親子登山をしてみたい。けれど、服装は……? 我が子が生後8ヶ月のときから親子登山をスタートし、現在も「山ヤ流子育て」を実践されているまつだしなこさんが、親子登山の服装選びのポイントを解説! 年齢・季節を考慮した、親子登山の服装にまつわるノウハウを余すことなく教えていただきました。
子どもと山へ! 0〜5歳の親子登山ガイド/ 連載一覧
2023.08.11
まつだ しなこ
子連れハイカー
子どもが快適で安全な登山をするためには、どんな服装を選べばよいのでしょうか。
最近はアウトドアブームなのもあって、ベビー・キッズ用のアウトドアウェアが充実しています。ショップに行くと、あれもこれも必要なのではないかと迷ってしまいますよね。
でも、実際に親子登山を実践している身としては、登山を始めるにあたって何から何まで登山用ウェアを買い揃える必要はないのでは、と感じています。というのも、5歳になる前までの子どもは、自力で歩ける距離がまだまだ短いからです。わが家でもウェアには極力お金をかけず、家にあるものを組み合わせるよう工夫してきました。
子どもが長い距離を歩けるようになってから、高機能ウェアやグッズを徐々に買い揃えています。
ただし「家にあるもの」といっても、公園で遊ぶときと同じでいいかというと、やはり山ならではの服装選びの注意点があります。
最も気をつけているのは「体を冷やさないこと」。体を冷やさないというのは、厚着をするということではなく、体や服を汗で濡れたままにしないということです。汗冷えによる体温変化に気をつけなければならないのは、大人の登山と一緒。夏山でも、注意が必要です。かく言う私も、子どもがなんの前触れもなくガタガタ震え出したり、唇がみるみる紫色に変わっていく瞬間を何度か体験し、山で体が冷える恐ろしさを痛感してきました。
体の冷え対策のポイントは、季節ごとに変わってきます。ここからは、季節別の服装選びのコツをご紹介していきたいと思います。
気温がちょうどいい春や秋は、低山でも歩きやすく親子登山を始めるにはベストな季節でしょう。わが家でも初めての登山は秋でした。天候が安定していることが多く防寒対策を怠りがちですが、低山といえ休憩中は急激に体が冷えるので、防寒具を忘れないようにしたい季節でもあります。具体的な防寒アイテムについては、以下で年齢別に記載していきますので、参考にしてください。
ベビーキャリアに乗っているうちは、大人の服装プラス一枚をイメージするとちょうどいいでしょう。薄手の長袖と長ズボンに、フリースジャケットが基本スタイルです。
この頃の子どものサイズに合うアウトドア用ウェアはそもそも種類が多くありません。レインウェアやウィンドブレーカーも合うサイズがなかったのでポンチョタイプを使っていましたが、蒸れるし隙間から雨が入るし……。
そんな事情もあり、0〜1歳の頃は服装で工夫するより、雨が降っていなくてもベビーキャリアにレインカバーをつけることで風よけにしていました。
ベースとなる服装は、薄手の長袖Tシャツと長ズボンです。
ポイントは、保温ができるフリースなどの防寒具と防風目的のウインドブレーカーの二種類を組み合わせることです。防寒具としては、わが家ではベストタイプのフリースを愛用しました。重ね着をすると腕周りが窮屈になるのですが、ベストタイプはとても動きやすいからです。
歩行距離が短いので、靴は登山靴ではなく履き慣れたスニーカーで十分。ただし、替えの靴下をお忘れなく。子どもは、足の裏にもぐっしょり汗をかいて靴下が濡れていることが多いので、替えを用意しておくと安心です。
服装は2〜3歳のときと同じポイントを押さえておけばOK。そして、この時期からついに登山靴デビューです!
自分で長い距離を歩けるようになると、ソールの薄いスニーカーですと足裏が痛くなるようです。また、わざと木の根っこの上を歩いて転んだり、岩に登ろうとして滑ったり。靴のグリップ力が欲しくなります。登山靴の優れている点は、防水性に加えて靴底が滑らないことにあるので、登山靴を履くことで子どもの歩行が見違えるほど安定します。
また、登山用の靴と合わせて登山用ソックスを購入することをおすすめします。厚手の靴下を履くことで、足裏の疲れ方が違ってくると思います。
夏は、ロープウェイなどを使って少し標高の高い山にもチャレンジできるのが楽しい季節。高度感のある山に登ると特別な場所に来た気がするのか、「雲が下にある!」と、子どもたちも一層テンションが上がります。
夏山で特に気をつけたいのは、急激な天候変化と虫対策。特に夏の終わりはスズメバチが営巣活動のために凶暴化する時期なので、標的にされやすいと言われる黒い服は避けています。
この時期はベビーキャリアに乗っていて自分ではあまり動かないので、服装自体は黒い服を避ける以外は特に気にしていません。その代わり、夏ならではの必須アイテムを2つ持ち歩いていました。
一つはガーゼ。ベビーキャリアに乗っていると、ハーネスでしっかり固定されるため風通しが悪くなり、動いていなくても上半身にびっしょり汗をかきます。1歳の娘を休憩時にベビーキャリアから下ろしたら、すでにお腹に汗疹らしきものができていたこともありました。着替えのタイミングも限られるので、Tシャツと肌の間に汗の吸収のためにガーゼを挟んでいました(汗取りシートという商品も発売されています)。汗をかいたらさっとガーゼを取り替えるだけ。ガーゼは軽いし、かさばらない優れものです。
二つ目は夏用レッグウォーマーです。子どもをベビーキャリアに座らせると、ズボンの裾が引き上げられ足首が露出することがあります。気がつかないうちに、足首にひどい日焼けをしたことがありました。まめに日焼け止めを塗るのを忘れがちなズボラな私……。ガーゼやリブ編みの夏用レッグウォーマーは日差しが気になるときに靴を脱がなくてもサッと履かせられるうえに蒸れにくいので、とても重宝しています。
この時期から、子どもが自分で歩ける距離が少しずつ伸びてくるので、夏山では大量に汗をかきます。Tシャツは、登山用の高機能Tシャツでなくてもよいので、化繊素材のTシャツを選びましょう。化繊であれば速乾性もあり、汗冷えにもなりにくいです。
ボトムは長ズボンであればなんでもOKですが、動きやすくてもハーフパンツはNGです。化繊素材のパンツがベストですが、上半身ほど汗だくにならないのでわが家では普段履き慣れていて動きやすいことを優先しています。
夏山で気をつけたいことの一つが、急な天候変化。特に稜線や山頂に出ると急に風が強くなり、汗が急激に冷えて体温も下がります。薄手のウインドブレーカーを必ず携行し、休憩時には体が冷える前に着用する習慣をつけました。綿素材のパーカーではなく、ナイロン素材で防風性があるジャケットの方がおすすめです。
ベースとなるウェアは、あいかわらず家にある化繊のTシャツや動きやすいズボンを着用します。
この頃買い足したのは、急な天候変化に備えたセパレートタイプのレインウェア。2-3歳まではポンチョタイプのレインや、軽い防水性のあるウインドブレーカーでしのいでいました。天候が急変しても最悪の場合抱えて避難できたからです。
しかし、4歳以上になると、悪天候のなか子ども自身に歩いてもらわないとならないため、ポンチョタイプやウインドブレーカーでは心もとなくなりました。特にぬかるんでいる道を歩くときにはレインパンツは大活躍なので、セパレートタイプで上下を揃えるのがオススメです。
レインウェアは透湿防水性能がしっかりしていないと蒸れてしまい汗冷えにつながるので、ここだけは品質にこだわりました。
雪山以外の冬の山も、実は親子登山におすすめのシーズンです。虫も少なく、熱中症のリスクも下がります。空気が澄んでいるので、低山でも遠くの景色まではっきりと見渡すことができるのも冬山登山の魅力。
冬の服装で気をつけるポイントは「レイヤリング(重ね着)」です。寒さが心配でセーターや裏起毛のトレーナーといった厚手の服を着せてしまいがちですが、本当に心配なのは汗による冷えのほう。夏と違って汗を早く乾かす工夫ではなく、そもそも汗をかかない工夫が冬の山では大切になります。
わが家では、薄手の服を重ね着する工夫をしました。
ベビーキャリアに乗っている時間が長いうちは、全身をすっぽり包むジャンプスーツでもこもこ状態にします。この時期の子どもはほとんど動かないので、レイヤリングを気にせず、まずは暖かさ優先でいいでしょう。
注意したいのは、タウンユースのジャンプスーツは価格が手頃なものも多いですが、防風性や防水性は高くないということです。大人は動いていて体が温かくなっているので気がつきにくいのですが、冷たい風を受けてじっとしている子どもの体は想像以上に冷えています。防水防風に優れたものか、またはジャンプスーツの上からさらに一枚羽織るポンチョのようなものを持っていくと安心です。
汗冷えを防ぐために、冬用のアンダーシャツを着用します。ベースのウェアとしては唯一購入したアウトドア専用の服でした。汗を素早く吸収してくれるので、冬場には大変重宝するアイテム。アンダーシャツが汗を吸収してくれるので、上から着る薄手の長袖Tシャツは綿素材でも大丈夫です。
気温に応じて、保温のためにフリースのベスト(秋春でも愛用)、アウターとして化繊のジャケットを重ね着していくというスタイルです。
ジャケットの素材にはダウンと化繊の二種類がありますが、わが家では化繊ジャケットを愛用中。ダウンの方が軽くて保温性も高いのですが、お手入れは圧倒的に化繊が楽だからです。
登山といっても、最初のうちは頭の先からつま先まで登山用の高機能ウェアを揃えなくても大丈夫です。家にあるものを中心に、子どもの体が汗冷えしない組み合わせを工夫しましょう。
そのうえで、歩行距離が伸び山で体を動かす時間が長くなってきたら、登山用のアイテムを少しずつ買い揃えていきます。子どもはサイズアウトするのが早いので、中古品販売サイトやおさがりを上手に取り入れたいですね。
スニーカーのソールがすり減ってきたことに気がつき、初めて登山靴をプレゼントしたとき。
山のパートナーとして悪天候時も自分の足で歩けるよう、レインウェアを買ったとき。
こんなふうに、子どもの山ヤとしての成長に合わせて一つひとつ登山用品を吟味して買い足していく過程が、親としては嬉しくもあり、誇らしくもあり。親子登山の楽しみ方の一つになっていると感じています。