美しくて機能的。アークテリクスならではの心躍るハイクシューズ「エアリオス」

登山だけでなく街でも人気のアウトドアブランド「アークテリクス」。シェルやバックパックのイメージが強いですが、じつは「フットウェア」も、ブランドの重要なアイテム。

今回は、ハイキングシーンに対応し、ブランドの技術と美学を体現したシューズ「エアリオス MID ゴアテックス」をご紹介しましょう。

2023.03.30

小川 郁代

編集・ライター

INDEX

ブランドを支える3つ目の柱。アークテリクスのフットウェア

「アークテリクス」が、1989年にカナダ・ノースバンクーバーで誕生したときは、クライミングに使うハーネスを作る、小さなガレージブランドとしてのスタートでした。

今では、アウトドアアクティビティ全般に範囲を広げ、フィールドを超えて多くのファンを増やし続けています。シェル類に代表されるアパレルや、街使いにも人気のバックパックは、ブランドを象徴するアイテムとして、広く認識されています。

それらに比べると、やや控えめな印象があるかもしれませんが、アークテリクスのもうひとつの大きな柱が「フットウェア」のカテゴリー。2015年に販売をスタートし、マウンテニアリングのさまざまなシーンを対象に、充実のラインナップが用意されています。

フットウェアの商品は、大きく4つに分類されます。アルパインクライミングや縦走登山用ブーツの「アクルックス」、クライミングのアプローチや、岩稜エリアのテクニカルな登山のための「コンシール」、トレイルランニング用のモデルを集めた「ノーバン」、そして、ハイキングシーンをトータルにカバーする「エアリオス」。

そのなかから今回は、この春新たなラインナップで登場するハイキングシューズ「エアリオス MID ゴアテックス」をピックアップします。

ブランドの技術と美学が作り出す「らしくない」ハイキングシューズ

メッシュアッパーの素材感とシンプルでクリーンなデザインが、軽やかな印象のミッドカットシューズ。街でのクールなコーデに合いそうなルックスですが、舗装された道路やビルのフロアを歩くためのものではありません。これは、さまざまなコンディションの登山道を長時間歩くために作られた、テクニカルデイハイクシューズ。土や泥にまみれながら、登山者の足元をスタートからゴールまで支え続ける、山歩きのための一足です。

「エアリオス MID ゴアテックス」は上質感のあるカラーバリエーションも特徴

重厚なイメージのモデルが並ぶ登山用シューズの売り場では、少し「浮いた」存在に見えるでしょう。何の説明もなければ、ハイキングシューズだと気付かない人がいるかもしれません。

ユニセックスサイズで展開される5つのスタイルは、ベーシックなカラーを使いながらも存在感のある、スタイリッシュで美しい仕上がり。ハイキングシューズの見た目に、これほど心躍らされることが、今までにあったでしょうか。

もちろん、山の靴に一番大切なのは、目的に合った機能や履き心地。足型との相性などの条件もあり、いくら気に入ったとしても見た目を最優先させることは、安全面から考えてタブーです。

そもそも、ハイキングシューズのデザインは、どれも山で使うものだと一目でわかるものばかり。多少の違いはあれど、同じような雰囲気からは抜け出せないのが当たり前にも思えます。

しかし、このシューズの本質を知ったら、今まで考えていた「ハイキングシューズらしさ」が、作り手と使い手の双方が勝手に作り上げてきた、固定概念だったと気付くことになるでしょう。優れたハイキングシューズが、みんなが思う「ハイキングシューズらしい」見た目である必要はないのです。

スマートな見た目に本格的な機能を備え、すました顔でハードな環境をなんなくこなす。

これが、アパレルやバックパックにも共通するアークテリクスの美学。この1足にも、それが色濃く表現されています。

軽快に山を移動するデイハイクのための「ファスト&ライト」

「エアリオス MID ゴアテックス」の特徴は、「ファスト&ライト」という言葉がとてもよく表しています。重い荷物を背負って何日も山での時間を過ごすのではなく、軽い荷物ですばやく移動する、日帰りの山の楽しみ方。それには、軽量で動きやすく、変化するトレイルの状況に幅広く対応し、安定感と俊敏性、保護性能をバランスよく備えるシューズが求められます。

そこで取り入れたのが、トレイルランニングのための「ノーバン」で培ってきたノウハウ。速さや動きやすさを重視し、どのような状況下でもゴールに向かって走り続けられるトレランシューズのメリットを「ファスト&ライト」なハイキングシューズに落とし込みました。

ミッドカットを軽快に仕上げるコンパクトなデザイン

手に取って最初に驚くのは、ボリュームに似合わない軽さ。そして、軽くしなやかなアッパーとは対照的に、シューズ全体の剛性が感じられ、つま先とヒール部分には、しっかりとした保護性能が備わっているのもわかります。

形は、くるぶしをカバーする、ほどよい高さのミッドカット。足にフィットし、全体をソフトに包み込むアッパーが生み出す、スピーディ―な動きにふさわしいサポート感があります。

ボリュームの出やすいミッドカットでありながら、軽快な印象があるのは、メッシュアッパーの素材感だけでなく、かかと側を低めに設定した足首周りのデザインの影響もあるでしょう。足首をホールドしながら、傾斜がきつい場所での足首の動きを妨げない形。当たりを和らげ靴ずれや痛みのリスクを減らすことも、長時間の歩行を快適にこなすのに欠かせない、大切な要素のひとつです。

履き口まわりは、コンパクトな仕上げ。内側には、肌に直接触れてもストレスのない、ソフトな素材が貼られています。アッパー素材にほどよい柔らかさがあるため、タンや履き口のクッションを分厚くして当たりを和らげる必要がないので、着脱しやすく見た目もすっきり。足首の動きを妨げることも、必要以上にすねや足首を圧迫することもありません。

エコ&タフなメッシュアッパーが、軽さと動きやすさを手に入れる

アッパーに使われているのは、100%リサイクルポリエステルの地球にやさしいメッシュ素材。軽量で柔らかく、摩擦に対する優れた強度も備えます。素材のもつほどよい光沢とメッシュの凹凸が、上質感のある独特の雰囲気です。

商品名からもわかるように、ゴアテックスメンブレンを採用し、雨の多いコンディションでも安心。優れた防水透湿性とメッシュの通気性で、長時間快適に履き続けることができます。

トレランシューズのノウハウを生かしたソール周りの設計

アウトソールは、あらゆる路面で優れたグリップ力を発揮する、「ビブラム メガグリップ」を採用。4mmの深さがあるラグは、ぬかるんだ道や雨の木道、岩や砂、土や落ち葉の路面が目まぐるしく入れ替わるトレイルでも、変わらぬ安定感を発揮し続けます。

フロント側は、土や石が詰まりにくい斜めに配されたラグパターン。下りで高いグリップ性能を発揮します。

トレランシューズのスタイルを受け継ぐ厚めのミッドソールには、超軽量で衝撃吸収性の高い、圧縮EVAを採用。足のねじれを抑えアーチの崩れを防ぐ一体型のTPUシャンクと合わせて、スピーディ―で安定感のある足運びを常にサポートし続けます。

つま先を衝撃から守るための、立体成型ラバーのトウボックスは、高さに余裕のある形が特徴的。最近の流れとして、つま先を幅広にして、自然な足の状態を促すモデルが多くみられますが、高さにも余裕を持たせることで、さまざまな足の形や、歩き始めから長時間歩いた後まで、どんな状態の足にもストレスを与えない工夫がされています。

フィッティング性能と履き心地を格上げする新採用のレースシステム

今シーズンからユニセックスモデルとして展開される「エアリオス MID ゴアテックス」。前モデルからの注目すべきアップデートは2点です。

ひとつは、アッパーに使われているポリエステル素材が、環境にやさしい100%リサイクルのものになったこと。そしてもうひとつが、レースシステムの変更です。

もしかしたら、このシューズがすっきりとしていて、登山靴のイメージが強くないのは、普通はアッパーに並んでいる、レースを通すためのホールやループ、フックなどがないからかもしれません。レースを通すのは、タンのスペースにつけられた、デイジーチェーン状の細いコード。これをレースホールの代わりに利用します。

このシステムのメリットは、レースがスムーズに動かせて、調整がしやすいところ。幅のある平紐は、絞めやすくほどけにくい反面、摩擦が大きく動きが悪いことがありますが、このシステムなら問題なくコントロールできるので、登り、下りでこまめに締め具合を調整すれば、疲れや痛みを抑えることができます。

一見すると、アッパーにレースホールがあるタイプより、レースでコントロールできる幅が狭いので、しっかりと絞めつけられないような印象がありますが、実際はアッパーの柔らかさも手伝って、足を包み込むような確かなホールド感を得ることが可能。

そして、もうひとつの大きなメリットが、アッパーに余分なパーツがないため、歩行時の足の返しが妨げられないところ。金具やループをつけることで、厚みが出たりパーツが足の甲に当たったりすると、足の返しがを妨げられて、せっかくの素材の柔らかを充分に生かすことができません。

大きく踏み出す1歩や、高い段差を登るときなど、シューズの可動域に動きが妨げられることがないのは、テクニカルなトレイルですばやく動くためには大きなメリット。自由度の高さとホールド感の絶妙なバランスに、トレランシューズのノウハウが生かされていることが感じられます。

山と街との境界線をなくすボーダレスな1足

山で使うために必要な機能を備えたテクニカルシューズではありますが、このルックスを見れば、ほかの使い道に思いを巡らせずにはいられません。

登山口への道のりや、山の帰りに寄り道するときに、どこかで靴を履き替えようかと悩む必要がないのは当たりまえ。これなら、ビジネスシーンに持ち込んでも、だれも違和感を持つ人はいないはずです。

ミッドカットのバランス感は、カジュアルなパンツコーデだけでなく、きれいめのスタイルや長めのスカートとも相性がよさそう。雨の日のお出かけも、この1足があれば、濡れた足元に1日中憂鬱な気分を引きずることはありません。

カラーによって大きく印象が違うのも魅力的。ワントーンでまとめたタイプは、素材に違いによる微妙な色の違いが奥行きを感じさせ、シンプルでどんな装いにもなじむ使いやすさがあります。ラバーとアッパーでカラーを変えたタイプは、厚底風のデザインが、山好きのみならず靴好きの心も掴むはず。どれにしようかと考える時間も、いつもの登山靴選びとは違う、うれしい迷いに悩まされることになるでしょう。

軽くて動きやすいハイキングシューズがほしいけれど、このシューズは見た目にも頼りない気がすると思うのなら、試しに足を入れてみてください。シューズの機能は目で見るものではなく、足で感じるものです。見た目がハイキングシューズっぽくないからと候補から外していたら、きっと後悔することになります。

人それぞれに足型やサイズが違い、1日のうちでも時間や状況によって大きさや形状が変化する足に、100%フィットするシューズはありません。シューズ選びは、山の道具のなかでもっとも難しいもの。山の靴に色やデザインを求めるのはナンセンスと言われるかもしれませんが、もし、用途も形も自分にとってベストなシューズが、自分の好みのデザインだったら、それがどんなにうれしいことか。必要な機能は、高いレベルで用意されています。あとは自分との相性だけ。このシューズに何か惹かれるものがあるのなら、先入観を捨てて近づいてみることをお勧めします。

原稿:小川郁代
撮影:中村英史
協力:アークテリクス カスタマーサポートセンター/アメア スポーツジャパン

小川 郁代

編集・ライター

小川 郁代

編集・ライター

まったくのインドア派が、ずいぶん大人になってから始めたクライミングをきっかけにアウトドアの世界へ。アウトドア関連の雑誌、書籍、ウェブなどのライターとして制作に関わるかたわら、アウトドアクライミングの環境保全活動を行なう、NPO法人日本フリークライミング協会(JFA)の広報担当としても活動する。