明るさに仕上がるよう、コントロールする必要があります。このとき役立つのが「露出補正」という機能です。露出というと難しいですが、「露出=明るさ」と置き換えると簡単です。

左/逆光で強い光が差し込むせいか、目で見た印象より暗く写ってしまった。右/目で見た印象になるよう、+側に明るさを補正した。同じ場所でも爽やかな印象に。(写真:S藤さん)

逆光では、写真が目で見るより暗く仕上がる傾向にあるので、露出補正値を+側に設定し、目で見た印象に近い明るさに仕上げてもらいました。印象が違いますね!

何かが違うな…と思ったときは、「露出」を見直してみましょう。

OM SYSTEM OM-5では、フロントダイヤルを回すと露出補正値を設定できる。P・Aモードともに操作は同じ。◯で囲んだところが露出補正値。+に補正すると明るく、−に補正すると暗く表現できる。

その②:光を味方につけていない

素敵だと思う写真には共通点があります。それは光を味方につけている、ということです。「キラリ」とした光を入れると印象的な写真に変化しますが、初めのうちは光を探すのもひと苦労。

そこで具体的に、山では4つの光を見つけるようお伝えしました。すると…

1.木々の間から見える太陽の光(光芒)
絞り値を大きくすると光芒になり、より印象的になります。

写真:撮影会に参加してくれたM腰さん

2.葉や花びらを透かす光(透明感)
葉が光に透ける位置を探すことで、透明感が生まれ、美しい仕上がりに。

写真:撮影会に参加してくれたY田さん

3.葉の隙間から見える空の光(玉ボケ)
手前にピントを合わせることで背景がぼけ、葉の隙間から見える空が玉ボケに。

写真:撮影会に参加してくれたWさん

4.木漏れ日の光と影(地面の模様)
光そのものだけでなく、登山道に差し込む光が描き出す影の模様も素敵です。

写真:撮影会に参加してくれたK太郎さん

いかがでしょうか?

冬の低山で被写体が乏しい状況でも印象的な写真が撮れると知り、皆さん夢中になって撮影していました。

その③:欲張りすぎて伝えたいことが曖昧

画面の中に「空も山も花も…」と入れすぎると、何を伝えたいのかが曖昧な写真になりがちです。そこで、「この景色の何に感動したのか?」を明確にしてみましょう、とお伝えしました。

具体的にはどういうことかというと…

写真:川野

左の写真は、山深い景色に感動したので山並みを多く配置。一方、右の写真は、雲一つない青空に感動したので空を多く配置しています。

同じ場所で撮影したにもかかわらず、がらっと印象が変わりました。 感動したモノやコトを画面の中に大きく配置すると伝わる写真になります。

何を伝えたいのかが写真から伝わってきますよね。少し撮り方を変えるだけで、写真は大きく変わるのです。

左/木の根が張り出す地面を多く入れたことで、木々の生命力を感じさせる写真に。(写真:K村さん)
右/山へ続く町並みとロウバイを大きく入れたことで、山から里へ春が降りていく印象に。(写真:Y代さん)

どんな写真が撮れたかな?成果を見せ合った講評会

素敵な写真を撮れるようになるには技術を得るだけでなく、見ることも大事なのです。撮りたいイメージが頭の中に蓄積されていくほど、撮影時に引き出すことができるからです。


というわけで撮影会終了後は、参加者の皆さんに「今日の一枚」を選んでいただき、良い点や改善点などお伝えしました。

【K内さんの一枚】
太陽が光芒状になることで、光の力強さを感じますね。アートフィルターで表現した森深い樹林帯と、明るい日差しのコントラストが印象的です。

【Y田さんの一枚】
「葉の透け具合が美しかった」。逆光で輝く葉を選ぶだけでなく、背景が暗い場所を選んだことで一層透明感が増しましたね。場所選びが素晴らしいです。

【S籐さんの一枚】
「北風と太陽」を思わせる一枚ですね。登山者の足が開いた瞬間のシルエットが◎。山肌に落ちた木々の影が描く模様も美しい一枚です。

【Y代さんの一枚】
登山者が等間隔になった瞬間を捉えていて面白いですね!地面を多く入れ込み、低い位置から撮影しているので、山の傾斜もしっかり伝わりました。

【M腰さんの一枚】
下から撮影したことで空に伸びる枝に生命力を感じます。枝の配置バランスが◎。花に思い切り寄ったおかげで前ボケ大きくなり、華やかに見えます。

【Wさんの一枚】
ロウバイの丸いつぼみと、背景の花がボケたことによる玉ボケにより、水玉模様のような可愛らしい一枚に。ボケによる青空と白い雲のとろけ具合も◎。

【K太郎さんの一枚】
山頂からの景色だけでなく、手前にロウバイを配置したことで季節や香りが伝わる一枚に。額縁のように木々が山並みを囲んでいるのも良いです。

【K村さんの一枚】
先端の花を狙う&背景をぼかすことで枝の悪目立ちを防ぎ、スッキリした印象に。主役の花を右に寄せたことで空間が広がり、春の空気が感じられます。

【T島さんの一枚】
半逆光により透けたロウバイが良いです。撮影者の手元が入ることで物語性のある写真に仕上がりましたね。上部に横切る枝を画面から外すとさらに◎。

「今日の一枚」いかがでしたか?「雰囲気のある写真」が撮れていますよね!講評会の最後は作品をプリントして、この日の記念としてお持ち帰りいただきました。皆さん良い笑顔!

今回の撮影会では、基本的な設定、光の探し方、構図、レンズによる写りの違いなどをお伝えしました。お伝えしたことはごくわずかですが、それでもミラーレス一眼カメラで撮ることの楽しさを感じていただけたようでした。

もっともっとお伝えできることはありますが、基本こそが写真を撮るうえで一番重要なのです。いかがでしょう。「私にもできそう…」と思いませんでしたか?

今回、撮影会に参加された方も、参加できなかった方も、ぜひこの記事を参考にしていただき、これまで以上に山歩きを楽しんでもらえたら嬉しく思います。

***

 

今回のツアーでみなさんが使用した機材は、OM SYSTEM OM-5

このカメラの一番の特徴は「小型軽量」。ボディ本体の重量は、なんと414g! 500mlペットボトルよりも軽量という登山者に嬉しい一台です。初心者でも扱いやすいサイズ感が嬉しいカメラですが、小さいボディーながら充実の機能がたっぷり搭載されています。

登山へ持ち出すにも安心の防塵・防滴・耐低温(-10℃)性能はもちろん、山で出会う美しい瞬間も高画質に残すことができる表現力がこのカメラの強み。気になる方はぜひチェックしてみてくださいね。

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【今回、撮影のコツを教えてくれた講師】
川野恭子|写真家
「日常と山」を並行して捉え、自身に潜む遺伝的記憶の可視化を試みた作品制作を行う。ここ数年は山小屋勤務を経験しながら山の歴史・文化に造詣を深めることに努めている。メディアへの写真提供、撮影、執筆、講師、テレビ出演(NHKにっぽん百名山ほか)など、多岐に渡り活動。京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)通信教育部美術科写真コース卒業。
著書に、写真集『山を探す』(リブロアルテ)、写真集『When an apple fell, the god died』(私家版)、『はじめてのデジタル一眼撮り方超入門』(成美堂出版)ほか多数。山に関する書籍を織田紗織(saorin)氏との共著で出版予定。

WEB : https://kyokokawano.com
Instagram : https://www.instagram.com/kyokokawano.kk
X : https://twitter.com/KyokoKawano
facebook : https://www.facebook.com/Kyoko.Kawano.K

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執筆:川野恭子
協力:OMデジタルソリューションズ/写真撮影会に参加いただいたユーザーのみなさん

川野 恭子

写真家

川野 恭子

写真家

「日常と山」を並行して捉え、自身に潜む遺伝的記憶の可視化を試みた作品制作を行う。ここ数年は山小屋勤務を経験しながら山の歴史・文化に造詣を深めることに努めている。メディアへの写真提供、撮影、執筆、講師、テレビ出演(NHKにっぽん百名山ほか)など、多岐に渡り活動。京都芸術大学通信教育部美術科写真コース非常勤講師。著書に、写真集『山を探す』(リブロアルテ)、『はじめてのデジタル一眼撮り方超入門』(成美堂 ...(続きを読む

「日常と山」を並行して捉え、自身に潜む遺伝的記憶の可視化を試みた作品制作を行う。ここ数年は山小屋勤務を経験しながら山の歴史・文化に造詣を深めることに努めている。メディアへの写真提供、撮影、執筆、講師、テレビ出演(NHKにっぽん百名山ほか)など、多岐に渡り活動。京都芸術大学通信教育部美術科写真コース非常勤講師。著書に、写真集『山を探す』(リブロアルテ)、『はじめてのデジタル一眼撮り方超入門』(成美堂出版)、『yamadori』(私家版)、織田紗織氏との共著『山の辞典』(雷鳥社)ほか多数。