グレゴリーは、登山者なら誰もがその名を知るトップブランドです。
では、創業からこれまで、止むことなくバックパックの世界をリードし続けている理由をご存知ですか? 答えは、成功にあぐらをかくことなく、つねにラインナップを更新し続けているから。
新たなテクノロジーを採用し、今年大幅に進化したライトウェイトバックパッキングモデル「パラゴン」と「メイブン」をご紹介します。
2020.08.03
YAMAP MAGAZINE 編集部
グレゴリー・マウンテン・プロダクツの創業者ウェイン・グレゴリーは、バックパックの世界に革命を起こした。「バックパックには適正なサイズがある」という概念を明確に、背負えるカタチにして私たちの前に差し出してくれた。
体格に合わせて背面長を変えられるバックパックはそれまでもあったが、ひとつのモデルでS、M、Lのように複数のサイズを展開したのはグレゴリーが最初だった。スローガンは
「パックは背負うものではなく、着るものだ(Don’t carry it, Wear it.)」
既製品にも関わらずあつらえたかのような背負い心地はユーザーの心をしっかりと掴み、ウエアと同じく体に合ったものを選ぶという、いまでは当たり前の市場を構築する強力な牽引力となった。私たちユーザーは、適切なバックパックを選ぶことで同じ荷物も軽く感じられることを知り、選択の指標を得た。
1977年の創業から40年以上が過ぎたが、トップブランドたるグレゴリーの評価は揺るぎない。ウェインは第一線から退いたが、彼のもとで長年バックパックづくりを学んだ愛弟子のジョン・シアーズがヘッドデザイナーとなり、その哲学を受け継いでいる。創業時もいまも、目指すものは変わらない。荷物が軽く感じられるような快適な背負い心地だ。肝となるのは、背面の緻密なサスペンションシステム。それは、体の一部のようにフィットしてはじめてその機能を発揮する。
サスペンションシステムはグレゴリーのアイデンティティだ。そしてそれは、進化し続けている。今季はライトウェイトバックパッキングをコンセプトにした「パラゴン」とその女性用モデル「メイブン」が大幅にアップデートした。
グレゴリーのラインナップではライトウェイトモデルの位置付けにある「パラゴン」(男性用)と「メイブン」(女性用)が、背面のサスペンションシステムをがらりと変えた。見た目もスマートになったが、背負った印象の変化は、見た目以上にインパクトが大きい。もう、まったくの別物といってもいいほどに進化している。
背面には、新たに「フリーフロート・サスペンション」を採用した。この背面システムのいちばんの特徴は、腰から下のウエストまわりのデザインだ。「3Dコンフォートクレイドルヒップベルト」と名付けたこのパーツは、立体的な一体構造になっている。旧モデルは平面のパーツを縫い合わせていたが、それに比べると格段にフィット感が高くなった。
このヒップベルトは、「フリーフロートフレックスパネル」という伸縮性をもつパネルで本体と繋がっている。腰骨と連動してスムーズに動き、浮遊(フリーフロート)するような、ゆりかご(クレイドル)のような背負い心地をもたらす。
YAMAP MAGAZINEではおなじみの登山ガイド、岩田京子さんは、昨年まではパラゴン48を、この春からメイブン45を使用している。
「私は身長が164cmくらいですが、女性モデルだと背面長が微妙に合わないということが多いです。そのため去年までは男性モデルのパラゴンを使っていましたが、新しくなったメイブンは背面長を調節できるようになったと聞き、さっそくこの春から使っています。いちばん気に入っているのはフィット感が高いところ。歩いていても違和感がありません。新しくなって、腰のあたりのフィット感がさらに良くなったと思います。動いても邪魔にならず、重さも感じにくくなっています」
岩田さんは、フリーフロートフレックスパネルの効果も感じていた。
「大きな段差とか岩場に行った時に動きやすくなった感じがあります。以前だとヒップベルトをずらして足をあげたりしていましたが、そういうことが少なくなりました」
背面のデザインを変えたことで、思わぬところも快適になった。
「メッシュが大きくなって、前よりも濡れが気にならなくなりました。以前は、たとえば雨でびちょびちょになってしまうと、お風呂に入った後なんかに“あぁ、またこれを背負うのか”と思うこともありましたが、それが軽減されましたね。汗の濡れが気になることも減ったと思います」
さらに岩田さんが気に入っているのが、D型に大きく開き荷物が取り出しやすいサイドアクセスとヒップベルト左右の大型ポケット。ヒップベルトは右側にデジタルカメラ、左側に飴を入れている。細かい仕様は、言葉で説明するよりも商品説明の動画を見てもらう方が早いだろう。サスペンションシステムの構造もわかりやすく解説されている。
パラゴンは68L、58L、48L、メイブンは65L、55L、45Lという、それぞれ3つの容量で展開している。容量ごとにSM/MDとMD/LGというふたつのサイズを用意し(女性用はXS/SMとSM/MD)、さらに背面長の調節機能も備えるので、どんな体型の人にもフィットする。
「ライトバックパッキング」というコンセプトは、現代の軽量な装備を使用したライトな山行というイメージだ。ライトとはいえ最大積載重量は22.7kg。いま普通に買える定番の装備を揃えれば、特別な軽量化をせずとも問題なくテント泊登山の相棒になるだろう。
テント泊をメインにしたさらに長期の、あるいは海外バックパッキングのような「なにが起こるかわからない」旅なら「バルトロ」の出番だろう。女性用モデルは「ディバ」。グレゴリーのフラッグシップモデルだ。
背面の「レスポンスA3サスペンション」は、グレゴリーが長い年月をかけて培った英知を結集した傑作だ。最大の特徴は、精緻なフィッティングができること。本体はS、M、Lの3サイズを用意し、さらにショルダーハーネスは3サイズ、ヒップベルトは5サイズから選べるようになっている。ショルダーハーネスとヒップベルトの付け根はピボット状に可動するため、背負った瞬間にその人の肩や腰のカーブに寄り沿う。細かなサイジングと可動式のハーネス類によって、どんな体型の人にも、まさしくウエアを着るようにぴったりとフィットする。
可動式のハーネス類には、もうひとつ大きなメリットがある。賢明なる読者はもうお気づきだろう。動きやすく、重心が安定することだ。手足を動かしても重心が大きくブレないため、荷物の重さで体が振られにくくなる。長時間の積み重ねで疲労度も変わってくる。
大型パックにおいて背面のサスペンションシステムが重要なのはいうまでもないが、使い勝手を左右するのは本体のつくりだ。バルトロはここも抜かりない。正面には大型のポケット。内部は中央で仕切られていて、大容量ながら荷物の整理がしやすい。レインウエアのような、すぐに使いたいものを入れておくのに便利だ。ポケット周囲の本体側には、ポケットに沿うようにU字型にファスナーが取り付けてあり、本体前面が大きく開いてメインの気室にアクセスできる。ファスナーはボトムにもあり、内部を仕切って2気室にすることも可能。大型のトップローディングながら、パッキングはとてもしやすい。
細部の使い勝手も上々だ。フロントポケットと同じく内部が仕切られた雨蓋、専用のレインカバー、撥水仕様のヒップベルトのポケットなど、ロングセラーモデルだけに細かいところまで洗練されている。ハイドレーションリザーバーの収納ケースは取り外してサブバッグとして使うことも可能だ。荷物をデポしてピークを目指すときはもちろん、飛行機に乗るときに貴重品を機内に持ちこむなど、さまざまな場面で役に立つ。
バルトロは85L、75L、65L、ディバは80L、70L、60Lの、それぞれ3つの容量で展開している。長期の(そして時に過酷な)旅になるほどに真価を発揮する、どんな場面でも頼りになるバックパックだ。
日帰りから小屋泊まりで使いやすいモデルも紹介しよう。多くの登山者が求める容量30〜40Lクラスは各社がしのぎを削る激戦区だが、このクラスの人気モデルが「ズール」。女性モデルは「ジェイド」だ。
ズールとジェイドは昨シーズンにモデルチェンジされ、パラゴンとメイブンに先駆けて「フリーフロート・サスペンション」を採用した。こちらは、より背面の通気性を高めたタイプで、湾曲させたフレームにトランポリンにようにメッシュパネルを張っている。背中とバックパック背面の間に空気の通り道ができるので、背中に熱がこもりにくい。背負ったときの印象も軽快だ。
背面の通気性を高めたバックパックは多くのメーカーが手がけているが、背面の通気性とフィット感は両立させるのが難しい。通気性を高めようとフレームの湾曲を強めるとフィット感が損なわれるだけでなく、荷物の出し入れもしにくくなって本末転倒になってしまう。しかし、ズールとジェイドはこのあたりのさじ加減も絶妙だ。フィット感も申し分ない。パラゴン/メイブン同様、容量ごとにふたつのサイズを揃え、背面長も調節できる。
本体は、上部と前面がU字型のファスナーで大きく開いて使いやすい。フロントとサイドのストレッチメッシュのポケットやヒップベルトの大きめのポケットも便利だ。もちろんレインカバーも付属する。
ズールは30L、35L、40L、55L、ジェイドは28L、33L、38L、53Lの、それぞれ4つの容量で展開している。使い勝手の良い小容量のモデルは、「はじめてのグレゴリー」にもおすすめだ。
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グレゴリーのバックパックを動画で紹介
原稿:伊藤俊明
撮影:永易量行
コメント:岩田京子
協力:グレゴリー