山旅の最終日となる3日目は、秘境・五色ヶ原の森を散策。「秘境」と言っても怖がらないで。優しいガイドさんと一緒に歩けば知らなかった森の秘密を学べます。この森で学んだり体験したりすることで普段の登山の幅も広がるはずです。
【特別企画】岐阜・飛騨高山 2泊3日山の旅へ(全3回)/1〜2日目の様子はこちらから
1日目 小京都、飛騨高山の街を散策
2日目 ロープウェーでひとっとび。日帰りで西穂高岳へ
2020.10.13
YAMAP MAGAZINE 編集部
3日目の目的地は、中部山岳国立公園乗鞍岳の北西にある、乗鞍山麓五色ヶ原の森。約3,000ヘクタールもの広大な土地に、山地帯から亜高山帯に分布される豊かな植生がみどころです。はやくから自然保護の観点を持ち、ガイドなしでは入山できないこの森。未踏のエリアが多く、手付かずの自然が残っている本格的なネイチャートレイルエリアなのです。
時間に余裕があれば、8時間かけて歩く「カモシカコース」、「シラビソコース」、「ゴスワラコース」のいずれかに参加したいけれど、今日は旅の最終日。帰りの電車とのかねあいで、ここはカモシカコース全体の4分の1ほどの距離を歩く「久手御越滝コース」に参加予約をしていました。
雨天のため、レインウェアをしっかりと着込んで、集合場所である五色ヶ原の森案内センターへ。代表の塚本勝さんは「雨の森を楽しみましょう」とにっこりと迎えてくれました。
アドベンチャーな雰囲気があるゲートをくぐって歩き始めます。「距離は片道約1.7km、標高差は140mくらい。ゆるやかな登りの道で往復3時間くらいかな」(塚本さん)
歩き始めは、スギの植林やミズナラ薪炭林など、生活のために50年ほど前に植えられた木々が見られます。「雨で木々も生き生きとして美しい!」(美樹さん)
歩き進めると、サワグルミやトチノキ、カツラなどの渓畔林の自然林に移り変わります。何度も橋を渡って横切る沢沿いの湿地は、春にニリンソウなどの草花の姿が見られるとか。先日の豪雨被害で木々が倒れたり、橋が流されたりと、痛々しい場面も。
何種類もの木が絡み合って、生きている大木。「森の中で植物が育つ環境は過酷です。整備されていないと木が密集して、光合成しづらいんです。ツタみたいにほかの木にからみついてのぼっていって、効率よく光合成するような木もあるし」と。自然から見えてくる木の生存競争の話に目を丸くする美樹さん
こんこんと湧き出る黄檗(きはだ)の水場。すぐそばに黄檗の木があることからこの名前に。
「黄檗の木って内皮が黄色いんです。皮を水につけておくと真っ黄色になる。染め物に使われますし、胃薬にもなるんですよ。苦いけどね(笑)」(塚本さん)
「このオオカメノキ、見て。もう冬芽を出して、冬の準備をしているんですよ」。山でよく見かける、葉がカメの甲羅にも似たこの木。『劔岳 点の記』(新田次郎)では、「ムシカリ(カメノキ)と伝っていますが、冬になるとこの木の皮をカモシカが好んで食べます」という描写があります。「もう、冬の準備をしているのかー、見習わねば!」
自然観察をしながらも歩みを進めると、だんだんと道は急に。10分ほど登ると、パッと視界が開けて目の前には、久手御越滝(くてみこしのたき)!
水しぶきをあげながら流れ落ちる様子に、「もやがかかっていてきれいです。ここまできた甲斐があった!」と、昨日の登山とは違った楽しさを感じた美樹さん。ゆっくりと森を歩くことで、濡れる、匂いを嗅ぐ、耳をすますと、いつもとは違う五感が刺激されたよう。
「いままでたくさんの山に登ってきたけれど、こういうことって全然興味がなかったので、すごく勉強になりました」
帰りは、平湯温泉のひらゆの森へ。16ケ所もの露天風呂と宿泊・コテージがある複合施設。雨で濡れたので、温泉でホッと一息!
「森ができるには何億年という長い歴史があることや、木や苔、植物の生え方のこと、ぜんぜん気にしたことがなかったです。いつもはやく稜線に出たいと思っていたけど、ガイドさんと一緒に歩くことで樹林帯も面白いものであふれていることを知ったし、すごく学ぶことの多い時間でした」
五色ヶ原の森案内センター
住所/岐阜県高山市丹生川町久手471番地3(殿下平総合交流ターミナル内)
電話番号/0577-79-2280
ひらゆの森
住所/岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯763-1
電話番号/0578-89-3338
原稿:柳澤智子
撮影:西條聡
モデル:千野美樹
協力:岐阜県