国内最高峰・富士山(3,776m)の山梨側にある登山道「富士山吉田ルート」で、2024年7月1日(月)から新たに「登山規制」が行われます。これに伴い、5月下旬からは「通行予約システム」の運用が開始されました。
そこで今回は、山梨県の担当部局である富士山保全・観光エコシステム推進グループに、登山ガイドの上田洋平さんが取材。富士吉田ルートの「登山規制」と「通行予約システム」について、その詳細と決定の背景を聞きました。
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2024.06.25
上田洋平
登山ガイド
2024年の「富士山吉田ルート」の登山規制では、大きく次の3つの規制ができました。
① 夜間(午後4時〜翌日午前3時)の吉田口五合目からの入山は不可
この時間は五合目登山道入口ゲートが閉鎖され、入山できなくなります。
② 登山者が1日あたり4,000人を超える場合、入山を規制
1日の登山者が4,000人に達した場合、通行が規制されます。
③ 山梨県側の通行料(施設使用料)の支払いを義務化
山梨県側の登山口の通行料(施設使用料)として、2,000円が支払い義務として必要となります。なお、従来登山口で支払っていた富士山保全協力金1,000円は任意払いのままです。
ただし、①②に関して、山小屋の宿泊予約があれば、夜間(午後4時〜午前3時)の通行や1日の登山者が4,000人を超える日も通行可能です。原則、規制開始の午後4時までにゲート通過が求められています。
── 今回の登山規制には、どのような背景があったのでしょうか。
富士山保全・観光エコシステム推進グループ担当者(以下、担当者)
富士吉田ルートの状況として、2023年には137,000人の登山者がいました。
新型コロナ前の水準に回復してきた一方、山頂付近で御来光を見たい方で混雑し、2022年のハロウィン時期に韓国ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で起こった、将棋倒しのような事故が発生しないか懸念されています。
また、夜間に五合目から登山を開始して山頂での御来光を目指す「弾丸登山」は、頂上付近で体力が落ちた状態で御来光待ちをするため、低体温症や高山病のおそれがあります。
それに加え、一部の弾丸登山者がマナーに反して登山道上で休憩やテント設営、焚き火を行うといった事例も問題となっています。
こういった背景から、山梨県としても「富士山を守るため、なんとかしないといけない」ということで、登山規制にやむなく踏み切りました。
── 今回定められた通行料金の金額「2,000円」は、どのようにして決められたのでしょうか。
担当者
通行予約システムや、通行料徴収、案内スタッフ、安全誘導員(登山道案内)、巡回指導員(パトロール)の人件費などの規制にかかる経費を見積もり、年間の登山者数で割って2,000円に決定しました。
地元の山小屋関係者らからは高いという声も上がる一方、有識者らからは安すぎるという声もあるため、2024年の夏山シーズン終了後に検証し、必要があれば見直す予定です。
外国人だけ高くするという意見もあり、そういった対応が可能かどうかは検討していきます。ただ、しばらく時間がかかる見込みです。
──1日あたりの通行人数上限「4,000人」は、どのような根拠で決められたのでしょうか。
担当者
2018年に、登山者数と実際の登山道の状況をGPSロガーを使って調査しました。その結果、富士山吉田ルートでは、登山者が4,000人を越えると山頂付近で人が密集し、危険な状況になることが判明しました。
2023年には富士吉田市が六合目地点で調査したところ、5日程度4,000人を越えていました。海の日の連休やお盆は、特に混雑します。
──静岡県側でも「静岡県富士登山事前登録システム」の運用など、登山者の入山に関する取り組みをされていますが、山梨県と静岡県で異なる動きをしているのはなぜでしょうか。
担当者
山梨県側の登山道は県の土地なので、条例により独自に規制ができるのですが、静岡県側の登山道は国の土地なので、規制にはハードルがあります。
2024年6月時点での静岡県側の対応は、あくまで「お願い」となり「規制」まではできないという違いがあります。
──規制に伴い、通行予約システムも運用が開始されました。
担当者
通行予約システムは、登山規制に伴う現場での混乱やトラブルの回避や、登山者がその日に登れなくなるのを防ぐ目的で新たに設けられました。
対象ルート | 山梨県側の「富士吉田ルート」の五合目より上の箇所(吉田口五合目にゲート設置) 静岡県側の富士宮ルート、須走ルート、御殿場ルート(静岡県)は規制の対象外。静岡県富士登山事前登録システムへの登録が推奨されています。 |
対象期間 | 7月1日〜9月10日(富士吉田ルート2024年の開山期間) |
通行予約対象者 | 対象の富士吉田ルートを通り、山小屋の宿泊予約が無い登山者
※山小屋の宿泊予約があれば通行予約は不要。事前に通行予約システムで通行料を決済しておけば、登山当日、登山口でQRコードをかざすだけ |
通行予約システム 予約開始日時 |
2024年5月20日 午前10時 |
通行料 | 2,000円 (富士山保全協力金1,000円は任意。現地で別途支払い) |
通行料の決済方法 | クレジットカード、QR決済 |
同時決済可能人数 | 代表者1人あたり1回 100人まで |
通行予約上限 | 1日 4,000人(事前予約 3,000人、当日予約1,000人) |
自己都合による キャンセルや日程変更 |
不可(交通機関の遅延も含む) 県の都合により通行できなった場合は返金あり |
対応言語 | 日本語、英語、中国語 |
予約方法 | 富士登山オフィシャルサイトから予約・事前決済が可能 |
──山小屋の宿泊予約もありますが、通行予約システムとの連携などはあるのでしょうか。
担当者
山小屋の宿泊予約と通行予約は別のものです。山小屋の宿泊予約があれば、通行予約がなくても登山は可能です。
山小屋の予約システムとの連携については、2024年の状況を踏まえた上で、山小屋の方々と相談する予定です。
事前に通行予約システムで通行料2,000円を収めておけば、登山当日にQRコードを5合目のゲートでかざすだけになるため、手続きはスムーズになります。
最大100人まで、代表者による一括決済が可能なので、団体ツアーなど大人数で決済窓口に並ぶ必要がありません。
山小屋の宿泊予約がなくても登山はできますが、午後4時〜午前3時の間または1日の人数が4,000人を超えた場合は、五合目から山頂方向へは通行できません。
通行予約をしていても、規制が開始される午後4時以降は登山できません。山小屋の宿泊者は午後4時以降も通行可能ですが、安全登山のため午後4時前までに五合目ゲートを通過することが推奨されています。
──キャンセル・変更に関するルールを教えてください。
担当者
決済完了後は自己都合のキャンセル・変更による返金はできないので、予約者側での手続き・連絡は不要です。
登山日を変更する場合は、新たに変更後の登山日で予約(決済)してください。以前決済した変更前の通行料は返金されません。
ただし、山梨県の都合により通行できなかった場合は、返金されます。
──当日予約については可能なのでしょうか。
担当者
予約は登山日の前日23時59分まで可能です。
当日予約はできませんが、当日に現地での受付分を1,000人以上確保していますので、予約をしない場合は当日、早めに五合目で受付することが推奨されます。
「山小屋に宿泊して山頂での御来光を目指す」
「午前5時くらいに五合目から登山開始し、午後3時くらいまでには下山」(登山中級者以上)
今回の山梨県側富士吉田ルートの「登山規制」及び「通行予約システム」の導入を機に、上記の行程が広まり、山頂での混雑の緩和や、軽装登山の抑制につながればと思います。
富士山は技術的には難しいところはありませんが、日本一高い山ですので、装備の準備、体力作り、高山病対策を事前にしっかりと行い、安全に登山を楽しんでください。
取材・執筆・写真協力:登山ガイド・上田洋平
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