日本全国から桜の便りも聞かれるようになり、これから山も新緑のシーズンを迎えます。そこでYAMAPでは、ウェアやシューズなどでお馴染みのGORE-TEXブランドの協力のもと、3人の山の専門家に集まっていただき、GWの山登りがきっと楽しくなるオススメの山やこだわりのウェア、シューズのトレンドなどについてお伝えする動画を配信しました。それでは、さっそく「山のプロの太鼓判」をご紹介しましょう。
2023.03.23
大関直樹
フリーライター
今回は、山岳ライターの森山憲一さん、登山ガイドの渡辺佐智さん、登山系ユーチューバーの山下舞弓さんという、それぞれの分野で活躍されている「山のプロ」にお集まりいただきました。
なお、配信の様子は、下記のアーカイブ動画でフル視聴可能です。山のプロたちが、まるで山小屋のテーブルで楽しく話しているようなリラックスした座談会となっているので、記事と合わせて御覧ください。
山のプロが薦める!春のオススメルートと山道具 powered by GORE-TEX Brand
*本編は 13:51〜はじまります。
それでは、さっそく座談会の内容を紹介しましょう!
ー GWは、里山や低山では新緑が美しい季節ですが、北アルプスのような高山では、まだ雪が積もっています。そこで、登山経験豊富なゲストの皆さんに、山友にオススメしたいGWの山を独断と偏見でご紹介いただけたらと思います。
山下舞弓さん(以下、山下):GWって、まだハードなところに行くのはキツいので、里山をオススメしたいです。そこで私が選んだのは、長野県大町市にある鷹狩山。山頂からは北アルプスの名だたる名峰が眺められます。私は、昨年の4月に登ったのですが桜も咲いていてすごく綺麗でした。この山は標高1,164mなんですけど、実際に登る標高差は400mほどでコースタイムは1時間半ぐらい。急登もないので、冬の間に山に登っていなくて体慣らしをしたい方にも良いと思います。
ー 北アルプスって、反対側から見るとこんな大展望が楽しめるんですね。登っちゃうと、こういう景色って見れないですもんね。
山下:そうなんですよ。この景色を見ながら、今年の夏は、どの山に挑戦してみようか、なんて計画を立てることもできます。そして山麓には、美味しいお菓子屋さんやコーヒー屋さん、大町市立の山岳博物館など、下山後の楽しみが盛りだくさんなのもうれしいポイントです。
渡辺佐智さん(以下、渡辺):私は、残雪の尾瀬ヶ原です。夏の尾瀬ヶ原って木道しか歩けないじゃないですか。でもGWに行くと、木道が雪に埋まっているので、どこでも歩けるんですよ! 小さな池塘の中に可愛らしいミズバショウの赤ちゃんを見つけたりできるのも、この時期ならではの楽しみ。ただし、GWでも吹雪になると一晩で積雪が30~50cmになることもあります。もし、雪が積もったときは、雪山経験者やガイドと一緒に行っていただけたらと思います。
ー 視聴者の方からのコメントで、『残雪の尾瀬ヶ原の上を歩けるなんて知らなかったです』と届きましたが、雪原を自由に歩けるんですか?
渡辺:雪原をどこまでも歩けます。尾瀬ヶ原は、厳冬期だと4~5mは積もるので、GWでも雪がかなり残っている状態なんです。そして積もった雪が冷たい空気を防ぐ毛布の役割を担って、湿原の植物を守ってくれているんですよ。尾瀬は、季節によって景色や花が全然変わってくるので、ぜひ何度でも訪れていただきたいです。
森山憲一さん(以下、森山):僕がGWにオススメしたいのは、特定の山というより北アルプス全般です。それは、ヨーロッパアルプスを登っているようなダイナミックな風景が見られるから。厳冬期の雪山はそれなりのスキルが必要ですが、写真のような涸沢までだったら天気さえ良ければ誰でも行けると言ってもいいでしょう
森山:次の写真は鹿島槍ヶ岳なんですけど、涸沢よりはレベルが上がったバリエーションルートです。厳冬期だとこんなところに行ける人ってエキスパートだけですが、GWなら少しクライミングの心得があって、冬山登山の経験がそれなりにある人ならば、行けるようになってくるんですね。
山下:涸沢には興味があるんですけど、GWに行くときは何本爪のアイゼンが必要ですか?
森山:涸沢までであれば、チェーンスパイクとトレッキングポールで大丈夫ですよ。
渡辺:ただ、GWって難しいですよね。天気がよければ簡単ですが、悪いと冬山になってしまう。そこの判断が難しいかなと思います。
森山:そうですね。天気が悪いときにアイゼン・ピッケル無しで初心者が行けるかとか言われると、それは無理なので。その点を冷静に判断できることが前提ですね。
ー レインウェアやシェルジャケットは、安全に登山をするために欠かせないものです。しかし、ショップでは商品がたくさん並んでいて、どれを選んだらいいかわからないという声も多く聞かれます。そこで、3人のオススメのアイテムを教えていただけませんか。
渡辺:私が持ってきたのは、ザ・ノース・フェイスのパンマージャケットです。これは、とても生地が柔らかく、肩周りもすごく動かしやすいので、着ていて肩が凝ることがないんですよ。しかも透湿性も非常に高いので、行動中の汗抜けも抜群。収納についても胸にある大きなナポレオンポケットは、ハーネスに干渉せずに地図を入れられるので気にいっています。あとは、生地がゴワゴワしていないので、たたんでバックパックにも入れやすいんですよ。
山下:すごい柔らかそうな生地ですね!
渡辺:はい、とにかく着心地がいいので、オールシーズンで一番着ているジャケットです。とにかく蒸れないというか、汗抜けも本当に素晴らしいです。
森山:僕がオススメしたいのは、モンベルのダイナアクションパーカという冬用のジャケット。これは、雪山登山で使えるもののなかでは、最軽量の部類に入ると思うんです。すごく薄くて軽いので、夏山登山で使っても全くストレスがありません。一年中いつでもどこでも使える点が魅力です。
森山:このジャケットが普通のレインウェアと違うのは、フードで顔が隠れる点です。これは雪山で吹雪のときに顔をガードするためのものですが、夏山でも有効なんです。強い風雨が吹きつける稜線歩きのときなどは、非常に安心感が高いですね。どんなときでも安心して使えるレインウェアだと思います。
ー ジャケットっていきなり何着も揃えられないので、山を始めて1年目から雪山にもチャレンジしたい方は、これを買うと良さそうですね。
森山:そうですね。あとジャケットって付属の収納袋がついていますが、小さくて入れるのにイライラするので、僕は使わないんですよ。収納するときは、くるくるっと巻いてフードの中に入れた状態でバックパックに入れるんです。収納袋に入れると硬くなるのでパッキングするときに隙間ができることがありますよね。ダイナアクションパーカだったら、隙間に馴染んでサッと収まるんです。この収納方法は、実践している人が結構多いですよ。
山下:私は、アークテリクスのベータSVジャケットを持ってきました。
春から秋の登山にも使えるジャケットですが、本格的に冬山をやりたいと思って購入したものです。この冬も、北八ヶ岳に行ったんですけど、茶臼山で稜線に出たときに爆風が吹いてきて歩くのも精いっぱいだったんですよ。その時にフードを被ったら風から守られてる感じがして、すごい安心感がありました。このジャケットは、雪と風から守ってくれるので冬山には絶対持って行くようにしています。
ー みなさんGORE-TEXが使われているジャケットを挙げていただきましたが、雨だけじゃなく風も防いでくれるんですか?
森山:GORE-TEXって防水性に注目する人が多いんですが、個人的には防風性の方が大事かなと思っています。基本的に風を通さない素材なので、暴風に叩かれても体温の低下を防いでくれるんです。ジャケットの防風性能は、非常に重要な機能だと思うのですが、山下さんのアークテリクスのベータSVジャケットは、まるで鎧みたいなつくりなので、安心感が高いですね。
渡辺:安心感って山行を遂行するためは、すごく大事なものだと思います。風に吹かれると、イライラしてきて注意力が散漫になってしまうことがあります。それがジャケットによって風から守られていると、思考もちゃんと働くようになるんです。
ー 色々な視点でみなさんにジャケットを紹介いただきましたが、もうひとつ大切なことがあるんですよね、渡辺さん。
渡辺:はい、ウェアのメンテナンスです。GORE-TEX素材のウェアは、泥や雨の汚れ、内側についた汗や皮脂汚れを落とす必要があります。そうすることで撥水性や透湿性が復活し、長く快適に使うことができるんです。
渡辺:注意点としては、ジャケットによって洗濯の仕方が異なるので、洗う前に必ず洗濯表示ラベルを確認してください。また、洗剤が生地に残ってしまうと撥水性が低下するので、しっかりとすすぎをしましょう。私は、汚れがついたり汗をかいたなと思ったら、その都度洗っています。
ー 今回ご紹介した洗い方は、GORE-TEXさんの公式サイトやインスタグラムでも公開されていますので、ぜひ御覧ください。また、YAMAPマガジンでもGORE-TEXウェアの洗い方について、クリーニング屋の店長さんが丁寧に教えてくれた記事があるので、そちらも覧いただけたらと思います。
森山:僕が登山を始めた30数年前は、GORE-TEXウェアを洗っちゃいけないって言われていたんですよ。だから10年間くらいは、それを信じて洗ってなかったんです。洗濯をした方がいいと知ったときは、オレの10年を返してくれって思いました(笑)。今でも洗ってはいけないと信じている人もいますが、それは間違いです。
ー 次のテーマは、シューズについてです。山道具に詳しい森山さんに最近のトレンドについて教えていただきたいのですが。
森山:最近の傾向として、軽めのシューズの性能が良くなってきています。写真右側の靴は、トレイルランニングシューズをハイカットにしたぐらいなんですけど、人によってはこれで北アルプスを歩けちゃうんですよ。荷物が重たい場合は、別ですけど。
ー こういう靴って、雨の日に履くと防水面などが心配になるんですが…
森山:GORE-TEX素材が使われているトレッキングシューズなら大丈夫です。下記の写真を見ていただきたいのですが、GORE-TEXファブリクスで作ったソックスみたいなものがシューズの中に搭載されていて、外から水が入ってきても、この層で止めてくれるのです。
渡辺:確かに軽いシューズで性能のいいものが出てきているんですけど、初心者の方が最初から軽いものを履いちゃうと、正しい歩き方が身につかないというデメリットもあると思います。
森山:そうですね。基本的に軽いシューズっていうのは山慣れていて脚力のある人ほどメリットを感じられます。初心者の方が、軽さで登山靴を選んでしまうと困ったことになりがちですね。
ー 視聴者の方からも『ローカットが初心者に向いていないと言われる理由が知りたいです』という質問が届いていますが渡辺さん、お答えいただけますか?
渡辺:初心者が履くべきではないということではなくて、行く場所によると思います。ただ、足の筋力がない方がローカットを履くと、足首のサポートがないので歩きにくいことも。また、柔らかくて軽いシューズよりも、ある程度重さがあって硬い方が、歩き方を学ぶことができます。山を登るときは、重心を考えて自分の足をどこに置くかが重要なんですが、軽くて柔らかいと足をどこにでも置けるんですね。初心者の人は、山の歩き方を意識的に身につけるためにもミドルカットで、ある程度重厚なシューズを選ぶことをオススメします。
ー 今日は会場にYAMAPユーザーさんにも数名お越しいただいています。せっかくなので何か質問はいかがですか?
会場のYAMAPユーザーさん:GORE-TEX素材を使っているウェアをメンテナンスするとき、撥水スプレーをかけてもいいんですか?
渡辺:撥水スプレーにはシリコン系とフッ素系の2種類があります。このうち、シリコン系は生地の表面を皮膜が覆ってしまい、透湿性が落ちちゃうので使わない方がよいでしょう。フッ素系は、通気性が保たてるので大丈夫です。ただ、撥水能力を復活させるためには、スプレーを使うより乾燥機やアイロンでしっかりと熱を加えることが大切です。
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この他にも配信番組では「また泊まりたいオススメの山小屋」、森山さんの「アメリカにあるゴア本社レポート」、「いつか行ってみたい憧れの島旅」など登山者にとって興味深いコンテンツが山盛りでした。 続きはアーカイブ動画でご視聴いただけます!
アーカイブはこちら! 山のプロが薦める!春のオススメルートと山道具 powered by GORE-TEX Brand
*本編は 13:51〜はじまります。
今回は、GORE-TEXブランド主催のもとで山岳ガイド、登山系YouTuber、山岳ライターという3名のパネリストをお招きして、GWの山旅と山道具についてお送りしましたが、いかがでしたでしょうか? 4月に入ると暖かくなり、待ちに待った登山シーズンに突入します。快適に登山を楽しむためにもウェアのメンテナンスや体力作りは、今のうちから始めるのがオススメです。今年もGORE-TEX ウェアやシューズとYAMAPと共に楽しく山に登りましょう!
番組に登場してくれたゲストのみなさん
渡辺 佐智(わたなべ さち)さん
1976年、神奈川県生まれ。登山ガイド、スキーガイド。山梨県をベースにして春から秋は登山ガイド、冬から春はバックカントリーガイドとして活動。初心者の視点に立って丁寧なアドバイスを心がける。モットーは「楽しく安全登山!」
山下 舞弓(やました まゆみ)さん
モデル・登山系YouTuber。2012年から登山を始め、今ではオールシーズンで低山から3,000m級の山まで、ソロハイクや縦走など様々なスタイルで登っている。YouTubeで山の魅力を伝える「オトナ女子の山登り」を配信中。
森山 憲一(もりやま けんいち)さん
1967年、神奈川県生まれ。フリーライター。大学卒業後、山と溪谷社に入社し、「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとして活躍。
原稿:大関直樹
イラスト:大西土夢
協力:GORE-TEX Brand