保温しながら、通気する。相反する機能を両立させた「アクティブインサレーション」は、ここ数年、各社からさまざまなモデルがリリースされ広がりを見せています。が、正直いろんなモデルがあって、何を買えばいいのかわからな〜い!と悩む人も多いはず。
そんな人におすすめが、米国カリフォルニア発のマウンテンハードウェアが手掛ける「KOR(コア)シリーズ」です。
アクティブインサレーションの可能性にいち早く目をつけ、革新的な素材メーカーとタッグを組んで製品を作り続けるマウンテンハードウェアのKORシリーズでは、3段階のレベル別に選べる高機能モデルを展開。
自分に合うモデルはどれだろう? 異なる登山スタイルを楽しむ3名の山のプロといっしょに、あなたにぴったりの最適解を導きましょう。
2024.10.18
平野美紀子
編集・ライター
3名の座談会メンバー
伊藤 伴さん(以下伊藤)/日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。大学3年生で当時最年少となるエベレスト登頂を果たす。現在は登山ガイドとして、アルパインクライミングやアイスクライミング、ハイキング、バックカントリーなど国内外のさまざまなフィールドで活動する。
近藤伊織さん(以下近藤)/マウンテンハードウェア 商品本部所属。2016年にコロンビアスポーツウェアジャパンに入社。入社当時はライトな登山を楽しんでいたが、2020年にコロンビアからマウンテンハードウェアの担当に異動となって以降、本格的な登山にのめりこむ。
豊島七海さん(以下豊島)/YAMAP ネイチャーエントリー事業部 プランナー。登山歴7年。山が好きすぎて、現在は東京と長野の二拠点生活を送っている。テント泊登山やバックカントリー、トレイルランニング、沢登りなど高強度に山を楽しむアクティブガール。
伊藤
沢登りはあまりやらないですが、それ以外は基本的に全部やります。登山ガイドという仕事の場合、ハイキングやトレッキングが多く高尾山から北アルプスまで行きますし、山小屋泊もテント泊もする。
プライベートだとフリークライミングやアルパインクライミング、一昨年と昨年の冬はひたすらアイスクライミングに打ち込んでいました。
豊島
さすがガイドさん、本格的!
近藤
私は北アルプスや八ヶ岳、東北あたりの山を日帰りもしくは泊まりでトレッキングすることが多いですね。テント泊もするけど、山小屋に泊まる方が好きです。
豊島
積雪期も登りますか?
近藤
雪中キャンプはまだしたことがないですが、雪山初心者でも比較的登りやすい八ヶ岳の天狗岳や谷川岳、妙高エリアの山には行きました。豊島さんはバリバリ登っていますよね?
豊島
そうですね、山には一年中行っています。私はどちらかというとテント泊であちこち登る派。テントに泊まりながら、北海道や東北の山と街を1週間くらいかけて行き来することも。冬ももちろん登るし、バックカントリーやトレイルランニングも好きです。
豊島
私、暑がり&汗かきなのに寒がりのわがままボディなのが悩みで……。
近藤
どんなことにデメリットを感じます?
豊島
登山の登り始めって、最初は寒くても暑くなることがわかっているから、薄手のままスタートする人が多いじゃないですか。でも、 私はわかっていても薄手になりたくない。だって寒いんですもん!
近藤
わかります。
豊島
だから必ずミドルレイヤーを羽織って歩き始めるのですが、やっぱりすぐ暑くなる(笑)。汗冷えを防ぎたいから脱ぐんですけど、それがまた面倒なんですよね。
伊藤
バックカントリーなら、もっと汗をかきそうですね。
豊島
本当にそう(涙)。ハイクアップは登山よりもさらに暑くて、でも休憩するとものの5分くらいで寒くなる。
脱いで〜着て〜と忙しい感じになるので、程よい保温ができるレイヤリングにするか、脱ぎ着しやすいものを選ぶか、ミドルレイヤーに何を選ぶかはすごく重要だと思っています。
伊藤
僕の場合、いかに雑に扱える保温着を身につけるかが大事。とくにアイスクライミングのときは、氷壁に張り付いているのでものすごく寒い。で、腰回りにはスクリューなど刃物をぶら下げている状態です。
たとえば保温着のダウンが、濡れたり破けたりした場合は命に関わります。でも命に関わるような場所で服にいちいち神経を注げないので、雑に扱える化繊のインサレーションは必須なんです。
近藤
私は準備の段階から暑いかな、寒いかな?と毎回悩んで不安になります。日が当たる当たらない、樹林帯を出る出ない、日中と夜とでも気温はまるで違うので。何を持っていくべきか悩み、結果荷物が増えて重くなることが多かったです。
伊藤
北アルプスの秋も、一日ずれただけで初雪が降ったり真冬の寒さになったりする可能性がありますからね。
豊島
秋冬に何を持って行くか、レイヤリングをどうするかって本当に難しい。でもアクティブインサレーションが登場してからは、レイヤリングしやすくなったかな。
近藤
保温して、通気してくれますからね。
豊島
さっきも言ったように寒がりで汗かきなので、私の場合はアクティブインサレーションとフリースの2枚を使い分けるようにしています。たとえば気温が低くて風がない山麓だったら汗抜けのいいフリースを、稜線に出て風が吹いてきたらアクティブインサレーションを、もっと寒い場合は2枚を重ねてちょうどいい、というような具合です。
伊藤
レイヤリング完璧じゃないですか!
豊島
ありがとうございます(笑)。だからアクティブインサレーションに出会って以来、真冬の雪山は別にして、 秋の日帰り山行や冬の低山などには、厚手のダウンを持っていかずにすむようになりました。
近藤
伊藤さんのようなプロや、豊島さんのようにがっつり登る方は、ある程度経験則で自分に最適なレイヤリングを見つけられると思います。
ただ頻繁に山に行けず、行けても月に1回程度という人は、やっぱり毎回レイヤリングに悩むと思うんです。だからそういう人たちにはぜひ、アクティブインサレーションのよさを知ってほしいですね。
伊藤
生地の厚さや中綿の有無、ソフトシェルやマイクロフリースといった表地の違いなど、最近は多くのメーカーからさまざまなアクティブインサレーションが出ていますよね。
豊島
それでなくても選択肢が多いのに、さらに個人差やスタイルによって選択肢も変わるから、どれを選べばいいのか悩みます。
近藤
まさに仰る通りです。そのなかでもマウンテンハードウェアのアクティブインサレーションは、3つの素材「PERTEX ® QUANTUM AIR」、「Octa ®」、「Primaloft® Gold Active」の組み合わせ方によって、3段階にレベル分けしたモデル「エアシェル」・「アロイ」・「ステイシス」を展開しているので、自分に合ったものが選べるのが特徴です。
素材について簡単に説明すると、PERTEX ® QUANTUM AIRは防風性がありながら通気性も実現したシェル素材。Octa®は8本の突起がある中空糸を使うことで温かく、通気もするフリースのような素材です。Primaloft® Gold Activeは化繊中綿では世界中で最も知られていて、高い保温性に加えてストレッチ性も兼ね備えています。
マウンテンハードウェア調べですが、この3テクノロジーを組み合わせたアイテムは他社ではなかなか見られないと思います。
豊島
マウンテンハードウェアのアクティブインサレーションは、すべての表地にPERTEX ® QUANTUM AIRを使っているという点が魅力ですよね。
他社でも表地にポリエステルやナイロンを使っているものがありますが、PERTEX ® QUANTUM AIRは 通気もストレッチもする。ただの防風、撥水素材で終わってないところが、よりアクティブインサレーションとしての性能を発揮しそうな予感がします。
近藤
ありがとうございます。PERTEX社とは長く取り組みをさせてもらっていて、2019年春夏にPERTEX® QUANTUM AIRを使ったソフトシェルとウィンドシェルの長所を兼ね備えたKOR PRESHELLシリーズをロンチさせました。
最初は防風するのに通気する?何だそれ?みたいな感じで理解されないことも多かったですが、徐々に口コミで広まるにつれて追随するモデルも出てきました。
その後も改良を重ね、今ではKOR AIRSHELLに名前を変え、マウンテンハードウェアの主力アイテムになっています。
伊藤
過酷な環境下でも使える製品を世に出してきたマウンテンハードウェアは、創業当初からゴアテックスと商品を作ったり、他社テクノロジーを融合させモノ作りに力を注いでいる印象です。
革新的技術にいち早く挑戦するブランドDNAと、素材メーカーとの深いリレーションによって、3つのテクノロジーを組み合わせたKORシリーズは実現したんでしょうね。
近藤
一つめの「コアエアシェルウォーム」はフーディとベストタイプがあり、表地にPERTEX ® QUANTUM AIR、裏地にOcta ®を使用しています。さらにOcta ®は表面と裏面を使い分けしています。
豊島
え、Octa ®に表と裏なんてあるんですか?
近藤
より通気する“表Octa ®”をムレやすい背中に、毛足がやや長い“裏Octa ®”をザックで擦れやすいショルダーに配置しています。
伊藤
細かい工夫が光りますね。
近藤
ありがとうございます。3モデルのなかでは一番通気性が高く、汗抜けがいいのがコアエアシェルウォームです。
伊藤
秋冬のトレイルランニングやファストハイク、バックカントリーなど汗をかきそうな高強度のアクティビティをする人にちょうどいいんじゃないかな。
豊島
まさに私ですね!
伊藤
ちなみに僕は、先日ネパール・マナスルでコアエアシェルウォームのフーディとコアアロイのプルオーバーを日や環境によって使い分けていました。
3,000〜4,000mほどの標高で高度順応をしていたとき、気温は12〜13℃程度。標高が高いと肌寒く感じるものですが、それでも日差しがある日の稜線はロンTの上にコアエアシェルウォーム、日差しがない日はコアアロイを着てちょうどよかったです。
近藤
「コアアロイ」は2024年の新作モデル。表地にPERTEX ® QUANTUM AIRを、背面の裏地にOcta ®、そして前身頃と袖部分にPrimaloft® Gold Activeの40gの中綿のシートを封入しています。
伊藤
表地の色が若干異なって見えますが?
近藤
2種類のPERTEX ® QUANTUM AIRを使用しています。ショルダーの濃い部分はPUコーティングしていてザックによる擦れを軽減。汗をかきやすい脇部分は通気のいい生地になっています。
豊島
コアアロイは、コアエアシェルウォームとコアステイシスの中間にあたるバランス型というイメージですか?
近藤
そうですね。またアクティブインサレーションにはアウターデザインが多いなか、よりミドルレイヤーとして着やすいプルオーバー型にしています。
秋山や冬の低山の登り始めから稜線までの間はもちろん、山小屋泊のリラックスウェアやアプローチウェアとしても使いやすい新しいスタイルを目指しました。
伊藤
たしかに登山口までの移動や下山後の街歩きにも着やすいデザインですよね。
豊島
あと個人的にですが、ジャケットタイプはレイヤリングすると顔やお腹周りのジップが干渉して微妙にストレスを感じることがあります。脱ぎ着する場合は面倒ですが、長時間着る場合は断然プルオーバーの方が快適!
とても細かい話ですが、アウトドアウェアはそうした違和感をそぎ落とす時代に入ってると思いますね。
近藤
ウィメンズに関しては、脱ぎ着するときにメイクが付かないようハーフジップデザインにしています。
伊藤
ポケット内のディテールもめちゃくちゃ使いやすかった。快適に着られる細かい配慮が行き届いていますよね。
豊島
あとパンツもあるのめちゃくちゃよくないですか?
近藤
前腿にOcta®、膝とお尻の部分にPrimaloft® Gold Activeを配置しています。足が開きやすい仕様を追加しているので動きやすいですよ。
伊藤
これは僕も狙ってます! ゲレンデスキーやバックカントリー、もちろん冬山のインナーパンツにも使いたいですね。
近藤
ぜひ使ってみてください!
近藤
3つのモデルのなかでもっとも暖かいのが「コアステイシス」です。最大の特徴は、Primaloft® Gold Activeが部位ごとに異なるボリュームでマッピングされていること。
身頃に80g、袖とフードに60g、一番汗をかきやすい脇は40gのシートが入ってます。
伊藤
軽さを追求しつつもっとも効率よく保温するには、部位ごとに中綿のボリュームを変えることがベストというわけですね。見た目はシンプルなのに、よく考えられた設計です。
豊島
コアステイシスはどういうときに使うといいでしょうか?
近藤
秋のテント泊、真冬の低山をゆっくり歩くときや停滞時、またアイスクライミングをされる方などにおすすめ。ダウン並の保温性をもちながら、濡れても雑に扱ってもOKなので。
豊島
寒がりの人の秋冬のアクティビティに一枚あると重宝しそうですね。
伊藤
コアシリーズに共通して言えることですが、このコアステイシスも洗濯機で洗えて、乾燥機までかけられるのがポイント。メンテナンスがラクなのはありがたいですよ。
近藤
暖かさだけを考えるとダウンジャケットがいい場合もありますが、表地の強さや防風性、扱いやすさやメンテナンスなどを考えると、使いどころが増やせそうです。
豊島
最近、一つで何でも事足りますみたいなウェアにある程度限界がきているなと感じていて。逆に技術の進化によって、特定のシーンでもっとも高いパフォーマンスを出す個性的なモデルが増えているのが、アクティブインサレーションという分野かなと。
だからこそ、どういうシーンで使いたいかを吟味すれば、それにバチっとハマる一枚と出会えると思います。
伊藤
「冬は低山をゆっくり登ったり、山小屋に泊まるのが好き」という人はアロイがいいし、「冬山に登りたいけどとにかく寒さが苦手という人」はステイシスがいい。「テント泊もバックカントリーもする派だけど汗をかきやすいし、寒さにも弱い」という人はエアシェルとアロイを二刀流使いすればいい。
そんなふうにKORシリーズは3つのモデルを適宜使い分けることで、多くの問題を解決してくれます。まずはどういうシーンで使いたいか、そんなとき自分はどんな体質でどんなリスクがあるかをきちんと把握することが大切ですね。
写真:若林武志(YUKIMI STUDIO)
原稿:平野美紀子
協力:伊藤伴さん、近藤伊織さん、豊島七海さん、コロンビアスポーツウェアジャパン