親子登山をしてみたい。けれど、食事は? 何を作れば、食べればいいんだろう……?そんな疑問に答えてくれるのが、我が子が生後8ヶ月のときから親子登山をスタートし、現在も「山ヤ流子育て」を実践されているまつだしなこさん。年齢別のおすすめ食材・メニューから、山で調理するときにあると便利なアイテム、おやつ選びの基準まで、子連れ山ごはんのノウハウを余すことなく教えていただきました。
子どもと山へ! 0〜5歳の親子登山ガイド/ 連載一覧
2023.09.08
まつだ しなこ
子連れハイカー
「頂上、まだなのかな……。」
まだまだ続く山道にめげそうになり、ついそんなふうにぼやいてしまうときに、大人にとっても子どもにとっても、心を奮い立たせてくれるものといえば “山ごはん” ではないでしょうか。
大きな楽しみである山ごはんだからこそ、手の込んだお弁当を用意したり、アウトドアクッキングを計画したり。どんなメニューであれば子どもが喜ぶのか、保護者の方は悩んでしまうかもしれません。
一方、山ごはんは極力シンプルにするのがわが家の流儀。基本的に片手で食べれるおにぎりかサンドイッチがメインで、調理したおかずはほとんど持っていきません。娘が5歳になりようやく山でラーメンを作るようになりましたが、それでも調理時間はたったの5分です。
子どもが野外でごはんを食べる時に喜ぶポイントは、手の込んだ彩り豊かなお弁当をお行儀よく食べることではなく、豪快に自由に食べられること。そして、「山でこんな物が食べれるのか!」という驚きとワクワク感ではないでしょうか。
そこさえ押さえれば、準備に手間をかけずとも特別な山ごはんを用意することは十分に可能なのです。
むしろ子どもにとって登山中に重要なポイントとなるのは、おやつ。本来であればエネルギー補給のためのおやつですが、子どもにとっては心の支えにもなります。
今回は、子どもが喜ぶ山ごはんとおやつについてのわが家の経験をご紹介したいと思います。
山ごはんを計画するときに大事なポイントは三つあると思います。
一つ目は、衛生面。登山口までの移動時間も合わせるとお昼時間までかなり長い時間、食べ物を常温で持ち歩くことになります。家で調理したものは、菌の繁殖を防ぐために衛生管理にとても気を使います。
二つ目は、食べやすさ。山の中では必ずしも平らで広い場所にお弁当を広げることができるとは限りません。場合によってはゴツゴツした石の上や、狭いベンチに子どもだけが腰掛けて保護者は立って食べるということもあります。準備しやすく、かつ食べやすいことが重要です。
三つ目は、できるだけゴミを出さないこと。使い捨てのお弁当箱であっても、山で調理をしたときの野菜クズであっても、山で出したゴミは全て持ち帰り。食べ残しや、果物の皮などの生ゴミであっても「土に帰るだろう」と山に残していくのはマナー違反なのです。
これらのポイントを考えていくと、結局のところ子どもと一緒の山ごはんは既製品を上手に活用してシンプルに済ませる、という結論に至りました。
子どもが離乳食期の頃は、レトルト離乳食とバナナが基本セットでした。
レトルト離乳食を持参するときのポイントは、一つ多めに持っていくこと。パンを食べられる時期になったら乳幼児用のパンでもいいですね。
というのも、山ではレストランでの外食のようにベルトがついた子ども用の椅子があるわけではありません。必然的に不安定な体勢で食べさせることになるため、盛大にこぼす可能性があるのです。
また、山に限ったことではないですが、渋滞に巻き込まれるなど想定外のハプニングで帰りが予定より遅くなることもあります。レトルト離乳食を売っている場所は限られるので、お守り代わりに一つ余分に持っていくと安心です。
1歳を過ぎて歯が生えてくると、幼児食の時期になります。基本的にはおにぎりかパンといったシンプルなお昼ご飯でした。
この頃からワクワク感を演出するために活躍したのが、お湯で作るスープや、冷凍ゼリーです。
お湯で作るスープは、疲れておにぎりを食べる元気がないときや、気温が低く体が冷えたときに大活躍。おにぎりをスープに混ぜてあげると疲れていても食べやすく、体も温まります。そして何より、「山で温かいものが食べられるなんて!」と、その意外性に子どもは大喜び。 “山専ボトル” と呼ばれるサーモスのステンレスボトルは通常の魔法瓶よりも保温保冷効果が優れているので、熱々のお湯を持っていくことができます。
夏山では、冷凍ゼリーもわが家の定番メニュー。こちらも「山でこんな冷たいものが食べられるなんて!」とその意外性に大興奮してくれます。そのまま持っていくと完全に溶けてしまうので、保冷バックに冷凍ゼリーと冷凍したペットボトルを入れていきます。冷凍したペットボトルは保冷剤代わりにもなりますし、帰りは中身を飲み切ってしまえば軽くなります。
手の込んだお弁当を用意しなくても、ちょっとした工夫だけで子どもの山ごはんは特別な思い出になるのです。
娘が5歳になり、ようやく山頂で山ごはんを作ることができるようになりました!
以前は一瞬でも目を離すと子どもがどこかに行ってしまうので山頂でゆっくり調理する時間がなかったのですが、5歳になると簡単な調理を手伝ってくれるまでに成長しました。
山で調理をするときは「山ご飯を食べること」を山行の最大の目的として、行き先の山とコースタイムを考えましょう。安定して調理することができる広い場所がある山を選ぶ必要がありますし、調理をする分だけコースタイムは長くなることを考慮しなければならないからです。
オススメメニューはやはりラーメン。「山でラーメン!?」と娘は大興奮です。
といっても、乾燥野菜などを入れてラーメンと一緒に煮込み、最後にお店で購入したゆで卵やチャーシューを乗せるだけ。調理時間はたったの5分です。
麺類を山で食べるときの厄介者といえば、茹で汁や余ったスープでしょう。これらの液体を山に捨てるのはルール違反。そこで、ラーメンを作るときはスープを少なめに作り、残ったスープにおにぎりを入れて雑炊風にして食べてしまうのがオススメですよ。
家ではちょっと行儀悪いかな……と思うことも、ワイルドに試せるのが山ごはんの魅力でもあります。
【山で調理するときにあると便利なもの】
山では食器を洗う場所はないので、汚れた食器や生ゴミを持って帰ることまで考える必要があります。わが家で愛用している便利グッズをご紹介します。
・トイレットペーパー
山では調理器具を洗う場所がありません。トイレットペーパーで簡単に食器についた汚れを拭いていくと、ザックの中で液だれや匂いが軽減できます。
・牛乳パックを開いたもの
簡単なまな板にもお皿にもなり、使用後は小さく折りたたんでゴミになります。しっかり洗って除菌してから持っていきましょう。
・スープを固める粉末
残ったラーメンのスープをこれで固めれば、家まで固形ゴミとして持ち帰ることができます。あいたペットボトルに入れて帰ったときもありましたが、こちらの方が便利だと思います。
わが家の子どもたちの登山のモチベーションの一つである、おやつ。普段制約を厳しくしている市販のお菓子ですが、山では好きなものを食べ放題にしています。
ここではおやつの選び方・持っていき方や、山でおやつを食べるタイミングについてご紹介したいと思います。
・子どもに好きなものを選ばせる
わが家では、普段NGにしているスナック菓子やグミなども山では解禁しています。山に行く前日に一緒にお菓子屋さんに行って、好きなものを選ぶのが恒例なのですが、それによって子どもたちのやる気が高まる効果があります。
娘は「これは重いからやめよう」「チョコは溶けるし」とおやつ選びも真剣そのもの。自分でおやつを選ぶことは、計画性を養うのにも役立ちそうです。
ただ、なるべく個包装で分割して食べやすいものを選べるようにそれとなく促しています。
・エネルギー源になる行動食は親が準備
子どもが選ぶおやつはグミやラムネなどが多く、エネルギー源としては少し不安があります。そこで、行動中のエネルギー補給となる “行動食” については子どものおやつとは別に大人がしっかり持っておきましょう。
行動食として選ぶときは、炭水化物(糖質)が多いことや、立ったままでも食べれるもの、ザックの中で潰れたり割れたりしても大丈夫なものを選ぶようにしています。
・おやつは好きなときに食べていい
子どもはすぐに立ち止まって「おやつ食べたい」と言い出します。基本的には子どもの好きなタイミングでこまめに食べて大丈夫。保護者が食べるタイミングを指示しすぎると子どものストレスになるからです。
といっても、3歩進んですぐ「おやつ!」と言われるのも困りますよね。
オススメの対策は2つあります。一つ目が「ベンチがあったらおやつタイムにしよう」とあらかじめおやつタイムを子どもと合意しておくこと。二つ目が子どもがおやつを選ぶときに、歩きながら食べやすいものを選べるようにそれとなく促しておくことです。
・おやつをご褒美にしない
ついやってしまうのが「頑張ったらおやつをあげる」という声かけです。おやつを登山のご褒美にすると、ご褒美をもらうことが登山のモチベーションになってしまう危険があると私自身、痛感してきました。
以前は子どものお菓子を親が管理し、子どもの歩みが遅くなったら「あそこまで歩いたらご褒美におやつあげるから」という声かけをしていた頃がありました。その結果、「頂上まで歩くから、ご褒美ちょうだい」と言い出すようになり、ギクっとしたことがありました。登山の喜びは、ご褒美以外のところに感じて欲しいものです。
私は、親子登山を始めたころから「山ごはんは手が込んだものを用意する必要はなし!」と決めています。
山ごはんやおやつで大事にしたいのは「楽しく食べる」こと。
娘は食事中の行儀が悪く、息子は少食偏食なので、私は毎日の食事の時間になるとついガミガミ、イライラしてしまいます。そこで山ごはんくらいはワイルドに、自由に、食べたいものを豪快に食べることでよしとする、と割り切ってきました。
冷え込む山で温かいスープを一口飲んでほっとした表情を見せたり、おにぎりを食べて「なんだか力が湧いてきた!」と笑ったり。食べることで体に力が満ちていく感覚は、シンプルなごはんでも十分に体験できているようです。
なにより、お母さんお父さんには帰宅後に疲れ切った体に鞭打って夕食の準備をするというミッションも待っていますからね。山ごはんくらいは既製品を上手に利用して、ストレスフリーで楽しくいきたいものです。