「いつかは登りたい」と多くの登山者が憧れる北アルプス。信州を拠点に活動する石川高明ガイドに5つの縦走ルートを厳選していただきました。霊峰巡りやパノラマ展望が楽しめるコース、日本を代表するクラシックロングルートなど魅力的なルートが目白押しです。
2024.06.25
石川 高明
信州登山案内人・登山ガイド
長野県在住の石川高明です。大手電機メーカーを2000年に退職した後、世界一周登山の旅に出発し、2年間、スイスのツェルマットでトレッキングガイドをしていました。2008年から長野県原村に移住し、登山ガイドや地域観光活性化のお手伝いをしています。
さて、北アルプスといえば、岳人の憧れ。著名な山々が連なる日本屈指の山岳エリアです。一方で、それらの山々が非常にコンパクトに凝縮されているというのも特徴。2泊3日の縦走でもどっぷりと北アルプスの魅力にハマれます。
中房温泉登山口〜合戦小屋〜燕岳〜大天井岳〜常念岳〜一ノ沢駐車場
ビギナーでも可。
北アルプスの三大急登である合戦尾根を登る体力が必要ですが、入山者が多く、小屋も多数あるので、ぜひビギナーに挑戦してもらいたいです。
所要日数:3日間
1日目/ 中房温泉登山口 – 第一ベンチ – 合戦小屋 – 燕山荘 – 燕岳 – 燕山荘泊((5時間)
2日目/ 燕山荘 – 大天荘 – 大天井岳 – 大天荘 – 横通岳の肩 – 常念小屋泊(6時間)
3日目/ 常念小屋 – 常念岳 – 常念小屋 – 胸突八丁 – 王滝ベンチ – 一ノ沢駐車場(5時間30分)
■参考になる活動日記
「パノラマ銀座」というだけあって、展望が魅力のコースです。このコースは主に稜線を歩くので、ずっと槍ヶ岳〜穂高岳を眺めながら歩くことができます。もう一つの魅力が高山植物。花崗岩のルートなので、コマクサの群生地があり、目を楽しませてくれます。
一時期、毎年のようにこのコースをガイドをしていました。朝焼け美しさ、槍ヶ岳方面に沈む夕日、プラネタリウムのように広がる星空。通い続けると、年によって高山植物の咲き方が違うことに気づいたりして、何回歩いても楽しいコースです。
「〇〇銀座」という別名のように、多くの登山者が入山する人気コースです。収容人数の大きい小屋も多く、ビギナーでも心配は少ないでしょう。ただし、稜線までの登り下りは北アルプスの中でも屈指の急坂ですから、気力体力体調を万全で臨んでください。
このモデルコースを見る:【縦走】燕→常念(中房温泉・一ノ沢)
室堂〜みくりが池〜一の越〜雄山〜大汝山〜真砂岳〜別山南峰〜別山北峰〜雷鳥沢〜みくりが池〜室堂
ビギナーでも可。
高所まで交通機関が伸びているので、ビギナーでも高所登山が楽しめます。紹介しているコースは危険も少なく、入山者も多いのでオススメ。一方で高所ならではのリスク(高山病)もあるので、体調管理に注意してください。
所要日数:3日間
1日目/ 室堂 – みくりが池泊(0時間10分)
2日目/ みくりが池 – 室堂山荘 – 一の越 – 雄山 – 大汝休憩場 – 大汝山 – 真砂岳 – 別山南峰 – 別山北峰 – 剱御前小舎 – 雷鳥沢 – みくりが池泊(7時間)
3日目/ みくりが池 – 室堂(0時間20分)
国内屈指の霊峰でありながら、「立山黒部アルペンルート」を使うことによって、気軽に高所に辿り着けます。立山三山は浄土山、雄山、別山を指していて、仏教の三世 (過去世・現在世・未来世)を現しているといわれています。可能であれば、三山縦走をおすすめします。
北アルプスの奥深い山中で、巨大な黒部ダムを見た時は素直に驚きました。のちに映画『黒部の太陽』(1968年)を観て、建設の苦労を知ってからは畏敬の念を持ちながら利用させてもらっています。映画の冒頭、クラシックな雪山装備で立山を登っている三船敏郎さんの姿が格好いいんですよ。
各種索道(ロープウェイなど)を使うことで、気軽に高所に上がれますが、一気に高所に上がるリスク(高山病)もあります。初日は入山だけに留め、体調管理に留意してください。多くの人が行き交う山ですが、意外に浮石や落石が多い山です。慌てず一歩ずつしっかり歩きましょう。
このモデルコースを見る:室堂登山口-一ノ越-立山-真砂岳-別山 周回コース
上高地バスターミナル〜岳沢小屋〜前穂高〜奥穂高〜穂高岳山荘〜涸沢ヒュッテ〜横尾山荘〜徳沢園〜上高地バスターミナル
中級者以上推奨。
2日目は岩場が連続し、トレイルも細い場所があります。高度感のある場所多数。三点確保などの岩場の通過の仕方、岩場での下り方をマスターしてから挑戦してください。
所要日数:3日間
1日目/ 上高地バスターミナル – 河童橋 – 岳沢登山口 – 岳沢小屋泊(3時間)
2日目/ 岳沢小屋 – 紀美子平 – 前穂高岳 – 奥穂高岳 – 穂高岳山荘泊(6時間)
3日目/ 穂高岳山荘 – 涸沢ヒュッテ – 本谷橋 – 横尾山荘 – 徳澤園 – 明神 – 上高地バスターミナル(6時間30分)
上高地のイメージ写真によく使われる河童橋周辺から見た穂高岳連峰。青空をバックにひときわ白い岩稜。そのスカイラインの部分が吊り尾根です。岳人なら一度は歩いてみたいルートです。
最初に歩いたのは学生の頃。ただただ夢中で岩場にしがみついていました。その後、経験を積んで再び歩くと、このコースの味わいがわかってきました。重太郎新道や紀美子平などの名称、ルート開拓時のエピソード、山頂からの景色……日本の登山文化の一面を垣間見ることができる屈指のルートです。
岩場の連続するコース、不安定で急斜面の足場などベテラン向きコースです。多くの事故が、涸沢から入山して、重太郎新道を下山している最中に起こっているので、ここでは重太郎新道を登るコースを案内しています。ガイドをして感じるのは、重太郎新道は登りで使えばそれほど危険なコースではないということ。ただ、コース取りが重要で、気力体力体調が万全でないと挑戦できないルートです。
このモデルコースを見る:上高地バス停-河童橋-前穂高岳-奥穂高岳 周回コース
高瀬ダム〜烏帽子岳〜野口五郎岳〜鷲羽岳〜三俣蓮華岳〜双六岳〜槍ヶ岳〜上高地
中級者以上推奨。
1日の行動時間の長さ、初日の標高差のある激しい登りと最終日の下り、小屋と小屋の間隔、携帯電話の電波が届きにくいなど厳しい条件があり、総合的な登山の判断力が必要とされます。
所要日数:5日間
1日目/ 高瀬ダム – 濁沢 – 烏帽子小屋 – 烏帽子岳 – 烏帽子小屋泊(7時間30分)
2日目/ 烏帽子小屋 – 三ッ岳 – 野口五郎小屋 – 野口五郎岳 – 東沢乗越 – 水晶小屋 – 水晶岳 – 水晶小屋 – ワリモ岳 – 鷲羽岳 – 三俣山荘泊(8時間)
3日目/ 三俣山荘 – 三俣蓮華岳 – 丸山 – 双六岳 – 双六小屋泊(3時間)
4日目/ 双六小屋 – 樅沢岳 – 硫黄乗越 -左俣岳 – 千丈沢乗越 – 槍ヶ岳 – 槍岳山荘泊(6時間)
5日目/ 槍岳山荘 – ババ平 – 槍沢ロッジ – 一ノ俣 – 横尾山荘 – 徳澤園 – 明神 – 小梨平 – 河童橋 – 上高地バスターミナル(7時間)
日本を代表するクラシックロングコース。最初、遠くに見えていた槍ヶ岳に一日一日近づいていく様は、ダイナミックな縦走山行の醍醐味です。最後に槍ヶ岳の山頂に立った時は充実感に包まれるでしょう。
最初にこのコースを歩いたのは20年以上前。晩秋に先輩3人と縦走しました。天気が悪かったり、あてにしていた山小屋がシーズンオフで泊まれなかったりと、トラブル続出でしたが、思い出に残る旅でした。それからガイドになってお客様をお連れしたのですが、遠くの槍ヶ岳を目指してひたすら稜線を歩く素晴らしいルートでした。途中に登る山も百名山が多く、改めてこのコースの良さを再確認しました。
最初の難関は日本三大急登のひとつ「ブナ立て尾根」。しかし、二日目もコース取りによっては長時間になるので、烏帽子岳を初日に登っておくことをオススメします。
二日目は水晶岳に寄るか、寄らないかで悩むところ。このコースを歩くと最低でも4泊5日かかるので、計画をしっかり立てて、しかも状況によっては柔軟に変更する必要があります。ルートは北アルプスでも奥深いので、携帯電話の電波が届きにくいところがあります。
このモデルコースを見る:高瀬ダム〜槍ヶ岳〜上高地 裏銀座縦走コース
蓮華温泉バス停〜朝日岳〜黒岩岳〜犬ヶ岳〜栂海山荘〜白鳥山〜尻高山〜親不知
中級者以上推奨。
中盤以降は水分補給が鍵となります。特に後半は、標高が下がるにつれて気温が高くなり、体力を消耗します。また、全ての峰を忠実に登って下るので、精神的に辛くなります。しかし、その苦労を補って余りある劇的な親不知(日本海)へのゴールは感動的です。
所要日数:4日間
1日目/ 蓮華温泉バス停 – 蓮華温泉ロッジ – 吹上ノコル – 朝日岳 – 朝日小屋泊(8時間)
2日目/ 朝日小屋 – 朝日岳 – 吹上ノコル – 黒岩山 – サワガニ山 – 犬ヶ岳 – 栂海山荘泊(6時間30分)
3日目/ 栂海山荘 – 菊石山 – 白鳥山 – 白鳥山避難小屋泊(3時間30分)
4日目/ 白鳥山避難小屋 – シキ割 – 坂田峠 – 尻高山 – 入道山 – 栂海新道登山口 – 親不知(日本海)(4時間30分)
栂海新道は日本にある登山道で唯一無二の存在です。夏なお残雪が残る2,000m級の山から、海抜0mの日本海親不知海岸まで一気に下っていきます。この登山道の開拓や成り立ちもドラマティックですが、ルート自体も北アルプスが海に向かって突然途切れるようなドラマティックなイメージです。一生に一度、歩いてみたい登山道です。
ひとりで日本海と太平洋を、登山道で繋ぐプロジェクトをしていた時期がありました。そのプロジェクトでどうしても避けられないのが、この「栂海新道」です。
実は1回、失敗をしています。持って行った食料が傷んでしまい、泣く泣く下山したのです。翌年、準備万端で再び栂海新道を目指しました。今度は途中で水がなくなり、脱水症状気味でふらふらになりながらも、親不知の日本海に飛び込んだことは、私の登山人生の中でも忘れられない1ページです。
2020年7月に生じた犬ヶ岳からサワガニ山間の登山道一部崩落箇所による「迂回路」は、2021年6月3日に拓かれて通行可能になりました(栂海新道HPより)。
そのほかにも、荷物の軽量化推奨や、水場が少ない&細いといった水分確保の注意点があります。道は比較的明瞭ですが、それでも北アルプスにしてはルートファインディングが求められます。気をつけて歩きましょう。
モデルコースを見る:栂海新道 縦走コース(このコースのスタートは北又小屋)
テント泊のおすすめはこちら:テント泊登山デビューならこの山&テント場!3エリア11カ所を厳選
トップ画像:カイマンさんの活動日記より