その道具、本当に使える?自分自身のための「はじめてのファーストエイドキット」

万が一のために揃えておきたいファーストエイドキット 。けれど、できるだけ荷物はコンパクトに・軽量化したい。どんな優先順位で道具を携帯すればいいのかわからない。そんな方が多いのではないでしょうか。日本におけるウルトラライトハイキングの第一人者であり、人気アウトドアショップ「Hiker’s Depot」店主の土屋さんに、個人として押さえておくべき最低限のファーストエイドキットについて教えてもらいました。

2020.07.13

土屋 智哉

Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)店主

INDEX

誰のためのファーストエイドかを考えよう

荷物を軽くすることで、行動と思考も軽くする、自由な旅を実現してくれるウルトラライトハイキング。その考え方には「使うモノだけを持っていく、使わないモノは持っていかない。」という原則がありますが、代表的な例外もあります。それが「ファーストエイドキット」です。

ファーストエイドキットは、ハイキング中の怪我や病気に対処するため欠かせないものですが、実際に何を用意すべきか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。ファーストエイドキットの内容は以下の条件で様々に変化します。

・どこに行くか
・何をするか
・誰と行くか

海外僻地のアルパインクライミングと週末の低山ハイキングでは想定すべき危機管理が異なります。登山ガイドやパーティーリーダーが用意すべきファーストエイドキットとわたしたちのような一般登山者が必要とするファーストエイドキットも異なります。遠征隊の医療係や山岳会のリーダー、そして登山ガイドなどは救急講習を受け勉強を重ねることで、自分だけではない誰かのための医薬品とその処置を準備するようになります。もちろんこうした姿勢をすべての登山者がもつことが理想的ではありますが、誰もが習得できるわけではありません。

ファーストエイドキットを考えるにあたって基礎となるのは、すべての一般登山者が用意すべき個人用ファーストエイドキットです。まず自分自身のための医薬品とその処置について考えましょう。これがファーストエイドキットのはじめの一歩になります。

個人用ファーストエイドキットの原則

自分自身のための個人用ファーストエイドキットの基本ポイントはこのふたつです。

・量は下山するまでの日数分
・内容は自分自身で使いこなせる医薬品

装備の軽量化で相談を受ける際にファーストエイドキットを見せていただく機会も多いのですが、使い方はよく知らないけれどウェブで見たから買いましたというものや、なんとなく不安だからたくさん医薬品を入れていますというケースにしばし遭遇します。自分のファーストエイドキットなのに使い方を知らないものが入っている、何日間対応できるか把握していない、そうしたケースです。まずこの2点をしっかりとクリアにすべきです。

量は最大3日分を目安に用意しよう

海外僻地への遠征の場合は病気や怪我をおしてまで行動しなければならないことがあります。そうした状況ならば、それ相応の日数分の医薬品が必要です。遠征期間が1ヶ月以上にわたるならば医療係の準備も大変です。

しかし、わたしたち一般登山者がまず考えるべき状況は違います。山行期間も日帰り、1泊2日、長くても3泊4日くらいまでが多いのではないでしょうか。そしてなによりも大事なのは、病気や怪我をおしてまで登山を継続する必要はないと理解することです。よほどの体力、技量、経験がない限り、トラブルをおしてまで登山を継続することは、より深刻なトラブルを呼び込む原因となります。

病気や怪我などのトラブルがあれば、応急処置をしてすぐに最寄りの山小屋や避難小屋に退避する、もしくは下山を段取りするべきです。この行動を前提とすれば必要な医薬品の量も考えやすいはずです。下山に必要な日数が用意すべき医薬品の量になります。したがって、日本の一般登山道主体の山域ならば、泊まりを含む山行でも予備を含めて最大3日分を目安に用意することからはじめましょう。

自分が使いこなせるもので揃える、個人用ファーストエイドキットの中身

自分自身で自信をもって骨折の処置ができる登山者は非常に稀です。もちろんできるに越したことはありませんが、処置もできないのにそのための道具を持つことで満足してしまうことが一番危険です。

添え木や三角巾、正しい使い方を知っていますか。自分はできなくても誰かできる人が使えるようにという考え方も大事ですが、それは次の段階です。まずは自分自身で確実に使えるものを理解し、それをファーストエイドキットにいれることからはじめましょう。

ここから、私が上記の視点で用意しているキットの中身をご紹介します。

頭痛、発熱、外傷:「鎮痛解熱剤」

服用薬の基本として鎮痛解熱剤。熱っぽいとき体がだるいときはもちろん、痛みをともなう外傷や捻挫の痛みをやわらげるためにも使えます。なにはなくとも鎮痛解熱剤は必ず入れておきましょう。

肉刺、靴擦れ:「靴擦れパッド(大型絆創膏)」

登山者が最も困るトラブル、そして誰もが一度は経験したことがあるトラブル、それは肉刺と靴擦れです。この小さなつまずきの放置が大きなつまずきとなります。痛みに耐えながら、足をかばって歩き続ければ、足首や膝にも違和感がでてきます。こうして歩き方が乱れると捻挫の危険性、転倒やバランスを崩しての滑落の危険性も格段にあがるのです。わたしたち一般登山者が誰でも確実にできることのひとつは、肉刺や靴擦れの対策です。大型の絆創膏や靴擦れ防止パッドの用意は想像以上に重要です。

捻挫、ひざ痛:「テーピング」

靴擦れやちょっとしたミスで捻挫してしまった場合、テーピングのお世話になります。膝の痛みなどでも使いたくなりますね。ロールでテーピングを持ち歩いているみなさんは正しい施術法を身につけていますか。テーピングはただ持っていても意味がありません。簡単なインストラクションと必要な形に最初からカットしてあるテーピングシートのセットが販売されています。個人用ファーストエイドキットならばそちらの方が確実かつコンパクトです。

外傷:「滅菌ガーゼ、抗生物質配合軟膏、絆創膏」

肉刺が破けたり、転倒して切り傷をつくったり、大きな怪我にならなくともちょっとした外傷をこしらえることは少なくありません。化膿を抑えるための抗生物質配合軟膏は鎮痛解熱剤とならんで、ファーストエイドキットに欠かしてはいけない医薬品です。

虫刺され、日焼け:「ポイズンリムーバー、ダニ取り、虫除け、日焼け止め(リップクリーム)」

この10年で近郊の低山再評価の機運が高まりましたが、結果、虫対策が高山以上に必須となりました。ポイズンリムーバーは簡単に使えて効果的。ダニ取りは今後ますます重要度があがるはずです。日焼けも甘くみていると大変なのはきっとみなさん海水浴で経験済みではないでしょうか。

その他:「とげ抜き、安全ピン、爪切り」

棘が刺ささると気になるものです。痛みは大したことがなくとも意識が全部そちらにもっていかれますから安全歩行の大敵です。すぐにとげ抜きで処置しましょう。安全ピンはライターで熱して消毒すれば、水ぶくれの水抜きに使えます。山行期間が長くなるようならば爪が割れたりしないよう、しっかりと切っておくこと。こうしたちょっとしたケアが大事になります。

個人用ファーストエイドキットは以上のようなこうした内容ではじめてみてはいかがでしょうか。収納方法としては、小さなジッパー付プラスティックバッグにいれるなど防水対策も怠りなく。200g程度におさまります。これならば誰もが確実に理解し、使用できるはずです。

個人用ファーストエイドキットは基礎中の基礎からはじめよう

今回ご紹介したキットは基礎中の基礎ですが、わたし自身はこのキットで不自由したことはありません。自分のスキルアップに応じて内容を変化させるもよし、拡充するもよし。自分仕様にカスタマイズされたファーストエイドキットに育てていきましょう。登山だけでなく、旅行や災害時にもきっと活用いただけるはずです。

注)掲載写真は土屋私物。海外ハイキングに際して現地購入した医薬品を含む。


登山にあたり、命を守るために身につけておくべき装備・道具や、知っておくべき知識・技術は色々ありますが、登山保険もぜひ入っておきたい、大事な備えのひとつ。

YAMAPグループの「外あそびレジャー保険」は、いざ遭難救助が必要になったときの高額費用や、部位・症状別のケガの補償をしてくれるだけでなく、登山以外での外遊びや日常のケガの補償もしてくれます。

また、遭難・行方不明時には、同じ山に登っていたYAMAPユーザーから目撃情報を募ることができるサービスも提供。

期間は7日から選べるので、単発での山行にも対応。登山や海・川でのアクティビティによく行く方にも便利な保険です。

土屋 智哉

Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)店主

土屋 智哉

Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)店主

東京三鷹にてウルトラライトハイキングの専門店ハイカーズデポを営む。北米のジョン­・ミューア・トレイル、コロラド・トレイルなどをスルーハイク。日本国内でも奥多摩から北アルプス立山までの300km山岳ハイクなどを実践。また、パックラフトによるアラスカでの川下りもおこなっている。また、パックラフトによるアラスカでの川下りもおこなっている。近年は北米のオフトレイルルートに傾倒。著書『ウルトラライトハイキン ...(続きを読む

東京三鷹にてウルトラライトハイキングの専門店ハイカーズデポを営む。北米のジョン­・ミューア・トレイル、コロラド・トレイルなどをスルーハイク。日本国内でも奥多摩から北アルプス立山までの300km山岳ハイクなどを実践。また、パックラフトによるアラスカでの川下りもおこなっている。また、パックラフトによるアラスカでの川下りもおこなっている。近年は北米のオフトレイルルートに傾倒。著書『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社)