登山靴のお手入れや保管場所、間違ってない?山道具のプロ直伝、正しいメンテ方法を紹介

登山のときは誰もが使うもの、登山靴。きちんとお手入れすることで、機能を保ちつつ長く履き続けることができます。では、どうすれば正しくお手入れできるのでしょうか。アウトドアショップ勤務の経験もある登山ガイド・石川高明さんに、登山靴のお手入れについて解説していただきました。

2020.06.10

石川 高明

信州登山案内人・登山ガイド

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登山に行っても、雨が降らなければレインウェアを使うことはないので、お手入れの必要はありません。でも、登山に行けば必ず登山靴は履くでしょう。毎回使うものだからこそ、簡単でもいいので毎回お手入れしておくことが大切です。

登山靴メンテナンス、これだけは!

① インソールは速攻外そう

登山靴お手入れのために帰宅したらまずやるべきこと。それはインソールを外すことです。紐をぐっとゆるめて靴を脱いだら、まず最初にインソールをはずしましょう。「え、そんなこと?」と思われるかもしれませんが、これ、とっても大事なポイントなんです。

靴の中に溜まった、汗の蒸れ。足が入っていた部分に溜まった蒸気は、靴のアッパー素材に使われているゴアテックスなどを通じて外に放出されます。ですが、靴の底の方に溜まった蒸気はソール部分のゴムはもちろん、インソールからも抜けることはありません。そのわずかな隙間に蒸気が残ったまま放置することで、臭いのもとになったり、カビが生える原因となってしまいます。

そのため、登山後どんなに疲れてお手入れする気がおきなくても、インソールをはずすことだけは必ず習慣づけるようにしましょう。上記写真のように、インソールを立てて靴の中に入れておくと保管しやすいですね。ちなみにこの方法は、山小屋に泊まるときにも使えます。インソールを外し、靴の中に立てて置いておくことで、翌日の朝も気持ちよく歩くことができます。

② 汚れを落とす


次に、汚れを落とします。日本の土壌は、おおむね弱酸性。土がついたままの登山靴を放っておくと、素材の劣化を早めることにもつながります。しっかりと土・泥の汚れを落とすことを心がけましょう。

靴紐をはずし(このとき紐が切れかかっていないかチェックしておくとよい)、ブラシで水洗いして汚れを落とします。ブラシは靴専用のものでも、使い古した歯ブラシでもOKです。アッパー部分の縫い目に入り込んだ砂やチリ、ソールについた泥や小石を、水洗いしながらしっかりこすって落としましょう。もし、ソールの隙間に小石が挟まっていたら、ドライバーなどを使って取り除いてください。靴がそれほど汚れていなければ、濡らして固くしぼった雑巾で拭う程度でもかまいません。靴の内側は、よほど汚れている状態でなければ、なるべく濡らさないようにしましょう。

● コインランドリーにある靴用の洗濯機はOK?
絶対にNGというわけではありません。しかし、山を歩くと少しこすったくらいでは落ちない泥汚れがつきやすく、実際にコインランドリーの洗濯機では汚れを落としきれないケースもあります。登山靴のお手入れは、きれいに汚れを落とすことだけでなく、状態のチェックも兼ねている大切な作業です。自分の命を守る道具なので、多少手間をかけてでも、できるかぎり自分でお手入れすることをおすすめします。

● 登山靴の内側が汚れていたら?
雨や雪などのせいで、登山靴の内側までドロドロに汚れてしまうこともあると思います。そんな場合は躊躇なく水洗いして、汚れをしっかり落としてください。靴の中までしっかり洗えるブラシを準備しておくことをおすすめします。基本的には水洗いで汚れは落ちますが、たとえばずっと放置していた汚れだったり、車など車両の油分といった汚れの場合、単に水洗いしただけでは落ちない場合もあります。そのときは専用のクリーナーで汚れを落としてください。

● インソールにもお手入れ&交換が必要です
インソールも、汚れたり臭いがするときは洗っていただいて結構です。アウトドア用の洗剤とブラシで汚れを落とし、しっかり乾燥させてください。また、長く使っているとどうしても傷んでしまうので、様子を見て交換も検討しましょう。登山用品店では、インソール専業メーカーが開発した登山用の製品も販売されています。インソールを替えただけで履き心地ががらっと変わり、歩きやすくなったり脚の痛みが軽減されることもあるので、試してみてはいかがでしょうか。

③ しっかり乾かす


汚れを落としたあとは、陰干しでしっかりと自然乾燥を。靴の中まで水洗いした場合は、新聞紙を詰めてこまめに取り替えるようにすることで、早く乾かすことができます。自然乾燥が終わったら、最後に撥水スプレーを振りかけて撥水処理をしましょう。さらに次回登山に行く直前にもう一度スプレーしてあげると、撥水効果を高く保ちつつ履くことができますよ。

以上が登山靴のお手入れの全行程です。早くお手入れに取りかかるほど、素材に与えるダメージも少なく、簡単な水洗いできれいに汚れを落とすことができます。ですので、お手入れはできれば登山から帰ってきたその日のうちにパパッと済ませてしまうのが得策です。疲れていて当日中に、せめて翌日には行うよう心がけましょう。

なお、靴が発売された時期や、使用している素材の種類によって異なります。一見するとオールレザーのように見える最新の登山靴には、内側に化学繊維などを使用したハイブリッド登山靴もあり、お手入れの方法が一様ではありません。ここですべて説明するのは困難なので、いちど購入した店舗やメーカーに確認してみることをおすすめします。

登山靴の劣化を防ぐ正しい保管場所は?

ひと通りメンテナンスが済んだあと、みなさんはどこに靴を収納しますか? もし購入時の箱にしまっているという方がいたら、今すぐにやめてください。登山靴の保管場所もお手入れのうち。どこに置くかはてとも重要です。

八ヶ岳でガイドをしていると、ときどき靴底がパカッと剥がれてしまう方がいます。よくよくお話を伺ってみると、「普段はもっとやわらかい靴を履いているが、今回はせっかくガイドさんにお願いして八ヶ岳に行くのだからということで、押入れの箱にしまってあった頑丈な靴を数年ぶりに出して履いてきました」というのです。高温多湿な日本の気候で、密閉空間にて長期間保管していたことが、ソール剥がれの原因になってしまっていたんですね。

登山靴によく使われているポリウレタンは、湿度が高い環境下で劣化しやすい素材です。登山靴は必ず「風通しのよい室内」に保管してください。「玄関に出しておく」とか「下駄箱の下にあるスペースに置く」などは保管方法として適切です。逆にNGなのは、購入時の箱やビニール袋での保管、高温多湿の環境となりやすい車の中や、直射日光の当たる屋外など。下駄箱の中なども避けたほうがいいでしょう。

また、登山靴は長期間放置しているとそれだけでも劣化します。時々、出してお手入れしたり、履いて少し歩いてみましょう。きちんと使ってあげることが、寿命を伸ばす秘訣でもあるのです。

ソールの寿命と交換時期に目安はあるの?

どれだけお手入れをして大事に履いていたとしても、靴の底はだんだんとすり減ってきます。「最近岩場でグリップが効かなくなってきたな」と感じたら、それは交換の目安かもしれません。ソールのブロックが大幅にすり減って丸くなっていたり、溝がなくなっていないかを常に確認し、不安な点があれば購入したお店やガイドさんに相談するようにしましょう。

● ソール交換の注意点
ただし、ソールの交換には制約もあります。長く使うのが前提の革の登山靴などを除けば、交換は基本的に1回限りという場合が多くなっています。これは交換時にアッパー生地の靴底に近い部分にあるゴアテックス素材などが損傷し、防水機能が落ちてしまう可能性があることが理由のひとつとして挙げられます。

また、メーカーのカタログにはソール交換可能と記載されていても、アッパー部分が傷んでいると靴の寿命と判断されて張り替えられないということも。これも普段のお手入れをしっかり行えば防げることなので、充分に注意してくださいね。

登山靴、正しいお手入れで長く使おう


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登山に使う道具はとても高価ですが、その分頑丈さと機能を持ち合わせています。流行り廃りに乗って次々と買い換えるのではなく、しっかりとお手入れして、長く使うことを心がけましょう。愛着の湧いたお気に入りの道具を持って、もっと登山を楽しんでくださいね。

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石川 高明

信州登山案内人・登山ガイド

石川 高明

信州登山案内人・登山ガイド

長野県在住。1967年東京生まれ。学生時代から登山に親しむ。最初に登った山が八ヶ岳。大手電機メーカーを2000年に退職し、世界一周登山の旅に出発。途上のスイス ツェルマットで2年間トレッキングガイドを勤める。帰国後、八ヶ岳の麓で子育てをすべく、2008年長野県原村に移住。各国の山岳地域を旅した体験や、スイスで観光業に携わった経験を活かし、 地元地域や観光活性化のお手伝いをしながら、各種イベントを実 ...(続きを読む

長野県在住。1967年東京生まれ。学生時代から登山に親しむ。最初に登った山が八ヶ岳。大手電機メーカーを2000年に退職し、世界一周登山の旅に出発。途上のスイス ツェルマットで2年間トレッキングガイドを勤める。帰国後、八ヶ岳の麓で子育てをすべく、2008年長野県原村に移住。各国の山岳地域を旅した体験や、スイスで観光業に携わった経験を活かし、 地元地域や観光活性化のお手伝いをしながら、各種イベントを実施してい る。
原村観光連盟 副会長/八ヶ岳観光圏 観光地域作りマネージャー
公認スポーツ指導者 山岳指導員/長野県信州登山案内人
(株)八ヶ岳登山企画 代表取締役/登山歴30年/スノーシュー歴20年