日本百名山・赤城山は群馬県のほぼ中央に位置し、上毛三山のひとつに数えられています。深い森と大小の湖沼、湿原を抱え、変化に富んだ美しさを見せているこの山を山麓の観光スポットと共に紹介しましょう。
2020.09.15
YAMAP MAGAZINE 編集部
妙義山、榛名山とともに上毛三山に数えられ、日本百名山の一座でもある赤城山は群馬県の象徴。春から初夏にかけての間、アカヤシオやシロヤシオ、レンゲツツジなどが順を追って咲き続けるツツジの名山として知られ、山上湖・大沼(おの)の南西側にはシラカバの原生林が広がっています。
登山以外にも、ワカサギ釣りが楽しめる大沼をはじめ、湖上に浮かぶパワースポットの赤城神社、小尾瀬と呼ばれる高層湿原・覚満淵といった見逃せないスポットがいっぱいです。山麓の前橋市は「TONTON(とんとん)のまち前橋」として以前から豚肉料理の普及に取り組んでおり、ソースカツ丼や豚丼などの名店が勢揃い。花好きなら、チューリップや秋バラが人気の「ぐんまフラワーパーク」にぜひ寄り道しましょう。
群馬県東部に位置し、谷川岳や榛名山などとともに上州を代表する山のひとつ。赤城山は山域名で、最高峰の黒檜山(1,828m)をはじめ、カルデラ湖の大沼を取り囲む駒ヶ岳(1,685m)、地蔵岳(1,674m)、鈴ヶ岳(1,565m)、そして稜線続きに荒山(1,572m)や鍋割山(標高未定)など魅力的な山々が連なっています。
4月下旬から6月下旬にかけて次々に咲くツツジの時期が登り頃と言えますが、自然林に包まれたこの一帯は紅黄葉の時期も見逃せない美しさがあります。ここでは赤城神社を経て最高峰に登り、駒ヶ岳から覚満淵、赤城公園ビジターセンターへと下る欲張りなコースを歩いてみましょう。
DATA
グレード:初級
日程:日帰り
歩行時間:3時間45分
歩行距離:6.4km
累積標高差:登り575m・下り564m
登山適期:4月中旬~11月上旬
アクセス/行き=JR両毛線前橋駅から関越交通バスで赤城山大洞バス停へ(約1時間)。帰り=赤城山ビジターセンターから関越交通バスで前橋駅へ(約1時間10分)。※バスは平日、富士見温泉乗り換え。マイカーは関越道前橋I.C.から国道17号、県道4号経由で大洞へ(約32㎞)。大洞周辺に無料の駐車場が何箇所かある。
大沼湖畔の観光拠点・大洞から黒檜山~駒ヶ岳を経由する周回は、黒檜山登山の王道コース。登り下りとも急斜面のため思いのほかきつい行程ですが、赤城の山々や上州の名山の展望、春から初夏にかけてのツツジ類、新緑・紅葉と見どころ満載です。
時間に余裕があれば駒ヶ岳からの下山後にすぐに大洞に戻らず、湿生植物の宝庫・覚満淵を経由するのもおすすめです。その際、バス利用の場合は前橋駅行きのバスが発着する赤城公園ビジターセンターをゴール地点とするとよいでしょう。
大洞から大沼湖畔を歩いてまずはパワースポットとして赤城神社へ。人気だった赤い啄木鳥橋は老朽化のため2020年現在通行禁止となっているので、参詣する場合は北側から入ります。神社から10分ほど歩くと右側に黒檜山登山口があり、山歩きのスタートです。
登山口からのブナやミズナラの森の道はいきなりの急登ですが、尾根上に出ると景色が開け、花期ならこの付近からシロヤシオの花の下を歩くことになります。やがて岩がちの道となり、手を使う場所も現れるので転倒注意。
汗を絞られる頃にやっと、黒檜山と駒ヶ岳を結ぶ稜線に到着です。この分岐を左に行けば黒檜山の山頂はすぐ。パノラマとはいきませんが、男体山や皇海山など日光・足尾方面の眺めが広がっています。とりあえず本日のいちばん高いところに立ったので、ひと休みといきましょう。なお、山頂から北へ進むと上州の山々を見渡す絶景ポイントがあります。
休憩後は分岐まで戻り、駒ヶ岳へと向かいましょう。鳥居の立つ御黒檜大神を過ぎ、この先で花見ヶ原森林公園方面への道を左に分けると木段の急な下りが始まります。地面が濡れているときはスリップに十分注意したいところです。
下りきった鞍部が大ダルミで、こんどは駒ヶ岳に向けての登り返し。運がよければ振り返った黒檜山山腹を、赤やオレンジ、白のツツジが同時に彩る絶景を目にすることができるでしょう。ひと頑張りすれば、コースのちょっと左に、樹木に包まれ、こじんまりとした駒ヶ岳の山頂があります。
駒ヶ岳からは稜線をさらに南下し、途中からきれいな樹林の山腹を下ります。1カ所ある鉄製の階段ではスリップに十分注意したいところです。ぐんぐん高度を下げ、傾斜がゆるやかになればほどなく駒ヶ岳登山口。右に行けば食堂や土産店の並ぶ大沼湖畔で、左に行けば覚満淵、バス停のある赤城公園ビジターセンターに行くことができます。
展望を楽しむコースなら地蔵岳がオススメ。大沼を取り囲む山のなかでは随一の展望を誇ります。登るのに通過困難箇所はなく、北西面の赤城山総合観光案内所からは1時間ほど、南東面の八丁峠からは1時間とかからずに山頂に立つことができます。
赤城連山の南西端にある鍋割山や荒山も大展望の持ち主。空気の澄んだ日に関東平野を眺めれば、太陽を反射し光りながらくねる利根川が印象的です。どちらの山も赤城の例に漏れず、ツツジの時期は言葉が出ません。
活火山である赤城山の南麓には五指に余る湯が湧き、なかでも富士見温泉「みはらしの湯」は路線バスの乗り換え地点でもあるという絶好の立地にあります。これぞ群馬の焼きまんじゅう、そして、かねてから売り出し中の豚肉料理といった群馬グルメもぜひ。
■赤城温泉郷
赤城山南麓に温泉地が点在する赤城温泉郷は、「赤城山に霊泉あり、傷病の禽獣集まる」と古来より伝わる上州の薬湯。荒砥川沿いに赤城温泉と忠治温泉、粕川沿いに滝沢温泉があります。宿は合わせて5軒で、どの宿も露天風呂付き。岩風呂、庭園風呂、渓流沿いの風呂など個性豊かな湯船がそろい、四季折々の景観が楽しめます。泉質は赤城温泉と忠治温泉がカルシウム・ナトリウム・マグネシウム炭酸水素塩泉、滝沢温泉がカルシウム・ナトリウム・マグネシウム・炭酸水素塩冷鉱泉。登山で疲れた体に効くかも。
■道の駅「ふじみ」 富士見温泉 見晴らしの湯ふれあい館
赤城山観光の主要地方道、県道4号前橋・赤城線と国道353号との交差点近くに立つ日帰り温泉。レストラン、売店、大広間、個室、コンベンションルームを完備した休憩スポットとしても人気です。1500m以上の深さに湧く関東有数の大深度源泉は、濃厚なナトリウム・カルシウム塩化物温泉で、開放感ある露天風呂からは前橋市の街並みが見渡せるだけでなく、特に夜景の美しさには定評があります。
■前橋の豚肉料理
前橋市は「TONTON(とんとん)のまち前橋」として、豚肉料理の普及に取り組んできました。雄大な自然に囲まれた赤城南麓地域では養豚が盛んで、前橋市の豚肉産出額は全国トップクラス。豚のブランド銘柄も多い豚肉王国です。市では「豚肉料理グルメブック」を制作し、ソースカツ丼、カツ丼、とんかつ、豚丼など、さまざまな豚肉料理の名店を紹介し、来店客の投票結果からグランプリメニューも発表。
■焼きまんじゅう
群馬県民が愛する焼きまんじゅう。蒸した素まんじゅう(中身の入っていないまんじゅう)を竹串に刺し、甘辛い味噌ダレを両面に塗って焼き上げたもので、ふかふかのまんじゅうと香ばしい味噌が好相性。県内多くの地域で販売されていますが、前橋市にある安政4(1857)年前後創業の原嶋屋総本家は老舗中の老舗。味噌ダレを繰り返し塗りながら焼くので、生地にタレの味がしっかり沁みているのが特徴です。平日は焼き立てを店内で食べることができるので、群馬の味をぜひどうぞ。
■赤城神社
赤城連山に囲まれる大沼は、赤城山の噴火に伴ってできたカルデラ湖。夏場はボート遊び、冬場はワカサギ釣りが楽しめます。この大沼の東側に突き出た小島ヶ島に鎮座する赤城神社は赤城山をご神体と祀る神社。境内に林立する巨木群から歴史の長さと静謐な空気感が感じられ、樹齢1000年以上の俵杉は藤原秀郷の寄進と伝えられています。弘治2(1556)年建立の総門や神明造りの本殿、極彩色に彩られた本殿内宮殿など、県指定重要文化財も多数存在します。
■ぐんまフラワーパーク
赤城山の裾野に広がるぐんまフラワーパークは、18.4ヘクタールの敷地を持つ花と緑の楽園。チューリップ、アザレア、サザンカなど年7回の花まつりが開かれ、5棟の温室ではベゴニア、ラン、サボテンなどの美しい花が楽しめます。園中央に設置された「フラトピア大花壇」、大迫力のフラワーアートが見られる「パークタワー」(高さ18m)、バラ園、ダリア園、日本庭園、イングリッシュガーデンなど見どころも多く、日本夜景遺産に認定された冬のイルミネーションは圧巻。
大沼湖畔の宿、青木別館の主人であり、赤城山ガイド協会のガイドでもある青木猛さんのもうひとつの顔は、地域づくりグループ「AKAGIやる気塾」の塾長。 自然だけでなくグルメ開発などにも取り組む青木さんに、赤城の違う一面も含めて話をお聞きしました。
-赤城山の魅力とは
青木:1年を通じて遊べる山であることですね。私は「赤城山ツツジシリーズ」と呼んでいるのですが、4月下旬から6月下旬にかけて他のツツジが他のツツジを追いかけて咲くかのような花のシーズンはもちろんのこと、シラカバやダケカンバ、ミズナラなどの紅黄葉、そしてトレーニングの山として歩ける雪山シーズン。どんな季節でも自然を堪能できるのがここの魅力です。
-オススメの山やコースはありますか
青木:まず、王道といえる黒檜山・駒ヶ岳は、黒檜山から南下するコース取りをおすすめします。逆にすると黒檜山~登山口の急坂が下りになってスリップの危険が高まります。展望を望むなら大沼湖畔の地蔵岳、そして南西に延びる尾根筋に立つ荒山・鍋割山でしょうか。コースはよく整備されていて歩行時間も短いので、特に地蔵岳は体力に自信のない人でも取り組める山だと思います。
-グルメ開発にも取り組んでいらっしゃるとか
青木:赤城山というとワカサギ定食かせいぜい豚丼と思っていらっしゃる方が多いはずですが、私どもの「AKAGIやる気塾」では、女子大生からもアイデアをいただき、お土産としてバームクーヘンより自信を持って勧められる「白樺クーヘン」、そして「しるチョコ」を開発しました。新メニューの「しるチョコ」はホットチョコにあずきと白玉を加えたもので、寒い日に体を温めてほしいな、と。どちらもいま、老若男女に関わらず赤城山の定番となっています。私たちはまだまだ開発を続けていきますので、こんど赤城山にいらしたときに驚かないようにしてくださいね(笑)。
*=画像提供「ググっとぐんま」(群馬県観光物産国際協会)
協力:群馬県観光物産国際協会