山ごはんの道具も揃えて、作ってみたいメニューも決まった。あとは山に行って作るだけ!でも、山ごはんってどんな場所で作ればいいのだろう…。調理してはいけない場所や時間、天候といったルールがあるのかなぁ? そんなお悩みを登山ガイドのヤッホー!!さんとアウトドア料理研究家のshiho、夫婦そろって管理栄養士の二人がズバッと解決。今回は山ごはんを楽しむためのシチュエーションとロケーション選び、また、行動食を材料に取り入れたレシピ「フレンチトースト」と「パスタ」2品をご紹介します。
ヤッホー‼さん&shihoの山ごはんを始めよう #02/連載一覧はこちら
2020.07.15
ヤッホー‼さん&shiho
管理栄養士・山の料理研究家
shiho:私が登山を始めたとき、山頂で休んでいる人たちを見て一番びっくりしたのは、みんな、あまり食事のことに気をかけていない様子だったこと。「登山は長時間ハードに活動するスポーツなのに、そんな栄養の摂り方で大丈夫?」って思った。
ヤッホー!!さん:登山者全員が山頂で座って食事をするわけではなくて、歩きながら食べる「行動食」だけで済ませている人もいるからね。
shiho:ひたすらに山頂を目指す人もいれば、風景や草花の写真を撮る人もいるし、私たちみたいに山ごはんを楽しむために山に登っている人もいるってことだよね。
ヤッホー!!さん:そう、楽しみ方は人それぞれ。だけど、とにかく登山で優先されるのは「安全であること」と「環境への配慮」の二つであって、「楽しむこと」はその次なんだ。だから、ひたすら頂上を目指している人たちも安全のために栄養を摂らなければならないけど、それは必要な量のサプリメントや行動食を食べればいいだけなので、ハードな山行中に、必ずしも山ごはんを楽しむ必要はないんじゃないかな。
shiho:つまり、山ごはんを楽しむには、山行計画そのものに余裕が必要ってことだよね。そういえば、寒い風が吹いている秋の山で、ルーから本格的にカレーを作っている親子を見たことがあるけど、ジャガイモの皮をむいている子供が寒さでガタガタ震えていて可哀そうだったなぁ。
ヤッホー!!さん:親子登山でじっくり煮込んだ美味しいカレーを作ってみたいっていう気持ちは分からないでもないけど、子供が低体温症になる危険があるのなら、やるべきではないね。そもそも、実際に山ごはんを楽しめる完璧なシチュエーションって、そんなに多くないんだ。おそらく、気候の良い「日帰りハイキングの昼ごはん」と「テント泊の夕ごはん・朝ごはん」くらいだと思うよ。
shiho:山ごはんにはじめてチャレンジするなら、やっぱり日帰りハイキングの昼ごはんがお手軽だよね。食材とか調理器具だって女性には重く感じるのに、いきなりテントや寝袋まで持って山に行くのは、かなり大変だと思う。私には無理!
ヤッホー!!さん:そうだね。コースタイム5時間以内の日帰りハイキングなら、早朝に出発すれば時間に余裕ができるので、山頂で山ごはんを楽しむことができる。この場合、山ごはんの時間もちゃんと山行スケジュールに組み込んでおくことが大切だろうね。
shiho:山ごはんは、①ザックから道具とか食材を取り出す→②調理をする→③食べる→④後片付けをしてザックに入れるといった流れだから、慣れていない人だと1時間くらいはかかっちゃうかもしれないね。
ヤッホー!!さん:登山中に長い休憩をとってしまうと体が冷えてしまうので、できればトータル30~40分程度で済ませるようにしたいな。
shiho:うーん、管理栄養士として「早食い」は推奨できないなぁ。だとしたら手際よく、準備、調理、片付けをして、どれだけ時間を短縮できるかが勝負ってことになるね。スムーズに調理できるように、家で山ごはんづくりの練習をするのも手だね。
ヤッホー!!さん:僕が一番好きなのはテント泊縦走登山の夕ごはん。真っ赤な夕日が沈んでいく絶景のなかで、一日の山行を振り返ったり、翌日に向かう山のことを考えたりしながら食べる山ごはんは最高に美味しい! これを読んでくれている山ごはん初心者の人たちにも、いつかは経験して欲しいなぁ。
shiho:アルコールを飲んでも大丈夫だしね…! たしなむ程度なら(笑)。
ヤッホー!!さん:山岳地帯を縦走する場合、天候の急変などに備え、長時間の休憩は避けたい。昼にのんびり山ごはんを楽しんでいたら、午後から雷雨になって進めなくなったというのでは安全な山行計画とはいえない。可能な限りスムーズに目的地まで行って、テントを設営し、翌日の準備をしてから、明るいうちに早めの夕食を山ごはんで楽しむようにしてもらいたいな。
shiho:そのために、山行中の栄養補給は時間をかけずに行動食で済ますってことだよね。目的地に到着すれば、美味しい山ごはんが待っていると思えばモチベーションも上がる! あ、でも、次の日の朝ごはんはどうするの?
ヤッホー!!さん:翌日の朝、まだ薄暗いうちから出発するのであれば、周りに寝ている人も多いので、朝ごはんは前日に作っておくほうがいい。もし、最終日でゆっくり下山するだけならば日が昇ってから、のんびり朝食を楽しむのもありだと思う。最終日は残った食材をどう調理するのかが、料理担当の腕の見せどころだ!
shiho:山頂に到着して、いつも考えてしまうのがロケーション選び。もちろん火気が禁止されていない場所が前提になるけど、やっぱりテーブル・ベンチが置いてある場所がいいよね。ただ、人気のある山では、お昼時にテーブルが満員で使えないといったこともあるよね。
ヤッホー!!さん:テント泊では自分のテント近くの空いたスペースで作ればいいけど、日帰り登山ではロケーション選びも大切。やはりここでも優先すべきポイントは「安全であること」と「環境への配慮」の二つなんだ。
だから燃えやすい草や落ち葉のある場所では絶対に火を使ってはダメ! 万が一にも登山用ストーブ(バーナー)を倒して草などに引火してしまったら、山火事になるかもしれない。とくに風の強い日は一気に火が広がってしまうこともある。もしテーブル・ベンチがなければ、辺りに燃えやすいものがない地面や岩の上で、できるだけ平らな場所を探すしかないよね。
shiho:小型の折りたたみテーブルとか、難燃性のバーナーシートがあると便利だよね。前に山頂にあった木のテーブルが焦げているのを見たことがあって、やっぱりバーナーシートは必要なんだなって思った。
ヤッホー!!さん:そうだね。ストーブの形状によっては接地面が、とても高温になる器具もあるから地面や木製のテーブルにダメージを与えることもある。できれば折りたたみテーブルやバーナーシートを持っていたいところだね。我が家ではフィールドホッパー(SOTO、写真左)やバーナーシート S(mont-bell、写真右)を使うことが多いね。
shiho:風が強い時には火力が弱くなったり、上手く着火できなくなったりすることもあるよね。よく登山用ストーブの風防もお店で売っているけど…。
ヤッホー!!さん:風上側に自分が立てば、ある程度の風なら問題ない。着火できなかったり立ち消えしたりするほどの風だったら、安全を考えて、山ごはんを中止にしたほうがいいんじゃないかなぁ。これは雨でも同じ。多少の雨であれば問題ないかもしれないけど、体がビショビショになるほどの雨であれば、山ごはんを中止にして、下山したほうがいいと思う。
shiho:でも、山ごはんを中止にすると、エネルギー不足になっちゃうよね。
ヤッホー!!さん:そう、だから日帰り登山で山ごはんを作る予定であっても、充分な量の行動食を持って行く必要があるんじゃないかな。
shiho:荒天などで料理できないといったアクシデントにも考慮した食料計画が必要だね。でも、できれば荷物は少なくしたいな。だったら、中止の時には行動食として使えるような食材を使った山ごはんメニューを考えれば良いかもしれないね。
shiho:今回は山行中のエネルギー補給に利用されることも多い練乳(コンデンスミルク)を使って、簡単にできる甘~いフレンチトーストをご紹介します。
一般的にフレンチトーストを作るときは牛乳に砂糖や卵を混ぜたものにパンをじっくり浸してフライパンで焼きますが、練乳は牛乳と砂糖を煮詰めて濃縮させたものなので、代用できないかな? と思って作ったのがきっかけです。余ってしまっても、行動食や非常食としても備えておけるので、ぜひお試しください。
時短で作れるポイントもご紹介しますね!
*材料(1人分)
食パン6枚切り:1枚
バナナ:1本
A
卵:1個
練乳:大さじ2
バター:20g
シナモンパウダー:適量
練乳:大さじ2~3
*つくりかた(調理時間約15分)
【下準備】
・パンは半分に切っておき、両面をフォークでまんべんなく刺す。
・バナナは一口大に切っておく。
【1】Aを混ぜたら、パンを浸す。途中でひっくり返し、5分くらい浸しておく。
【2】フライパンにバターの半量を入れ、弱めの中火にかける。
パンを置き、全体的に焼き色がついたら裏面も同様に焼き、皿に移す。
【3】残りのバターを入れ、バナナを入れたら両面をこんがりと焼く。
【4】練乳も入れて、かき混ぜながら全体が絡んだら食パンの上にかけ、シナモンパウダーを振る。
shiho:エネルギー消費の多い登山で練乳や食パン・バナナといった糖質中心の食材を使ってしっかりエネルギーを補給できる山おやつを考えてみました。
パンの表面をフォークで刺すことで、短時間で卵液をしみ込ませることができます。耳のところは特にしみ込みにくいので、まんべんなく刺しましょう。
ヤッホー!!さん:アクシデントで山ごはんを作れないときでも、調理しないで行動食として食べることができる食材が沢山。テント泊の朝食にもおすすめしたいメニューだね!
shiho:二品目はパスタを紹介します。普通の和風パスタのようですが、仕上げに柿ピーを加えるのがポイントです! カリッとしたアクセントが加わり、面白い食感になります。パスタも別茹でする必要はなく、フライパン一つで作れる簡単レシピなのでぜひお試しください。
*材料(1人分)
スパゲッティ(早ゆでタイプ):100g
鶏もも肉:1/2枚(120gくらい)
A
塩・こしょう:少々
おろしにんにく:1片分(にんにくチューブ使用可)
オリーブ油:大さじ1/2
小ねぎ:2本
水:250ml
鶏がらスープの素:小さじ1
しょうゆ:小さじ2
七味唐辛子:適量
柿ピー:適量
*つくりかた(調理時間約10分:下準備の時間は除く)
【下準備】
・鶏もも肉は一口大の大きさに切り、ジップ付きの袋に入れたらAと共に揉み込んでおく。
・小ねぎ3センチの長さに切っておく。
【1】フライパンに鶏肉を並べて中火にかける。
焼き色がついたらひっくり返す。(中まで完全に火が通っていなくてもよい)
【2】鶏肉の裏面も同様に焼き色がついたら、水・鶏がらスープの素を入れる。
沸騰してきたらスパゲッティを入れ、ふたをして表示時間通り茹でる。
【3】蓋を開けて、小ねぎ・しょうゆを回しかけ、全体を炒め合わせ、火を止めてから柿ピーを加える。
【4】お皿に盛り付け、お好みで七味唐辛子を振る。
shiho:鶏もも肉の下準備は家でやっておくと楽チン&衛生的。持ち歩きの時間が長ければ登山前日に冷凍しておくのも手。
パスタ料理は一品で主食・主菜・副菜がカバー出来て、味のアレンジもしやすいので、山ごはん向きの料理。今回トッピングに使った柿ピーは行動食として食べるか、お酒のおつまみとして家で食べるかだったけど、味や食感にアクセントが加わって美味しかったし、今後山ごはんへのアレンジをもっと増やしていきたいなと思ったよ。私にとっても新たな発見でした!
ヤッホー!!さん:柿ピーは僕が一番好きな行動食! パスタに入れるのは正直「え~?」と思ったけど、食べてみてびっくり! もっと柿ピー増し増しで食べたくなったよ。
shiho&ヤッホー!!さん:いかがでしたか? 今回はちょっと堅苦しい内容もあったけど、山ごはんの第一目的は「安全登山」を食事でサポートするということ。これからたくさん経験をして、アクシデントにも臨機応変に対応できるスキルを身につけて下さいね。
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