登山を始めるきっかけで多いのが、「職場の仲間に誘われて」というパターン。仕事とプライベートを分けたいという人もいる一方、なぜ同僚たちと行くグループ登山が増えているのでしょうか。そこで、登山コミュニティをもつ企業の登山部員たちに、心身のリフレッシュだけではない、グループ登山の魅力を伺う「登山部インタビュー」連載をスタートしました。
第三回は、楽器やオーディオ機器等の製造・販売を手がけるヤマハ株式会社(静岡県)さんです。古くから同好会や社外活動が活発だったという同社には、40年以上の歴史がある登山同好会「だけかんば」があります。長年の活動は仲間たちの絆を育み、運営体制のノウハウを積み上げてきました。今回は、会長を務める川路さんとマネージャーの宇佐さんにお話を伺いました。
2024.12.20
YAMAP MAGAZINE 編集部
< 話を聞いた人 >
ヤマハ株式会社・日楽山の会だけかんば
ヤマハ,ヤマハ発動機社員を中心とした登山同好会。1977年創立、会員60名
川路 裕章さん:だけかんば会長、ヤマハファインテック株式会社 FA事業部(YAMAP-ID 1744546)
宇佐 聡史さん:だけかんば2024年度マネジャー、ヤマハ株式会社 研究開発統括部(YAMAP-ID 1286175)
だけかんばに関してのお問い合わせはこちら ⇨ satoshi_usa@yahoo.co.jp
── 「だけかんば」の活動が始まった経緯を教えてください。
川路さん:実を言うと、私たちもよく知らないんですよ。僕自身が40年くらい前に新卒で入社した時にはすでに、「だけかんば」がありました。そのくらい昔からある同好会です。詳細はわかりませんが、単に山好き社員で一緒に登り始めたのだろうと推察しています。
── ヤマハ株式会社には「だけかんば」のように長年続く社外活動がほかにもあるのでしょうか?
宇佐さん:会社と独立した同好会は無数にありますね。一番多いのは、やっぱり楽器がルーツの会社なので、バンド活動です。実際に公演などをおこなう楽団もあります。「だけかんば」の中にも楽器をやっている人が何人かいて、オカリナ、ギター、バイオリンなどを担ぎ上げてバンド合宿山行をする人達もいますよ。
── 同好会の運営と活動はどのように行われていますか?
宇佐さん:だけかんばには「だけサイト」というオリジナル会員限定ホームページがあって、山行計画の作成やメンバーの募集、山行報告やフォトコンテストも、全部そのサイトで運用しています。あとは月に一度、定例会で会費の使い道や計画中の山行のレビューをしたり。会費は年間1,000円を徴収しており、たとえば熊対策スプレーなど、共同で使える備品の購入などに役立てています。
川路さん:昔はみんなで保険に加入していたり、備品だけでなく装備も共同購入していたので、もう少し会費が高かったね。3,000円くらいかな。
宇佐さん:ええ。昔はみんなまだ若かったから、そんなにお金もなくて。大型テントとか炊事用具とかって高価でしょ。だから「共同装備」という考え方があったんですよ。みんなで出し合った会費から購入して、誰でも使えるようにしていました。
── 同好会のなかで「シェア」の文化があったんですね。
川路さん:昔はYAMAPやヤマレコというような、山行を記録したり共有したりするツールがなかったので、情報の観点でも「シェア」の文化が強かったように思いますよ。平成初期の頃はまだ、全然情報が出回ってなかったから、山の会に入ってこないと情報を得られなかった。どんな格好で山に行けばいいのかすら、聞かないとわからない時代だったんです。
宇佐さん:ネットで情報とか仲間を集めるなんて考えられなかったよね。あの頃は。
川路さん:うんうん。だからこそ当時は定例会がかなり盛り上がってた。行ってきた山の写真とかを持ち寄って情報を交換したり、自分たちが行きたいと思う山に行った経験のある人を頼りたいというような感じで、どんどん人が集まってきた。「情報のシェア」という点でも、同好会の存在意義があったんです。
宇佐さん:現代はギアの軽量化も進んできて、昔のように大きなテントで5〜6人が泊まるっていうことが少なくなっているでしょ。コロナ禍もそれに拍車をかけたかな。「共同装備」の必要性が薄くなってきているんだよね。情報の部分でも、今はネットの情報もかなり充実してきていて、この30年間くらいで「会」に依存しなくても登れる時代に変わってきてるのかもしれません。
── なるほど。では、だけかんばメンバーも若い人は少ないのでしょうか。
川路さん:ゼロではないですよ、でも少ないね。
宇佐さん:一番多い年代は40〜50代くらいですかねぇ。そのご子息とかが入ってくれたりもしているので、若い世代も居ます。これから世代が回っていってくれたら嬉しいですね。
川路さん:定年退職したOBの方も結構います。やっぱり平日も動けるので、現役メンバーよりも活発に活動している印象です(笑)。
── 40年以上の歴史がある同好会「ならでは」だと感じる仕組みなどはありますか?
川路さん:安全管理の面で、登山に行くメンバーとは別に、在宅する(山に行かない)メンバーを必ず置いています。これは家族にお願いしたりすることもできるのでそんなに重たい内容ではありませんが、下山後に必ずその人に連絡をするような体制をとっています。私たちはこの人のことを、浜松に残る人ということで「在浜(ざいはま)」と呼んでいるんです(笑)。
宇佐さん:私はマネージャーなので、「だけサイト」は毎日見るようにしています。活動報告などをメールでアナウンスできる仕組みもあるんですよ、すごいですよね。「だけサイト」は、ヤマハのエンジニアだった方がボランティアで独自に作成してくれたものなんです。
川路さん:あと、だけかんばには会員規約がありますね。とは言っても安全に登山を楽しむためのルールブックみたいなものですが。計画書のフォーマットとかもありますし、万が一遭難してしまった場合にどうすればいいか、とかも明文化して整理してあります。
宇佐さん:行く山や時期に合わせた必須装備も明文化してありますよ。やっぱり活動期間が長い分、今までいろんなことがあったのでしょうね。その経験とか、痛い思いをしたこととかがかなり盛り込まれていて、 我々なりのノウハウが詰まった文章になっていますね。
── 40年近く同好会に所属され、仲間との登山を楽しまれているお二人が考える、「グループ登山」の魅力とはなんでしょうか?
宇佐さん:大勢で登ると、一人で行くよりもより多くの視点があるから発見も多いと感じますね。教わることも多いし、場合によっては教えてあげれることもある。これはやっぱり大人数ならではの良いところだと思います。ちょっとしたマナーとかルールとかもそうですし、例えば登りやすい歩調や歩幅だったり、登り方だけじゃなく写真の撮り方とかも。教えてもらったことがその後の登山の安全につながったりですとか、自分の経験のベースになっていたりしているなと思います。一個一個は細かいことなんですけど、今現在も山を楽しめているのは「だけかんば」のおかげだなと私は思っております。一人だったら、こんなに長く登山を続けられていないと思いますね。
川路さん:僕は大人数での山行にしかない、計画を立てる楽しさがあるなあと思っていまして。もちろん登っている最中も賑やかで楽しいんですが、計画段階からいろいろと情報を集めて、「この人数で行くんだったらどうだろう」「混雑してるかな」「どんな景色が見れるかな」とかいろんなことを考えるわけですよね。そんな時間を経て、当日みんなと協力して登って…。そういう過程を経た山行で、最高の景色が見れたときはやっぱり最高ですね。ちょっとおこがましいかもしれないですが、初めて登る人に自分の好きな世界、景色を体験してもらえることや、それがその人にとって次の登山体験につながっていくということが、「誰か」と登る素晴らしさかなと思います。
自然の中でリフレッシュできるだけじゃなく、仲間との結束力も深まる「登山」。同じ景色を見て、同じ達成感を味わうことで生まれる一体感は、心の距離を縮め、信頼や絆を育んでくれます。仲間との絆が深まることで、日々の仕事にも思わぬ変化が生まれるかもしれません。
「次の週末は、会社の仲間や友人と一緒に登山をしてみようかな?」
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