冷たい空気の中でもふと見惚れてしまうような一面の雪景色や霧氷、樹氷、そして澄んだ空気の中での素晴らしい眺望。冬山には、ほかの季節とは異なる数多くの魅力があります。
ピッケルを使うような本格的な冬山登山はちょっと遠慮したい、でも、冬ならではの山の魅力を楽しみたいーー。
そんな「冬山初心者」のあなたに、近畿圏、特に京阪神から日帰りで行ける"冬の低山"10コースを紹介します。
2026.02.17
岡田敏昭
登山ガイド

矢田山の頂上展望(ぱんさんの活動日記)
矢田丘陵は、生駒山系と奈良盆地の間を南北約13kmにわたる標高300m台の丘陵で、さまざまな時代の歴史のロマンに包まれています。その中心に松尾山(315m)があり、最高峰のひとつが矢田山(343m)です。
大部分は「矢田丘陵遊歩道」として整備されており、難所はありません。冬季も積雪はほとんどなく、快適なハイキングが楽しめます。
スタートは日本最古の木造建築である法隆寺、道中に日本最古の厄除霊場である松尾寺、東麓にはあじさい寺として有名な矢田寺と、古都の名刹が目白押し。
道中随一の絶景スポットは、国見台展望台。奈良盆地北部の奈良市、大和郡山市を眼下にみて、背後には若草山から高円山、城山、高峰山に至る「あをがき」北部の山々が連なっています。
おすすめコース終盤の榁木峠(むろのきとうげ)は古来より、伊勢本街道として大坂から伊勢詣での旅人が通った道です。奈良交通の小瀬保健福祉ゾーンバス停の近くには、無料で利用できる足湯「歓喜の湯」があり、疲れた足を癒せます。初心者にとっては、エスケープルートも豊富なのも心強いポイントです。
コースタイム:約4時間30分
歩行距離:11.3km
累計標高差(上り):572m
累計標高差(下り):502m
コース定数:17(コース定数とは)

音羽山山頂から比叡山、琵琶湖を望む
音羽山(593m)は、京都市と大津市を分ける尾根上にあります。古来より歌枕としてよく和歌の題材となり、三十六歌仙の紀貫之が詠んだ「秋風の吹きにし日より音羽山峰のこずえも色づきにけり」などが知られています。
登山道は複数通っており、山科音羽川沿いに牛尾観音から登るルートや、京阪京津線・大谷駅から東海自然歩道をたどるルート、国分団地から石山寺に下山するルート、千頭岳から石山団地に下山するルートなど、いずれも冬場でも歩きやすいルートばかりです。冬季は積雪することもありますが、深くなることはまれで、根雪にもなりません。
山科音羽川は、音羽の滝をはじめ、小滝が断続的に見られる美渓。牛尾観音では、樹齢800年の天狗杉に圧倒されます。三角点と送電線鉄塔がある音羽山の山頂からは北側が大きく開け、奥に比叡山、京都北山の山々、愛宕山などが並び、手前に逢坂山、長等山、如意ヶ岳、大文字山、清水山などが見下ろせます。
コースタイム:約4時間
歩行距離:8.4km
累計標高差(上り):550m
累計標高差(下り):603m
コース定数:15(コース定数とは)

大文字山、火床から京都市街を見下ろす(えりぽんさんの活動日記)
「五山送り火」で名高い大文字山(465m)。京都の中心街に隣接し、手軽に登れることから高い人気を誇り、登山道も数多く発達しています。どのルートを歩くかを予め決めておき、分岐ごとに計画ルートを確認しながら歩けば、ルートファインディングの基本が学べるのも見逃せないところです。
冬季は雪が積もることもありますが、深くはなりません。ただし登山者の踏みつけによる登山道の凍結に備えて、簡易アイゼンを携行した方が安心です。
京都市営地下鉄東西線・蹴上駅から、琵琶湖疎水のインクラインや、レンガ造りのトンネル「ねじりまんぽ」などの観光スポットを経て京都一周トレイルに入り、大文字山に至るルートが、見どころが多くおすすめです。
山頂からは京都市街が眼下に一望でき、昼食時は山頂はしばしば混雑することも。火床をみて仙人塚から銀閣寺に下れば、下山後の観光も楽しめます。
コースタイム:約3時間
歩行距離:5.9km
累計標高差(上り):462m
累計標高差(下り):444m
コース定数:12(コース定数とは)

信貴山山頂からは、二上山、大和葛城山、金剛山が重なって見える
生駒山系の南部に位置する信貴山(437m)は、山麓に聖徳太子ゆかりの寺院「朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)」を擁し、聖徳太子が物部守屋を討伐する際に「寅の年、寅の日、寅の刻」に毘沙門天王を感得し、戦に勝利したとの伝説が残る信仰の山です。毎年12月に数回行われる「大根だき」の日には参拝客で大いににぎわいます。
朝護孫子寺の本堂前からは、奈良盆地と青垣の峰々が一望でき、空鉢護法堂が建つ信貴山の山頂からは、二上山、大和葛城山、金剛山がちょうど重なって見えます。信貴山と隣接する高安山(487m)は、信貴山とはハイキング道で結ばれており、縦走ルートとして人気ですが、残念ながら展望はありません。
信貴山と高安山を結ぶルートは、歴史ハイクとしても楽しめます。信貴山は戦国時代に松永久秀が信貴山城主として織田信長と戦った山でもあります。山頂北側直下には屋敷跡(松永屋敷跡)が今も残り、当時の山城の雰囲気を伝えています。
大阪府側の高安山へ向かう途中には、7世紀に唐や新羅の攻撃に備えた高安城跡があります。また、開運橋から「おおみちルート」を下れば、麓に6世紀後半頃の横穴式石室をもつ開山塚古墳があります。
冬季の積雪はまれなので、快適な冬のハイクが楽しめるでしょう。下山が苦手な方は、高安山から近鉄西信貴ケーブルを利用することもできます。
コースタイム:約3時間40分
歩行距離:7.0km
累計標高差(上り):564m
累計標高差(下り):581m
コース定数:14(コース定数とは)

ヤマモモの木がある大福山の山頂
主に大阪府南部、和歌山県との県境、和泉山脈の尾根筋で構成される紀泉アルプス。冬場でも温暖な気候に恵まれ、積雪といえるほどの降雪は滅多にありません。
雲山峰(490m)は、紀泉アルプスの最高峰で、かつて沖を行く船がこの山を目印にして方向を定めたといわれる山です。山頂からは多奈川方面の素晴らしい眺めが楽しめます。
大福山(427m)は、山頂の北側直下に葛城二十八宿の第3番経塚があります。俎石山(まないたいしやま、420m)は、大阪府に一等三角点が4カ所ある中で唯一の本点があり、山頂直下の北展望台からは、大阪湾の広大な眺めが得られます。
紀泉アルプスには、このほか泉南飯盛山(385m)や札立山(349m)など、冬の日だまりハイクに最適の山があります。それぞれのピークが整備された歩きやすい登山道で結ばれているので、体力や時間に応じてルートを設定するとよいでしょう。
コースタイム:約9時間10分
歩行距離:18.9km
累計標高差(上り):1209m
累計標高差(下り):1263m
コース定数:34(コース定数とは)

大きく開けたポンポン山の山頂
京都西山(老ノ坂山地)の最高峰で、大阪府高槻市と京都府京都市の境にあるポンポン山(679m)。古くは加茂勢山とよばれていましたが、明治頃から現在の呼び名になったとされています。
山頂で四股を踏むとポンポンと音がするとの俗説が最も知られていますが、ほかに、麓にある神峯山寺(かぶさんじ)の山号が根本山(こんぽんさん)であることから、これが転訛したという説もあります。
人気の山だけに、主要な登山道はよく踏まれています。高槻市側からは神峰山寺と本山寺の2つの修験の古刹を経由するルート、京都市側は西国第二十番札所の善峯寺(よしみねでら)などから登るルートが最もポピュラー。いずれも難所はありません。
山頂からは東側を中心に絶景が広がっていますが、20年ほど前に、地権者に無断で山頂付近の樹木が伐採され、伐採した樹木で作られた休憩ベンチやテーブルが急増する騒ぎがあり、メディアでも取り上げられた経緯があります。
冬はたまに10cm程度の積雪がありますが、長く根雪になることはありません。スリップ防止のため、必要な区間のみ簡易アイゼンを装着すれば問題ないでしょう。本山寺では毎年1月3日に、神峯山寺は年明け最初の寅の日に合わせて、大護摩供と火渡り神事が行われています。
コースタイム:約4時間40分
歩行距離:10.3km
累計標高差(上り):628m
累計標高差(下り):770m
コース定数:18(コース定数とは)

剣尾山の山頂から東側を望む
剣尾山(けんぴさん、784m)は北摂エリアの名峰で、江戸時代に行場道ができ、摂津大峯として栄えた修験の山です。能勢温泉を起点にした行者山(467m)、剣尾山、横尾山(785m)への周回ルートは変化に富んでおり、高い人気あります。行場ルートは鉄鎖が老朽化しているので、ロープや登攀具を持参の上、細心の注意を。
山頂からは、ほぼ全方位の展望が得られます。特に東側は、半国山、比良山系、愛宕山、比叡山など京滋の名山をズラリと眺めることができます。また、山頂北側では、岩くぐりが楽しめます。
アクセス手段は、路線バスが廃止されて以来、マイカーに限られています。登山者は能勢温泉前の駐車場は使用できないので、能勢温泉のフロントで駐車料金を支払い、建屋の東側の指定スペースに許可証を掲示して駐車することになっています。
冬はまれに10cm程度積雪することもありますが、根雪にはなりません。
能勢温泉では宿泊、日帰り温泉入浴も可能です。単純弱放射能温泉(ラジウム温泉)で、神経痛や筋肉痛などに効くといわれています。
コースタイム:約3時間50分
歩行距離:6.3km
累計標高差(上り):619m
累計標高差(下り):617m
コース定数:15(コース定数とは)

金勝アルプスの天狗岩
滋賀県栗東市の南部にある竜王山(605m)と鶏冠山(けいかんざん、491m)の山々一帯は、古刹・金勝(こんしょう)寺にちなみ、金勝(こんぜ)アルプスとよばれています。
登山道は複数ありますが、路線バスが使え、手ごろな日帰りハイキングを楽しめる上桐生からの周回ルートがおすすめ。ごくまれに10cm程度積雪しますが、融けるのも早いです。
鶏冠山から竜王山へ延びる尾根道は、天狗岩(509m)や耳岩などの奇岩が目を楽しませ、素晴らしい見晴らしも堪能できます。天狗岩に登る場合、少しばかりスリルを感じる箇所があります。三点確保を心がけ、安定したスタンスとホールドをしっかり見極めたうえで登りましょう。
ルートの後半は茶沸観音(ちゃわかしかんのん)や狛坂崖仏(こまさかまがいぶつ)、さかさ観音などの古い磨崖仏が見られる。また、明治時代の外国人技術者・デレーケが設計したオランダ堰堤など、わが国の治山事業の歴史上、貴重な建造物もみられる。
コースタイム:約5時間
歩行距離:10.1km
累計標高差(上り):680m
累計標高差(下り):680m
コース定数:19(コース定数とは)

国見城跡の山頂広場から見た霧氷
金剛山(1125m)は大阪府と奈良県の境にある金剛山地の最高峰で、葛城修験の聖地です。葛木岳(かつらぎだけ、1125m)、湧出岳(ゆうしゅつだけ、1112m)、大日岳(1094m)の三峰からなり、最高点の葛木岳は完全に奈良県に属しています。ただし、葛木岳は葛木神社の御神域のため立ち入りはできません。湧出岳には一等三角点と葛城第21番経塚があります。
金剛山は金剛山練成会による回数登山の対象としても知られ、登山者の数は関西屈指といえるでしょう。ほぼすべての尾根と谷に人跡があるといっても過言ではないほど登山道が発達していますが、大阪側については自治体が登山道と認識しているのは千早本道、念仏坂、ダイヤモンドトレール等に限られています。
なお念のため、金剛山ロープウェイは2022年6月に廃止、金剛バスは2023年末で事業を廃止しているのでご注意を。
冬季は、冷え込めば積雪は30cmを超えることもあります。念仏坂は登山者の踏みつけでアイスバーン化することが多いので、アイゼンやチェーンスパイクが重宝します。
ビューポイントは国見城跡と、ちはや園地展望台。富田林市内から大阪平野、大阪湾などが一望できます。
コースタイム:約3時間20分
歩行距離:4.8km
累計標高差(上り):586m
累計標高差(下り):586m
コース定数:13(コース定数とは)

比叡アルプスの尾根道から見た大比叡
京都府と滋賀県の境にそびえる比叡山(848m)は、登山界の視点では、最高峰の大比叡と京都側の四明岳(しめいがたけ、837m)の2つのピークから成り立っています。しかし、比叡山は登山の対象として以上に、世界遺産・延暦寺が建つ仏道修行の霊山として有名で、広義にその境内を比叡山とよぶこともあります。
山頂稜線には自動車道が延び、京都、滋賀両側にはケーブルカーが通るなど、アクセスのよい山でもあります。冬季は積雪が30cmに及ぶこともあり、3月上旬になっても登山道がガチガチに凍りついていることもしばしば。、アイゼンやチェーンスパイクは必携ですが、おすすめのコースでは鎖場や困難な渡渉箇所などはなく、登山道は多くの方に歩かれています。
大比叡は展望に恵まれず、思いのほか地味なピークです。ビューポイントはガーデンミュージアム比叡(冬季閉鎖中)前の山頂駐車場。主に南側が開け、天王山、男山、淀川の流れ、生駒山、金剛山、そして大阪の高層ビル街まで望むことができます。
比叡山の根本中堂は現在大規模改装中で、完成は2030年9月の予定とされています。
コースタイム:約5時間30分
歩行距離:10.7km
累計標高差(上り):814m
累計標高差(下り):827m
コース定数:21(コース定数とは)
9.金剛山と10.比叡山は、1~8の山よりも、冬季の登山レベルは若干高くなります。ともに積雪量はさほど多くないものの、人気の山のため、登山者による雪の踏みつけで登山道がアイスバーン化することが多く、アイゼンやチェーンスパイクを装着するべきシーンが多いです。
装着した際は、足の裏を全面均等に着地する「フラットフッティング」とよばれる足運びが必要です。例えばアイゼンの歯の片端だけで着地すると、転倒の原因になります。
冬山のステップアップを図りたいときでも、いきなり難易度の高い山に挑戦するのではなく、これらの山で十分にアイゼン歩行を練習したうえで臨みましょう。
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雪の金剛山(ともさんの活動日記)
冬の山の魅力は、まず銀世界を演出する雪景色や霧氷、樹氷をはじめ、落葉樹の葉が落ちて眺めがよくなることや、空気が澄んで遠くまで見通せるなど、眺めや景色に関する点が挙げられます。
そのほか、カ、ハチ、アブ、ヤマビル、ヘビなど煩わしい生き物が姿を消す、登山道で引っかかるクモの巣がない、熱中症のリスクが少ない(低体温症や凍傷のリスクは上がるが)など、行動に関するメリットもたくさんあります。
このような冬の山をより安全に、快適に楽しむため、各種装備を万全にしておきましょう。
・適切な防寒・防水装備 :
ミドルカットかハイカットの登山靴、脱ぎ着しやすいアウター、手袋、耳が隠れる
帽子、スノースパッツ、暖かい飲み物(保温ポット)など
・晴れた雪面での準備 :
サングラス(場合によりゴーグル)、リップクリームなど
・積雪や凍結に備えた装備 :
簡易アイゼンか軽アイゼン、チェーンスパイクなど
また、マイカーでアクセスする際は、必ず冬用タイヤを装着し、積雪直後は念のためタイヤチェーンを携行しましょう。
トップ画像・・・ShivaZoさんの活動日記より