「パタゴニア新型DASパーカ」次世代インサレーションの実力を極寒の立山で検証!

1992年以来パタゴニアを代表する最強インサレーション(中綿)ウエアとして愛されてきた「DASパーカ」が、この冬4年ぶりに復活を果たしました。「クロス・コア・テクノロジー」という革新技術により20%も軽量化されたこの新型DASパーカを、長年のヘヴィユーザーでもあるアウトドアライターのホーボージュンさんが極寒の立山で体験。いったい何が変わったのでしょう?

2020.12.16

ホーボージュン

全天候型アウトドアライター

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4年ぶりにDASパーカが復活を遂げた

「おいDAS、おまえ大丈夫なのか?」

僕は古い友人にそう声をかけた。

「そんなになっちゃって、一体どうしたんだよ?」

4年ぶりに再会した友人はすっかり変わり果てた姿になっていた。かつてのマウンテンゴリラのような、あるいはラグビーのフランカーような逞しさは消えさり、ずいぶんシュッとした姿になっていたのだ。いや、もっと正直に言うと僕の目にはなんとも頼りなく映ったのである。

この冬、パタゴニアの「DASパーカ」が復活を果たした。僕はこれまで30年近くにわたり計4着のDASパーカを使ってきたが、今回の新作はこれまでのどのモデルとも雰囲気が違ってた。少なくとも僕にはこれがDASパーカだとは思えない。そしてこんな薄いジャケットが「DAS」を名乗ってはならないような気がしていたのである。

そもそもDASパーカのDASとは「Dead Air Space」の頭文字をとったもので、日本語では「対流しない空気の層」と訳される。ご存知のように空気というのは地球上で最も断熱効果が高い断熱材で、古くから保温に応用されてきた。たとえば綿入りの上着や羊毛のコートなどは服のかさ高を増すことで、繊維の隙間に大量の「対流しない空気の層」を作り、それを保温材として利用してきたのである。

こういったデッドエアを利用するウェアを“インサレーションウェア”と呼ぶのだが、DASパーカについて語る前に、まずはその基本をおさらいしておこう。

インサレーションの代表・プリマロフト

「インサレーション」とは「絶縁体」とか「断熱材」を現す英語だが、アウトドアの世界では中綿入りの保温着のことを指す。その中綿には大きくダウンと化繊中綿があり、ダウンは軽くてロフト(かさ高)が豊かなので、羽毛と羽毛のスキマに空気を大量に保持して暖かい。またとてもコンパクトに圧縮できるから登山の際の携行もしやすい。

いっぽう化繊中綿は丈夫で耐久性に優れ、洗濯機で気軽に洗うことができる。さらに汗や雨で濡れてしまってもダウンのように潰れて保温力が低下することがないから、湿雪の多い地域や、悪天候下で長期連続使用する場合にいい。ただし重くてかさばり、あまりコンパクトにならないのがネックだった。そんな状況を一新したのが「プリマロフト」だった。

プリマロフトは1980年代初期にアメリカ軍の寒冷地装備用に開発された素材で、「人工羽毛」をコンセプトにした高い機能を有していた。その後1990年からは民間企業向けにも販売されるようになり、先端的なアウトドアブランドがこぞって秋冬用のウエアに採用していたのだ。

最大の特長は繊維がものすごーーく細いことだ。いや細いなんてもんじゃない。目に見えないほど。その太さはわずか1デニールにも満たないのだ。

「1デニール」というのは9,000mの長さの繊維がたった「1g」しかないということだ。女性用ストッキングが30デニール程度、髪の毛の太さが50デニール程度といえば、いかに細いかわかるだろう。

こういった繊維のことを「マイクロファイバー」と呼ぶが、プリマロフトは太さの異なるマイクロファイバーをブレンドすることで、羽毛のようなフワリとした構造を作り出した。そしてそれを幾重にも積層してパネル状の板綿に仕立てたのだ。この「パネル状」という特性がアウトドアウェアに革新を起こしたのである。

それまでポリエステル綿をウェアに仕立てようとすると、表生地にチューブ状のバッフル(筒)を作り、そこに綿を封入するしかなかった。ところがプリマロフトは反物と同様にハサミで好きな形に切り出したり、ミシンで表地に縫い付けたりすることができる。そのためウェアデザインの自由度がぐっと上がり、動きやすく機能的なカッティングが可能になったのである。

そしてもうひとついいことがある。それが薄いのに暖かい、ということだ。

これまでのバッフル構造だと縫い目や隔壁の部分には綿が入れられず、そこだけ「コールドスポット」と呼ばれる、保温力のない部分ができてしまう。ところがプリマロフトは全面がフラットで均一なので、背中のような広い面積も均一にカバーでき、薄くても暖かい。

こういった素材特性を活かして作られたのが初代DASパーカだった。初代が登場したのは1992年の秋冬シーズンのこと。ネーミングにはその機能そのままの「DAS=デッド・エア・スペース」を冠した。

このDASパーカは厳冬期登山、アイスクライミングのビレイ、最小限の装備で困難に立ち向かわなければならない長期遠征行などに好んで使われた。そして化繊ならではの強固さとダウンジャケットのような暖かさを持つことから、厳冬期インサレーションの傑作品として世界中のクライマーに愛されるようになったのである。

渋谷を中心に巻き起こったDAS争奪戦

いっぽうわが国ニッポンではまったく別の理由からDASパーカが大ブームを巻き起こす。きっかけは2000年頃に当時ストリートカルチャーのアイコン的存在だった俳優の窪塚洋介がアシッドカラー(ライトグリーン)のDASパーカをファッションアイテムとして着用したことだった。

これを契機にDASパーカはアウトドアとは縁のなかった若者にも知れ渡り、アシッドカラーはあっという間に完売。プレミア感もあってファッション好きの垂涎の的となった。そして2002年にゲッコーグリーン(蛍光系の派手なグリーン)のDASパーカが発売されるとカスタマーが殺到し、すさまじい争奪戦になったのである。

僕は当時のことをよく覚えているが、東京では渋谷を中心にオヤジ狩りならぬDAS狩りが横行し、チーマーに囲まれてDASを脱がされたり、車上荒らしが行われるなど争奪戦がヒートアップしていた。そして中古品や盗難品がフリマで高額で売られるなど、そのフィーバーぶりはすごかった。

ちなみにpatagonia東京・渋谷がキャットストリートにオープンしたのは1998年のこと。当時のスタッフには僕の友人もたくさんいたが、「サイズはXXLからなくなる。いくらサイズが合っていないと説明しても聞いて貰えない」とか「完全な指名買いでDAS以外の製品には見向きもしない」とぼやいていたのを覚えている。

究極のビレイパーカというのは本当なのか?

まあ、そんな昔ばなしは置いておき、リバイバルした新型DASパーカを見てみよう。冒頭に書いたように、僕がいちばん驚いたのは極端な薄さだった。

DASパーカの生命線はバルキーさだ。厚みとかさ高がたっぷりあり、そのなかに大量の空気を含んでいることこそが存在意義である。

じつは先代モデルはこのコンセプトを全面に押し出したデザインで、分厚い中綿を2枚差しにしており、床に縦に置いたらそのまま立つんじゃないかと思うくらい硬くてバルキーだった。

着込むとまるでムッシュ・ビバンダム(ミシュランタイヤのキャラクター)みたいに着ぶくれてしまい、動きにくくてしょうがなかったが、そのかわり停滞時やビバーク時の保温力は抜群に高かった。その当時の印象が強力なこともあり、新型DASはずいぶんペナペナに見えたのである。

実際、中綿のボリュームは133g/㎡で、これは客観的に見ても薄手の部類である。他社製品を見渡してもアイスクライミング用のビレイパーカは200g/㎡程度のハイロフトなモデルが多く、それに比べると明らかに薄い。

実際に袖を通してみると見た目以上に柔らかいことに驚く。グニャグニャというかクタクタで、着心地はとてもいいのだが、逆にあまりに柔らか過ぎてデッドエアを身に纏っているという安心感に乏しい。

しかし今季のパタゴニア社のカタログは「骨まで凍みる寒さの日々から予定外のビバークまで、あらゆる状況に対応する究極のビレイ用パーカ」と謳っている。そしてカタログには厳冬期の雪山でアイスシャワーを浴びながら震えているクライマーが写っているのである。

これはリアルなのだろうか?

本当にそんな用途に使えるのだろうか?

だったら試してみるしかないだろう。

僕は身をもって体験すべく、11月の最終週に北アルプス・立山連峰へと登り、3泊4日の雪中ビバークと今シーズン最初となるバックカントリースノーボーディングにこの新型DASパーカを使ってみたのである。

外の作業でもテント内でも快適

11月27日。立山連峰の室堂にはほとんど人影がなく、テントを張っているのも10組ほどだった。ちょうどこの日から天気は下り坂で、GPV(SCW)や山岳気象予報サイトでは標高2,000mゾーンで風速20m/s以上という台風並みの暴風雪が予報されていた。正直かなりひるんだが、装備も準備も万全に整えてあるし、逆に言えばフィールドテストにはもってこいの荒天だと覚悟を決めた。

午前11時に臨時の野営指定地に入り、さっそく設営にかかる。今年は降雪量が少なく積雪はわずか20~30cmしかない。薄い雪面にショベルを突き立て、せっせとスノーブロックを切り出した。雪の絶対量が足りないのとひとりきりでの作業だったので、整地してテントを設営し、まわりに雪壁を作りあげるのに4時間もかかってしまった。

初日の気温は氷点下4~7℃。バックカントリーウエアの上からDASパーカを羽織って作業をしたが、薄くて非常にしなやかなので動きやすい。ショベルワークやテント設営にもストレスを感じず快適だった。

この日の印象はかなり良かった。外での作業も快適だったが、しなやかでまったくごわつかないので、そのままテントの中で着用していても快適だった。厳冬期の雪中キャンプはテント内にエアマットやブーツやクライミングスキンなどの機材が溢れかえって窮屈極まりないものだが、新型DASパーカは着ぶくれしないので至極快適。表面のシェル素材(10デニールのパーテックスプロ・リップストップナイロン)の肌ざわりがとても柔らかなこともあり、メシを食うときにもそのままだった。

風速20mのブリザードに見舞われた

覚悟は決めていたが、この日の夜は想像を超えた大荒れになった。夜7時には寝袋に入ったが風が気になってぜんぜん眠れない。1メートル近くスノーブロックを積んであったが、それを乗り越えてゴウゴウと風が吹き込んできた。

隣のテントから「うわああああ~!」という叫び声が聞こえたのは午前0時を回った頃だった。薄いテントの生地越しにいくつものヘッドライトが右往左往するのがわかった。どうやらスノーブロックがテントの上に崩れ落ちてテントが傾いたようだった。

僕のテントもヤバい状況になっていた。スノーブロックの上部が風で吹き飛ばされ、風雪でポールがグラグラと揺すぶられている。僕は万が一のことを考え、シュラフから這い出すとテントシューズを履き、DASパーカを着込んだ。もしテントポールが折れたりテントが埋没したらすぐに脱出できるようにだ。そして前室に入れて置いたスノースコップを抱えると、下半身だけシュラフに入りそのまま横になって仮眠をとることにした。

風雪はますます強まり、午前1時過ぎにはついにスノーブロックが倒壊した。これで激しい風雪を遮ることができなくなりテントがどんどん雪に埋まり始めた。いつもだったら雪かきに出るが、こんなブリザードではとても外には出られない。

テントの外は狂ったような状況だったが、内側はカマクラの中にいるように暖かかった。それが降り積もる雪のおかげなのか、それとも新型DASパーカのおかげなのかよくわからない。でもその暖かさは精神的に僕を安心させた。僕は思いがけぬ暖かさに包まれ、スコップをかかえたまま朝まで昏昏と眠ってしまった。

エアロゲルを練り込んだ新世代中綿

翌朝は快晴だった。風も落ち、絶好のバックカントリー日和になった。僕は今シーズン初となるスノーボードを楽しんだ。この日はDASパーカは終日バックパックの中に入ったままだった。

新型DASパーカはMサイズで556gと非常に軽く、とても小さく圧縮できるので携行が苦にならなかった。この薄さの秘密には新開発の「クロス・コア・テクノロジー」という素材技術が大きく関わっている。

これまでのプリマロフトは繊維と繊維のあいだに空気の層を作ることで断熱と保温をしていた。ところが今回新たに採用された新型プリマロフトはそれに加えて「繊維の内部に空気をためこむ」特殊な構造をしている。

前述したようにプリマロフトの原綿は1デニールに満たない超極細ファイバーで、その中に空隙を作るのは非常に難しい。そこで応用されたのが「エアロゲル」という物質だ。

エアロゲルは1931年に発明された比較的古い素材だが、これまでに化学合成された物質の中では最も軽い固体とされ、なんとその98.2%が空気でできている。そのため向こう側が透けて見え、別名「固体の空気」とか「個体の煙」などと呼ばれている。非常に優れた断熱効果があるため、NASAが宇宙服の断熱素材に応用するほどのハイテク素材だ。

その断熱効果はすさまじく、たとえば水滴に粉状のエアロゲルをまぶして、熱したフライパンの上に落としても水滴は蒸発せずにコロコロと転がり続けるし、肉片をエアロゲルで包んで氷点下30℃の冷凍庫に入れても肉は凍らず軟らかいまま保たれるのだ。(にわかに信じられない話だろうが、YouTubeでエアロゲルと検索すればそのような実験動画を数々目撃することができる。)

ただエアロゲルは物理的に非常に脆く、産業化するには技術的課題とコストの問題があり、長いあいだ実用化されなかった。ところが米国プリマロフト社はこのエアロゲルを化繊の原料(ポリマー)に練り込むことで、断熱・保温効果の高い中綿を作りあげることに成功したのである。この技術が「クロス・コア・テクノロジー」であり、このおかげでDASパーカは従来の保温力を保ちつつ、20%もの軽量化を果たすことができたのである。

骨まで凍みる寒さの中で

立山滞在4日目となった11月30日。僕は浄土山(2,831m)と竜王岳(2,872m)をつなぐ稜線上で再び風雪に叩かれていた。この日をもって立山・黒部アルペンルートは閉鎖され、この山域は来年4月まで長い冬眠期間に入る。その最後の最後にもう1本だけ山を滑っておきたかった。このふたつの山に挟まれたエリアにはこの2日間でたっぷりと雪が吹き溜まっているはずだった。

しかし…。

せっかくここまで登ってきたというのに視界はゼロで、なにも見えない。フラットライトが雪面の凹凸を完全に消し去り、いま自分の5メートル先にある斜面が登りか下りかすらわからなかった。この状況ではとてもドロップできない。

「しょうがない。ここで晴れ間を待とう」

僕はバックパックからDASパーカを取り出すとジャケットの上からはおり、フードをかぶってジッパーを閉めた。リップから少し離れた場所に穴を掘り、スプリットボードを抱えてしゃがみ込む。コルに向かって吹き上がってくる強い風が僕の顔面に氷雪を叩き込んだ。それを避けるようにしてフードのドローコードを引き絞り、僕は雲の流れに目を凝らした。

「20分待っても視界が開けなかったら、もと来たルートを戻ろう」

ポケットに手を突っ込み、ちいさく身体を丸めて風をやり過ごす。さっきまで骨身に染みるほどの寒さだったが、こうして一枚羽織るだけで暖かさがずいぶん違う。これがエアロゲルのパワーなのだろうか。もしそうだとしたら高分子化学の力というのは本当にすごいものだ。

「なあDAS、おまえすげえ暖ったかいな」

僕は古い友人にそう声をかけた。

4年ぶりに再開した友人は知らないあいだにずいぶんパワーアップしていた。見た目よりずっと逞しくて頼りになる。こうして丸4日間を雪の中で共に過ごし、僕はその実力を思い知った。そして改めて彼のことを見直したのである。

「今年の冬もよろしく頼むぜ」

そう声をかけ、僕は晴れ間を待った。風は強く、雲は分厚い。冬将軍はあいかわらず強面で、うなり声を上げて僕を叩いた。それでも僕はぜんぜん負ける気がしなかった。DASとならまだまだ行ける。そんな気持ちでいっぱいだった。

風は止まず、耳元でゴウゴウと唸り続けていた。

(終わり)

進化を遂げた新型DASパーカの機能を紹介

ヘルメットの上からもかぶれる大型フード。首回りから前胸にかけてのカッティングが絶妙で、首を左右に振ったり、大きく上を見上げたり、逆に足元を確認するために大きく俯いてもまったく動きに干渉しない。歴代のDASパーカの中でも最高の使い勝手だった

袖口にはサムループを備えており、このようにインナーグローブの上からかけておけば、防寒グローブやミトンに手を突っ込んだ時に袖がズリ上がらない。またサムループをかけると同時に袖口が引き絞られる構造なので、雪や冷気の侵入もシャットアウトしてくれる。秀逸

下からも開閉できるダブルスライダーを備えている。これはビレイ時にデバイスやロープと干渉しないためだが、脚を持ち上げた時や座った時にも裾が干渉せずに楽だ。採用されるビスロンジッパーは氷点下でも動きがすばらしく滑らかでストレス皆無。これも歴代最高

内側の両サイドにゴーグルやグローブ、クライミングスキンなどを入れておける大型ポケットを備える。ここに濡れたグローブ等を入れて体温で乾かすのだ。このポケットの下部は水が抜けるように細かなメッシュ生地が使われている

フードの後頭部や裾回りを絞るコードロックには内蔵タイプの「コヒーシブロック」を採用。動作の邪魔にならず、ボタンを押し込むだけなので片手でも操作しやすい。今季から剥離やホツレのトラブルが少ない新型タイプが使われている

腰回りにはパウダースノーや冷気の侵入を防ぐスノースカートを装備する。シンプルで重量増の少ないデザインだがその効果は大きく、ドローコードを引き絞ると腰回りの保温力がグッとアップした

原稿:ホーボージュン
撮影:西條聡・大塚伸
協力:パタゴニア

ホーボージュン

全天候型アウトドアライター

ホーボージュン

全天候型アウトドアライター

ペンネームのHOBOとは英語で「放浪者」の意。シーカヤックによる外洋航海から6,000m峰の高所登山まで、フィールドとスタイルを問わない旅を続けている。山岳装備への造詣も深く『山と溪谷』で最新ギアのフィールドテストを行う。マイ・ファースト・パタゴニアは1989年に買ったリバーシブル・シンチラ・アノラックとボンバッチャ。